ロックへの探求心を結実させたメジャーデビューEP、結成から現在までを語る。

K:ream | 2021.02.26

 あなたは名古屋発の2人組、K:reamを知っているだろうか。2019年にリリースされた配信シングル「See The Light」がラジオ局でのオンエアをきっかけに話題となり、ライブの動員も急上昇。昨年10月にバンド名表記を変更し、自身のレーベル「K:trad records」を設立。新たな思いとともにスタートを切ったばかりの注目株だ。サポートメンバーに高野勲(Key)、佐藤征史(Ba/くるり)、福田洋子(Dr)という強力な布陣を迎えて作られた1st EP『asymmetry』は、そのアンサンブルを乗りこなしながら、内川祐(Vo/Pf)と鶴田龍之介(Gt/Vo)、ふたりの個性がぶつかり合って力強くロックの王道を鳴らしている。時代もトレンドも関係なく、自分たちらしさのみを頼りにロックの力と憧れを体現する彼らの存在が、シーンの未来を創るかもしれない。

――2018年に結成したということですが、どういう成り行きだったんですか?
鶴田:もともと同じ高校で、僕がひとつ先輩だったんですけどずっと仲良くて。お互い地元から名古屋に出て、別々に音楽活動をしてたんです。内川はシンガーソングライターで、僕はバンドをやってて。そのバンドが終了するタイミングで、僕がギターを始めてからずっと憧れてた本物のロックバンドをやりたいなと思って、彼を誘って始めたのがK:reamですね。
内川:僕はシンガーソングライターをやってて、活動をやめて1年ぐらい就職してたんですけど、そのあいだも「やっぱり歌いたいな」とは思ってて。でも、またシンガーソングライターに戻るのはめちゃめちゃ嫌だったんですよ。意外と活動していくって歌だけやってりゃいいみたいなもんでもなくて、頭使わなきゃいけなかったりして大変だったんで、「人とやったらちょっと楽になるかもしれない」みたいな(笑)。そう思って鶴田さんに相談したんですけど、「人と何かをするってことにそもそも向いてないんじゃない? せめて2人組とかにしたら?」って言われて。「内川をちゃんと操縦できる人というか、舵をとってくれる人がいい」みたいなことを鶴田さんが言ってくれて、「たしかにそうだ」って。
鶴田:まだ俺がバンドやってるときね。
内川:そう。でも、その3日後ぐらいに呼び出されて「俺バンド解散することにしたわ」って(笑)。そのときは全然、一緒にやろうという感じじゃなかったんです。この前俺の相談に乗ってもらったから、今度は俺も相談を受けようみたいな感じだったんですけど、だんだん「あれ? これ、俺たちが一緒にやったら済む話じゃない?」ってなってきて。ただ鶴田さんから「やろう」とは言わないんですよ。決定打は打ってこないんですよね(笑)。で、結局、しびれを切らして僕から「一緒にやろう」って言ったんです。
――鶴田さんは内川さんのどういうところに魅力を感じてました?
鶴田:声ですね。歌っていうか、彼の声の大きさに注目してたんです。そもそも彼はJ-POPしか知らないし、音楽性も違ったんですけど、自分にない説得力とか発信力とか、人を引きつける不思議な力を持ってる人間だなっていうのは感じてて。その部分でバンドやろうって思いました。そこで僕が思い描いたロックバンドで歌ってるビジョンが見えたんです。
――内川さんは誰かとやるっていうこと自体が初めてだったわけですよね。バンドをスタートしてから、どういうことを感じながらやってきました?
内川:ずっとかっこよくいなきゃなとは思ってましたね。めっちゃ印象に残ってるのは、鶴田さんが「俺は(『ルパン三世』の)次元(大介)とか、そういうキャラをやらせたら右に出る者はいないと思う。だからおまえはめちゃくちゃかっこいいルパンになってくれ」みたいなことを言われたんですよ。
鶴田:そんなこと言ったことある? 俺(笑)。
内川:言ってた。すごくいいなと思ったんですよ。「わかりやすい!」と思って。俺は結構それをずっと意識してるかもしれないです。ずっとそういう意識というか、バランス感覚みたいなものはありますね。
鶴田:彼はすごく正直なんですよ。そこが魅力的だったから、たぶんつるんでたし。お互いそうだったのかもしれないですね。2人とも顔は広かったけど、本当に尊敬できる人っていないねって常日頃言ってたなかで、お互い本当に細かいところは何もかも違うんですけど、生き方の部分に筋が通ってるっていうか、自分をちゃんと自分で生きてるような数少ない人であったのは確かです。
内川:「変だ」っていうのはよく言われてきたんですよね。結構おろそかになるというか……説明難しいんですけど、音楽に対して真っ当だったらいいじゃないかっていうスタンスなんで、結構周りに嫌われてたっていうか、理解されないことが多くて。
鶴田:うん、理解されてなかったのはずっと見てた。どの場面でも自分でい続ける感じなんですよ。僕なんかはもっと卑怯というか、うまくやるんですよ。だから嫌われないかもしれないんだけど、彼は良くも悪くも正直だったから。
内川:そう、2人とも同じなのに俺だけそうみたいな見られ方するんですよ(笑)。目立つんですかね。
鶴田:内川のほうがいいやつなんだよね、たぶん。でも、2人で最初ライブハウスに出始めたときも、周りのバンドマンだったり関係者だったりからは本当にずっと理解されなくて。ステージを直接観てくれた人には何かを受け取ってもらえてたと思うんですけど、ちょっと違う目線で見てる人からは、本当に理解されない時代がずっと続いてました。
内川:でも、今思うと、しょうがないけどな。俺が奴らを理解できていなかったから、理解されっこないよなって思います。


――自分たちの中での手応えというのはどうだったんですか?
鶴田:それこそ、直接ライブを観てくれた人がすごく感動してるのを見たときに、間違ってはいないのかなとは思えてました。どこまでいっても、自分がこうしたいっていうのが出たものではあるんですけど、その表現を観て感動してくれる人は1人、また1人といたんで、それは信じていいのかなって思ってましたね。そういうなかでラジオで曲を流してもらえて。いちばん変な曲が流れて、そうしたらそれがいちばんウケた。
内川:それが「See The Light」なんです。
鶴田:そこから風向きとかもすべて変わりましたね。


――「See The Light」って全然変な曲だと思わないんだけど、それはどういう部分で?
内川:まず、そもそも一瞬で出来た曲なんですよ。スタジオでセッションして、歌詞もその場で書いたみたいな。一瞬で出来たからあんまり持ち曲としてカウントしてなかったというか、何か「出し物」みたいな感覚だったんですよ。ファルセットのピーキーな感じとかも、どっちかって言うとスゴ技大道芸に近いというか(笑)。なんかそっちの印象だったんですよね。それをライブハウスでポンと初めてやったときから、みんなあの曲を「いい」って言ってくれてたけど、僕らはずっとそれを認めてなかったんですよね。だけど機会があってそれをレコーディングして、ラジオでその曲を出したらえらいことになってびっくりしました。本当に思いもしてなかったって感じですね。ちゃんと楽曲として受け入れられてるし、歌詞いいとかっていう声が多かったのはめっちゃびっくりしました。なんか逆に教えてもらったぐらいです。歌詞読み返して「たしかにいいこと言ってんな」っていう(笑)。
鶴田:「See The Light」に対しては、ちょっともどかしい部分はずっとあったんですよ。あの曲を作ったときは周りから理解されないことにイライラしてたし、自分たちが心から認める作品として出してなかったものですごい評価されるっていう違和感はやっぱりすごく強かった。別に嘘ついてるわけじゃないし、今新しくレコーディングして自分たちの作品にすることができたんで、それはそれでうれしいんですけど。だから良くも悪くも、めちゃくちゃ特別な曲ではあります。この曲で教えてもらったこと、知れたことっていうのはすごく多いので。自分らで自分の実力に自信を持ったきっかけでもあったし、この曲で得た「自分たちのままでいいんだ」っていう自信は、新しい作品にも出てると思います。
――新作の『asymmetry』はすごく自信をもって自分たちの音楽を鳴らしているような作品ですよね。言葉も音も一気に開けた印象があるなあって。


内川:やっぱり我々2人に可能性を見出してくれたお客さんだったりとか、今のチームだったりとか、そういう人たちと出会ってふれ合っていくなかで、明確に「日本でいちばんのバンドになりたい」って思ったんですよ。それならやっぱり日本語かなって思って。前作はサビに歌詞がないみたいな曲も多かったんですけど、もうちょっと伝わることが多い曲を出そうっていうのは意識しました。「伝えたい」まではいかないですけど、せめて「伝わればいいな」って思えるぐらい。そもそも言葉でこんなに表現できるんだっていうのは今回の制作ですごく学んだことだったんで、それを形にしたのが今回の4曲なのかなっていう感じがします。
――うん、たしかに言葉はすごく強くなってるんですよ。でも、じゃあ思いっきり歌ものに振ったのかというとそういうことでもなくて、歌と言葉が強くなったぶんだけ、サウンドも強くなっているっていうところがすごくスリリングだなと思います。
鶴田:僕らだけだと出てこないものも、今回、サポートミュージシャンにお願いしたことで出てきてるし。
内川:うん。前作は結構2人でバランスをとりながら、持ち味を調合して作ったっていう感じの色だったんですけど、今回はサポートメンバーも含めてそれぞれが持ってる最もエグい部分というか、濃い部分をどれだけ抽出できるかというところにこだわったんです。だからもう殴り合いみたいな。
――たしかに「Eternal」なんか聴いていると、(福田)洋子さんのドラムバッチバチだもんね(笑)。
内川:そうですよね(笑)。言わずもがなベースもえげつない個性出してくるし、ギターもギャンギャン弾いてるし。でもそれが面白い。あと、いろんなミュージシャンと音を出していくなかですごいプレイヤーっていっぱいいるんだなっていうのは感じて。そういう意味では、僕は上手に歌を歌ってそれで人を感動させるっていう人間ではなく、自分の歌を歌って、それを人にわからせていく人間なんだろうなっていうのをすごく感じたんですよね。それで渡り合っていけるというか、渡り合える切符を手にしたというか。その方々と一緒に音鳴らせる場に立てたっていうことで、ありのままの自分でいいんだっていう自信にはすごく繋がりました。
鶴田:うん、内川の天職が見つかったなみたいなのは僕も思いました。僕が知りうる彼のいちばんいいところをどんどん出せるようになってきたし、僕自身で言えば、歌がこう来て歌詞がこう来たら、それを覆い隠すぐらいのギターを弾こうって思いますし。曲作りも、「Eternal」とかはそういう内川っていう人間のイメージを持って作った曲で、そこに対して内川の鋭い歌詞が乗ってきて。それがぶつかり合ってできた形がすごく美しいっていう、K:reamとしてのひとつの形がちゃんとできてると思います。
――その感覚がすごいですよね。普通は浮足立つじゃないですか。そこで自分のままで渡り合えるんだっていう感覚。
内川:そういう面ではすごい苦労はありましたけど、逆に言ったら取り繕ったものは通用しない世界だったんですよ。だからめちゃめちゃ心なんて折れたし、そんななかで、彼らの前に立って、引っ張っていけるものっていうのが自分というものしかなかった。だから、それを自信だって思えたのは最近です。
鶴田:最初は「変わらなきゃ」って思ったんですよ。自分を強くしなきゃ戦えないっていうのを真っ先に思ってたんですけど、それはすぐに通用しないことがわかったんで。だから結局変わらなかったんだと思います。
内川:バンドを結成したときに……やる音楽も、バンドの名前も決まってなかったんですけど「ドームで演奏する」ってことだけは決めてたんですよ。なんか、そのときに戻った感じがしました。自分たちでいよう、そしたらドームも訪れるしっていう。別に地図とか方位磁石みたいなものはなくても、歩いていけばそういうところにたどり着いていくんだろうなっていう確信みたいなものはできた気がします。
――サウンド的にもそうですよね。何か今っぽい音楽を取り入れようとか、ちょっとトレンドに寄ってみようとか、そういうのじゃないじゃないですか。堂々と自分たちのロックに向き合っている感じがする。


内川:それこそ僕は演歌を歌ってもロックだと思ってるくらいで、音楽性はどんどん変わっていくと思いますけど、やっぱりスタンダードを取り戻したいみたいな義務感はあるんです。何より僕らの好きな音楽を知らない世代が出てくるっていうのが悲しいんで。僕が好きなロックスターにそうさせてもらったように、僕らが自分勝手に好きなものを調合して表現をしたものを聴いて、夢を持ってくれたらいいなと思います。だからこそ、自分勝手にい続けたいなって思います。
鶴田:うん、少なくとも僕らがロックであり続けることで、また継承されていくのかなと思うんで。そこはやり続けていきたいですね。
内川:本当にバンドって絶滅危惧種だと思うんです。だからこのタイミングでこういうチャンスをいただけたことに、使命感があります。コロナが終わったときに、コロナに打ち勝った証になるような……そういう象徴になるようなロックバンドになりたいって思います。新しい希望になれればって。

【取材・文:小川智宏】


tag一覧 J-POP EP 男性ボーカル K:ream

リリース情報

asymmetry

asymmetry

2021年02月03日

K:trad records / ユニバーサル シグマ

01.Clown -道化-
02.Eternal
03.Goddess
04.Blue

リリース情報

hologram

hologram

2021年04月07日

K:trad records / ユニバーサル シグマ

01.re:birth
02.Frantic -躁鬱-
03.空白の春
04.Stars

お知らせ

■配信リンク

「asymmetry」
https://Kream.lnk.to/asymmetry



■マイ検索ワード

内川祐(Vo/Pf)
恐竜
最近、恐竜がすごい好きなんですよ。恐竜の習性とか、それがどういう恐竜なのかとか、そういうの面白いなと思って。意外とプテラノドンって狂暴でデカいとか(笑)。だからもし今この世界にいたら人間に危害加えちゃうくらい恐い翼竜なんだ、みたいな。あと、ヴェロキラプトルはめっちゃ賢いとか、テリジノサウルスは爪長いとか。『ジュラシックパーク』きっかけで興味を持ち始めたんで、知識は薄いんですけど(笑)。

鶴田龍之介(Gt/Vo)
外国人に聞こえる日本語
外国人に聞こえる日本語というか、外国人から見える日本語の文字面ってどういうふうに見えてるんだろうなってめちゃめちゃ気になって。例えばぼくらがインドの文字とか見てもまったくわからないじゃないですか。日本語もそれくらい変に見えてる気がするなと思って、外国人に聞こえる日本語みたいなものを調べてました。そしたら、日本語っぽいけど日本語ではなく、でも外国人が聞いたら日本語に聞こえるみたいな動画があって。よくよく考えてみると日本語ってめっちゃ変なんですよね、ひらがなとかほかにはないし。「こうやって聞こえてるんだー」って思いましたね(笑)。

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