kojikojiのさらなる深化を感じさせる最新EP「PEACHFUL」に込めた思いとは

kojikoji | 2021.02.25

 SNSやYouTubeに投稿したカバー動画が話題を呼び、空音「Hug feat. kojikoji」やZIW「寝言feat. kojikoji」、最近だとGeG「I Gotta Go feat. kojikoji, WILYWNKA & Hiplin」やLUCKY TAPES「BLUE feat. kojikoji」などさまざまなアーティストの作品の客演することでその声の個性と魅力を世の中に届けてきた、kojikoji。前作「127」以来1年ぶりとなるEP「PEACHFUL」は、アーティストとしての彼女のさらなる深化を感じさせる作品だ。前作に引き続いてプロデュースをしているBASIとの信頼関係、kojikojiが生きてきた時間、そして彼女自身のなかで芽生えた歌や音楽への新たな思いが、テイストもキャラクターもバラバラな4つの楽曲に注ぎ込まれている。こんなご時世だからこそ、聴くだけでじんわり心がほぐれるような類まれなる声の力をもった彼女の存在は必要不可欠。もっともっとこの声が広がってほしいと思う。

――前作「127」を出してからの1年間、どういうふうに過ごしてきましたか?
kojikoji:2020年は一気にライブがなくなって、それにすごくダメージを受けていました。それこそトイレに入ってる間も歌っているようなタイプだったのに、まったく歌わないし、ギターも触らないし、なんか眩しくてSNSも開かないみたいな感じで2ヵ月とか3ヵ月過ごしていて。それぐらい、ちょっと引き込もってたときもあったんですけど、そこからちょこちょこと客演のお仕事をさせていただいたり、この「PEACHFUL」の制作を行ううちに「ああ、やっぱり歌うのって楽しかったなあ」って思って。あとはオンラインライブもやったんですけど、やっぱりライブした次の日は身体がめちゃくちゃ快調なんですよ(笑)。朝もすっと起きられたりして。やっぱり音楽って本当にビタミンっていうか、健康でいられるために大事なものなんだなってすごく感じました。
――まさに外出自粛とかのときですよね。引きこもりの状態から回復していったきっかけのひとつが今作の制作だったんですね。
kojikoji:それがいちばん大きかったですね。前作の「127」のときよりももっと深く関われたので……どんどんやりたいことが増えて、やれることも多くなったし「こうしたい」みたいなアイデアを出すこともできるようになったりして。考えてやってみて「違うか」ってまたやり直してみたいな、そのトライアンドエラーの作業がすごく楽しくて。それをやっていくうちにだんだん回復していきましたね。
――「127」を作ってたときとは全然違う向き合い方ができたんですね。
kojikoji:そうですね。「127」のときは本当にまだ何も始まってない段階で、右も左もわからなかったので……レコーディングするじゃないですか。それで録ったやつ聴いて、BASIさんが「ここのビート、1音だけちょっと大きいから下げたい」とか、そういう話をするんですけど、私は「それ、どこのこと??」みたいな(笑)。とにかく歌うということしかやってこなかったんで、気になる部分は自分が思い描いているように歌えているかどうかだけだったんですよね。でも今はBASIさんが言っていることもすごく理解できるし、私のなかにも「こういう音にしたい」っていうのがあったし、そこでお互い話し合って、曲にとってベストな形を作っていけるようになったなって思います。
――kojikojiさんって、ギターとか歌を始めてどのぐらいですか?
kojikoji:ギターを始めたのは5年前ですね。
――その頃から、そもそもオリジナルの音楽を作って世の中に出したいとか、自分の表現をしたいという欲求ってあったんですか?
kojikoji:なかったです(笑)。でも今はそれが楽しいことだと気づけたので、やりたいなと思ってますね。本当に最近、やっと気づきました(笑)。客演の中でも、ちょこちょこなんですけど自分で歌詞を書いたりすることもあって、自分で曲を作ることができるんじゃないかと思って。これをやることが楽しいんだっていう気持ちを育ててきたっていう感じですね。
――たとえば客演で歌うっていうことしても、それこそ1年前、2年前にやっていたものと、去年やってきたものとでは、kojikojiさんの意識も変わったし、呼ぶ側の意識も変わってきた気がするんですよね。
kojikoji:確かに、最初は「作詞をしようと思ったことがないです」って先方に伝えたりしていたんです。なので他の方が作った曲のフックを歌ってほしいとか、そういう形が多かったです。最近はここの部分を全部歌ってほしいって、空いている場所が多い状態でもらうことも増えて。私が書くということを求めてくれてる人も増えてきてありがたいなと思っています。試練なんですけど、私からしたら(笑)。試練を投げかけていただいて、本当にありがとうございますっていう。
――そうですよね。だから言葉を選ばずに言うと、前はkojikojiっていういい声のシンガーがいるぞっていう、なかばサンプリング感覚で「あの声を借りよう」っていう感じもあったと思うんですよ。でも、たとえばLUCKY TAPESとやった「BLUE feat. kojikoji」とかを聴くと、より高度なコラボレーション感というか、一緒にものを作っている感覚がすごく強い気がして。
kojikoji:そうですね。「BLUE」とかは、本来私はフックだけを歌う予定だったんですよ。でも自宅でレコーディングしているときに(高橋)海さんに『ここもkojiちゃんが歌ってくれたらいいと思う』って言ってくれた部分があって。私もやれるならやりたいですっていう感じだったんですけど、まずキーが合わなくて。男の人のメロディをそのまま歌うのは無理があるので、メロディを変えたい、で、メロディを変えたら歌詞も変えないといけないってなって、私に合うような言葉にちょっとずつ変えていったんです。そういう意味ではコラボレーション感が増しているのかなって思います。

――そういう経験は今回「PEACHFUL」を作る上でも活きましたか?
kojikoji:そうですね。LUCKY TAPESのときも海さんとふたりで横に並んでずっとトラックをループで流しながら「ここの歌詞どうしよう?」って考えたりしてたんですけど、「PEACHFUL」もそういう感じで意見を出し合って決めるっていうのをいっぱいやりました。「127」のときとかは、自分にまだその選択肢がないというか、こうやりたいみたいなのがあったとしても、それが正しいのかどうかを考えすぎちゃって言えない感じだったんですけど、だんだんそうやって同じ部屋でアイデアを出し合っていくっていうこと自体にも慣れてきました。あとはBASIさんのバンドメンバーとして1年間出させてもらったので、喋る機会も増えましたし、信頼関係が強くなってるっていうのもあると思うんですけど、自分のアイデアをあんまり臆さずに言えるようになりましたね。
――今回、kojikojiさんのなかではどういう作品にしたいと思っていましたか?
kojikoji:作り始めたのが2020年の夏とか、それこそ絶賛引きこもりのときで、本当にどうしたらいいかわからないゾーンに入っていたんです。自分がこれからやっていきたい音楽のジャンルというか、像も本当に定まってなくて。でもその理由って「全部やりたいから」に近いんですよね。これもやってみたいし、あれもやってみたいから定まりきらなくてってBASIさんに話したら「定まりきらなくていいと思うよ」って。「まだこれからやし、やりたいことは全部やった方がいいと思うよ」って言ってくださって。無理に系統とかジャンルを固めてしまうんじゃなくて、kojiちゃんがそういうバラエティに富んだものを作りたいなら、そういうものを作ったらいいじゃんっていう。
――実際、見事にバラバラですよね、今回の4曲。
kojiokji:他にも曲があって、それを系統がわりと揃っている感じで分けようみたいな案もあったんですけど、やっぱりそうしてしまうと「そういう曲をやる人」っていうイメージが付くじゃないですか。なんかそれも好きじゃないなって思って。この4曲、ごちゃまぜなのが私っぽいっていう自覚がすごいあったので、これでいきたいですって言いました。
――「VIBES」のアッパーな感じとか、すごく新鮮ですよね。こういう一面もあったのかっていう。
kojikoji:「VIBES」は「127」の制作のときの空き時間にBASIさんがストックの曲をボイスメモでたくさん聴かせてくれたんですよ。そのなかで私が「これが好きです」「あの歌詞のやつも好きでした」とか言った中のひとつだったと思うんですけど、フィーリングがばっちりはまったというか、これをkojikojiとして表現してみたいっていうのでやったという感じですね。楽しかったです。やっぱりここまではっちゃけた曲ってなかったので、すごい楽しみながらレコーディングしました。

――1曲目の「TASOGARE」はどうですか?
kojikoji:「TASOGARE」は、ラップのところが好きで。あの曲は結構BASIさんの色が強く出てると思うんですよ、この4曲のなかで。デモで聴いたBASIさんが表現する「TASOGARE」も少しなぞりつつ、自分の「TASOGARE」色に変えようと思いながら歌いました。
――確かにBASIさんっぽいのかもしれないですけど、でもkojikojiもちゃんといるというか、うまく混ざり合っている感じがしますよね。
kojikoji:ミックスも大きいかも。声がダイレクトに聞こえる始まりかたにしたいなと思ってたんです。声がドーンってくるようなミックスにしたいって。多分ラッパーさんとかにはない感じですよね。
――うん。というか、BASIさんはkojikojiっていうアーティストの武器を誰よりも知ってるんだなっていう。下手したらご本人より――。
kojikoji:本当にそうです。私より全然知ってると思います。BASIさんは私がこう歌ったらかわいく聞こえるとか、そういうのをめちゃくちゃ熟知してくれていて。BASIさんに「ここ、1回こういうふうに歌ってみてくれへん?」って言われて、私の中にはない引き出しなので戸惑いながらやってみるんですけど、後で聴くと『確かに』みたいな(笑)、そういうのはありますね。確かにこっちの方が自分っぽいかもとか思ったりします。
――今回4曲とも本当にそういう感じなんですけども。「七色の橋の上で」も本当にすばらしいバラードになっていて。こういうのもあったんだっていう。
kojikoji:この曲は人に会いたいけど、今は会えないから、それまでがんばろうね、みたいな、コロナの時期の気持ちを歌っている歌なんです。BASIさんが極上のバラードにしたいってずっと言っていたんですけど、私もまさかここまで感動的な歌になるとは思ってませんでした。作り方がちょっと独特だったんですよね。私が、BASIさんが送ってくださった歌詞とメロディにギターをつけて、自分で歌いやすいキーに変えて歌ってみて。そこからビートをつけてもらったり、ピアノを入れてもらったりとかしていって。そうやって育ててる過程で、感動的といえばやっぱりストリングスでしょって思って、自分でMIDIで作ったらめちゃくちゃこれは泣ける!って(笑)。すごく壮大になって。BASIさんともお互いびっくりしてました。
――ああ、なるほど。“ビートと歌”、“トラックと歌”みたいな関係じゃなくて、歌がど真ん中にあるんですよね。すべての音が歌を支えるために鳴っている。じつはその構造って他の曲にはない。
kojikoji:ああ、そうですね。トラックがあって、ここでこの「ティン」っていう音が鳴ってるからそこに合わせてフロウを歌ってみよう、とかそういうんじゃなくて、歌が先にあって、それがいちばん活きる装飾を入れようっていう話だったので。そういう意味ですごい歌も活きるし、他の楽器も活きたのかなって思います。歌詞もすごく自分にリンクするんです。私が引きこもってたとき、BASIさんとちょっとつらいねみたいな話をLINEでしたりしてたんですよ。「最近何してるん?」「腹筋やってます」とか、「アイスクリームばっかり食べてますね」とか、そういうふたりの会話がそのまま入ったりとかもしていて。
――今回バイオリンも弾いているんですよね? 昔やっていたそうですが。
kojikoji:はい。でも、やってた歴よりやってなかった期間のほうが長くて、本当にこれはボツになるかっていうところだったんですけど、うまく活かしていただいて(笑)。そこにも注目して聴いてほしいですね。めちゃくちゃ嬉しいです。
――逆にいうと、kojikojiさんの弾く楽器の音が必要だったんだと思うんですよね。生活のリアルも織り込むし、そこにkojikojiさんの人生も投影させるということがkojikojiというアーティストの作品として大事だった。そういう意味では「もも」もそうだなあと思って。これ、BASIさんの歌詞がすばらしいんですが。
kojikoji:最初に歌詞だけをもらったときはめっちゃびっくりしたんです。本当に他とテイストが違うじゃないですか。すごく詩的だし、一見どこがサビなのかもわからなくて、これはどういうふうに歌えばいいのかとか、めちゃくちゃ戸惑ったんです。でも、メロディがついたものを聴いたときに、BASIさんが言っていた「いつもインスタライブとかで歌ってるようなkojiちゃんをそのまま聴けるような歌を作りたい」っていう意味がわかって。余計な音を一切排除して、私のシグネチャーマークのものと、インスタライブとかでやってる素朴な素材だけを引き出したものが合わさってできている曲なので、自分の中でもじつはいちばん歌いやすかったです。
――うん。だからこれはもちろんBASIさんが作っているけど、kojikojiの歌なんですよね。歌詞の「もも」というのもkojikojiのことだなって思うし。
kojikoji:うん。kojiちゃんが<強く押さないでね 痛みが走るわ>とか言ったらすごく合うと思うって、書いてくださってるんですけど。一見この「もも」っていうタイトルじゃなかったら果実のことって思わないような歌詞じゃないですか。それもすごく素敵だなと思うし。
―――というか、<今が食べごろ また逢いましょう>っていうのはkojikojiからのメッセージですよね。
kojikoji:そうですね、確かにそういうふうに取れますね。
――『127』を経て、いろいろな客演を経て、この「PEACHFUL」にたどり着いて。これからどういうふうにやっていきたいですか?
kojikoji:やっぱり自分で作詞作曲して……全部はできないかもしれないですけど、どんどんやっていきたいなって思ってます。ライブができないなかで、日常的に自分の歌を聴いてくれてる人がいるんだってことに気付けないときもあって。誰にも聴いてもらえないっていう感情になったときもあったんですけど、今みんな皆つらい時期なので、少しでもその日常が楽しくなるように、いやなことを忘れられるような曲だったりを歌っていければいいなって思ってます。

【取材・文:小川智宏】


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リリース情報

PEACHFUL

PEACHFUL

2021年02月24日

FLOPICA / BROTH WORKS LLC.

01. TASOGARE
02. VIBES
03. 七色の橋の上で
04. もも

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引っ越したいなと思っていて探してました。新築で駅近がいいです。

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