YAJICO GIRL、改めてバンドとして向き合ったアルバム『アウトドア』
YAJICO GIRL | 2021.03.10
前作『インドア』で音楽性を大胆に転換し、海外の同時代の音楽に接近しながら四方颯人(Vo)のイメージを具現化してみせたYAJICO GIRL。『アウトドア』と題されたニューアルバムは、そのタイトルからもわかるとおり『インドア』と好対照を成す作品だ。といっても音楽性的にまた反対方向に振れたというわけではない。ブラックミュージックのグルーヴ感やビート感、パーソナルな音の質感は間違いなく『インドア』の精神を引き継いでいる。だが、そこに「バンド」のメカニズムを再び持ち込むことで、このアルバムはより強固な、そして2021年のリアルとシンクロする作品となった。5つの個が集まったバンドという関係に注がれる四方の眼差しは、そのままコロナ禍によって個が分断されたともいわれる今の世の中に対して、それでも揺るぎない人と人との関係の強さを訴えかけるようだ。今作が生まれた背景をメンバー5人に訊いた。
- ――前作『インドア』はYAJICO GIRLにとっては転換点となる作品だったと思うんですが、あのアルバムを作り上げて次に向かう中でどんなことを考えていました?
- 四方:『インドア』のときは僕の中でやりたいことが明確にあって、それをちゃんとアウトプットしきらないと前に進めない状態だったと思うんですよね。でもその次のフェーズではちゃんと開かれた作品を作って出して多くの人に聴いてもらえるように、もっといろいろ考えながら作っていきたいと思っていて。そのムードはバンドの中にはありましたね。ちゃんとポップスとして機能してるというか、A、B、サビっていう構成がちゃんとある、フェスとかでも勝負できるような曲を増やしていきたいなっていう。
- ――あのアルバムを作ったことで、できることも広がったと思うし、そのなかで新しい方向を目指せたというのもあったんじゃないですか?
- 四方:うん。自分のやりたい方向に向かって進んだおかげで、その先のビジョンとかも見えるようになったし。
- 吉見和起(Gt):あの作品があったから、今まで聴いてこなかったような音楽もいっぱい聴くようになったんです。それまでは感覚で音楽を聴いたり、作るときもアレンジしたりしてたんですけど、ちゃんと頭を使ってというか、分析するように聴くようにもなりました。
- 古谷駿(Dr):ドラムで言うと『インドア』からがっつり打ち込みになったのがかなりの変化で。それは今回のアルバムでも引き続きなんですけど、それにもわりと慣れてきたかなっていう感じはあります。同じリズムをループさせる心地良さとかもだんだんわかってきたかなって思いますし。
- ――榎本さんはどうでしょう?
- 榎本陸(Gt):最近のYAJICOは、ギターは1本でええやんっていうときが多くて。だから、そのなかで自分はどういう立ち位置で行ったらええんやろうっていうのはまだわからん感じのままです。僕はギターにこだわりが別にないというか、吉見とは違って俺は別にギタリストじゃなくてもいいかなっていうのはめっちゃ思うところがあって。だからこそいろいろできたらいいなとは思ってます。
- 四方:ライブでも「この曲ではギターじゃなくてこっちをやってほしい」みたいなものは全部、いま榎本が担当してくれていて。
- ――じゃあまさに新しい武器をどんどん増やしている感じだ。
- 榎本:これから四方がどういう曲を作ってくるかわからないですけど、それで俺が何をするかも全然わからないっていう(笑)。
- ――そういうユーティリティプレイヤーって、YAJICOの音楽をやっていく上ではめちゃくちゃ重要だと思いますよ。武志さんは?
- 武志綜真(Ba):僕も『インドア』作ってるときは、ベーシストとして何をやったらいいのかが全然わからなくて。結局自分は何を弾けばいいんだろうとずっと悩んでたんですけど、今作を作るなかで、自分はYAJICOのベーシストとしてどんなことをしたらいいのかというのがなんとなくわかってきました。
- ――うん。今作、音楽的には『インドア』の延長線上という感じもしますけど、でも聴いた印象としてはすごくバンドっぽい作品になったなと思って。今話してもらったように、それぞれにYAJICOでこの音楽を鳴らすということを掴んだんだろうなって思うんです。
- 四方:そうですね。今回はメンバーに任せる範囲がすごく大きくなったんです。『インドア』がすごく内省的なアルバムだったので次は開かれたものを作りたいと思って、『アウトドア』っていうタイトルも仮で最初からつけていたんです。それで考えていくうちに、バンドってやっぱり関係性の音楽だったりするから。繋がりとかを意識できるような作品になったらいいなっていうのは思っていたので。だから僕ががーっと作るより、チームで作り上げていくみたいな過程を大切にしたいと思って。
- ――じゃあ、結構作り方は変わったんですか?
- 四方:デモ作りとかの段階ではそんなに変わってないですね。でも、今作で最初に作ったのが「街の中で」だったんですけど、結構早い段階から、バンドでセッションして進めていった記憶があって。
- 吉見:そう。リハーサルスタジオに入って、みんなで合わせて。ある程度大筋というか、サビとか、Aメロとかができてた段階で上京してきて、すぐレコーディングしましたね。
- 榎本:大阪で作ったもんな、あれ自体は。
- 四方:うん。A、B、サビっていう構成をちゃんとやろうっていうのはもうあの頃から意識してたかな。
- 吉見:それもよかったんです。『インドア』のときは四方が「こういう音が出したい」って言ったものを頑張って出すって感じだったんですけど、今回はそのA、B、サビっていう、わかりやすいフォーマットがあったから。
- 榎本:確かに。
- 吉見:今まで幼いときから聴いてきたフォーマットだったので、馴染みがあるものではあったので。『インドア』から培ってきた世界観を崩したくないっていうのはあったので、音像のアレンジとかめちゃくちゃこだわりましたけど、前作インドアのときよりはかなりやりやすかったですね。みんなで協力しながらやりやすい感じでした。
- 榎本:『インドア』のときはデモを聴いても「こんな曲全然聴いたことないな」みたいな曲ばっかりやった気がするんですけど……。
- 吉見:頭の中で音が鳴らへんのや。
- 榎本:そうそう。でも今回はデモの段階で「これは知ってる」ってなったよな。
- 吉見:うん。メンバー全員そうだったし、四方も周りの意見を聞きながら作るっていうモードだったので、それがお互いに噛み合って、チームで作っていけた気がしますね。メンバー4人の意思がすごく入っているから、おのずとポップスというか、開けたものになっていったというか。結構武志とかが「これは歌える」「歌えない」とかの価値観みたいなものを持っているんですよ。「歌えるベース」とか「歌えるメロディ」とか。そういうエッセンスも結構今回取り入れたりとかしたので。
- 武志:今回制作していくなかで、海外の音楽の要素が入っているものを日本っぽく取り入れて、しかもちゃんと売れてる人たちってかっこいいよねっていう認識をメンバーの間で共有したんです。たとえば星野源さんとか、すごくかっこいいよねっていう。そういうものが四方の中でOKなんやったらいけるなって思えた。
- ――なるほど。それこそ星野源さんとか、あとは米津玄師さんとかもそうですけど、海外の同時代的な音楽を取り入れつつ、それが思いっきりJ-POPとして流通しているわけですよね。そこには何が必要なんだと思いますか?
- 四方:その2人の作品を聴いていると、なんか度胸とか勇気をすごく感じますね。世間でちゃんと聴かれたいっていう強い思いがまず根底にあって、その上でいかに面白い音楽を作れるかっていう。僕もその辺は理想像の一つとしてイメージしながら作っていたような気がします。
- ――それを「バンド」でやろうというのが重要だった気がしますが、それはどうしてなんですか?
- 四方:というより、『インドア』のときに我慢してもらってたんで(笑)。『インドア』できました、ありがとう、じゃあこれからは一緒にやろうぜ、っていう感じですね。
- ――なるほどね(笑)。
- 四方:2020年の最初ぐらいまでは、グローバルスタンダードな音像感にどうやったらバンドミュージックを持ち込めるのかが難しくて。それこそこの生ドラムや生ベースの音じゃ出ないような低い音域が出ている楽曲が多かったりするんで、それをどうやってバンドに落とし込めばいいかわからないっていう葛藤の中、うまいこと折衷案をひとつずつ見つけて制作してきたっていう感じだったんです。でもコロナとかもあって、そういう音楽的な新しさよりも、この5人の関係性が聞こえてくるところにバンドミュージックの魅力があるんじゃないかと思うようになって。音楽的な革新性よりも、そっちのウェイトがちょっと大きくなっていったんです。
- ――コロナ禍の影響というのも大きかったんですか?
- 四方:どうだろう……。でも制作的には完全に影響受けてるしな。リモートで自分の家で弦楽器録ってっていう感じだったんで、基本的に制作の仕方の面では影響を受けたし、曲のテーマとしてもやっぱりコロナがある世界線の歌詞を書かなきゃいけないっていうのはすごく感じてたので。表に出てるか出ていないかは別として、コロナを経た人たちが聴く音楽としてどう聞こえるか、何を受け取ってもらえるかっていうのは意識して書きましたね。
- ――リモートで作っていくという作業はどうでした?
- 吉見:バイブス感は結構違いましたね。今まではスタジオに入って5人で音鳴らして「いい感じやん」って盛り上がって作ってたんですけど、データのやりとりになったおかげで、言うたらみんなイヤホンとかヘッドホンで冷静に聴くわけじゃないですか。それはよくも悪くもリモート制作の大きな特徴の一つだったかなと思います。
- ――それは心情的にはどうだったんですか?
- 吉見:難しいな。フレーズとか音色を考えたりっていうのは、冷静に時間かけてできたのがすごくよかったんです。慎重な音選びができてすごく良かったんですけど、やっぱり、一長一短ですね。実機触ってやった方が感覚的にできるのもあるし。
- 古谷:打ち込みの画面を共有しながら、1個1個「これこっちにやって」みたいなことができるっていうやりやすさはありましたけど、リモートじゃなくできるならそれに越したことはないかなと思う。
- ――榎本さんはどうですか?
- 榎本:俺は今回、自分の音は入ってないんですよ。だからひたすらみんなに機材を届けたりしてました。
- ――それ一番大変じゃないですか。
- 吉見:結構夜遅い時間とかに榎本のギターを持って来てくれて。差し入れ持って「頑張ってくれ」って(笑)。
- ――すごく重要な役回りな気がする、それ。武志さんはどうでしたか。
- 武志:ベースを考えるところについては完成したデモに対して、パソコンにあるデータと僕でセッションする感じでやっていたんで、あまりやってることは変わってないのかもしれないです。
- ――吉見さんがバイブスがないって話をしてましたけど、そういう意味ではこれまでとは違うけど、バイブスはちゃんとある気がするんですよね。
- 吉見:もちろんリモートだからってバイブスがゼロなわけではないですよね。僕のイメージは、小さなバイブスを集めていったイメージ。スタジオセッションだったらもう5人のバイブスを一気に集めてドーン!みたいな感じなんですけど、その差かなと思います。
- ――四方さんはリモートレコーディング、どうでしたか?
- 四方:歌はちゃんとスタジオで録れたので、いちばん影響を受けているのは弦楽器陣かなと思います。僕のなかではリモートかそうじゃないかっていうより、メンバーにどれだけ任せるかっていうほうが前作と全然違ったんで。
- ――そうかそうか。作業をメンバーに任せていくなかでどんなことを感じました?
- 四方:なんか今までは頭が固いっていうか、自分のなかにあったイメージと違うものができたら「そうであるべきじゃない」っていう感情がすごく強く出ていたと思うんです。「いやいや、そこはこうして」っていうのが多かったと思うんですけど、今回は任せるっていうそもそものテーマがあったんで、それで出てきたものに対して、もともとのイメージとの差異を楽しむっていうスタンスをちゃんと取れたと思います。
- 吉見:だからメンバーも楽しかったんですよね。すごく楽しめました、制作を。
- 四方:もちろん、やっていくなかでちょっとした行き違いはたくさんあったんです。だからそれを最終的にうまい具合に完成させるっていうのを、特に終盤、僕はすごく大事にしてました。風呂敷広げたけど回収しきれなくて、雑多なアルバムみたいになるのは嫌だったんで。最終的なまとまりはつけられるようにディレクションしていきましたね。でも結果的にすごくいいアルバムにはなったんで、今回こういうやり方をしたことは間違ってなかったなと思います。
- ――今作を作ったことでYAJICO GIRLっていうバンドに対するそれぞれの思いも更新されたんじゃないですか?
- 四方:うーん……役割分担みたいなものはだんだんいい感じになってきてる気がするけど。まあ、これから変わるかもしれないからなんとも言えないですけどね。でも僕、改めてバンドミュージックとかを聴くようになって。それまではバンドの音が自分の耳的にしっくりくる感じじゃなかったんですけど、改めて聴いてみて……やっぱりバンドって物語だなって。この関係性から立ち上がってくる音楽、その移り変わりみたいなストーリーに面白みがあるんじゃないかなって思って。そういうのを意識して、続けていければいいのかなって今は思ってますね。
- 吉見:YAJICO GIRLはもともと高校の友達から始まっているので、この状態であるのがスタンダードというか、日常みたいな感覚があるんです。そのなかでもいろいろありますけど、バンドがどうこうというよりも、この状態がスタンダードだからなっていうところはある気がして。
- ――うん。まさにスタンダードなわけだけど、普段、馴染み過ぎちゃうとこれがスタンダードなんだなってことすら思わないじゃないですか。でも『インドア』と『アウトドア』を作るなかで改めて「これがスタンダードなんだ」って再認識できたみたいなところはあるんじゃないかと思うんです。
- 四方:うん。バンドであるからこその魅力みたいなものを、ちゃんと出せるようにしたいなと思いましたね。それは音像的にということではなくて、もっと気持ち的な、精神的にそういうバイブスを出したいというか。そんな感じはしますね。
【取材・文:小川智宏】
YAJICO GIRL『アウトドア』ティザー映像
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『アウトドア』
https://friendship.lnk.to/OUTDOOR
■ライブ情報
ヤジヤジしようぜ!Vol.5
“Outdoor Release Party”
03/21(日)大阪 梅田Shangri-La
Mashroom 2021 ~Hello new wind~
03/14(日)東京 恵比寿 LIQUIDROOM
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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