This is LAST、自粛期間を創作に注ぎ続け完成した待望の1st Full ALBUM『別に、どうでもいい、知らない』

This is LAST | 2020.11.25

 ライブができず、スタジオに集まって音を出すこともできなくなった状況下で、制作がじっくりと進められた1st Full ALBUM『別に、どうでもいい、知らない』。This is LASTの存在が全国に知られるきっかけとなった「愛憎」や「殺文句」の他、新鮮な表現スタイルによる楽曲も多数収録されている。つらい体験を生々しく描写しながらエモーショナルに音を鳴り響かせる作風が、ますます磨き上げられた作品だ。込められている想い、制作エピソードについて3人に語ってもらった。

――自粛期間に曲作りをかなり進めたと聞いております。
菊池陽報(Vo/Gt):制作自体は、去年の10月くらいからアコギ1本で書くところから始まっていて、自粛期間は曲の肉付けをするのが主でしたね。いろんなアレンジを試しながら見定めるのに時間をかけていました。今までの2枚のMini ALBUMは、「3ピースとプラスアルファ」っていう考えもあったんですけど、今回は基本的に「3ピース」。「3人が実際にステージの上でできること」というコンセプトだったので、シンプルなところはシンプルに、「ここはやるぞ!」というところははっきりとやるという感じで。「3人でまとまった時にどう聴こえるのか?」っていうバンドの基礎の部分から見直すやり方でした。
――そういう方向性になった理由は何かあるんですか?
菊池:前の2作を出してツアーとかを回っていく中で同年代のバンドに影響を受けて、いろいろ見つけて吸収していこうとしたんです。制作の時間がたくさんあったからこそ、そういうことが深くできました。あと、自粛期間は3人でいろいろ話し合ってわかり合えた期間でもありましたね。会えないのは変な感じでしたけど。「今何してるの?」っていう感じで、意味なく電話してみたり(笑)。
鹿又輝直(Dr):電話、定期的にかかってきましたね(笑)。僕はスタジオでドラムを叩けないので、家でストレッチをしたり、パッドを叩いて練習したりといった感じで過ごしていました。
――りうせいさんもお兄さんの陽報さんに全然会わなかったんですか?
りうせい(Ba):はい。4月頃は「スタジオに入らないようにしよう」っていうことになっていましたからね。
菊池:「家族でご飯を食べよう」みたいな時に会うくらい?
りうせい:うん。自粛期間は、「自分はどんな音を出したいのか?」ということに向き合いました。あと、自粛期間にランニングをしながらいろんな音楽を聴きまくったのも、今回のアレンジに反映されていると思います。
鹿又:それがすごくありがたかったんですよ。
りうせい:いろいろ制限された時間を過ごしたことで、3人の引き出しは増えたと思います。
――アレンジをする上でどんな音楽が刺激になりました?
りうせい:Mrs. GREEN APPLEとかRADWIMPSですね。いっぱい音が鳴っているように聴こえる凝ったアレンジというものに気づくことができたんです。そのことによって「3ピースの自分たちには音が3つもある」って考えるようになって、いろんなアレンジを試すようになりました。それがとにかく楽しかったんですよね。
――吸収したことや試行錯誤が存分に活かされている今回のアルバムですが、「つらい体験、自分自身の醜い部分を赤裸々に表現する」というThis is LASTが追求して続けてきた作風も深められているという印象です。
菊池:曲を書く時に完全に自分の世界に入ってしまうので、書いている時は気づかないんですけど、見直してみるとちょっと恥ずかしいというか(笑)。でも、それが正解だと思っています。恥ずかしいニュアンスは、より色濃くなってきていますね。
――「ひどい癖」も、そういう曲ですよね。付き合っている彼女に浮気をされた男の心情が生々しく伝わってきます。
菊池:はい(笑)。
――彼女のひどい癖を軸として、複雑な心情が浮き彫りにされている曲だと感じました。
菊池:相手の人間性と自分の人間性がちゃんとわかるようにしたかったんです。今までは事象に対する自分の気持ちを入れていくスタンスだったんですけど、今回は事象がありつつも、相手のしぐさとかに表れている心理、それに対する自分の気持ちを描写したんです。
りうせい:この曲を最初に送ってもらって感じたのは、「歌詞がいいな」っていうことでした。「ねっちょりしてる」という感じで、「暑い夏に汗ばんだ男女がじめっとした部屋で陰湿なやりとりをしている」というイメージ(笑)。そのねっちょり感がサウンドの4つ打ちと絶対にマッチすると思っていました。これ、踊れないサウンドだと「ほんとにやばいやつ」という感じだったんですよね。
菊池:お前、やめろよ(笑)。でも、そういうことだね。
りうせい:うん。つまり「踊りながらねちょねちょしよう」っていうこと。
鹿又:「ひどい癖」は、「愛憎」とか「殺文句」に通ずるThis is LASTらしい曲なんですけど、サウンドも含めて今までになかった感じが出ていますね。
菊池:あと、微妙なタイミングでの転調が「ちょっと足りない転調」みたいなニュアンスで、それによって曲全体の「もどかしい」みたいなものを醸し出せたと思います。

――この曲を聴いて改めて感じたんですけど、This is LASTの曲は情景描写が鮮やかだし、物語がありありとイメージできるんですよね。
菊池:ありがとうございます。その物語の世界の中に立っているかのように体験してもらいたいので、「どこをピックアップしたらいいだろう?」っていうことはすごく考えますね。
――物語を象徴している物体を効果的に盛り込んだりもしますよね。例えば「左耳にピアスをしない理由」の「左耳のピアス」がまさにそうですが。
菊池:物体、言葉、風景とかが思い出に絡んですごく自分の中に残っているんです。「それをどこからどう見て捉えるのか?」を細かく考えながら歌詞を書いています。
――「左耳にピアスをしない理由」に関しては、開いたまま残っている左耳のピアスの穴と、なかなか埋まらない心の空白がリンクしていますよね。
菊池:自分、別れてからずっと左耳だけピアスをしないんですよ。穴は開いたままなんですけど、ちょっと埋まってはきているんです。それが相手への気持ちが全く埋まらないこととの対比になっているというのは、書きながら気づきました。
鹿又:歌詞は日増しに洗練されてきて、よりストーリーとかが頭に入ってくるものになった感じがありますね。あき(陽報)は「お客さんの共感を求めてない」って言っているんです。でも、お客さんは「共感する」って言ってくださるんですけど。
――共感を求めずに書いた個人的なことが共感されるって、なかなか面白いですね。
菊池:「愛憎」とかも「共感します」って言ってもらえて、「そんなつらい想いしてるの?大丈夫?」って逆に心配になっちゃうくらいで(笑)。共感されるということよりも、自分の中にある情景がお客さんの頭の中にも浮かぶものでありたいって考えているんです。でも、それは意外と共感していただけるものみたいですね。みなさんには幸せになっていただきたいと思っています(笑)。
――(笑)。「殺文句」も共感を呼んでいる曲ですが、<あなたが 1番よ>って、恐ろしい言葉だなと改めて思いました。こういうことを言うっていうことは、2番目がいるということを暗示しているわけですから。
菊池:そうなんです。しかも……いつの間に自分が2番目になっていたんですよね。「なんとかしてくれよ!」って思います(笑)。
――心中お察しします。
菊池:こういう女性を世の中からひとりでも減らしていきたいですね。
鹿又:そういう目的のバンドだったんだ?(笑)。
菊池:でも、こういう曲を聴いて、回り回って支えにしてくれる人がいるならば、それはすごくいいことかなと思っています。
――曲を書くことで救われはしないでしょうけど、「作ってよかったな」と思うことはできていますよね?
菊池:そうですね。反映されている実体験に関しては、全く傷は癒えないんです。でも、それが何の因果か曲を聴いてくれる人、関わってくれる人との出会いになっていくというか。それは「救われている」という感覚がありますし、自信にもなっています。
――「病んでるくらいがちょうどいいね」は、そういう実感に根差した曲じゃないですか?
菊池:この曲は、そのままですね。今回のアルバムの中で最初に「ひどい癖」を書いたんですけど、途中で止まって全く書けなくなったことがあったんですよ。「書けない……」ってやってたら病んできて、その頃マイクを落として壊したり、前の車のナンバーが『オーメン』の666だったり……ということが重なり(笑)。最初は病んでるのが悲しいことに思えていたんですけど、なんだか笑えてきて。「思い返してみると自分に病んでない時はなかったな」ということも思ったので、それをダイレクトに曲にしたらこうなりました。
――非常に病んでいる曲ですけど、「病んでいるのが自分だから」という潔い開き直りがあって、不思議な明るさがあると思います。
菊池:「どーにでもなれ!」っていうのが入っていますからね。「みんな何かしらに悩んで、病んでる。みんな一緒に頑張っていけるよ」っていうことにも気づいてもらえたらなと思っています。
りうせい:あきは根は暗いけど面白いやつなので、こういうのが書けるのかも(笑)。これは毎回の作品にある、「自分のことを描きたい」っていう想いが表れている曲でもあると思います。過去の作品で言うと「ルーマーをぶっ壊せ」や「帰り道、放課後と残業」みたいな。
菊池:「病んでるくらいがちょうどいいね」を作ったことによって他の曲が書けるようになったんですよね。自分を見つめ直せたからだと思います。
――「拝啓、最低な君へ」も明るい暗いで言えば暗いタイプの内容ですけど、ユーモアも漂っているんですよね。最低な元カノに対する未練を書き綴った末に<最低な元カレより>で締め括るのって、なんかちょっと笑っちゃいます。
菊池:これは書いた時、多分、5分もかかってないんですよね。
――歌や音にもすごく開き直った勢いがあって、非常に気持ちいい曲です。アウトロのギターもかなり荒ぶっているじゃないですか。
りうせい:そこに関して、僕ら喧嘩したんです(笑)。スタジオに入った時に、あきがアドリブで弾いたのを気に入ったので、「このミスったところも再現した方がいい」って僕が言ったんですけど、「ちゃんと弾きたい」って言って、フレーズを整えようとしたんですよ。
菊池:このギター、変なところでピッキングハーモニクスになっていたりして、やろうとすると難しいんです。それをなんとか再現しました。
りうせい:やっぱこういう生感が大事なんだよ。
菊池:そういうことみたいだね。
――このイレギュラーなピッキングハーモニクスとか、ライブでどうするんですか?
菊池:今練習しています。
りうせい:また整えようとしてる(笑)。
――(笑)。「1mm単位の恋」も印象的な曲でした。表面上は喧嘩をすることはあっても、心の奥底では通じ合っている素晴らしいカップルの歌じゃないですか。
菊池:「幸せな曲をそろそろ書かんとな」と(笑)。これ以上行くと全て悲しい曲になると思ったので。
――<1mmも君から離れたくはないんだ>の後に<絶対に><超絶に>と畳みかけているところに、愛情の深さを感じます。
菊池:普段から「超絶に」っていう表現を使うのが、そのまま出ていますね。
鹿又:たしかに、よく使っているのを耳にします(笑)。
菊池:「超絶」「爆絶」とか。「爆絶」の方が上なんです(笑)。自分が普段から使っている言葉や造語も歌詞には入れてしまおうと思っているんですよね。
――「終電」も幸せそうな男女が描かれていますけど、明るい曲ではなさそうですね。どことなく不幸の影が忍び寄っていますから。
菊池:この時点ではすっごい幸せだったんですけどね。でも、まさかあんなことになるとは……という感じです(笑)。「1mm単位の恋」は、そういう黒い影が見えない純粋な幸せな曲なんですよ。こういうのを初めて書くことができました。
――新しい試みもいろいろできた今作を振り返って、改めてどのようなことを感じますか?
鹿又:今回、明るい曲が増えたというのは、僕もすごく感じています。やれることが広がっていると自分たちでも感じることができたアルバムですね。
りうせい:音の面でもすごく突き詰めることができたのが嬉しいです。全体的に疾走感があるし、ねっちょり感もあるし(笑)。「ロックバンドのThis is LASTを聴くならこの盤を聴いてほしい」というものになりました。
菊池:制作を去年の10月くらいに始めたから、1年くらいかけたアルバムでもあるんですよね。だから「やっと!」という感じもあります。いい作品になった手応えがあるので、いろんな人に届いたらいいなと思っています。

【取材・文:田中 大】

tag一覧 J-POP アルバム 男性ボーカル This is LAST

リリース情報

別に、どうでもいい、知らない

別に、どうでもいい、知らない

2020年11月25日

KURAMAE RECORDS

01.左耳にピアスをしない理由
02.囘想列車
03.ひどい癖
04.終電
05.1mm単位の恋
06.愛憎
07.ディアマイ
08.殺文句
09.拝啓、最低な君へ
10.病んでるくらいがちょうどいいね

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

This is LAST「別に、どうでもいい、知らない」
Release tour ”走り続けてこそ人生”

12/26(土)渋谷 CLUB QUATTRO
01/17(日)仙台 FLYING SON
01/23(土)広島 BACK BEAT
01/24(日)福岡 Queblick
01/29(金)名古屋 RAD HALL
01/30(土)大阪 LIVE SQUARE 2nd LINE
02/07(日)千葉 LOOK

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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