スカート、アルバム『アナザー・ストーリー』からわかる10年の歴史と今
スカート | 2020.12.28
それは名曲「ストーリー」を中心とした、スカートの歴史を確かめ直すもうひとつの物語。澤部渡によるプロジェクト、スカートのメジャー3rdオリジナルアルバム『アナザー・ストーリー』は、デビューイヤーの2010年から2014年にかけて、インディーレーベルに残した楽曲を、現在のライブメンバーと共に再録音。スカート未体験者への入門編であり、長年のファンにも楽しめるスピンオフ作品として、多層的な魅力を放つアルバムに仕上がった。こんな時代だからこそ心晴れわたる珠玉のポップスを、すべてを忘れて楽しんでほしい。
- ――10周年おめでとうございます。10年経った、という実感は?
- 澤部:あっという間ですね。10年経ったなんて信じられません。
- ――ざっくり振り返ると、どんな10年ですか。
- 澤部:細かく見ていくと、上り下りはあるんですけど、大きくとらえると、本当にゆるやかな右肩上がりという感じですね。細かく見ると、2015年でガクッと下がってるぞとか(笑)。いろいろありますけど、俯瞰で見れば、右肩上がりの10年だったかなという感じです。とんでもなくゆるやかですけど。
- ――僕は個人的に『CALL』(2016年)からのリスナーなので、今回のような初期作品の再録音はすごく新鮮に響きます。
- 澤部:ありがとうございます。わかりやすくは、できたかなと思いますね。
- ――そもそも、今回の『アナザー・ストーリー』は、どんな発想から始まった企画ですか。
- 澤部:きっかけとしては、「10周年だから普段やれないことをやりたいね」ということもありつつ、昔から再録音はやりたかったんですよ。それはサブスクの時代に入ったことが大きくて、最近スカートを聴き始めた人に「昔、『ストーリー』といういい曲があってね」とは言えないんですよ。なぜかというと、パッケージがあって成立するものを作っていたと思うんです。パッケージって、態度だと思うんですね。当時は紙を二つ折りにした、とてもチープなパッケージを採用していて、それ込みで聴いてもらわないと困るんですよね、初期の音源は。それを今、そのままサブスクに出そうよと言われても、「絶対に嫌だ!」としか言えない(笑)。でも新しい人たちにも、スカートの昔の曲を聴いてもらいたいとはずっと思っていたし、そうなる前から、昔の曲をいつか録り直したいとは思っていたので。『CALL』でカクバリズムに入って、どんどん恵まれた環境でレコーディングできるようになっていくにつれて、そういう思いはより濃くなったという感じです。
- ――確かに、初期は宅録のイメージが強かったですし、メンバーも流動的だったりして、試行錯誤もあったと思います。
- 澤部:今はそういうものがクリアになって、録音のチーム感が高まってきたこともありますね。エンジニアや、ジャケットデザインも含めて。
- ――たとえば1枚目の『エス・オー・エス』(2010年)とか、作品としては今も愛しいものなんですよね?
- 澤部:もちろん。全部好きですよ。ただ、そのままサブスクに上げちゃうと、誤解が生じるなと思うんですね。こっちがしたいコミュニケーションの仕方じゃなくなっちゃう。
- ――誠実な態度だと思います。選曲は、さくっと決まりましたか。
- 澤部:けっこう悩みました。要は、2014年にはいなかったシマダボーイ(パーカッション)と岩崎(なおみ/Ba)さんが立つような曲を中心に、ということですね。本当は、16曲録って、12,3曲のアルバムにしようかなと思っていたんですけど、録ったら全部良くて(笑)。迷ったんですけど、「10周年だ、入れちゃえ!」って、入れちゃいました。
- ――ちょうど、ライブを体験しているような気がしましたね。長さも、演奏の質感も。
- 澤部:わーっと聴けるし、気に入っています。
- ――アレンジに関しては、現在のライブメンバーで、今の音でやろうと?
- 澤部:そうです。ただ、元のレコードとはほとんど差がないようにしたいとは思っていましたね。もちろん演奏していくうちに慣れていって、「こういうこともできるようになった」とか、ライブでどんどん反映されていったと思うんですけど、そういうものも反映しつつ、自然に変わったものはそのまま残しておこうということですね。わざわざ昔のレコードの弾き方を確認したりとかは、あえてしなかったです。歌のメロディは何箇所か確認しましたけど、確認した上で「今の歌い方でいこう」となったものもあります。
- ――基本、ライブでやっている曲ですもんね。
- 澤部:そうそう。よくライブでやっている曲ばかりなので。
- ――そして、リード曲が「ストーリー」。これはやっぱり、大事な曲ですか。
- 澤部:やっぱり、出世作だと思いますね。
- ――そもそも、どういう思いで作った曲だったんですか。
- 澤部:どういう思いもないです(笑)。作ったらできたという感じです(笑)。
- ――こんなにハネる(うける)曲になるとは、思っていなかった?
- 澤部:いやいや、できた時には、とんでもなく盛り上がりましたよ。「すごい曲ができてしまった!」と、当時は思いましたし、実際そこからの、『CALL』ができるまでの4,5年は、「ストーリー」の呪縛みたいなものがあったかなと思います。
- ――これを超えなきゃ、みたいな?
- 澤部:そうそう。それぐらい、でかかったですよ。
- ――今思うと、「ストーリー」の何がそんなにすごかったんだと思いますか。
- 澤部:単純に、いい曲ができた、というのが大きかったと思います。メロディのフックがいいし、歌詞がいいし、何より2011年版は、バンドサウンドがとにかくみずみずしいと思うんですね。今聴いても、2011年の夏というものが、あの曲に真空パックされているような気がします。リリースは12月ですけど、作ったのは夏なので。そういうものとして、いいレコードだなと思っています。それって、聴いている人もわかるんじゃないかなと思うんですよね。
- ――じゃあ今回は、それを壊さないようにとか、気を使った部分もあったのかしら。
- 澤部:いや、それはないです。今でもライブでやっていますし、逆を言えば、最初に録った時と同じような気持ちでやったと思いますよ。「あの時もたぶん、こんな感じで録ったんじゃないかな」という、勢い重視で、気にするところは気にしつつ、気にしないところは気にしないで(笑)。
- ――あらためて、名曲だと思います。あとは、ほかの曲で言うと、9曲目「スウィッチ」のイントロに、「いきまーす」とか、レコーディング中の声がちょろっと入っていますよね。ああいうの、いいなと思いましたね。臨場感があって。
- 澤部:あれは、あえて残しました。あの曲は特別で、ほかの曲はクリックを聴くんですけど、「スウィッチ」はたぶん聴いてないんじゃないかな。
- ――確かに、この曲のグルーヴは最高です。
- 澤部:そういうもののために、あの部分を残したという感じはしますね。ドラム、ベース、キーボードと僕と、4人で一発録りしたものが基本になっています。
- ――8曲目「サイダーの庭」の、ボ・ディドリー・ビートというのか、ファンキーなビートも最高です。
- 澤部:前の録音も大好きなんですけど、録り直した意味はあったなという気はしますね。
- ――あとは、在日ファンクのホーン隊によるアレンジが、2曲入っていますね。
- 澤部:2018年の末にやったライブがあって、その時に在日ファンクのホーン隊のみなさんに参加してもらっていたんですよ。今回のアレンジは、その時のスコアを元に録音しています。もっと弦とかも入れようという話もあったんですけど、「そういうアルバムじゃないね」ということになりました。そこまでしなくていいかな、みたいな。
- ――さらに、コーラスでRopesのAchicoさん、女優でシンガーの三浦透子さんが参加しています。
- 澤部:三浦さんは、ずっとミュージックビデオに出てくれていた女優さんで、彼女がそれ以降に歌手活動をするようになって、去年の紅白歌合戦にも出ていましたね。僕もアルバムに1曲書かせてもらったので、絶好のタイミングだと思ってお願いしました。Achicoさんも2018年末のライブに参加してくれて、その時がすごくいい感触だったので、引き続きお願いしようという感じですね。
- ――そう考えると、今までライブでやってきて、うまくいったことを全部詰め込んだアルバムという気がしますね。
- 澤部:ほんと、そうだと思います。バンドとして動いてきたことが、このアルバムに反映されている……といいな、と思います(笑)。
- ――あらためて、昔の作品を再録音してみて、スカートを始めたころにやりたかった音のイメージと、今とでは、変化を感じていますか。
- 澤部:2010年から見れば、多少は変わっていると思います。最初のアルバムを作った時は、僕も、諸先輩方たちのように、アルバムごとに姿かたちを変えるようなプロジェクトにしたいと思っていたし、それがだんだん、「ストーリー」を出したぐらいで、「そうじゃなくてもいいのかも」とは思いましたね。同じようなことをひたすら続けるほうが、もしかしたら魅力的なんじゃないかと。それが「ストーリー」以降の挑戦という感じです。
- ――最初にお会いした時のインタビューで、澤部さんは「根がミュージックステーションなもので」と言っていたのを覚えているんですが(笑)。つまりポップスも歌謡曲もロックも、いろんなものがルーツとして混ざっている。
- 澤部:そうですね。でも今はさすがに、ミュージックステーションに出るような人のことはまったくわかりませんけど(笑)。でも、いろんな音楽は好きですよ。雑食の偏食、という感じですけど。
- ――みなさんぜひ、今回のアルバムは、スカートの再発見にもなるし、入門編にもなると思うので。お友達にも広めていただけると。
- 澤部:そう、入門編にもなるし、今のスカートのニューアルバムとしても聴けるアルバムになったということを、出来上がって感じたので。昔から聴いている人も、楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。
【取材・文:宮本英夫】
スカート / ストーリー 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
リリース情報
アナザー・ストーリー
2020年12月16日
ポニーキャニオン
01. ストーリー
02. セブンスター
03. 返信
04. ともす灯 やどす灯
05. 月の器
06. おばけのピアノ
07. 千のない
08. サイダーの庭
09. スウィッチ
10. わるふざけ
11. ゴウスツ
12. さかさまとガラクタ
13. すみか
14. 花をもって
15. 月光密造の夜
16. ガール
02. セブンスター
03. 返信
04. ともす灯 やどす灯
05. 月の器
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