夜の本気ダンス、多彩な刺激の塊を詰め込んだミニアルバム『PHYSICAL』

夜の本気ダンス | 2021.01.20

 夜の本気ダンスは、紛れもなく「踊りたくなる」というサウンドを奏でるロックバンドだが、1曲の中で豊かなドラマを描き上げることにも非常に長けている。美しい音像がたくさん渦巻いているミニアルバム『PHYSICAL』も、そういう作品となった。緻密且つ大胆に構築された6曲は、多彩な刺激の塊だ。今作について4人に語ってもらったインタビューの中で、興味深いワードとして浮上したのが「空気感」。西田一紀(Gt)による歌詞の考察も素晴らしい。このバンドの音を一層楽しむためのヒントを得られる内容になっていると思う。

――このミニアルバムを作るにあたって、何かイメージしていたことはありました?
米田貴紀(Vo/Gt):フルアルバムよりもラフな感じというか。「自由に、縛りなくやろう」という感じでした。それプラス、ちょっと実験的というか、今までやってきてないことをやってみるってことも考えてましたね。
――ライブがなかなかできない状況での制作でもありましたよね?
米田:はい。2月にホールでライブをやって、その直後からいろいろ状況が変わってしまったんですけど。
西田一紀(Gt):4月とかはメンバーと直接会うこともなかったです。
マイケル(Ba/Cho):画面越しで話をしてはいたので、そんなに「会ってない」っていう感覚にはならなかったですけど。
西田:僕はみんなが心配で心配で仕方なかったですよ。
米田:ほんまなのか、つっこんでいいのかわからん、むずいボケやな(笑)。
――(笑)。鈴鹿さん、STAY HOME期間は、大好きな東宝シネマのポップコーンが食べられられなくて嘆いていましたよね?
鈴鹿秋斗(Dr/Cho):そうでしたね。あの時期の後、何回か食べに行きました。
マイケル:映画館はポップコーンを食べに行く場所? そんな人、初めて見たわ(笑)。
鈴鹿:ポップコーンが食べたいから何かを観るのが映画館。友だちの結婚パーティーが近くであった時は、二次会までの時間にロビーでポップコーンを食べました。
マイケル:そういう場所なんや(笑)。
――(笑)。STAY HOME期間明けの6月に配信リリースしたのが、「SMILE SMILE」でしたね。ホーンが入っていて、かなり新しい作風だと思いました。
米田:「SMILE SMILE」に関しては「ホール公演に向けての曲を作ろう」っていうことになって、こうなったんです。ホールでのライブというものが、今までやったことのないものだったので、それがフレッシュな部分に繋がったんでしょうね。
――音的な面に関しては、90年代の日本のギターロック、L⇔Rみたいなものがイメージにあったんですよね?
米田:はい。90年代のポッキーのCMとかのイメージがありました。平和な時代というか。そこからもう何年か経つと日本のムードは暗い方向になっていきましたけど、その手前ですね。僕が90年生まれというのもあるんですけど、子供の頃のあの穏やかな空気感で曲を作りたかったんです。
西田:僕、その頃のドラマの『東京ラブストーリー』を観たんですけど、登場人物の心にゆとりがあるような感じがありましたね。
米田:そういうムードの感じが僕の記憶のどこかにあって、あの柔らかい空気感を出したかったんです。昔のものをサンプリングするというか、空気感をサンプリングして今にアップデートするっていう手法でやれたかなと思います。
――空気感をサンプリングして自分たち流に昇華するって、夜ダンが一貫してやってきたことですよね?
米田:そうかもしれない。僕は「このフレーズを」とかいうよりも、「あのバンドのあの空気感」っていうのにこだわって曲を作っているので。そういうのはメンバーにもめっちゃ言います。例えば「プライマル・スクリームがライブでやってる時の空気感をこの曲で作りたい」とか。
――時代背景について調べたり、映画、ファッションとかに触れるのもヒントになるんじゃないですか?
米田:そういうのも自然とやってます。映画や服とかも好きやし。そういうのをディグりながら自然と知っていったら、後々何かしらの形で繋がるんですよね。
――メンバーそれぞれがいろいろなカルチャーに関心があるのも、このバンドの音作りに活きているんでしょうね。例えばマイケルさんはアメリカのドラマ、映画、アメコミ、マーベル・コミックとか好きじゃないですか。
マイケル:好きですね。僕、興味を持ったらめちゃめちゃ調べたくなるんです。そういうのはなんだかんだ、後々音楽にも繋がっていきます。音楽も映画もアメコミも大きい意味で全部カルチャーだから何かしら横の繋がりってあると思いますし。例えばアメコミの『バットマン』も時代によって色遣いやトーンとかが変化するんですけど、そういうのも時代の雰囲気と結びついてたりするので。
米田:やっぱり、深みがないと面白くないと思ってて。そういう深みを出せるバンドになれたらいいなあって常々思ってます。
――深みを出すためには、音の向こう側にある文化的背景とか、空気感を嗅ぎ取ることも重要なんでしょうね。
米田:そうなんだと思います。僕、ドキュメンタリーとかも好きなんですよ。何かの奥にあるルーツとか背景にも興味があるので。それは、ある種の僕のフェティシズム。自分の作品の随所にもそういうものを入れていきたいんですよね。僕らの音楽のそういう部分を敏感に察知してくれる下の世代が、ひとりでも出てきたら嬉しいです。僕もアジカンが好きで、そのルーツにあるオアシスとかを知ったりもして、その先で自分でも音楽を作るようになったので。
――米田さんのこういう部分は、メンバーにもいろいろ影響を及ぼしているのでは?
鈴鹿:そうですね。僕ももともとは洋楽を聴いてなかったんですけど、米田が加入してから2000年代の海外のバンド、フランツ・フェルディナンドとかカサビアンとかを聴いて、「まじか? こんなんいるんや?」ってなりましたからね。サマソニでパッション・ピットや、復活したストーン・ローゼズとかも観て、「うわっ!」ってなったりもしました。
――西田さんは、60、70年代辺りのロックにも造詣が深いですよね?
西田:もともとそういうのが好きやったというか。ギターの入りはその辺りやったので。この前もザ・バンドのドキュメンタリー映画を観に行きました。
――今作の音にも、メンバー各々が吸収しているものが反映されているんだと思います。例えば、10月に配信した「GIVE & TAKE」は、ループするフレーズが延々と流れていて、すごく新鮮な仕上がりであると同時に、バンドとしての豊かなグルーヴも感じる曲です。
米田:これは新しくもあり、今までの夜の本気ダンスらしくもあるっていう不思議なバランスかもしれないですね。あのループは、ただひたすらDTMでリズムを鳴らしながら、そこに自分がピンとくるものを弾いた中で出てきたんです。あのリフが完成した時、そこだけ20、30分鳴らしながら家で踊ったりしたので(笑)。これを曲の中でずっと流し続けるって、結構無茶な使い方だと思います。感覚だけで整えていった感じでしたね。テーマ、Aメロ、サビでの音量のバランスを考えるのが、すごく難しかったです。
――このリフがあることによって、聴いているとどんどんトランス状態になるんですよ。
米田:この曲で感じてもらいたかったのは、そこなんです。「踊れる! 気持ちいい! 最高!」って、言葉にすると安っぽいかもしれないですけど、すごく大切なことやったりするんですよね。それって人間の根本的なことなので。
――この曲を聴いて改めて感じたことですけど、夜ダンが巻き起こすダンスは、陽気で開放的なものではないですよね。もっとインナーというか。心の奥にある野性的なものを目覚めさせる雰囲気があるので。
米田:作る時にほんまにひとりで踊ってるので、クラブでみんなで踊ってるのとは真逆なんです。「踊れるリズムってなんやねん? 踊れるリフってなんやねん?」って、超ストイックにひとりで家に籠って作ってるのが曲に表れてるんだと思います。それは夜の本気ダンスをやり始めてから、ずっと同じ。一見、フェスでライブを観た感じとか、バンド名の印象だと、「なんも考えてへんやつらがやってんのとちゃうか?」って感じかもしれないですけど(笑)。でも、ちゃんと聴いてる人は、ちゃんとわかると思います。そこはちょっと意地悪なところかも。敢えて変な名前にしておいて、「でも、ちゃんと真面目にやってます」っていう感じなので。
――バンド名の印象と、鳴らしている音の間にギャップがあるというのは、その通りだと思います。
米田:僕も夜の本気ダンスに入る前に名前だけ見て、「絶対ダサい、しょうもないバンドや!」って思ったんですよ。でも、ライブを実際に観たらめっちゃかっこよくて。「名前で判断するのは浅はかやな」っていうことを感じました。
鈴鹿:僕が夜の本気ダンスっていう名前をつけたのも、そのままの印象で見られたくなかったからというか。「実際はそうじゃない」っていう裏切り方をしたかったんですよね。バンド名自体は、フェスとかで目立つためのもの。ダサいと思わせておいて、実際に聴いたらその印象を裏切るようなハードルの上げ方をしたかったんです。それで裏切れたひとりがボーカルになってくれたので、良かったです。
米田:バンド名が普通過ぎたら、ライブ観なかったかも。名前がダサかったから、逆に観たくなった(笑)。
――(笑)。夜ダンの音楽は、じっくり耳を傾けると、いろんな形で感覚を刺激されますからね。今作に入っている「empty boy」や「SOMA」も、聴いていると様々な色合いや質感をイメージできます。
米田:サビで急に明るいとか、急にハンドルを切る感じの曲が今回多いかもしれないですね。
――「SOMA」は、途中で急にガレージっぽくなるじゃないですか。
米田:はい。好きなものを詰め込む感じですね。今回は整合性とかまとまりは、あまり考えずに作った感じがあります。
――「insomnia」は、艶めかしくて危険な香りを感じる音ですし、「Melting」のメランコリックな音像も耳を傾けているとクラクラしてくるし、今作は「靄がかった」といった感じの音像の気持ちよさがたくさんあると思います。
米田:「Melting」は、セクション毎に音色が違う感じになっていますからね。ギターっぽくないシンセみたいな音色になっていたり、予想もできないサビが出てくる曲になりました。
西田:今回の1枚は米田成分の含有量が、いつもより多いんだと思います。デモでかなり作った状態で持ってきてくれたので、こっちもイメージを掴みやすかったです。それと、歌詞を見て思うのは……いないんですよね。そこに。「empty boy」やったら<題名のない街を永遠と ぐるぐる>、「insomnia」は<淫らな想像ばっか>。「Melting」は、目がまだ覚めてない状態。「SOMA」は、パーティーのことを歌っているようで、パーティーにはいないんです。「パーティーのふりをしよう」っていうことだから。
マイケル:たしかにこの曲、パーティーにおらへん。
米田:めっちゃ考察してくれてる(笑)。
西田:「今、ここにいてどうこう」っていう詞の内容じゃなく、願望だったりするんですよね。『PHYSICAL』っていうタイトルは、ある意味、米田のフィジカルを表していて、米田の頭の中、体内で起こってることが曲にペーストされてるんだと思っています。
鈴鹿:インタビュアーがふたりいるみたい(笑)。
マイケル:ほんまや(笑)。
――素晴らしい考察だと思います。
米田:今、客観的な意見を聞いて、「おおーっ!」ってなりました。自分でも気づかない部分がありましたね。「たしかに、そこに俺はいいひん」って思いました。
鈴鹿:目の前にいるのは米田やけど。
西田:「目の前にいるのは米田」と思ってるのはお前のフィジカルの話であって、実際におるかどうかはわからへんよ。
マイケル:なんの話や?(笑)。
西田:さっき、「音が靄がかってる」っていう話が出ていましたけど、それって、さっき僕が言ったようなことが発端にあるからなのかなと僕は思ってます。
米田:言われて思ったんですけど、「SMILE SMILE」だけが、今回の中で唯一、輪郭があるというか。
西田:これだけ書いた時期が違うから。
米田:そうやねん。この曲だけコロナの前なんですよ。「そういうことかもな」って思いました。コロナの時期に入っていけばいくほど、自分の輪郭が融けていく状態になっていったんでしょうね。だから『PHYSICAL』は、2020年ならではの作品かも。
――2020年って不思議な1年でしたよね。まあ、あの感じはまだ続きそうですけど。
米田:そうですね。絶望的な感じでもあるけど、別に普通に生活はできていましたから。でも、「この先どうなるんやろう?」っていう不安もあって、「ゆっくり死んでく」みたいなぬるま湯感があったのが2020年。その感じ、『PHYSICAL』に入ってますね。
――先ほど「空気感」っていう話をしましたけど、「2020年の空気感」?
米田:そうですね。今、幼少期にこの空気感を体験している世代が、この作品を何年後かに聴きながら、自分なりにそれを表現することもあったらいいですね。ライブができなくて、いろいろありましたけど、思ってることを作品として未来に向けて残すことができて良かったと思ってます。

【取材・文:田中 大】

tag一覧 インタビュー 男性ボーカル ミニアルバム J-POP 夜の本気ダンス

リリース情報

PHYSICAL

PHYSICAL

2021年01月27日

ビクターエンタテインメント

01. GIVE & TAKE
02. SMILE SMILE
03. empty boy
04. SOMA
05. Melting
06. insomnia

お知らせ

■ワンマンライブ情報

夜の本気ダンス RELEASE PARTY
「PHYSICAL GRAFFITI」

02/27(土)京都 KBSホール
開場 17:00 / 開演 18:00
03/26(土)東京 新木場STUDIO COAST
開場 17:00 / 開演 18:00
*チケット発売詳細:後日発表

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。



■マイ検索ワード

米田貴紀(Vo/Gt)
「大場つぐみ」
『バクマン。』の映画を観て、めっちゃ感動したんです。そこから原作の大場つぐみさんについて調べました。『とっても!ラッキーマン』の作者のガモウひろしさんと同一人物だという噂を見て、都市伝説なのかどうか調べました。

鈴鹿秋斗(Dr/Cho)
「アラビア語 うんこしたい」
インスタで写真をアップした時に、アラビア語の文章が載ってたら面白いなと思って調べたら文字が出てきたんですけど、読み方がわからないです。

マイケル(Ba/Cho)
「サルバトーレ・ガナッチ」
最近、EDMをよく聴いてて、YouTubeのオススメに出てきたんです。曲名思い出せんくて、調べました。「Horse」っていう曲名のMVは、ただただビートに合わせて動物の頭とかをドアに挟んで、それがループされていくんです。それが衝撃的で、「なんや、この人⁉」って思いました。

西田一紀(Gt)
「隧道(すいどう)」
「隧道」って「トンネル」のことです。内田百閒の『第一阿房列車』っていう本をこの間読んどったら出てきて、漢字を調べました。僕、内田百閒と誕生日が一緒なんです。夏目漱石の門下生で、漱石の鼻毛を形見にもろうたらしいです。

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