令和時代のシンガーソングライター水野あつ、Fanplus Music初登場!

水野あつ | 2020.12.26

 2020年、ネット発音楽シーンに新たな潮流が生まれた。なかでも、完全にインディペンデントな活動ながらTikTok文化圏~ボカロ文化圏~YouTube文化圏を自在に横断するという、“壁”を乗り越えて躍進した令和時代のシンガーソングライター水野あつの存在は鮮烈だった。ほんわか優しげな雰囲気ながら、よく聴くとエッジの聴いたピアノ展開。セルフプロデュース能力も高く、セルフでのEC(BOOTH)や配信で2020年2月に先行リリースした1stミニアルバム『おやすみ僕の愛した君へ』を、11月25日にタワーレコード新宿店限定にてCDリリース。2021年の活躍が楽しみな新しい才能だ。

ーー2020年、水野あつさんはTikTokでバズったり、CDリリースもされ大活躍で。
水野:初期の頃からありがとうございます。実は対面取材自体も初なんですよ。
ーーあ、そうなんだね。最近はYouTubeでトークやライブなどにも出ているよね。
水野:ありがたいことです。
ーーもともとはどんなきっかけで音楽活動をスタートしたの?
水野:音楽歴で言いますと幼少の頃から楽器が身近な存在でした。楽器触る以前から絶対音感があって。
ーーすごいなあ。
水野:両親とも音楽が好きで、常に音楽が流れている家でした。ピアノは独学ではじめて。音の出るおもちゃ感覚だったんですね。ピアニストになりたいという夢はあったんですが、ピアノは練習するのが苦手で……。先生に、“センスはあるけど雑だね”って言われて。それが不服なところもあって。
ーーそうなんだ。
水野:で、いろいろあって、曲を作りはじめたのは高校生の頃ですね。ボーカロイド文化に触れて、レコード会社や事務所に所属しなくても音楽を作って発表できるんだというのが驚きで。DAWという環境で、個人で音楽を作れるんだと知って。それからは夢中で曲を作りはじめました。でも、当初は学業だったり部活が忙しかったんですよ。
ーー部活は何をやっていたの?
水野:テニスです。部長をやっていて。今は、当時と比べると体重が10キロぐらい落ちましたけど。
ーーおおお、そんな一面もあったんだね。
水野:ひとつのことにのめり込むタイプだったんです。やるってなったら集中するので、テニスにハマっていました。
ーーちなみにボカロ界隈だと、あつさんが影響を受けたボカロPは?
水野:n-bunaさんとかですね。あと、椎名もたさんなど。死生観を描く作品が好きで。でも、トゲトゲはしていないんですよ。あとはnakano4さんとか。連続音を効果的に使われる方で。自分の青春時代はボーカロイドでしたね。1万再生いかなくても、いい曲を作るボカロPを探すのが好きだったり。
ーーそこから自分で歌唱したのはどんなきっかけで?
水野:根本的には歌いたいワケではないんです。曲を作ってギターを入れている感覚で声を入れているだけで。ある種のシンセサイザー的な感覚で。ただ自分の作品を伝えるためには歌を入れたほうがいいのかなって。でも、売れたいっていう思考は特にないんです。作って発表し続けていたいという。
ーー音楽コラボアプリnanaもよく使っていたそうで。
水野:そうですね。初期から使っていました。今は何百万人が使うサービスになりましたよね。僕はIDがまだ4桁の時代でした。僕の音楽の原点は、nanaの前にドワンゴさんがニコルソンというサービスをやっていてハマったんです。
ーー音声コミュニケーション、声でつながるアプリですね。
水野:nanaとツイキャスが合わさったようないいサービスでした。
ーーまさに水野あつさんは、参加型でクリエイターが自由に楽しめるコミュニティを理解して、そんなフィールドから脚光を浴びたという存在なんだね。となると、オーディエンスによる再生回数やコメントなどで自分が成長できたという体験って大きかったんじゃない?
水野:そうですね。その通りで、売れたいという気持ちより、自分は承認欲求が強いんですよ。自分が作った曲を褒められたいし、好きって言ってもらえると嬉しくって。
ーーその積み重ねが“売れる”ってことだよね。本質的なポイント。TikTokなど、バズらせようとしてバズる世界ではないもんね。でも、あつさんは「知りたい」がTikTokで盛り上がったという。
水野:そうですね。TikTokのアカウントを開設したきっかけは、1stミニアルバム『おやすみ僕の愛した君へ』を盛り上げるためだったんです。当時、6曲あったので、だったら6曲をTikTokで小出しにして届けることができたらなって。最初の5日間は、いいねが50ぐらいで。
ーーTikTokはレコメンデーションのアルゴリズムが優秀なので、初動から動きを見せてくれるんですよね。そこはTwitterやYouTubeとは違うところで。
水野:そうなんですよ。コメントなどで“この曲は伸びる!”なんて嬉しい書き込みもあって。なので、毎日投稿していたんです。そんな中、「知りたい」のファンアートが良かったので許諾を得てTikTokで使わせてもらってアップしたら予想以上にハネました。そこから他の曲も拡がっていきました。
ーー現場の声はおもしろいねえ。こうして満を持してのCDリリースとなった1stミニアルバム『おやすみ僕の愛した君へ』は、世界観で共通するテイストがありそうだけど、コンセプトは?
水野:概念的なところでいうと、僕が円盤(CD)を出すにあたってなんですが、実はこれまでCDにまったく触れてこなかったんです。世代的というより、僕は過度に大衆音楽に触れてこなかった過去があって。学生時代はテニスに打ち込んでいたので、ネットで観ていたボカロ以外は、ポップスの“あるある話”など今でもできないんです。
ーーそうなんだ。
水野:なのでCDを買うきっかけもなく。あ、クラシックのCDは聴いてたんですけどね。そんな自分が、ポップミュージックのアルバムのCDをどう作るか? という考えからスタートしました。僕がリスナーの立場だったら、CD買わないんですよ。今はサブスクがあったりYouTubeもあるので。じゃあ、どんな内容のCDにしようと考えたときに、このアルバムをひとつのライブにしようと考えました。というのが、1曲目の「さよならが分からない」とラストの「+++++」という、オープニングとエンディングなんです。あと「プレストアパショナート」と「ソノラ」の間には“MC”感覚でシークレットが入っているんです。
ーーなるほどねえ。フレッシュで初々しさを感じる表現は、そういうことなんだろうね。ピアノが軸になっている理由はなんだろうって思っていたんだけど、ルーツがピアノだったんだね。
水野:そこは何も考えず自然なところでした。
ーー令和元年5月13日にYouTubeへ投稿した、アルバムのリード曲でもある「カーテンレール」は、それこそ自身の生活が表現された不安や葛藤を感じるナンバーで。でも、サウンド感には希望を感じられるんですよ。
水野:新居にカーテンレールがなかったんですよ(笑)。そんなことあるんかなって。今、突っ張り棒を使っていて(苦笑)。今でこそ、いろんな方々に曲を聴いてもらえるようになって自分の生活を築けるようになったんですけど、当初は貯金も仕事のあてもないままに上京してしまって。
ーーすごいよね。その破天荒なモチベーションはなんだったの?
水野:ははは(笑)、いやわからないですよね。なんか、やるしかないって思ったんです。でも、今から振り返ってもこの選択しかなかったなって。
ーーあと「もしも流れ星が落ちたら」もめっちゃいい曲で。ピアノの響きが印象的なセツナ・ポップサウンドで。
水野:ピアノのフレーズが頭の中から離れなくて、それを曲に綴りました。その前に「ソノラ」を作っていて夏に出そうとしていて、合間に作ったんです。イントロのフレーズは自分の中で革命で。でもうまく昇華できる曲がなかなか作れなかったんです。で、このフレーズから七夕の曲を作ろうと思い立ってできたのが「もしも流れ星が落ちたら」でした。一番最後のピアノのフレーズが好きで。あのコードのスケール感というか、最後にピアノがソロで鳴るんですけど、あれをポップスとして消化するのはポップスとして攻めすぎなんじゃないかなって迷いました。葛藤もあったのですが、明らかに自分の趣味として表現しています。僕はクラシック上がりなので、ピアノの綺麗な曲を作りたい気持ちもあって。ポップスなんだけどクラシック要素を入れ込みたくて。その意味では「プレストアパショナート」も同じ節がありますね。
ーー「プレストアパショナート」はボカロ文化圏に通じるギターロックだよね。
水野:ポジション的には、水野あつがボカロっぽい曲を作ったらどうなるか? って曲ですね。ノリで寄せてみました。カミーユ・サン=サーンスの「アレグロ・アパショナート」という繊細だけどパワーを感じるピアノソロ曲がありまして、とても叙情的な曲で好きなんです。“アレグロ”というのは“早く”、“アパショナート”は“叙情的に”という意味があるんです。“パッション”と語源は近くて。「プレストアパショナート」も、“早く叙情的に”という意味ですね。速度記号と感情を込めた曲になっています。
ーー「キュクノス」もイントロからキャッチーで、キュートかつせつないナンバーで。
水野:自分視点の曲ですね。水野あつ全体として、伝えたいことのひとつとして日常の幸せや、日常に感じられる喜びや悲しみを大切にしたくって。飾らないところに幸せってあるんですよね。「キュクノス」もそんな曲です。なんていうか、僕の曲って冴えない歌が多いと思うんです。
ーーいい意味でね。
水野:綺麗でせつなくて弱い感じというか。
ーー誰もが抱えている葛藤を描いているからね。
水野:そうなんです。コンビニで買った缶酎ハイを飲むシーンを歌詞で表現してみたり。でも、自分はお酒が弱くて全然飲めないので、それすらも飲めない自分、みたいな。
ーーなるほどね。
水野:曲作りを一言で表すと日記みたいなもので。そんなに主張があるわけではないけど、でもふつふつと湧き上がる感情を大切にしたいんです。なので、僕の曲は、日記を読んでもらっている感覚なのかなって思います。
ーーそれはわかりやすいね。今後、あつさんはどんな活動になっていきそう?
水野:僕は、SNSの中に住んでいると言っても過言ではない人間なので。
ーーSNSで呼吸している感じだ。
水野:ははは(笑)。なので、なにがあってもYouTubeに曲を出し続けていきたいですね。そんな中で、素敵なイラストレーターさんと一緒に動画をチーム単位で手がけていきたいです。この環境を維持したいですね。
ーーお、いいじゃないですか。楽しみにしてますね。

【取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

リリース情報

おやすみ僕の愛した君へ

おやすみ僕の愛した君へ

2020年11月25日

mizunoatsu

1. さよならが分からない
2. カーテンレール
3. もしも流れ星が落ちたら
4. キュクノス
5. 風鈴の音を聞いていた
6. プレストアパショナート
7. ソノラ
8. +++++

お知らせ

■マイ検索ワード

新宿のカフェ
“新宿のカフェ”で検索していました。カフェ巡りが好きで。訪れた街を楽しみたいという気持ちがあるんです。
ノマド的なことで“コワーキングスペース”にもハマっていますね。パソコン一台あればどこでも曲作りできるので。
あと、渋谷スクランブルスクエアの11FにTSUTAYAさんがやられている“シェアラウンジ”があって。そこは居心地がよくて素敵でしたね。

トップに戻る