眉村ちあき、進化とエネルギーが詰まった3rdアルバム『日本元気女歌手』

眉村ちあき | 2020.12.09

 様々な制約がある状況の中で、前向きに活動を重ね続けている弾き語りトラックメイカーアイドル「眉村ちあき」。2020年の彼女に漲っていた膨大なエネルギーが多彩な形で開花しているのが、3rdアルバム『日本元気女歌手』だ。美しいメロディでもぶっ飛んだ作風でも、リスナーの心を強く打つことができる稀有なアーティストであることを再確認させられる。新境地もたくさん示されている今作について語ってもらった。

――コロナの影響はありつつも、今年の活動はかなり充実していましたよね?
眉村:はい。曲を結構出したから、音楽的には充実してたかもしれない。
――配信ライブもたくさんやりましたからね。竜宮城でもやったし。
眉村:そうなんです。でも、「みんなは竜宮城が見えてるけど、私はみんなのこと見えてないからな」って(笑)。「みんなばっかりずるい!」って思ってました。
――3月には『Naka-Kon 2020』でカンザスに行って、残念ながら中止になりましたけど、現地から配信ライブをしてくれたのが嬉しかったです。
眉村:行った瞬間、中止になって、「えっ! 今来たのに!」ってなったんです。だから緊急で配信の準備をしました。配信ライブのアフターパーティーで関係者の前で歌ったら、めちゃくちゃ盛り上がったんですよ。「アメリカ人はノリがいいし、波長が合うし、いけんじゃね?」って思ったので、いつかちゃんと有観客でライブをしたいです。
――カンザスからの配信の1曲目は、今回のアルバムの1曲目でもある「夜の女王アリア 復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」でしたよね?
眉村:そうです。有観客のライブで歌うつもりだったから、それをそのままやりました。「ふざけた日本人が急にドイツ語で歌ったらどうなるんだろう?」って思って(笑)。
――(笑)。日本でも前から時々歌っていましたよね。
眉村:はい。これ、やりがちなんですよ。この曲がきっかけでオペラがすごい好きになっちゃって。「オペラもっと歌いたい」って思って、この曲を収録するためにオペラの先生にレッスンをしてもって、ドイツ語の発音も教えてもらって、ちゃんとレコーディングしました。この曲は復讐の心を燃えたぎらせて歌わないといけないんですけど、私、「復讐したい」って思ったことがなくて。だから、そういう気持ちを持った時に、もう1回リベンジで録りたいです。「復讐したい」と思って歌った時に完成すると思うから。次に私がこの曲を録って出したら、「なんかあったんだな」って思ってください(笑)。あと、ドイツ語の歌だから、コロナが終息したらドイツにも行きたいんですよ。
――活動のスケールが着々と大きくなっていますよね。カンザスのライブの時も、レディー・ガガさん、ビリー・アイリッシュちゃん、長州力さんのマネキンが会場で観ていたじゃないですか。
眉村:はい。「無観客、寂し過ぎるな……」と思って、現地のスタッフさんに「なんかマネキンないの?」って言ったら、あれを買ってきてくれた(笑)。
――(笑)。フェスの中止は残念でしたけど、すごく前向きなものを感じたライブでしたよ。
眉村:やっぱり「逆転してやる!」って思いますから。変な条件も面白がれるようにやれたら一番いいし、ピンチはチャンスですよね。
――例えば「手を取り合うからね」も、自粛期間があったから、マユムラー(眉村ちあきファンの呼称)の歌声を募集して曲を作るという発想に至ったわけですし、ちゃんと逆転できていると思います。
眉村:マユムラーに会えないのが、ほんとにつらかったんですよ。でも、「あっ! 私、そういえば音楽作ってたわ。音楽で繋がろう!」ってなって、「手を取り合うからね」を作りました。この曲、声だけで500件くらい来て、STAY HOME中のおうちの中の音、食器を洗う音とかも300件くらい来たんです。
――既にMVが公開されていて、配信リリースされた曲もかなりありますけど、どれもマユムラーのお気に入りになっていると思います。
眉村:マユムラーが私の発信を楽しみにしてくれてて、幸せになってくれてたらほんとに嬉しいんだけど、私はマユムラーの顔を見てないから、「そっちも何か出しなよ、曲」って感じ(笑)。
――(笑)。今回のアルバム、コラボの「偏差値2ダンス feat. 玉屋 2060%(Wienners)」「ニーゼロニーゼロ / 眉村ちあき&Creepy Nuts」、兼松衆さんがアレンジャーとして参加した「やさいせいかつ」、兼松さんがサウンドプロデュースで、バンド編成でレコーディングした「冒険隊 ~森の勇者~」とか、共同作業による曲がいろいろあるのも注目させられます。
眉村:玉屋さんは、私がUNOで勝って、「コラボしてください」ってお願いしたからなんですけど。あと、兼松さんとは共同編曲をしました。兼松さんは技術もすごいからびっくりしちゃって、「これを越えられない!」って、1回ちょっと病んじゃったことがあるくらい。
――プロフェッショナルの兼松さんは逆に、「こんなこと俺には思いつかない! すげえ!」ってなっていると思いますけどね。
眉村:それを言ってくれるんですけど、「でも、兼松さん、すごいですよ」ってなっちゃう。兼松さんは私の良さを残してくださって、私はそれを聴いて「ここはこうしたいです」とか、やり取りを何回かしました。兼松さんは私を尊重して作ってくださる絶妙な人です。しかも、私が泣いたりしても困らないし。「あはは。泣いてるんですねー」っていう感じ(笑)。
――(笑)。共同アレンジの「やさいせいかつ」は、カントリー風味ですね。
眉村:はい。「やさいせいかつ」は「やさしいせかい」のひらがなを並べ替えたみたいな言葉なので、ほんとは「やさしいせかい」っていう曲です。これは「冒険隊 ~森の勇者~」を越えようと思って作って。だから編曲に行きづまって、すごく病んだんですよね。「冒険隊 ~森の勇者~」の兼松さんのアレンジのすごさを見た後に自分で編曲しても、全部カスにしか聴こえなかったんです。それで結局「兼松さんやって!」ってお願いして、やり取りをさせていただきました。
――「冒険隊 ~森の勇者~」は名曲だと思います。四宮義俊さんが監督、制作は「SUIRO」、キャラクターデザイン・作画が「南方研究所」……っていう、ものすごいことになっているMVも素敵です。

眉村:私、観た時、号泣しちゃいました。世界がもともとあるタイプの曲だったけど、みなさんがさらに広げてくれたMVですね。
――改めて申し上げるのも変ですが、眉村さんはグッとくる曲をたくさん書きますよね。
眉村:ありがとうございます。「王道にいい曲、つーくろっと!」って作ってます。
――そういう曲と、どうかしている曲のどっちも感動的なのが、眉村さんの恐るべきところなんですよ。だって、「偏差値2ダンス」も、なんか感動しちゃいましたから。

眉村:玉屋さんならわかってくれるだろうと思って、めちゃくちゃ攻めた感じにしました。もともとライブで「バカばっかり。偏差値2じゃん!」みたいにお客さんに言ってたんですよ。だからそれをそのまま曲にしました。だって、頭おかしくなって踊ったら最高に気持ちいいから。
――この曲のMVも実にどうかしていますね。
眉村:ね? そういえば、「冒険隊 ~森の勇者~」のアニメに出てくる男の子が転校する学校が、「偏差値2ダンス」のMVを撮った小学校になってるんですよ。あと、「偏差値2ダンス」の最後の学校のチャイムも、実は「冒険隊 ~森の勇者~」のメロディです。
――この2曲に繋がりがあるというのは予想外(笑)。グッとくる曲に関しては「夕顔バラード」と映画『10万分の1』の挿入歌「36.8℃」が美しいです。
眉村:「夕顔バラード」は同世代の女の子に聴いてほしいです。「36.8℃」は、原作の漫画も読んで、「キュンとする曲を作ろう!」と思って、映画にも合うようにちゃんと作りました。なにかと絡めて作るのって楽しいんですよね。コラボで作るのも楽しかったし。
――映画の挿入歌というきっかけがないと、「36.8℃」みたいな瑞々しいラブソングを作る機会もなかなかなかったかもしれないですよね。

眉村:ほんとそうですよね。これがきっかけになって有村架純さんのドラマの曲のお話とか来ないかなって思ってるんですけど(笑)。
――(笑)。テレビやラジオ番組がきっかけだった曲も、収録されていますね。「ジュビデュバ・オブ・クラティー」「マーメイドボーイ」「昼だがな! ~逆襲 ver.~」とか。
眉村:そうなんですよ。「マーメイドボーイ」、気に入ってます。
――情報番組のテーマソングの募集にエントリーした「昼なんです!」は、実に惜しかったです。
眉村:最後の5組にまで残ったんですけどね。悔しかったから「逆襲 ver.」にしました。
――そういえば、先ほどお聞きするのを忘れていましたが……「冒険隊 ~森の勇者~」をバンドでレコーディングした理由は、何だったんですか?
眉村:レーベルの方が紹介してくれました。兼松さんにピアノを弾いていただいたんですけど、「ここをこうして。もっと速く!」って言い過ぎちゃって……。
――プロの楽器奏者さんにお願いするのって、絵に喩えるならば使える絵の具の色が増える感じもあるんじゃないですか?
眉村:そんな感じです。私、「何色を使いたいのか?」っていうのを具体的に突き詰めていくステップに入ったのかなと思っています。みなさんに伝えるのはめちゃくちゃ下手ですけど。でも、「ボーン!ってやってバーン!です」っていう感じなのに、全員「ああ、OK! OK!」って言って、ちゃんと伝わってるんですよ。「なんでわかるの?」ってなりました。
――ちゃんと伝わる理由、なんとなくわかりますけどね。眉村さんの歌自体も、言葉を越えて伝わってくるものがものすごくありますから。
眉村:嬉しいです。声の抑揚とジェスチャーなしでは生きられないんです、私。アメリカ人ともジェスチャーでめっちゃ会話できましたからね。
――「教習所」も、想いがヒシヒシと伝わってくる曲ですよ。つらかったんですね?

眉村:はい。教習所、ほんと最悪だったんですよ。1年以上通って、今、一旦休んでます。また来年くらいにチャレンジします。
――ホームページのスケジュールに、教習所に行く日も書いていましたよね?
眉村:はい。「教習所」って入れておけば、みんながその時間に「頑張れ!」って祈ってくれるかなと思ったので。この曲聴けば、教習所に通いながら私がどれだけつらかったかわかると思う。ほんとは車に金づちボンッ!ってやりたかったけど、壁を壊すか、曲にぶつけるかを考えて、「曲にしよう!」って決めました。曲にしたら勝ちだから。教習所 vs 私の戦いは、私の勝ちなんです。
――「教習所」や「フリフリスイスイニッコニコ」は、眉村さんの得意技の作風という印象です。ラップ的な要素を入れるの、好きですよね?
眉村:好きです。だけどあんまり入れ過ぎないようにしてます。「入れてるとイケてるっしょ?」って思ってると思われたくないから(笑)。1番で尻尾振ってて、2番で泳いでて、最後に<笑ってて>だから、タイトルは「フリフリスイスイニッコニコ」なんです。これ、初めて言った。
――「クリスマスソング」は、やばいリスナーがいるラジオ番組の曲ですね。
眉村:はい。もともとのタイトルは、「クリスマスにラジオ聴いててDJにガチ恋して想像妊娠しちゃった女」だったんですけど。でも、タイトルでやばい曲ってバレないものにしたかったですよね。
――こういうぶっ飛んでいる曲も、すごくじっくり練って作っていますよね?
眉村:はい。前と比べると、すごく丁寧に作るようになってます。前は10曲とかブワーッ!って録って、パタ……って昼寝して、また10曲とかブワーッ!って録るみたいな感じだったけど、今は1曲録るのにもハアハアってなりますからね。
――勢いで作ることができるのも眉村さんの良さですが、今作はひとつひとつ丁寧に形にしたんですね。
眉村:はい。私、このアルバムは両生類だと思ってて。前は魚類だったんですよ。前はひとりでパソコンで作ってたけど、今回は共作とか共同編曲もしたから、「ちょっと手足が生えたな」って感じ。「次は鳥類だな」って思ってます。哺乳類かな? 鳥になったら、その次は山? 最近、農家やりたくなっちゃって、畑を耕してみたい。私、畑耕し系歌手になります!
――着々と進化できていますね。アレンジで悩んで病んだって、先ほどおっしゃっていましたけど、眉村さんのセンスは、やっぱりすごいって確信できるアルバムですよ。
眉村:嬉しい! 最近、私もそういう考え方になってきてて、「私はめっちゃイケてるし、めっちゃセンスがある最高の女!」って思ってます。
――マユムラーの前でライブをたくさんできていたら、「私は最高の女!」って確認できるから、そんなに病まなかったのかも。
眉村:そうですね。マユムラーがいたら、当たり散らすこともできたし。
――ざっくり言うと、最近の眉村さんにはハゲが足りていないということではないでしょうか?
眉村:はい。この間、スギム(クリトリック・リス)さんの『栗フェス』に出て、すっごい久々にハゲに会って、チャージされました。ほっかほかになって、「ハゲって、こんなに大切だったんだ!」って思いましたからね。マユムラーのハゲに触ったら、どうなっちゃうんだろう?
――今の状況だとハゲに直接触れることがなかなかできないと思いますが、武道館でのライブはマユムラーたちに会えますね。
眉村:楽しみですね。今できることをめちゃくちゃやろうとしてます。でも、全然ゴールじゃないから。「早くスタジアムでもやりたいなあ」って思ってます。噴水の上でもライブやりたいし、ユンボで壁壊して登場したいし、やりたいことがいっぱいあるんです。やりたいことができるように早く成長したいですね。この前、ゴールデンボンバーさんとライブをさせていただいて、すっごい愛にあふれてたんですよ。今まで私も2マンの相手をリスペクトしたライブを心掛けてたんですけど、「もっとやれるんじゃないか? 金爆さんくらい愛のあるライブをしよう」って思わされました。
――広瀬香美さんとのライブも素晴らしかったですよ。
眉村:ありがとうございます。あんなに丁寧に言葉のひとつひとつを歌っていらっしゃるのを聴いて、「まだやれるんじゃないか? もっと正確なピッチで、もっと丁寧ではっきり歌ったりとかできるんじゃないか?」って思って。もっと細かいところまでやって、自分のライブを極めようと思ってます。それを踏まえた上での武道館ですね。
――武道館の日は、お友だちの吉田豪さんのスケジュールもばっちり押さえたそうですし、準備万端?
眉村:はい。豪さんが「受付とか、なんでもやるんで」って急に連絡してきました。豪さんはなんでもやってくれるんですよ。騎馬戦もやってくれるし、トナカイの恰好をしてくれたこともありましたからね。あの時、トナカイのマスク被ってたから、まじで誰なのかわかんないままライブが終わっちゃったんですけど(笑)。

【取材・文:田中大】

tag一覧 J-POP アルバム 女性ボーカル 眉村ちあき

リリース情報

日本元気女歌手

日本元気女歌手

2020年12月09日

TOY’S FACTORY

01.夜の女王アリア 復讐の炎は地獄のように我が心に燃え
02.手を取り合うからね
03.教習所
04.偏差値2ダンス feat.玉屋2060%(Wienners)
05.ジュビデュバ・オブ・クラティー
06.夕顔バラード
07.フリフリスイスイニッコニコ
08.マーメイドボーイ
09.顔ドン
10.ニーゼロニーゼロ / 眉村ちあき&Creepy Nuts
11.冒険隊 ~森の勇者~
12.クリスマスソング
13.昼だがな! ~逆襲ver.~
14.36.8℃
15.やさいせいかつ

Special Track(CD Only Track)
夢だけど夢じゃなかった -20.9.18 ver.
夢だけど夢じゃなかった -20.10.11 ver.-

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

日本元気女歌手 ~夢だけど夢じゃなかった~
12/14(月)東京 日本武道館

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る