彼女のルーツから最新の音楽志向まで様々な要素を詰めこんだ、kiki vivi lilyの最新作『Good Luck Charm』

kiki vivi lily | 2020.12.28

 一度聴いたら忘れない、kiki vivi lily(キキヴィヴィリリー)という愛らしい名前。同じく一度聴いたら忘れない、透明感あふれるウィスパーボイスと、R&B、ヒップホップ、チルアウト、エレクトロの系譜に連なるポップなサウンド。大注目を浴びた前作『vivid』からおよそ1年半、最新デジタルミニアルバム『Good Luck Charm』は、彼女のルーツから最新の音楽志向まで、様々な要素を詰めこんだ会心の仕上がりだ。YouTubeで高回転中の「ひめごと」や、nobodyknows+をフィーチャーした「ココロオドル」など、聴きどころいっぱいの新作について、ふんわりと語る言葉に耳を傾けよう。

――kikiさんといえば、なんといってもまずは魅力的なウィスパーボイス。最初からですか、それとも、練習して身に着けたものですか。
kiki vivi lily:昔からこういう歌い方なんですけど、特に練習したというわけではなくて、自分のできるものがこれだったんです。昔は弾き語りの、女性シンガーソングライターの界隈にいたんですよ。そこは本当に歌がじょうずな人がたくさんいて、それに敵わないなと思ったので、自分のできることだけやろうと思って、この歌い方になりました。
――結果的に、そこで道が拓けた。
kiki vivi lily:そうかもしれないですね。
――今度のミニアルバムの1曲目「Radio(Intro)」に、<ラジオつけて流れ込んだ / 懐かしい曲たちが>というフレーズがありますよね。kikiさんの記憶の中では、どんな曲が流れていたんですか。
kiki vivi lily:単純に、小学生の時に流行っている音楽は、一通り聴いていたんですよ。RIP SLYMEとか、そういうものも聴きつつ、あとは母と父が、山下達郎さん、松任谷由実さんとかが好きだったので、達郎さんのラジオ「サンデー・ソングブック」や、ユーミンさんの「サウンドアドベンチャー」を車の中で聴いていた記憶があって、この曲の歌詞はそういうイメージですね。
――kikiさんが今やっている音楽のルーツも、そのあたりにあるかもしれない?
kiki vivi lily:そのへんはすごく好きなので、かなり影響を受けているかな?と思います。
――曲の作り方は、トラックが先で、メロディを乗せていくパターンですか。
kiki vivi lily:本当にいろいろあるんですけど、基本的な軸としているのは、自分で歌詞、メロディ、トラックを作ったものを、みんなでアレンジしていくスタイルです。そこに「Touring(Prod. by Kan Sano)」のような、完全にKan Sanoさんプロデュースの曲があったり、作り方は決まっていないですね。トラックだけあって、メロディを乗せることもあります。それによってアプローチが変わるのが面白いので、いろいろやるようにはしています。
――それ、いいですね。飽きないし、いろんなアイディアを詰めこめるし。
kiki vivi lily:自分的には飽きないですよね。いろんな人ともやれるので。
――ただ、前作『vivid』がとても評価が高かったので、今回のデジタルミニアルバム『Good Luck Charm』に向けては、プレッシャーもあったんじゃないか?と推測しているんですけども。
kiki vivi lily:プレッシャーは、そうですね、でも制作陣も変わっていないし、フルアルバムとミニアルバムとは分けていたので、別物として今回は作りました。もっとコンセプチュアルな感じで作った感じですね。
――全体のコンセプトが先ですか、1曲ずつが先ですか。
kiki vivi lily:1曲ずつが先なんですけど、なんとなく全体として「ビートを強化したアッパーな曲を」ということは意識して作りました。『vivid』は生っぽいというか、こぢんまりとした、あたたかい音だったんですけど、今回はもっとビートや音を新しくすることに挑戦してみました。
――それって、最近聴いているものの影響とか、kikiさんから言い出したこと?
kiki vivi lily:基本は、自分が好きな曲とかをみんなで共有しながら、みんなも「こういう感じ?」という意見を出しながら、方向性を決めていく感じです。
――ちなみにkikiさんの最近のお気に入りは?
kiki vivi lily:わかりやすいところで言うと、BLACKPINKとか。それだけじゃないですけどね。ほかにもいろいろあります。
――最初にできた曲は?
kiki vivi lily:「Radio(Intro)」ですね。これはシンガーソングライター的な作り方で、ピアノと声と、ビートを入れたデモを作っておいて、それをアレンジャーのSweet Williamさんに投げて、アレンジをしていただくという形でした。最初からこれをイントロにしようと思っていたんですけど、確か、マック・ミラーの『スイミング』というアルバムの1曲目を聴いた時に、すごいイントロ感があって、“こういうふうに始まるのはいいな”と思って、こういう感じにした気がします。
――そして、リード曲が「ひめごと」。ミュージックビデオも作りました。
kiki vivi lily:これも私がデモを作ったんですけど、それに忠実にアレンジしてもらいました。けっこう、いじることが多いんですけど、これはあまりいじらなかったですね。
――とてもシンプルで、軽やかな聴き心地のポップチューン。でも、歌詞が気になりますね。男女3人の、複雑な関係というか。
kiki vivi lily:どうなんでしょう(笑)。歌詞は、空想ですけどね。言葉をすごく少なくして、説明しすぎないようにしているので、感じたままに受け取っていただければいいなと思います。
――ヒントは、<ふたりは普通の恋人同士 / 私ただの友達同士>というあたりですかね。この曲もそうですけど、kikiさんの曲の印象として、歌詞はせつなかったり寂しかったりしても、メロディと曲調は明るくポップなことが多いですよね。どっぷり行かない、アンバランスの妙と言うか。
kiki vivi lily:あ、そうですね。どっぷり行くのが、個人的にあんまり好きじゃないので。自分として、そこの対比がある曲のほうが、逆にグッとくるんですよ。そこはちょっと意識しています。一聴しただけだとなんとなく流れていって、可愛い曲だと思われるんですけど、何回も聴いてくださる方にはちゃんと刺さる、そういう曲にしたいので。
――それは、6曲目の「See you in Montauk」にも強く感じました。爽やかな曲調だけど、寂しさがじわじわとにじみ出てくるような。これ、なんで「モントーク」(ニューヨーク州の地名)なんですか。
kiki vivi lily:これは、『エターナル・サンシャイン』という映画の一節から取りました。映画に出てくるセリフです。行ったことはないですけど、寒そうな、冬の感じがいいなと思ったので。
――抒情と叙景が混ざった、イマジネーションをかき立てる歌詞。歌詞を書く時は、作家の脳みそになるんですかね。kikiさんの場合。
kiki vivi lily:でも自分的には、そんなにうまい文学的な歌詞を書いている感じはなくて、自分は作曲のほうかな?と思っています。音にハマって気持ちいい言葉を乗せるほうが得意ですね。
――それと、やっぱり注目は3曲目「ココロオドル with nobodyknows+」ですね。これはどんなきっかけで実現したんですか。
kiki vivi lily:ヒップホップの方とコラボしたい気持ちがあって、どなたにしようかな? ということで、プロデューサーの荒田(洸/WONK)くんと、ギターを弾いてくれている小川(翔)さんと、ご飯を食べながら話していて。小川さんが、15年前にnobodyknows+のレコーディングでギターを弾かれていたので、「nobodyは?」という話になったんです。私はど真ん中の世代だし、その場で、「ココロオドル」とかアレンジするのが楽しそうだし、コラボするのも楽しそうだねって盛り上がって、半ば妄想で話していたのが、実現しちゃったという感じです。
――言ってみるもんですね。
kiki vivi lily:そうですね(笑)。
――原曲とはかなり違う、キュートな四つ打ちチューン。アレンジはどんなふうに?
kiki vivi lily:「ココロオドル」の原曲を聴いていただくとわかるんですけど、マイナーコードなんですよ。それを私が歌うと、物悲しくなってしまうので、メジャーコードに置き換えて。nobodyさんが出てくるところからは、懐かしさを出すためにマイナーコードにして、最終的にメジャーコードに戻ってくる。そういうことを考えながら作るのが、楽しかったですね。
――そこに、今のnobodyknows+に歌ってもらう、めっちゃ贅沢じゃないですか。
kiki vivi lily:贅沢しちゃいました(笑)。めちゃめちゃいい曲なので、やっぱり名曲は名曲だということにみんな気づいてくれたらいいなと思います。
――5曲目、Kan Sanoさんのプロデュース曲「Touring(Prod. by Kan Sano)」は、ジャズとR&Bのエッセンスを加えた、アダルトでメロウな1曲。これは、Kanさんの世界観に身を任せる感じですか。
kiki vivi lily:そうですね。こういう曲は、自分とはちょっと距離があるんですけど、お任せした以上は忠実に歌うというか。だからこそ自分で聴いても気持ちいいし、客観的に聴けるので、すごくいいなあと思います。
――いつのまにか、全曲紹介になっちゃってますけど…(笑)。
kiki vivi lily:あとは「The Libertines」ですね(笑)。これはあまり技巧的なことをやらずに、シンプルに作ってみました。今までとは違うサウンドでやっちゃったので、みんなが受け入れてくれるか不安だったんですけど、意外と女の子受けがよくてよかったなと思います。それも「自分が楽しみたかったから」なんですけど。ライブとか、楽しそうじゃないですか。
――ロックっぽい曲ですよね。ちなみに「The Libertines」って、あのロックバンドと関係あります?
kiki vivi lily:あります。好きと言うほど聴いてはいないんですけど、福岡のバンドでandymoriが、最初は「和製リバティーンズ」という紹介で出てきたんですよ。私はボーカルの小山田(壮平)さんがすごく好きで、それでリバティーンズを知ったんです。小山田さんが出てきた時の衝撃やパワーをリバティーンズにたとえて、<衝撃をいつも求めてるわ>という歌詞を書いたんです。<Don’t look back into the sun>という歌詞も、リバティーンズの曲名から取りました。
――ああー、なるほど。わかる人はすぐわかる。kikiさんは、そういうロックを聴いてきたルーツもあるんですね。
kiki vivi lily:あります。時期によって自分の中の流行りはあるんですけど、ジャンルというよりは、良いものを求めて聴いてきた感じですね。最近はロックはあまり聴かないですけど、いちおう、全部にはハマりましたね。
――今回のミニアルバムには、それが幅広く出ていると思いますね。ヒップホップ、R&B、ロック、チルアウト、このバラエティ感がkiki vivi lilyだと思います。そして、タイトルが『Good Luck Charm』。
kiki vivi lily:1曲目の「Radio(Intro)」の中に、<おまじないを教えてあげる>という歌詞があって。そのフレーズがすごく好きで、背中を押すような歌詞になっているんですけど、そこから着想を得て、「Good Luck Charm」は「お守り」「おまじない」の意味なので、アルバム全体としてそういう作品になったらいいなと思って付けました。私の曲は、さっき言っていただいたように、どっぷりと落ち込むような曲はなくて、ちょっと背中を押すようなものを目指しているので、この言葉がしっくり来ましたね。

【取材・文:宮本英夫】

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リリース情報

Good Luck Charm

Good Luck Charm

2020年12月11日

日本コロムビア

01.Radio(Intro)
02.ひめごと
03.ココロオドル with nobodyknows+
04.The Libertines
05.Touring(Prod. by Kan Sano)
06.See you in Montauk

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