“おしゃれかつ変態な音楽の表現”を標榜するニガミ17才、2年5ヵ月ぶりとなる待望の3rdミニアルバム『ニガミ17才o』

ニガミ17才 | 2020.11.18

 じつに2年ぶりとなる3作目のミニアルバム『ニガミ17才o』を完成させたニガミ17才。今作の完全数量限定盤に同封されるDVD『ニガミ17才ab』とあわせて血液型4部作の完結である。これまでの作品とは少し違うシンプルさを感じさせるこのミニアルバムができたのには、バンドの制作環境の劇的変化があった。基本的に岩下優介(Vo)がひとりでベースを作ってきたこれまでとは違い、曲にも歌詞にもメンバーの視点が入ることで、とても開けたものになった印象を受ける(まあ、そうは言っても強烈なクセがあるのには変わりないので安心してほしい)。平沢あくび(Syn)のテレビ出演で一躍知名度を上げたタイミングで、この作品というのはうってつけだろう。ぜひ今まで彼らの音楽を知らなかった人には、これを入り口にしてほしい。岩下本人にとってもサプライズだったリリース発表から完成までを、岩下&あくびに語ってもらった。

――『ニガミ17才a』『ニガミ17才b』と来てまさかの『o』っていう。血液型4部作ということですが。
岩下:『a』を出したときから決まってはいたんですよ。ただ最初は『ab』をDVDにするつもりはなくて、ベスト的な感じにしようかなと思ってたんですけど、できたらいいなってふわっと思っていて。
――この2年のインターバルというのは想定どおりだったんですか?
岩下:いや、全然そんなこともなく――。
平沢:2019年は、コンスタントにMV用の曲を作っていこうというのは常にみんなのカレンダーにはあったんですけど……結構難産というか、岩さんは期限を作らないとできないタイプなので。「生でんぱ」はでんぱ組.incさんに提供するので期限があったんですけど、ニガミの曲に関しては期限がなくて。だからもう発表しちゃうしかないと思って、今回は岩さんに内緒で「リリース決定しました」って先に発表して(笑)。
岩下:荒療治すぎる。
――前代未聞ですよね、作る本人が知らないところで。「おい!」と思いましたよね。
岩下:いや、「おい」どころじゃなかったです(笑)。でもそれもメンバーが愛を持ってやってくれたことなんで。生配信で聞いたときはバチギレでしたけど、その思いを聞いたら逆に「ああ、なるほどね、ありがとう」って思いましたね。
――でも不思議というか、まったくリリースがない間に、ニガミの知名度はむしろ上がりましたよね。あくびさんのバラエティ出演などもあって。
岩下:2019年にハコのサイズ上がりましたからね(笑)。
平沢:えー?って思いましたよね。どういうことだろうみたいな。私はメディアの仕事をいただくことがたまたま増えて、それが次々に繋がって、いろいろな芸人さんとかに広がって。運が良かったなと思いますし、その時期を無駄にしないようにしなきゃと思っていました。でも、だからといって焦らなかったんですよね。周りがざわついてくれてるうちに新曲出さなきゃみたいな感じもなかったんです。誰も浮かれないというか。みんな、周りに友人とかが多いわけじゃないので、知名度が上がってるっていうのもツイッターのフォロワー数とかでしか実感できないっていう感じで。
岩下:まあ、僕らとしてはまだまだ全然、1割ぐらいなんで。浮かれてる場合じゃない。と言いつつ、2年間、出してないんですけどね(笑)。
――でも、そのぶん素晴らしい作品ができたと思います。手応えはどうですか?
岩下:僕、前のバンドのときは自分の作品でも産み落とした時点でもう興味なくなってたんですけど、ニガミの曲はなんか聴いちゃうというか、全曲大好きで。今回に関しても、本当に時間も限られてたんで「100%を出せたらいいな、でも80%の曲もあるかな」とか思ってたんですけど、思いのほか全曲120%ぐらいの出来になったっていうのは、よかったなと思いますね。
平沢:期限作ってよかったね。
岩下:今回、ちょっと作り方も変えたんですよ。いつもだったら僕がパソコンで組んできたものを渡してっていう感じだったんですけど、今回はそのパソコンで組む過程もメンバーに一緒にいてもらって、みんなで楽しみながら作ったので。それもよかったのかもしれないです。僕が普段だったら捨てちゃうようなものでも「いや、それいいじゃないですか」ってメンバーが食い下がってきたりして。そこで1回天秤にかけるチャンスがあるというか。
――今までだったら日の目を見なかったであろうものも、メンバーの意見で復活したりすると。
平沢:今までもたまに煮詰まったときに、岩さんが過去の、たぶん捨てたであろうものを再生して、それが一瞬だけ聴こえることがあったんですよ。でも「今のめっちゃかっこいい!」とか言っても「いや、これは違うから」って。言っても聞かないんです。だから今回はかっこいいなって思ったらすぐ言うようにして。この作り方は本当にいいなって思います。それで岩さんが納得してくれたらいいなと思ってたんですけど、よかったと言ってくれたんで、なんか曲の作り方がやっと見つかったのかも、みたいな感じはします。
――そもそもそういう作り方にしたのはどうしてなんですか?
岩下:単純に時間がなかったからなのかな。あとは、ニガミ17才の作業部屋を作ったんですよ、コロナのちょっと前ぐらいに。
――ニガアジ(ニガミアジト)ですね。
岩下:はい。だから僕が作業しているときに必然的にいるというか。
平沢:スタジオとかで曲作りになるとみんな構えちゃって、ちょっとピリッとしちゃうんですけど、ニガアジだとドラムのこっちゃん(小銭喜剛)は『キングダム』読みながらとか、私は適当にコーヒー飲んでボーッとしながらっていう、部室みたいな雰囲気で。意見をふわっと言いやすい空気も作れていたし、コミュニケーションも取りやすくなったんで。
岩下:環境ができて、本当にフランクに提案できるようになりましたね。何かちょっと思っただけでも言えるというか。「シンバル変えたら?」とか言えるっていう環境になったのかも。今までだったら言えんやったもんね、なんか。だから、胸張って4人で曲作りましたって言えるんです。今までもクレジットは4人で曲作ったっていうことになってましたけど、言うても、こっちゃんとかは胸張って言えない感じがあったと思うんです。でも今回は4人で作りましたって胸張って言えると思います。
――音楽性の面では、今回どういうものを目指していたというか、出ている感じですか?
岩下:何でしょうね。今回、締め切り直前まで難航してたんですよ。それでどうしようかってなってるときに、ホログラムのキョンシーっていう。
――キョンシー?
岩下:キョンシーじゃなくて、キョンシーがホログラムとして現れてる映像がいいねっていう話をみんなと共有したんです。そしたらなんかアルバムの曲がボンボンってできた気がする。
――なるほど(笑)。感触は明快なのにじつは相当正体不明という「Jimmy Perkins」からアルバムは始まりますね。
岩下:あれ、実際、10秒ぐらいしか音源データ使ってないんですよね。それを2分半にしてやるっていうことがおもしろいなと思って。最初に歌詞を見ながら聴いてほしいんです。全然違うこと歌ってるじゃないですか。しかもあれ、1番と2番同じサンプルを使ってるんですよ。なのにああいうふうに違う歌詞を書くことで違うように聞こえるっていう。
――そうそう。歌詞を読みながら聴くと、なんかそう歌っているように思えてくるっていうか。
岩下:同じフレーズしか使ってないけど違うふうに聞こえるんですよね。その音楽の不思議というか、おもしろさ、っていうところですね。洋楽の和訳みたいなイメージかな。
――ああ、なるほど。
岩下:うん。洋楽も何歌ってるかはわかんないですからね。
――そこで<ようこそ新しい世界へ>っていうフレーズが出てくるんですが、同じ言葉が最後の「& Billboard」にも出てくるじゃないですか。これは?
岩下:今回いちばん最初にできたのが「& Billboard」で、“ようこそ新しい世界へ”っていう古めかしい看板が、最後クローズアップされて終わるっていう頭の中のイメージだったんです。で、その看板の中の時代が1曲目の「Jimmy Perkins」みたいな。僕らにとっては古めかしいけど、その時代にとっては新しいものであり、みたいな、結構誰もが思いつきそうなことなんですけど、それをあえてやりたかったっていうのがありましたね。
――そういう作品としてのトータル感も、これまでの作品とは違いますよね。
岩下:アルバム自体にテーマ性みたいなものを、『a』と『b』ってそんなに……そんなにというか、まったく作ってなかったんですよね。でも今回は制作期間が短かったっていうのもありますし、最初に出てきたホログラムキョンシーっていうものもあって、何か一種の時間旅行みたいなもので全てを括ったものになりました。短期間で作ったからこそ、そうなったっていうのはありますかね。
平沢:最後の最後まで、「Jimmy Perkins」と「& Billboard」のどっちを1曲目にするかで悩んだんです。「& Billboard」を聴いた後に「Jimmy Perkins」に戻ったら、最初に聴いたときはハッピーな感じだったはずなのに、それが終わった後の世界を見た後に戻ると切なさが増すっていうか…それで「& Billboard」を最後に持ってくるのはありきたりなんじゃないか、みたいな意見もあって。
岩下:僕は本当は、まあ今言うことじゃないと思うんですが(笑)、「& Billboard」を1曲目にしたかったんですよ。だからこの決まった曲順だと恥ずかしいんですよね、なんか綺麗すぎて。でもみんなが言うストレートな、綺麗な終わり方でいいじゃんっていうのを受け入れられた、それは4人で作ったものだからっていう。今でも変えられるものなら変えたいですけど。
平沢:ダメです!(笑)
――(笑)。「幽霊であるし」や「オフィシャル・スポンサー」では幽霊が出てくるんですが、ここでいう幽霊というのはどういうものなんですか?
岩下:過去の記憶っていうことですね、「幽霊であるし」に関しては。今「幽霊であるし」を思い返してる時点で……1年前の曲なんで、もうこれ自体が幽霊になってきてるなっていう感じです。
平沢:曖昧になってしまう自分の記憶というか。それを「幽霊」って言ってる時点で私は面白いなと思って。みんなが思ってる幽霊じゃなくて。じゃあ、私のこの感情のことを岩さんは「幽霊」って言ってるのかなとか。「オフィシャル・スポンサー」でも「幽霊」って単語が出てきて、繋がってる感じもして。
岩下:「オフィシャル・スポンサー」の<幽霊のような目線で>っていうのは、過去の女の子の記憶ですね。
――曲はみんなで作っていったということですけど、歌詞については? やっぱりひとりですか?
岩下:いや、これが歌詞のときもみんな付き添ってくれたんです。もちろん「これがいいんじゃない、あれがいいんじゃない」っていう議論とかじゃないですよ。僕が歌詞を考えてる間、後ろでずっとソファーとかに座っていてくれたというか。
――それって、どういう感じなんですか?
平沢:もう、出産してるのを待ってる感じ(笑)。椅子に座って、私たちはもうここにいることしかできないっていう。なんか、一緒にいることで安心するかなっていうのもあるし、岩さん1人だけやってるっていうのが申し訳ないなっていうのもあるし、聞かれたらすぐ答えられるほうが、岩さんも安心して作業できるかなっていうのもあるし。
岩下:それで、すごく歌詞が太くなったんですよね。質問されるんですよ。ここまでできたよって歌詞を見せて次のところを考えてると、「岩さん、この主人公は何歳ぐらいなんですか?」とか。制作過程でどんどん質問が来るから、どんどん歌詞が太くなっていった。
――なるほど。理解できるように説明しないといけないんだ、書きながら。それは大きいですね。結果、リスナーにとっても入り口が広くなったと思いますし。
岩下:ああ、広げた意識はなくとも広がってるなら、それはすごくいいなと思いますね。
――でも、曲にしろ歌詞にしろ、そうやってひたすら待つのも、それはそれでつらくなかったですか?
平沢:私は結構待つのが好きなんで、わくわくするんですけど。でも、どちらかというと私は岩さんにずっとアンテナ張ってる感じで。ため息も何種類かあるじゃないですか。「はあ~」っていうのと「はあぁー」っていうのがあったりして、このため息、たぶん今どん詰まってるのかもとか、今のは気分転換の時間かもとか、ご飯を食べさせたほうがいいのかもとか。そういう、なんかメンタルのケアっていうんですかね。
岩下:犬の鳴き声みたいになってる。ペットや。
平沢:本当にそうかもしれないです。岩さんはずっと曲作りに集中で、私は岩さんに集中みたいな感じはすごくありました。あとはモチベーションを上げるために、お昼ご飯何を食べたらみんなテンション上がるかとか考えたり、みんな、一時コーヒーにハマってたんで……岩さんは、コーヒーは匂いが好きなだけで飲むのは好きじゃないんですけど(笑)、コーヒー豆屋さん行っておいしいコーヒーを挽いてもらって飲み比べしましょうみたいなこととか。みんなのモチベーションを上げることを徹底してました。リリースを発表しちゃったのもあるので、責任として。
岩下:でもじゃあ、これからもこの作り方でいいの?
平沢:私全然ストレスはないかも。そのぶんアルバムとか作品への愛情がどんどん増したので。今までもこうやってくればよかったなと思ったぐらいです。
岩下:僕から言うと、コーヒーを選んで空気をよくするっていうのも、曲作りだと思うんですよ。だからやっぱり作曲してるんですよ、こいつも。と思いますね。
――まさにその賜物ですからね、この『o』は。
平沢:そう言ってもらえるとありがたいです。でも本当に、純粋に楽しかったし。ピリピリすることは当たり前にあるんで、それも完成した今となっては楽しかったというか。
――これは、次もいい作品になりそうですね。
岩下:次ねえ。4部作終わりましたからね。煩悩108部作にしようかな(笑)。何か新しいのを考えなきゃダメですね。

【取材・文:小川智宏】





ニガミ17才 MV「こいつらあいてる」(Nigmi 17th birthday!! "koitsura_ aiteru)

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リリース情報

ニガミ17才o

ニガミ17才o

2020年11月17日

苦味興行/EXXENTRIC RECORDS

01.Jimmy Perkins
02.こいつらあいてる
03.オフィシャル・スポンサー
04.幽霊であるし
05.生でんぱ
06.& Billboard

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■ライブ情報

COUNTDOWN JAPAN 20/21
12/31(木)幕張メッセ国際展示場1~11ホール・イベントホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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