“自己内省型ロックバンド”を掲げる4ピースバンド・まちがいさがし、Fanplus Music初登場!

まちがいさがし | 2020.10.16

 “自己内省型ロックバンド”を掲げる4ピースバンド、まちがいさがしが1stアルバム『八畳間放蕩紀行』をリリースした。ほとんどライブを行わず、インターネット上にMVをアップする活動を続けてきた彼らは、2018年に発表した「ラヴソングに騙されて」をきっかけに知名度を上げてきた。繊細な心象風景を描いた歌詞、そして、緻密に構築されたバンドサウンド、叙情的なボーカルなど、その魅力は本作『八畳間放浪紀行』にバランスよく反映されている。Fanplus Music初登場となる今回は、メンバー4人にバンドの成り立ち、影響を受けた音楽、アルバム『八畳間放浪紀行』の制作などについてたっぷりと語ってもらった。

――まちがいさがしの活動を始めた当初は、どのようなコンセプトがあったんでしょうか?
佐々木(Vo/Gt):始まりは、誰かに認められたかったんだと思います。穿った見方をすれば、音楽もバンドも、そのための方便だったようにも思いますね。「まちがいさがし」という主題は、何も解決しない生活そのもの。自分自身を顧みる、内面と向き合う、いまだにどういう行き先になるかも分からずに、それでも落ちる心象を掬いながら、八畳間から電子の海へ……などと標榜もしているのですが、結局はその繰り返しでしかないのかもしれません。
――ほとんどライブを行わなず、MVの投稿を中心に活動していますが、インターネットを中心にした活動のメリット、デメリットについてどう考えていますか?
松崎(Gt):自分たちの音楽を気軽に発信できるのは昨今のインターネット(主に動画サイト)の大きな利点だと思いますね。
和野(Ba):発信するのに時間や場所的な制約がないのはメリットですが、情報が溢れかえっているので、周りに埋もれずにどのようにして視聴して貰うかは課題かなと思っています。
――莫大なコンテンツのなかで際立つためには当然、MVのクオリティが大切になりますが、MVはどういうスタイルで制作しているのでしょうか?
佐々木:いわゆる自主制作で、基本的には構想から編集まで私が作っています。ただ、例えば「旅には出ないと誓ったくせに」や「ラヴソングに騙されて」は、メンバーと撮影していますし、外での撮影となれば、知人にも手伝ってもらっています。映像で何かを伝えたいとは考えていなくて、私の手が届く距離で、詞・曲と同じ線上にあるように、浮かぶ心象をたどるまま気ままに作ってますね。先日公開しました「東京」のMVだけは、自主制作ではなく、初めてカメラマンの方にお願いして、素晴らしい映像を作っていただいたので、ぜひご覧ください。

――独創的な音楽性もまちがいさがしの魅力。それを紐解くために、まずはみなさんの音楽的なバックグラウンドについて教えてください。今野さん、和野さんが共通してあげているのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION。アジカンのどんなところに影響を受けていると思いますか?
和野:そうですね……中学生の時に音楽に興味を持って、iPodを買ったのですが家のPCが対応してなくて使えず、今野くんに色々データを入れてもらったので、私のバックグラウンドはアジカンというより彼ですかね(笑)。そこから自分なりに掘り下げていきましたが、ジャンル的にはインストやらポストロックなんかが好きになりました。自分の中で思い浮かべるベーシスト像として、まず挙がるのがアジカンの山田さんなので、そういう所は影響受けているかなと思います。
今野(Dr):ドラムのアレンジを考えるうえでも、中学生の頃に出会ったアジカンの伊地知潔さんのドラムは原点にあると思います。テクニックだけでなく、歌を前面に聴かせるところはあえてシンプルに落とし込んだり、フレーズを考えるなかで参考にしている部分はありますね。
――なるほど。松崎さんはメタルが入り口だったとか。どんなバンドがお好きだったのでしょうか? また、現在のギターのスタイルはとても幅広く感じますが、メタル以外ではどんな音楽に影響を受けているのでしょうか?
松崎:高校の時はメタル一辺倒でしたね(笑)。当時はMetallicaなどが好きでコピーしてました。大学に入ってから邦楽のバンドも結構聴くようになりまして、メタル周辺は鳴りを潜めましたが(笑)。まちがいさがしが一旦休止してからはインストのバンドで曲を書いたりしてたので、その影響もあると思いますね。活動再開する頃はちょうどシティポップが全盛で、自分もすごくハマって掘り下げていたので、その影響も少なからずあります。
――佐々木さんは他のインタビューで「時代性のある作品やポップカルチャーには、ずっと憧れがあって」とコメントしていますが、“時代性のある作品”とは、具体的にどういうものでしょうか? また、音楽以外のカルチャーではどのような作品がお好きですか?
佐々木:ポップカルチャーは、その時代を過ごす人たちの文化となって、時代性を伴うものと捉えています。例えば“別れ”の表現を取っても、今と以前とでは、その情緒も大きく異なる。そういう感情に無頓着な私であっても、時代をこえて心を打たれる瞬間があるように、生活に息づいて、思いがけず内面にたどりつくものに惹かれますね。
――おそらくみなさんは、ボカロシーン、歌い手などのネット発のアーティストにも興味を持っていらっしゃると思います。まちがいさがしの音楽がインターネットと相性がいいのは、どうしてだと思いますか?
和野:佐々木くんの持つ視点や感性がすごく面白いなというのもあるのですが、そこから生まれてくる楽曲が共感性の高いものになっているからかなと思います。
今野:インターネット発のアーティストに共通する部分は、その存在が近いようで遠い、自分を映す鏡のような存在と捉えられやすいところなのかなと個人的には感じています。まちがいさがしの音楽は生活に根差したものですので、生活とインターネットが切っては切り離せなくなった今の時代だからこそ、その相性が良いと感じる要因なのかもしれません。
松崎:あとは自分たち自身、Youtubeやニコニコ動画などの動画サイトの発展を見てきている世代なので、どういうものが視聴者にインパクトを与えられるのか、無意識に理解しているのかなと思いますね。
――2018年に発表された「ラヴソングに騙されて」によって、バンドの知名度は大きく上がりました。この楽曲はどんなテーマで制作されたのでしょうか?
佐々木:Youtubeで公開しているMVの概要欄にも「音楽ひとつですべて解決」などと載せているとおり、むやみな独善と自嘲がちな心象が色濃くあらわれた曲です。演奏陣がとにかくカッコいいですね。
松崎:ギターは手癖のあるフレーズで、かなり好き放題弾きました(笑)。おかげでインパクトのある曲になったと思います。
和野:他のパートがカッコいいので、それを聴いてもらえるようにベースラインは割とシンプルにしてます。特にドラムが良いですね。
今野:私はデモを流しながらアドリブでフレーズを作っていくタイプなので、この曲についても「今のよかったな」と降りてきたフレーズを再現しながら完成させていきました。

――「ラヴソングに騙されて」の反響をどう捉えていますか? また、この曲が拡散したことによって、バンドの状況はどう変わりましたか?
松崎:すごく驚きましたが、わかりやすいキャッチーさがYoutubeで音楽を聴いている人たちにすごく刺さりやすかったのかなと思いましたね。
和野:自分たちとしては「この曲だけ特別」という感覚はないので、再生数が急激に伸び始めた当初はビックリしました。この反響によってやりたかったワンマンライブにも踏み切れましたし、そういう意味では良かったですね。
今野:やはりワンマンライブやアルバムの発売に繋がったのはこの曲の反響があったからこそだとは思います。変化と言えるかはわかりませんが、自分たちの音楽に自信がついたところはあるので、新曲を作っていくモチベーションにつながっていると思います。
――では、アルバム『八畳間放蕩紀行』について聞かせてください。これまでの活動の集大成と言える作品だと思いますが、ずばり、皆さんの手ごたえを教えていただけますか?
松崎:1stですが、かなりベストアルバムに近い出来です。バンドが基本としているコンセプトは一貫しているので、テーマ性もしっかりあり、素晴らしい1枚になったと確信しています。
和野:アルバム制作のために曲を作ったわけではないですが、いい1枚になったんじゃないかなと思います。手応えは十分ですね。
今野:どの曲も大好きですし、完成度には相当自信があります。あとはちゃんと世の中に届くことを願うばかりです。
――“自己内省型ロックバンド”というコンセプトの通り、内省的で、自分と向き合っているような歌詞が印象的でした。歌詞のテーマはやはり、“自分”のなかから探すのでしょうか?
佐々木:生活の途中に落ちてくる、不安定な自意識を見つめた先、あるいは思い詰めた奥にある心象を、詩性の手を借りながら音楽にしています。自分の内にあるものを誰かに向けて言葉にすると、とても弱く、閉じて離れてしまうことも少なくない。ただし音楽は、どこまでも内向きで独りよがりであり、自分自身のためにあるものだと思っているので、そのままを言葉にしています。だからこそ音楽を作っているし、音楽ができているようにも思いますね。
――では、楽曲をアレンジする際に意識していることは?
和野:まず「歌を聴いて貰えるように」ということが念頭にあるので、それをジャマしないことは常に考えて作っています。
今野:僕も“同じく”ですが、すべての曲にしっかりとしたテーマがあるので、歌が意味を持つような自然なドラムを付けるように心がけています。
松崎:「なるべく歌を際立たせる」ということは自分も優先して考えています。あとは佐々木のバッキングギターがクリーン(トーン)だけなので、自分のギターでサビとバースの緩急を強調できるような音作りやフレーズは意識しています。
――収録曲についても聞かせてください。まず「月暮らしが治るまで」。繊細な感情が描かれた楽曲ですが、どんなモチーフから生まれた曲でしょうか?

佐々木:ある心象に対して、あえて遠回りするような、少し現実から離れた詩性を取り入れたくて。その着想から、遠いようでいて漠然とそばにある「月」やら「宇宙」を引いてきて、あくまで生活に落として作った曲ですね。そういう詩情に惹かれながら、初めて鍵盤を主軸に置いた曲でもあって。作っていて楽しかったし、音楽そのものの原風景を思い起こされたようで印象に残っています。
松崎:ピアノのイントロがジャジーな印象だったので、ギターの音作りもその方向に寄せましたが、レコーディング時のプレイも音作りも意外と難しかったですね。結果、お洒落で気持ちいいサウンドに仕上がって良かったです。
和野:デモを聴いて無機質な雰囲気の曲だなと思ったので、ベースのメロはシンプルにしつつ、サビはしっかり動くような静と動がはっきりしたフレーズにしてみました。レコーディングではあえて淡々と弾くようにしてましたね。
今野:ドラムは打ち込みのようなテイストで打っていますが、無機質でありながらもノリを出せるような、そのバランスに気を付けていました。
――タイトル曲「八畳間放蕩紀行」もアルバムを象徴する楽曲だと思います。この楽曲で歌われている風景について教えてもらえますか?
佐々木:浮かぶ情景としては、実家の八畳間の自室で、ほとんど引きこもったような生活を送っていた時期でしょうか。鬱屈を抱えたり深刻になることもなく、甘えきって半透明のまま、「このまま何もかもダメにしていく」という感覚が、じっと張り付いていたのを覚えています。
――この曲名をアルバムのタイトルにした理由は?
佐々木:タイトルを新しく名付けようとしても、どうしても作為的になってしまうので、楽曲のひとつをモチーフとして宛てました。「八畳間放蕩紀行」は、足りない毎日にありながら、私にとって普遍とも呼べるような内省を多く象徴していて。「まちがいさがし」という主題のそばに深く寄り添う楽曲の一つなんです。
――なるほど。「東京」もリアルな感情が込められた楽曲ですが、これは実際の経験がもとになっているのでしょうか? ちなみに、みなさんのなかで東京のイメージは?
佐々木:いずれの曲も生活の途中、積み重なる自意識に結びつくのですが、この曲は、私の内にある「東京」に触れて、跳ね返る心象を象っています。
和野:東京は遊びに行くと楽しい場所ですかね。ただ、満員電車とか人が密集しているのが本当に苦手なので、住むのはちょっと向いていないかな(笑)。
今野:人自体もですが、人々のあらゆる思いが密集する場所という印象があります。夢や葛藤や挫折とか、理想と現実が同時に渦巻いている街といったイメージですね。
松崎:地方の人間なので、行けばなんでもできる理想の場所というイメージは強いですね。
――「少しずつどうでもよくなる」における、静かな諦念も印象的でした。この曲に込めた思いを教えてもらえますか?
佐々木:率直に答えるとそのままになってしまい、別の言い方で表わそうとするとかえって難しく、上手くお伝えできるか分からないのですが……生活は何となくできているようで、人も街も知らずに遠ざかっているように、多くは叶わない。“悲しい”も”楽しい”も本当は目まぐるしいのに、追いつかないままただ慣れてそこにあるだけの私を許したかったのかもしれません。

――アルバム『八畳間放蕩紀行』のリリースによって、まちがいさがしの音楽に惹かれるリスナーはさらに増えると思います。ライブに重きを置かない皆さんの活動は今の時代にも合っていると思いますが、今後の展開については、どんなビジョンがあるのでしょうか?
和野:今回のリリースにあたってやらなければいけない作業などがかなり多く、そちらに集中していたので、今後については特に考えてなかったですね。気が早いですが、音源リリースを2枚目、3枚目と続けていけたらいいなとは思います。今の状況が落ち着いたらライブも是非やりたいですね。
今野:アルバムを発売できたことで、バンドらしいことをある程度実現できたな、とは思っていて。これは“オファーをいただけたら”ですが、フェスの出演や、自分たちの楽曲を映画やアニメの主題歌に使っていただくようなことがあったらどれだけ嬉しいかなと個人的には思っています。
佐々木:恥ずかしながら、今後の展開については何もなくて……。とにかく音楽が続けられるように、仲間とバンドができるようにと思っています。
――次にライブをやるとしたら、どんな形になりそうですか?
和野:こればっかりは今後の状況次第なので、何とも言えないですね。お客さんが目の前にいて、演奏できるこれまで通りのライブをまたやれるようになればいいなとは思います。
松崎:個人的に、できればリモートでライブができないか模索してます。前にネットセッションを試したときは遅延がヒドかったのですが、環境を整えれば十分に可能だと思っていますので。
――アルバムを聴いていると、「メンバーのみなさんもインドア志向なのだろうか」と勝手に想像してしまいますが、実際はどうなのでしょう? 最後に音楽以外の趣味、好きなことについて教えてもらえますか?
佐々木:いまさらながら、“どうぶつの森”を始めました。
松崎:昔からゲームは好きで、今はオンラインゲームをずっとやっているし、完全にインドアですね(笑)。あと最近はラジオにハマってて。もっぱらラジオを聴きながら家事などしてます。
和野:漫画はよく読んでますかね。あとはバイクに乗って、食べ歩きに行ったり。基本的に出不精ですが、思い立ったら結構極端に動きます。1人で「COWNT DOWN JAPAN」全日程を観に行ったりしてました(笑)。
今野:音楽以外ではお笑いをよく観ています。最近は配信で吉本の劇場のライブなどを観ていますね。音楽と同じように、独自のセンスや戦略をもってひとつのことに打ち込む姿をみるのは、やはりワクワクします。

【取材・文:森朋之】

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リリース情報

八畳間放蕩紀行

八畳間放蕩紀行

2020年10月07日

ULTRA-VYBE,INC.

01.月暮らしが治るまで
02.ラヴソングに騙されて
03.八畳間放蕩紀行
04.悪者はいてくれない
05.夏に遠回りする
06.風邪ひく幽霊
07.生活はその日のために
08.夜更かしはエンドロールのよう
09.旅には出ないと誓ったくせに
10.東京
11.少しずつどうでもよくなる

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