ハイブリットなサウンドを鳴らす京都発・the engy、メジャーデビュー後初となるEPをリリース!

the engy | 2020.11.06

 EP「Hold us together」は、新しい手法が様々な形で取り入れられている作品だ。歌声が重なり合って生まれる大きなエネルギー、多彩な音を融合させて響かせる音像、ライブ音源を使用した再構築など、収録されている5曲各々に注目させられる要素が盛り込まれている。新型コロナウィルスによる影響でメンバー全員がスタジオに集って制作を進めることができなくなった状況を、the engyの表現スタイルを広げるための機会としているのが興味深い。本作の制作の過程について、山路洸至(Vo/Gt/Prog)に語ってもらった。

――今作は山路さんが主体となった制作だったそうですね。
山路:はい。自粛期間の真っ最中に作り始めたのでメンバーに会えなくて、一緒にレコーディングもできない状態だったんです。いつも僕がデモを作って、みんなで広げていくんですけど、今回はそれができないので、「あいつやったらこうやって弾きたいって言うやろなあ」っていうのを想像しながら僕のパソコンで打ち込んだり、自分ひとりで弾くやり方でした。でも、メンバーが鳴らさない音をあんまり入れても楽しくないので、「それ以外のものを」ってなると、コーラスを入れる形になっていったりしましたね。
――今までのやり方ができない状況が、新しい手法を試すきっかけにもなったということでしょうか?
山路:そうですね。それがどれくらいのクオリティでできるのかを挑戦していきました。メンバーと作らない分、後になって「こんなのやりたくない」ってものは作れないじゃないですか。だからこそ、今までよりもメンバーのことを考えて作った作品でもあります。
――収録されている5曲に共通したテーマは、「hold」とか「抱きしめ合う」ということですよね?
山路:はい。CMソングの書き下ろしのオファーをいただいて、「どんな曲にしようかな?」と考えた時が、まさに自粛期間だったんです。密を避けることになって、人と触れ合うっていうこともできなくなって、どうしても寂しく感じるものがあったんですよね。切実な気持ちで抱きしめ合ったり、支え合うのって、今まで人間が生き物として培ってきた知恵というか、困難を乗り越えるための武器のようなものだったと思うんです。でも、それができなくなっているので、「気持ちの上だけでも抱きしめ合ったり、支え合うことができないかな?」と。それで作った「Hold us together」が、今回の1枚全体のテーマにもなっていきました。
――先ほど、「コーラスを入れる形になっていきました」という話がありましたが、「Hold us together」も、そういうサウンドになっていますよね。
山路:そうですね。「Hold us together」を作った時、「大勢が一緒に歌っている」みたいなイメージを先方からいただいたんです。でも、いろんな人が集まって声を出すことができない状況だったので、素材を集めたんですよね。「上手く歌ってください」とかいうことじゃなくて、「スタジアムで自分が応援している気持ちで歌ってください」っていうお願いをみなさんにしたんですけど、熱量が重なっていく過程みたいなものが形にできたのが面白かったです。

――集めた素材は、スタッフさんとかの声ですか?
山路:会社の人、CMの曲のオファーをくださった方々とか、男性、女性、子供さんとか、いろんなみなさんの声です。
――素材として使って、何か発見はありました?
山路:いろんな方々の中には、そんなにお上手ではないものも正直なところあったんです(笑)。でも、そういう声を出さないようにすると、逆にどんどん気になってきて。それで、入れてみると、そっちの方がいいんですよ。音が外れちゃったり、速かったり、遅かったりするのも混ぜ込んじゃった方が、スタジアムでたくさんの人がひとつになって応援している感じが出るというのは発見でした。「みんなで声を出す」ってこういうことなんだなと気づきましたね。上手い人の声だけを合わせても、そうはならないんです。
――力強いエネルギーを体感できる曲に仕上がっていると思います。
山路:ありがとうございます。「前に行くぞ!」っていう時は、必ず壁みたいなものが現れるじゃないですか。それが物理的な問題だったら「壁を壊そう!」っていう発想になって、そういうことを描いている曲もあって、それはそれでいいと思うんです。でも、この曲でイメージしていたのは、「目の前に現れたのが人間だったら、どうすればいいのか?」ことでした。相手が人間だったら壊したり、倒すわけにもいかないじゃないですか。壁になっている人は悪気があってそうなっているとは限らないですし。
――そういう状況に対する向き合い方について、じっくり考えたんですね?
山路:はい。それで思い浮かんだのは、「前に立ちはだかる人も後からついてきたくなるような前に進む姿勢」というような包容力の必要性だったんですよね。それが「Hold us together」のテーマになっていきました。
――なるほど。この曲もそうですけど、今回、サウンドの構築の仕方で、いろんな試みをしているのも印象的です。「Somebody」は、Mac Bookのマイクで録ったんですよね?
山路:はい。奈良におばあちゃんの家がありまして、今は空き家になっているんですけど、そこにすごく音が反響して返ってくる板張りの部屋があるんです。その響きが好きなので、そこで録りました。あと、この曲もいろんな人にサンプルをお願いして歌ってもらいました。
――この曲は<Somebody>と<そばで>とか、英語と日本語の似た音の響きをかなり盛り込んでいますよね。
山路:日本語で歌詞を書くのに慣れてきたというのもあって、いろんな韻の踏み方を模索するようになっているんです。「日本語で歌っている時に語尾だけ英語にして韻を踏むことはしない」とか、自分の中でのルールがあるんですけど、英語と日本語の音を合わせて韻を踏むのはありなのかなと。それでやってみたのが、今おっしゃったような部分ですね。
――日本語で歌詞を書くことが増えている中で、言葉の表現の幅も広がっているんですね。
山路:そうなんだと思います。コンプレックスとまでは言わないですけど、英語を使って暮らしてきた人には勝てないっていう気持ちがあって。でも、日本語も使うと、同じトラックでも違った印象になるっていうのは発見やったんです。日本語が入るとハッとするし、そこに言いたいことを差し込んだりもしています。
――「Hold us together」は、関西弁を入れていますよね。
山路:はい。あんまり気づかずにやったんですけど、<ぐねる>は関西弁だったみたいで(笑)。そういうのも面白かったですね。
――手法が広がっているという点だと、「Fade」も斬新です。これはライブの音源や、お客さんの歓声や手拍子もサンプリングして、新しい曲として構築しているじゃないですか。
山路:これは自粛期間のど真ん中の「これからどうなるんだ?」って時に作ったんです。その頃、ライブ映像を公開しているアーティストさんが多くて、「the engyも公開しようか?」みたいな話になっていて。でも、「他の人がやっていることは、もういいんじゃない?」っていうのもあって(笑)。だから「ライブ音源を使って、もっと面白いことができないかな?」って考え始めたのが、「Fade」の出発点です。去年末に渋谷でやったライブ音源を使っています。

――手拍子が、とても印象的です。今回、いろいろな曲に入っていますよね?
山路:はい。僕、めっちゃ手拍子が好きなんです。今までは「また手拍子入れてる」とか言われるから我慢していたんですけど、今回はひとりで作業をしたので、歯止めが利かなくなったのかもしれないです(笑)。手拍子の「パン! パーン!」っていう音が好きなんですよね。「Hold us together」に入っているのは、ノリを出すためにシンセイサイザーで作った手拍子の音です。「Somebody」は、10発くらい録った僕の手拍子を重ねて鳴らしたりとか、今回、いろんなやり方をしています。
――ミュージシャンに申し上げるのは変ですけど、音が好きですよね?
山路:好きですね。最近、思うんですけど、駄目な音ってないんですよ。チープな音であっても、トラックによってははまりが良かったりしますし。「今、自分が表現したいものにぴったりな音はどれなのか?」っていうのを考えて選ぶようにしています。
――音の響きを、あらゆる曲で緻密に追求しているのを感じます。例えば、「Don’t let you go」は、ゴスペル的な神々しい響きが心地よいですね。
山路:ゴスペルっぽい雰囲気が好きなんです。でも、ライブでコーラス隊を呼ぶとか、なかなかできないというもあって、そういうことをするのを避けていた部分もあるんですよね。でも、自粛期間はコーラス隊を呼ぶというのがそもそもできない状況だったので、今回は「逆に、そういうのを入れちゃおう」っていう発想でした。
――「Don’t let you go」は、温かい音の響きも魅力的です。
山路:今回、テーマ性が強い作品ということもあって、重たく感じる人もいるのかもしれないなと思ったんです。だから1曲目は、ゆったりと聴けるものにしたくて、「Don’t let you go」を作りました。
――「Life」は、「Don’t let you go」の対極にある曲ということかもしれないですね。つらいこととも向き合わざるを得ない人生の中から音楽を紡ぎ出していく覚悟のようなものが伝わってくるこの曲は、シリアスなトーンですから。
山路:これがあるから、「Don’t let you go」を1曲目に入れたかったんです。「Life」は自分的には重いテーマというか、「人生とは苦しいものである」という前提に立っているので。人生はいいことも悪いことも起こるから、一般的には「いいことがいっぱい起こるように頑張りましょう」っていう発想だと思うんですけど、そこから一歩進むと、「いいことも悪いこともあるから苦しいんだ」っていう考え方もあるんですよね。だから、「人生とは苦しいものである」というところからスタートして、「じゃあ、なんで頑張るんだ?」とか、「そこからどうやって這い上がるんだ?」とかいうことをこの曲では考えています。
――人生の中で向き合う「音楽」というものに対する想いも伝わってくる曲です。
山路:「音楽」っていうものは自分にとって、「アート」とかいうジャンルではなくて、「自然」と同じ感覚で捉えているんです。「それに対して自分がどのようにアプローチするのか?」が、ある種の自分にとっての宗教みたいなものなんですよね。
――つまり、「生きる」ということが「音楽」とほぼ同じような感覚ということでしょうか?
山路:そうですね。それが自分にとっての理想なんです。僕、高田渡さんがすごく好きなんですけど、昔、ドキュメンタリーを観たら、密着している人が「今日のライブ、どうでした?」って訊いたんです。それに対して「いちいち俺がしたウンコのことを訊くのか?」っておっしゃっていて(笑)。「そういう考え方なんや!」って衝撃でしたね。
――(笑)。ハッとさせられる考え方ですね。
山路:そうなんです。高田さんが歌っているところを観ると、「今から歌うぞ」っていうような気が感じられなくて、呼吸するのと同じレベルで歌っているんですよね。それは憧れで、僕はそういう風になりたいんです。そういうのって「音楽と向き合う」とか「音楽と共に歩む」っていうことでもないのかなと。「どういう境地なんやろう?」って、ずっと考えています。
――「Life」も、そういう山路さんから生まれたということですね。この曲、音楽讃歌っていうのとも違う気がします。「音楽をやることを無邪気に喜んでいる」というよりも、「納得している」というようなトーンなので。
山路:そうですね。僕、「音楽好きですか?」って訊かれるのが実は苦手で。もう、好きとか嫌いとかいうレベルのものではなくて、それがなくなったらどうなるのか自分ではわからないものなので。だから、そういうものとどうやって向き合っているのか、自分でもよくわからないんですよね。例えば、「呼吸するのが好きですか?」って訊かれても、好きやからとかいうことではないじゃないですか。かといって嫌いっていうことでもないですし……っていうのと近い感覚です。
――メンバーのみなさんは、内面的な部分にもかなり踏み込んで描いている今回の作品について、どのようなことをおっしゃっています?
山路:「ええやん!」って言っていました(笑)。お客さんとかに褒めてもらうのも、もちろん嬉しいですけど、メンバーに「ええやん!」って言ってもらえるのは、すごくしっくりきます。メンバーからの「もっとこうしたらいいんじゃないの?」みたいな提案は普段からもちろんあるんですけど、疑いなく取り組んでくれるところが、彼らのすごいところなんです。命綱をつけてないのに、「つけたから大丈夫やで」って僕が言ったら、あいつらは間違いなく崖から飛び降りる(笑)。そんなことを感じるくらい僕に預けきってくれていて、覚悟してくれていることも、今回のこういう状況で1枚作って改めて感じました。普通だったら、自分が制作に参加していないっていうことに抵抗がある人もいるはずですから。でも、「お前が作るものやったら」って預けてくれたので、すごいやつらですよ。
――今作を経て、また4人で集まったら、どんなものが生まれるんですかね?
山路:最近、ようやく集まれるようになってきたので、もうバリバリに4人で制作していますよ。今回の作品で楽器以外の音、例えば鍋を叩いたり、ペットボトルを転がした音とかでトラックを組み上げて、そこに生の楽器を合わせたグルーヴがのっかっていく……っていうような方向性が、やんわりと見えてきたんです。そういうのが今後の曲に繋がりそうな気がするんですよね。全ての作品は通過点で、それぞれの通過点を聴いてくれる人にとって価値のあるものにしたいので、これからもいろいろ形にしていきたいと思っています。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

Hold us together

Hold us together

2020年10月28日

ビクターエンタテインメント

01.Don’t let you go
02.Hold us together
03.Somebody
04.Life
05.Fade

お知らせ

■マイ検索ワード

筋膜リリース フォームローラー
身体をほぐす器具を教えてもらったので買いました。その使い方について調べています。僕、首が痛くなってしまうことがよくあって。今回のEPは5曲の内、4曲はぶっ通しで歌ったんですけど、16時間歌ったら首がバキッ!ってなって(笑)。そういうのがあったので、ケアについて考えるようになっています。



■ライブ情報

the engy ONLINE LIVE
「Hold us together」

アーカイブ配信は明日11/6(金)23:59まで!
チケット販売は11/6(金)22:00まで受付中!

▼詳細はコチラ
https://theengy.com/online-live%e3%80%8chold-us-together%e3%80%8d/

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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