ズーカラデル、音作りでも可能性が広がった最新EP「若者たち」

ズーカラデル | 2021.02.17

 奥行き深いストーリーを刻んだ5曲が収録されている1st EP『若者たち』。登場人物たちのことを想像しつつ、耳を傾ける喜びが広がっている。大切な人と共に過ごす中で噛み締める想いの生々しい描写が、強い感情移入を誘う作品だ。そして、シンプルでありながらもダイナミックに響き渡るサウンドが、とても心地よい。奏でられているフレーズのひとつひとつが有機的に結びつき、豊かな響きを生み出している様にも、ぜひ注目していただきたい。このEPについてメンバーたちに語ってもらった。

――どのような1枚にしたいと思っていました?
吉田崇展(Gt&Vo):今回のEPは2020年に作った曲が大半を占めているんですけど、作品としてまとめていくにあたって、メンバーに話していたのは「より肉体的で率直なものがいいんじゃないかな?」ということでした。「肉体的で率直」というのはサウンド面もそうなんですけど、歌詞とかも含めてですね。聴いてすぐにわかるものというか。
鷲見こうた(Ba):今みたいな状況の世の中の人たちが聴くという前提で作っていたんです。だから「演奏もはっきりした方がいいだろう」というような具体性を持てたんだと思います。アレンジする際も、そういうのは常に念頭に置いていました。
――シンプルな形で最大限のエネルギーを生む人力演奏を堪能させてくれる1枚ですよね。
吉田:そう感じていただけて良かったです。バンドのパンチ力があった方がかっこいい曲を選んだ作品でもあるので。あと、歌詞の面でも「肉体的で率直」というものになっていると思います。
山岸りょう(Dr):具体的過ぎて「誰かの話」という印象になるわけでもなく、「身に覚えがあるな」と感じられるものになっているので。
吉田:前作の『がらんどう』は内省的だったというか、内面に深く潜っていく方向の曲だったのかなと。でも、今の自分にフィットしているのはそういうものではないという感覚もあったんですよね。
――音を出す喜びが素直に伝わってくる作品でもありますよね。例えば「ブギーバック」は、曲の頭と最後のハウリングの音もすごく生々しいじゃないですか。
鷲見:今までも数々のハウリングを録ってきているんですけど、今回、すごく納得のいくものを録ることができました。
吉田:「初めて勝った!」って言っていましたからね(笑)。
鷲見:吉田がアンプの前でギターを持って、僕らが「もっと身体をそっちに向けて」とか指示したりして(笑)。時間かけたよね?
吉田:うん。そういうのも面白かったですね。

――歌詞に関しては、全体的にとても物語性の強いものになっていますよね?
吉田:そうですね。「今、このサウンド、状況で聴くとしたらどういう歌かな?」っていう視点から作ったら、こういう歌詞になりました。登場人物が全部自分ということではないので、「こいつはこういうことを思ってるだろうな」とか想像しながら書く感じでした。
――「働くふたり」という曲もありますけど、ふたりの登場人物を描いたものが中心となっていますよね?
吉田:そうですね。そうしようと思っていたわけではないんですけど。歌詞を書きながら考えていたのは、「ちゃんと目の前にいる人を見てあげるというのが人間の根源にはあるよね?」というようなことだったんです。それが反映されてこういう歌詞になったんだと思います。
鷲見:今回、曲が出来上がっていく過程も、すごく楽しめましたね。僕らは難しいことをやりたいわけではないんですけど、工夫はしたいんです。そのためには、この3人がお互いに何をやっているのかをしっかり意識するのが大事なのかなと。それはここ1、2年で高まっている意識です。昔は音を重ねて迫力を出すようなことを試したりもしたんですけど、重ねたからといって迫力が出るものでもないというのを経験してきたんです。根拠と説得力のあるものを積み重ねてアンサンブルを完成させる方向になってきています。
吉田:違う楽器を入れるというのもありですし、そういうものを作っていく準備もできているんですけど、今作はこの3人でしっかりとしたものを作ることができたと思います。
――同じフレーズでも、プレイの仕方でニュアンスは大幅に変化しますからね。追求し始めるとゴールがないですよね?
山岸:そうなんですよ。ドラムに関してもいろんなニュアンスの音が出せますし。そういうことを考えるようになると、簡単に「8ビートを叩けます」とか言えなくなってくるんですけど(笑)。音って本当に奥が深いんです。
――サウンドに関しては、全体的にフォーク的な香りも含んでいるのもズーカラデルの特徴だなと、今作を聴いて改めて感じたんですけど。
吉田:ギターの弾き語りみたいな状態から曲作りがスタートするというのもあって、こういうものになるんでしょうね。あと、メンバーのマインドもそういうタイプなんだと思います。
――ゲームとかの属性で言うならば、草属性、木属性、土属性とかの3人?
鷲見:おそらくそうですね。炎属性とかエスパーではないと思います(笑)。ガチガチに加工されたものよりも生の感じがある音が好きな3人なんです。でも、加工された音が嫌いというわけでもないので、いずれ出てくるのかもしれないですけど。
――全体的に穏やかなトーンを感じる今作ですが、「働くふたり」はエネルギッシュですね。ロックンロールなサウンドが気持ちいいです。
吉田:「なんちゃって」になるのが嫌だったので、今まではロックンロールのリフみたいなものをあまり使ってこなかったんです。でも、この曲に関してはこういうのがすごく欲しくなったんですよね。
――ライブでノリノリでギターを弾いている姿が浮かびます。
吉田:「これ、歌いながらひとりでやるんだ」と考えると気が重いですけど(笑)。ギターソロとか、もともとそんなに好きな方ではないので。
――「働くふたり」は、忙しく働いているふたりが感じる胸の内が、とても生々しく描かれていますね。相思相愛のふたりであっても、<働く間 君を忘れた>という状態になるのは自然だよなと聴きながら感じました。
吉田:ありがとうございます。今回の作品のテーマとして、「聴いた人にちゃんと受け取ってもらえるものにしたい」というのがあったんです。この曲も含めて、そういうものを達成できたのかなと思います。まだまだこれからのところもありますけど。
――「スタンドバイミー」も、「こういう感覚、身に覚えがあるな」とリスナーそれぞれが感じる曲だと思います。「離れて暮らすようになっても気持ちが離れるわけではない」というような感覚は、多くの人が人生の岐路で体験することですから。
吉田:そういうことを思いながら聴いていただけて、ありがたいですね。もちろんどの曲も一生懸命書いているんですけど、「スタンドバイミー」は産みの苦しみが大きかったんですよ。いろんな人に何度も聴いていただきたいです。

――この曲、ハモンドオルガンもいいですね。
吉田:かっこいいのを入れていただきました。ギターも弾いていただいたのが入っていて、5人の音で有機的なものを作れました。いいメロディを書けたので、それをどうにか寸分の狂いもなく伝えられるものにしたかったんです。
――<ほら>という素朴なコーラスも印象に残ります。
吉田:「なんとなく大勢の声が聴きたいなあ」という感じだったんです。勘でやったんですけど、それもちゃんと何かしらの理由に基づいている勘だったというのを、こうやって完成したものを聴くと感じますね。
――「若者たち」に関しては、<愛とか恋とかじゃなくて 飛ばされた帽子を追いかけながら げらげら笑うふたりでいよう ふたりでいよう>というフレーズがキャッチーですね。
吉田:結構昔から僕の中にあったフレーズなんです。これが出てきた後に、「これってどういうことなんだろう?」って考えながら筆を進めていったんですよね。

――こういう何気ないことで笑い合える関係性って最高だよなと、聴きながら思いました。ズーカラデルの3人も、こんな感じの間柄なんですか?
吉田:どうでしょう? へらへらはしますけど。
鷲見:ぎすぎすはしていないですし、何気ないことで笑い合える関係性はちゃんと保っていると思います(笑)。
――(笑)。「ニュータウン」も、微笑ましい関係を築けている男女をイメージしながら聴きました。正直なことを言い合ってぶつかりつつも結構上手くいっているふたりなのかなと。
吉田:これは歌としてちゃんと活きる言葉をサウンドにのせられたと思います。ライブとかでもみなさんに歌っていただけたらいいですね。
――目覚まし時計みたいな音が入っていますけど、あれは?
鷲見:あれは山岸が人力でトライアングルを使って出している音です。
山岸:頑張りました!
鷲見:今回、この曲もそうですけど、スタジオでいろいろコネコネするのも楽しめたんですよね。
吉田:「ニュータウン」は、もともとは泥くさいタイプのサウンドの曲だったんです。でも、キーボードを弾いていただいた高野勲さんのアイディアで一気に広がったんですよね。
――音作りでも可能性が広がった今作を振り返って、改めて何か感じることはあります?
吉田:録り終わった段階で「良いものができたなあ」というのが、ものすごくあったんです。だから、ここからはみなさんの耳に届いて、どう感じていただけるのかということですね。「我々は好きに作ったので、あとは君たちが好きにしろ」という感じなのかな?(笑)。最近『シン・ゴジラ』を観たんですけど、そんなような気持ちです。
鷲見:どういうこと?
山岸:『シン・ゴジラ』に出てくる誰の話をしているの?
吉田:牧教授。ゴジラになるんだよ。知ってた?
山岸:知らない(笑)。
――(笑)。鷲見さんは、今作が完成した今、どのようなことを感じています?
鷲見:曲は作り続けていて、次の作品のことも考えているんですけど、このEPがみなさんにどう受け止められるのかも、しっかり見ていきたいですね。さらに幅広いみなさんに聴いていただける作品になったらいいなあって思っています。
――山岸さんはいかがでしょう?
山岸:ふたりが言っていたのと同じ気持ちです。あと……『シン・ゴジラ』を観ようと思いました(笑)。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

若者たち

若者たち

2021年02月17日

Colourful Records

01.ブギーバック
02.働くふたり
03.スタンドバイミー
04.若者たち
05.ニュータウン

お知らせ

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吉田崇展(Gt/Vo)
新しい学校のリーダーズ
今年に入ってから公式のYouTubeチャンネルのライブ動画を観てファンになりました。先日出た新曲の「NAINAINAI」がめちゃくちゃかっこよかったです。「まじで世界観てるじゃん! いいぞ、行け! 行け!」っていう曲でした。

鷲見こうた(Ba)
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僕、NHKがすごい好きで、『おじゃる丸』も大好きだったんです。おじゃる丸の夏休みを描いた『約束の夏〜おじゃるとせみら〜』という映画が、すごくいい作品なんですよ。また観たいんですけど配信していなくて、「どうにかして観れないかな?」と思って、ずっと調べ続けています。DVDも絶版になっていて値段が上がっているんですよね。

山岸りょう(Dr)
猫 ハンモック
配信シングルの「スタンドバイミー」を出した時、ジャケットに実家の猫の写真を使ったんですけど、その出演料として何か買ってあげようと思って検索しました。



■ライブ情報

MINAMI WHEEL 2020 NEO EDITION vol.4
03/06(土)大阪BIGCAT

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