福岡のニューストリートカルチャーの一翼を担う4人組バンドAttractions、待望のメジャー1stアルバム『POST PULP』

Attractions | 2020.09.25

 昨年、バンドとしての進化を刻んだシングル「Satisfaction」を出してから約1年。Attractionsがついにメジャーデビューアルバムを完成させた。ボーカルTAROが苦悩の果てに掴んだフロントマンとしてのアイデンティティ、そしてAttractionsというバンドが目指すカルチャーとしての高み。そのすべてがこの『POST PULP』というアルバムには詰まっている。多様なバックグラウンドをもったメンバーが、日本のアジアへの玄関口でもある福岡という都市で結成したAttractionsは、文字通り唯一無二の存在として、時代を背負って大きく羽ばたこうとしている。今作が生まれるまでの思い、そしてアルバムタイトルに込めた過去へのリスペクトと未来への意思まで、TAROに熱く語ってもらった。

――すばらしいアルバムができましたね!
TARO:もう自信しかないですね、今回は。めちゃくちゃがんばって作ったので。バンドメンバーにも、これ以上ないくらいに向き合って作りきることができましたし。それがちゃんと報われたなって感じがしますね。
――シングル「Satisfaction」から1年、どういうふうに進んできたんですか?
TARO:最初に「Satisfaction」と「Man on the Moon」をレコーディングしたんですけど、この2曲が結構世界観が濃い曲だったので、これを超えるものを作らなきゃいけないねって話をして。そこから本腰入れて曲を作っていったんですけど、最初は本当にうまくいかなかった。もうバンドやりたくないって思うぐらい苦しい思い出もあったし。

――それは何がしんどかったんですか?
TARO:なんか、自分のアイデンティティが分からなくなっちゃって。どういうボーカルになるべきなんだろうって結構考え込んだりしました。それで実はレコーディングを少し先延ばしにしたんですよね、ちょっと自分の中の整理をしたりしたくて。でもそれがよかったなと思って。ちゃんと自分がどういうボーカルになりたいかっていう答えが見つけられたから。イントロの次に「Fabulous, Infamous & Dangerous」っていう曲があるんですけど、これが本当に自分にとってすごく大事な曲で。まさにこのタイトルどおり、自分はこれからは華やかで悪名高く、危険なボーカルとしてやっていくぞっていう。あんまり周りのことは考えないようにして、本当に自分がやりたいものをやっていこうって思えたんです。
――逆にいうと、それまでは迷いのなかでやってた感じもあったの?
TARO:迷いながらっていうか、模索してたっていうほうがいいかもしれないですね。Attractionsになってから、一気にSXSWに行ったりサマソニに出たりとかするなかで、何が正解なんだろうっていうのはありましたね。
――このアルバムはまさにAttractions、そしてTAROっていうボーカリストのアイデンティティを宣言するアルバムだと思うんですが、それは作っていくなかでそういうテーマが見えていったっていう感じなんですか?
TARO:そうですね。「Satisfaction」を作ってるときは“尖ってる”っていうイメージしかなかったんですけど、そこにどんどん自分たちの血と肉が入ってきたっていうか。本当にこれがAttractionsだっていうのを世に示すものになりましたね。それで、最後『POST PULP』っていうタイトルを決めて完成、みたいな。
――Attractionsってバックグラウンドも幅広いし、メンバーのパーソナリティもバラバラじゃないですか。それが武器でもあるんだけど、そのことがかえって自分たちでも自分たちをわかりづらくさせているようなところがあったのかな。
TARO:そうですね、確かにあるかもしれない。思えば始めた頃も、UKロックっぽいものを作ろうってやってたんですけど、でもなんだかんだで違うジャンルの曲も好きだから「これも入れよう」ってなって。自分たちのアイデンティティって何なんだろう?みたいな。いろんな世界観があって、自分達でもこういうバンドだって言うのが難しいぐらいだったから。それがこの『POST PULP』で、もう何でもやっていいんだって分かったんです。どの曲聴いてもAttractionsだって分かるようなものを作ればいいんだって、考えた末にシフトできたっていうか。
――「何でもやっていいんだ、それがAttractionsなんだ」っていう、そのなかで自分たちのアイデンティティとなるものって、今は何だと思っていますか?
TARO:やっぱり自分の歌が入ることでどんな曲でもAttractionsらしさが出せるという自信があります。TAKEの個性あるギターもそうだし、JUNのベースやAKIRAのドラムもそう。各々の個性がマッチしてAttractionsのアイデンティティが確立出来ているかなと。
――いや、本当そうで。Attractionsのロックなエモーションとか精神性、メッセージ性、つまりバンドのアイデンティティを背負っているのはやっぱりTAROのボーカルなんだなあっていうのを、このアルバムを聴いてすごく思いました。
TARO:嬉しいですね。でも、TAKEのトラックもめちゃくちゃいいんですよ(笑)。

――それはもちろん。
TARO:でも本当にそうかもしれないです。歌詞も、これまでは架空の話を書くのが好きだったんですけど、今回はわりとどれも実体験が入っていたりしますし。僕、自分のことを話すのがあんまり好きじゃなかったんですよね。でも作品として自分の話をすることによって、自分の中が整理されるというか。そういうことを見つけて「こういうことか、みんなが言ってたの」って思いました。
――今まで、なぜそんなに自分のことを語りたがらなかったんですか?
TARO:たぶん自信がなかったんですよ。TAROっていうボーカルにまだ自信がなかった。自分を守りたがってたのかもしれないですね。でももう開き直ったんで。これが俺だっていうのを今回は出せたかなと思います。
――開き直れたのはどうして?
TARO:何がきっかけだったんですかね。やっぱり、1回僕がバンドと距離をおいていた時に気付いたことが多かったんですよね。ボーカルだからいろいろ責任もあるし、やらなきゃいけないこともあるけど、やはり自分の信念に正直でいることが1番だと思って。そう思ったら楽になったっていうか、本当に何でも言えるようになって。これがバンドとしていちばん健康的だなと思ったんです。本当に今までセーブしすぎてたなと。それで1月頃に復活して、最後のレコーディングの前日に、歌詞にその時の思いを込めて全部書いて。やっぱりバンドメンバーも心配してくれてたから、そのままみんなで飲みに行って、「今までありがとう、これからはAttractionsは俺のバンドだから、改めてよろしく」って。「もう気を遣わないから、みんなも気を遣わないでほしい。がんばっててっぺん目指そうぜ」っていう話をしました。
――そんなこと言うタイプじゃなかったわけでしょ?
TARO:全然。それまではTAKEがバンドを引っ張ってたんですけど、彼ひとりではきついだろうなと思って。俺がバンドの顔だから、みんなを引っ張るぐらいの気持ちでやりたいなって思って。
――なるほどね。そのTAROの思いがこのアルバムの背骨になっている感じは聴いていてすごくしますね。 いろいろな曲があるけど、フォルムとして一本芯が通っているというか。
TARO:それは、「Satisfaction」と「Man On The Moon」っていう曲の世界観をきっちりと守りたかったというのもありますね。あの2曲を結構基準にはしてました。新しい曲ができても「これは確かにこの世界観に存在する曲だね」とか言ったりして。
――「Man On The Moon」は歌詞の面でも、このアルバムにおいてすごく重要な曲ですよね。これはどういうふうに作っていったんですか?
TARO: これは孤独について歌ってるんですけど、TAKEのトラックもどこかメランコリックな雰囲気がある曲で。これは僕のボーカルだけじゃたぶんすごく寂しい、救いようのない曲になっちゃうだろうなって思って、(ライブのサポートもしている)NANAちゃんの歌のパートを入れようということになりましたね。
――その「孤独」というのは、TAROくん自身の心境を反映しているんですか?
TARO:そうですね。結構俺って寂しがり屋で(笑)、自分が孤独になったことを想像して作ったんですけど。こうなったら俺ヤバいよねみたいなことを考えながら書きました。こうなったら何もできない、人間として終わるなってことを書いてるんですけど、そこに救いの手を差し伸べれてくれるのがNANAちゃんの歌って感じかな。
――<The city is burning my action(この街はアクションを燃やしてしまった)>って歌ってるけど、生きているなかでそういう感覚を覚えることってある?
TARO:ありますね、ちょいちょい。福岡っていい街で大好きなんですけど、どこ行っても知り合いがいるし、逃げ場がない感じもあって。それでどこにも行けない、行きたくないっていう時期もあったし、そういうのはありますね。そういう意味では自分の経験も入れ込んで書いてるって感じですね。
――そうだよね。だからこのアルバム、どの曲もそうなんですけど、TAROくんのパーソナルな考えとか思いがにじみ出ているところがたくさんあるなと思って。
TARO:もう自分をぶつけたいなって思ったんで。いいかげん架空の話を書くのもなって思って、いろいろな感情を入れました。むかついてたこともあるし、悲しんでたこともあるし、楽しみ、わくわくというのもあるし。その時にあった、結構ごちゃごちゃな気持ちを曲ごとにぶつけたというか。
――「The Streets of Neo City」なんかも、物語ではあるけど実は気持ちが出ている曲なんじゃないかなって。
TARO:あれは、俺サイバーパンクが好きなんですけど、あの曲聴いた時に「これサイバーパンクじゃん」と思ったんですよね。俺の得意分野来た!みたいな(笑)。それでいろいろオマージュも入れたりしてるんですけど、危険に満ちたカオスな街を描きたいなと思って。ゲームっぽい感じもあるけど、お客さんが常に聴いているというか、自分が危険なステージにいるっていうことを想定して書いたっすね。
――それこそ『ブレードランナー』から『攻殻機動隊』まで、サイバーパンクにとって人間のアイデンティティって大きなテーマじゃないですか。それが、さっき話してくれたTAROくんの「自分ってなんなんだろう」っていう思いとも重なった感じですよね。
TARO:言われてみればそうかもしれないですね。無意識でそういうふうに書いたのかもしれないです。
――「Do What You Do」で<Cause to live, in other words, we are celebrating(だって人生なんて、言い換えればセレブレーション)>とまで言ってますが、このロックンロールな感じってTAROくんが自分に自信を持てていなかったら出てこないだろうなっていう感じがするし。
TARO:恥ずかしいですよね(笑)。
――いや、でも実感としてそういう感覚があるわけでしょ? それをズバッと言いきる強さがあるというか、俺はこれが言いたいんだっていうのがはっきりあるんだよね。
TARO:うん、あるっすね。
――で、その究極が『POST PULP』というアルバムタイトルなわけですが。この言葉に込めたものを話してくれますか?
TARO:最初は「Blood Pressure」がアルバムタイトルでいいんじゃないかっていう話もあったんですよね。それもいいなって思ったんですけど、ただちょっと弱いなと感じて。もうちょっとオリジナリティじゃないけど、僕たちのそのルーツも組み込んだ新しいものを作りたいなって思って。「PULP」っていうのは「ドロドロした」とか「低俗な」っていう意味で、もちろんパルプっていうバンドも好きだし、『パルプ・フィクション』っていう映画からインスパイアされてるのもあるんですけど、僕ら90年代の音楽が本当に大好きなんですよ。プライマル・スクリームも出てきたり、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが出てきたり、オアシスやブラーがいたり、グランジがあったり、ヒップホップも面白かったし。そういう最高な時代に生まれて本当よかったなと思って。そういう「PULP」な時代を経て、今俺たちが新しい音楽の形、「POST PULP」っていう新しいジャンルを作ったんだって言いたかったんですよね。この『POST PULP』がなければ生まれなかったバンドが出てきてほしいなって思うし、それぐらい自信があるっていうか。90年代の音楽の神様たちへのリスペクトと、僕たちのこれからの第2章を祝したタイトルです。
――「PULP」って言葉自体、今TAROくんが言ってくれたようにネガティブなニュアンスも含むじゃない? 低俗だったり、ごちゃごちゃだったり。ジャーヴィス・コッカーのパルプだって『パルプ・フィクション』だって、アイロニーもあるわけじゃないですか。
TARO:アイロニーですよね。
――でもそれを「それこそが俺たちなんだ」ってポジティブに定義し直すというのがおもしろいなと思って。
TARO:そうなんですよ。90年代ってダサかったりもするじゃないですか。でもそれがピッタリだなと思って。今回は、これで引退してもいいって思えるぐらいの作品を作ろうっていう……もちろん解散するわけじゃないけど、そのぐらいの思いでしたし、バンドなんてどこで終わるかわからないじゃないですか。だからやっぱり全部ぶつけて作ろうって思ったし、本当に「これが俺らだ」っていうのを、一回布石として作りたかったんです。それがちょうど、メジャーデビューっていうタイミングで形になった。それもすごく嬉しかったですね。
――そう、メジャーデビューアルバムでもあるんですよね。
TARO:だからって何かを変えたわけではないですけどね。たくさんの人に聴いてもらえるようになればいいなとは思ってます。

【取材・文:小川智宏】





Attractions / Last Magic (Music Video)

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リリース情報

POST PULP

POST PULP

2020年08月26日

Getting Better

01.Intro
02.Fabulous,Infamous,Dangerous
03.Chain Reaction
04.Last Magic
05.The Streets of Neo City
06.Shake It Over
07.Heartbreak
08.Satisfaction
09.Man on the Moon
10.Do What You Do
11.Blood Pressure

お知らせ

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ビル・ブルースター
DJで音楽ジャーナリストでもあるんですけど、Boiler Room(DJプレイを配信しているWebサイト)で観て「誰だろうこのちっちゃいおっさん」って思って(笑)。この人が『Tribal Rites』っていうコンピCDを3年前くらいに出してて。ロックだけど踊れる、ニューウェイヴィーだしノーウェイヴのパンクな感じもして、かっこいいんですよね。



■ライブ情報

POST PULP TOUR 2021
2021/01/10(日)恵比寿LIQUIDROOM
2021/01/11(月・祝)心斎橋Music Club JANUS
2021/01/23(土)福岡BEAT STATION

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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