Mr.ふぉるての新境地。『sweet life』からわかる変化とは

Mr.ふぉるて | 2021.03.24

 4ピースロックバンド・Mr.ふぉるてが、3月24日に2ndミニアルバム『sweet life』をリリースした。これまでラブソングを中心にした作品を世に生み出してきた彼らだが、今作は、個人的な「君」に向けた楽曲ではなく、もっと広い意味での「君」に向けたものに変化している。その変化はどのようにして生まれたのか? そして、その変化を曲にする上で、どういった意識の上で制作に臨んだのか? そうした作品についての話やバンド結成時の話を、稲生司(Vo/Gt)と阿坂亮平(Gt)のふたりにとことん訊いた。

――バンドとしては、どういった経緯で結成されたんですか?
阿坂:高校生のコピーバンドが集まった合同ライブに、各々のバンドで出演していたんですけど、そこで僕が司くんの声を初めて聴いて、感動したんです。それで、元々僕自身がライブハウスやオリジナルバンドに憧れていたということもあって、すぐに「一緒にバンドを組もう!」と声を掛けたのが始まりです。
稲生:面識のない状態で「LINE教えて下さい!」と言われた時は、なんだこの人!?と思いましたね(笑)。でも、話していくうちに意気投合していって、一緒にやることにしました。
阿坂:福岡樹(Ba)と吉河波音(Dr)も、色んな高校の文化祭に行って、軽音部の演奏を聴いた中で、良いなと思って誘いました。
――そこから、オリジナルバンド・Mr.ふぉるてとして活動していく中で、どういった音楽をやっていきたいという構想はあったんですか? 初期の楽曲を聴くと、ラブソングが多いという印象はありますが。
阿坂:バンドとしての明確な方針はなかったですね。
稲生:ラブソングというのも、僕が当時聴いていた音楽が影響したようには思います。好きなアーティストの方が、自分の書いた歌詞を朝起きて読み返した時にダサいと思えるのが最高だ!という話をしていて、その考えに影響されながら書いていた気もします(笑)。
――じゃあ照れ臭さも良さだと思って作れていたんですね。「口癖」や「あの頃のラヴソングは捨てて」のMVが多くの方に観られたということも、活動の中では大きな一歩だったと思いますが、順調と言えるようなこれまでの歩みに対してはどう思っていますか?
稲生:Mr.ふぉるてとして初めてライブをしたのが、自分たちのホームになっている渋谷のMilkywayなんですけど、そこで働いている方に声を掛けてもらったのが、飛躍のきっかけだとは思ってます。音楽業界のことも何も知らない僕たちが、そうした人たちの手を借りながら進めているというのは嬉しいことですし、有難いなと思ってます。
阿坂:ここまで、とにかく無我夢中でしたね。コピーバンド発だったということもあって、当時は音楽や業界に対する知識もほとんどなかったんですけど、この3年間で知識や技術も含めて成長できたと思っていますし、色んな方向性にも順応できるようなボキャブラリーが増えてきたなと思ってます。
――そうした前向きな活動をする中で、2020年という激動の年を迎えたんですね。去年は、4ヵ月連続リリースという精力的な活動もしつつ、バンドとしてはどういう過ごし方をしていたんですか?
稲生:新曲のリリースもあったので、バンドとしては制作にかける時間が多かったですね。
阿坂:あとは、恵比寿LIQUIDROOMで行った1stミニアルバム『ジャーニー』のファイナル公演も、コロナの影響があって無観客で行いましたね。あれはキツかったです。
稲生:キツかったね。僕はライブ中にお客さんの表情を見ながら楽しんでいるんですけど、それが出来なかったということに不安な部分もありました。
――「誰かがライブを観てくれている」という体感を得にくい状況ですもんね。でも、今作『sweet life』を聴かせていただいて、今まで恋愛的な「君」に向けた楽曲が多かった中で、今回はリスナーを含めた広義での「君」に向けた曲が圧倒的に増えているように感じました。その変化は、無観客ライブの経験を含めた「人に会えない」という昨今の状況が影響したんですか?
稲生:これまでに、本を読むのが苦手というのもあるんですけど、自分が持っている語彙が少なかったことが原因で、自分の考えを上手く楽曲として表現できなかったことがあったんです。そこで、コロナの影響で自宅にいる時間が増えたので、海外の映画の字幕に書かれている独特な言い回しや、色んな人の視点を勉強していました。そうした表現の基礎となるインプットをした先で、今の状況も踏まえて、対個人を歌ったラブソングよりももっと大きい意味合いの歌を歌いたいという気持ちが生まれたので、トライしてみました。
阿坂:アレンジする時に歌詞を読むんですけど、今回のアルバムの歌詞は、多角的な視点になっているなとは思いましたね。
――メロディ的にも、今までとは違う広がり方をしていますよね。アルバムの幕開けとなる「Intro」も、電子音を使っていますし。
阿坂:個人的に、編曲家になりたいという目標もありつつ、Mr.ふぉるてとしても、バンドサウンドだけでやっていくのは嫌だと思っているので、今はDTMを勉強しているんです。今回は、初めて編曲家のNumaさんを迎えての制作だったんですけど、そこで吸収した知識や音楽的な要素をこの「Intro」に注ぎ込みました。メンバー以外の方の視点で、自分たちの曲を解釈してもらうということが初めてだったので、すごく楽しかったです。
稲生:3曲目の「なぁ、マイフレンド」は、Numaさんに歌詞とメロディを渡して、丸ごとアレンジしてもらったんです。自分たち以外の人の手が加わることで曲がどういう風に変わるのかを聴いてみたいという好奇心があったんですけど、完成形を聴いたら、今までの自分たちにあるものを残しつつも、Mr.ふぉるての新しい道を開く素材を与えてもらった感じがして、すごく良かったです。

――「トライアングル」のドラム音は、メロディパッドを使ってます?
阿坂:これは、生音を加工してますね。スネアにエフェクトをかけたりもしていて、これも今作で初めて挑戦しました。「トライアングル」に関しては、基本的に僕が全部アレンジを考えましたね。「なぁ、マイフレンド」で感じたインスピレーションや経験を踏まえて、自分なりに落とし込んでみた曲です。J-POP界隈でバリバリ活躍しているNumaさんと一緒にやるのは、とにかく楽しかったですね。ひとつの音に対するアレンジに関しても、作り方や年代感といった細かいところまで曲のリファレンスに組み込んだ方が、全体としての説得力が出るんだなと思いましたし、勉強になりました。
――「挑戦」というよりも、もっと楽しめて作り上げていけたんですね。歌詞に関しては、「平和」や「幸せ」というワードが随所に出てきますが、それもやはり時代性が由来するものですか?
稲生:コロナ禍に入って、自分自身が落ち込みがちだったというのもあるんですけど、そういう時ってどうしても不幸せの方が目立っちゃうと思うんです。だから、意識はしなくても、こういう時だからこそ少しでも明るい言葉を使おうとしていたのかもしれないですね。今作の中にも暗い曲はあるんですけど、最後には明るい方に向かうようになっていると思いますし。今まで結構暗めのラブソングを歌ってきていて、MVのコメント欄を読んでも、やっぱり暗い気持ちになっている人が多かったんですよね。そういう人たちに、世界は優しさで溢れているんだということを気付かせてあげたいと思いましたし、少しでも誰かの背中を押せるような曲を書きたいと思ってました。その気持ちは前作の『ジャーニー』の頃からありましたし、僕も今まで音楽に救われた瞬間があったから今に至っているので、自分もそういう存在になりたいなと思ってます。ボキャブラリーが増えたことで、そういった明るい歌も歌えるようになりましたね。
阿坂:今作は、そういった変化があった上での司くんのメッセージをより伝わりやすく表現できるように、アレンジを頑張りました。
――特に「君守歌」や「途方に暮れても生きていく」のギターは、歌詞に寄り添っているような感じがして、とても豊かな表現をしているなと思いました。
阿坂:そうですね。「途方に暮れても生きていく」は、Numaさんにアレンジのイメージを伝える時に、歌詞をかなり意識して伝えました。<死に方を考えていたんだ深夜>という歌詞で始まりはするんですけど、明るいサウンドの中で司くんのメッセージを表現したかったので、マイナーキーは使いたくなかったんです。「ブルーアワー」も、ファンクを陰にしつつバラード調になっているんですけど、これも歌詞の雰囲気に寄っていった結果ですね。
――じゃあ、今までの歌詞とアレンジのバランスのとり方としては、今回ほど寄り添ってはいなかったんですか?
阿坂:今までは、スタジオに入って全員で一気に曲を合わせてまとめていくという方法をとっていたので、みんなでひとつの目標に向かって曲を作り上げていくという感じではなかったんです。でも今回は、一回DTMに落とし込んでまとめていくという方法だったので、だからこそ考えられたようには思います。
稲生:すごい変わったよね。
阿坂:うんうん。今まで自由にやりすぎていたのかもしれないですね。今までの方法も“バンド!”っていう感じがするのでもちろん良いんですけど、メッセージの伝わり方は全然違いますね。
――確かに、聴き手としてもそういったまとまりの違いは感じます。THE ロック!というよりは、ポップスに近くなっているようにも感じますし。
稲生:自分はアレンジのことは詳しくないんですけど、今回は、自分のギターがちゃんと役割を持っているんだという感覚はあります。ボーカルじゃなく、ギターボーカルとして加わっている感覚というか、今までにはない手応えとワクワク感はありますね。
阿坂:ロックバンドの定義はそれぞれだと思うんですけど、個人的にUKロックが好きなので、そこからかなりの影響を受けていると思いますし、それが「トライアングル」にも強く出ていると思います。
――そういった変化もありつつ、最後の「幸せでいてくれよ」は、ラストを飾るに相応しい、優しい願いが込められた楽曲だと思いました。

稲生:コロナ禍に入って、誰かに会いたいのに会えないまま最期を迎えてしまった人も少なからずいると思うんです。そういうことをニュースでは数字として報道するけど、そのひとつひとつに物語がある訳じゃないですか? そのこともあって、去年は「死」について考えることが多かったんです。そこで、もし自分が死んで天国に行って、そこから大切な人の生活を覗くことができたら……という設定で、この歌詞を書きました。自分自身、天国や神様の存在を信じていないんですけど、悲しいことがあった時って、どうしても形のない何かに縋りたくなることもあると思いますし。「途方に暮れても生きていく」も“死”を歌っているんですけど、そうした“今まで思ってはいたけど書き起こせなかったもの”を、ようやく書くことができたように思います。
――「言葉」の引き出しが増えたことやアレンジの幅を拡張したことが、自分たちの音楽の広がりに直結したことを実感できた作品なんですね。
稲生:そうですね。今回は、歌詞を書き終わった後に、今まで感じたことのなかった達成感があったんです。その気持ちが「幸せでいてくれよ」に限らずどの曲にもあったので、自分にとっての自信になりました。
阿坂:特に「幸せでいてくれよ」と「トライアングル」は、僕と司くんがずっとやってみたかった曲のアレンジを実現できた曲なんです。ストリングスを入れたこともそうですけど、今作は全体を通して、“歌詞としてのまとまり”と、“アレンジの豊富さ”の2つを構築できた作品だと思っています。司くんが歌えばそれがMr.ふぉるてだと思っていますけど、その上で、よりバンドの表現力を上げられるように、これからも色んな音楽を勉強し続けていきたいなと思っています。

【取材・文:峯岸利恵】





2021.3.24 Release 2nd Mini Album 「sweet life」(Trailer)

tag一覧 J-POP ミニアルバム インタビュー 男性ボーカル Mr.ふぉるて

リリース情報

sweet life

sweet life

2021年03月24日

NEra records

01.Intro
02.トライアングル
03.なぁ、マイフレンド
04.君守歌 (読み:きみまもりうた)
05.途方に暮れても生きていく
06.ブルーアワー
07.幸せでいてくれよ

お知らせ

■ライブ情報

Mr.ふぉるて「sweet life」
~ 幸せの見つけ方ツアー ~

05/09(日)東京 恵比寿LIQUIDROOM
05/13(木)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
05/30(日)大阪 梅田CLUB QUATTRO


スナガ presents
RADIO BERRY haruberrylive2021

04/10(土)栃木 HEAVEN’S ROCK宇都宮VJ-2

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る