FINLANDS史上もっとも世の中に向けて開かれた、エポックメイキングな1枚

FINLANDS | 2021.03.24

 まさに名が体を表わすがごとく、1曲1曲が鮮やかな閃光となって瞬きながら聴き手の全身を駆け巡る。3月24日にFINLANDSから届いたニューアルバム『FLASH』。前作『BI』から実に2年8ヵ月ぶりにして、バンドが新体制へと移行して初のフルアルバムとなる今作は、FINLANDS史上もっとも世の中に向けて開かれた、エポックメイキングな1枚と言えるだろう。これまでにも増してバラエティに富んだサウンドメイク、何度だって繰り返し聴きたいポップで軽やかで強靭なメロディ、独自視点と言語的センスで綴られた歌詞は全13曲それぞれに唯一無二の世界観をたたえて、耳に、胸に、迫る。コロナ禍を経ていよいよリリースされた傑作『FLASH』、今作に込められた塩入冬湖(Vo/Gt)の想いをじっくりと紐解いてみたい。

――昨年、ソロアルバム『程』のインタビューをさせていただいたとき、本来ならばFINLANDSのアルバムをリリースするつもりで曲もほぼ出来上がっていたのに、レコーディングを前にしてコロナ禍で制作の中断を余儀なくされて、だったらソロをやることにしたと話してくださいましたよね。昨年のその段階で作っていた曲が今回、晴れて陽の目を見たということでしょうか。
塩入冬湖:8割があのとき作っていた曲で、そのあとに1~2曲増えたかなって感じですね。去年の4月にレコーディングする予定だったところから半年以上経っていて、その間に、作っていたけど入れなくなった曲があったり、逆に新しく入れる曲ができたり、そういう変化もあったんですけど、そこは前向きに「この期間があったから『FLASH』っていうアルバムがこの形で作れるんだな」って捉えていました。
――FINLANDSとして正式メンバーが塩入さんおひとりになられてから初の制作となったわけですけど、何かこれまでとの違いとか変化はありました?
塩入:ひとりになってからすぐのフルアルバム制作だったら変わったことを実感したと思うんですけど、ひとりになって2019年を駆け抜けて、よしアルバムを作るぞ!って思った瞬間にコロナになって。それからまた1年経っての制作だったので、今思うとむしろ体制が変わったこととか気にしている時間があんまりなかったかな。
――ひとりだろうとなんだろうと、とにかく純粋にFINLANDSの作品を作るぞ、みたいな気持ち。
塩入:そうですね。2019年の後半、このアルバム制作に取りかかり始めたときはもちろん「新しいFINLANDSをきちんとアルバムという形にしたい」という気持ちがあったんですよ。そうすることで私も安心したかったですし。でも時間が流れていくに連れて、いつの間にかごく自然に今の形態が当たり前のようになっていて。
――“新しいFINLANDSを形にしたアルバム”って当時どういうものを考えていらしたんでしょう。
塩入:去年4月に配信リリースされた「まどか」「HEAT」という曲を2019年の秋ぐらいにを作り始めて、今思えばそれが『FLASH』の始まりだったんですけど。FINLANDSを聴いてくださる方っていうのはかなりの音楽好きで、日常的に自分好みの音楽を探して歩いたり当たり前のようにいろんなライブに足を運んでいるような方たちだと思うんですね。そのなかで偶然にもFINLANDSを探し当てて出会ってくれたという方がきっと大半で。今まではそうやって出会ってくれた人たちが聴いて、大好きか大嫌いかを感じてもらえれば幸せだったんですけど。でも今回は、きちんと自分たちから間口を広げていく、平たく言えば大衆に聴かれることを意識して作ってみたいな、と。といっても大きな意味ではなくて、これまでは相手が扉を開けてくれないと聴いてもらえなかったものを、自分たちから少しだけ開いてみたっていう、そういうアルバムになればいいなという想いで制作を始めたんです。
――ポピュラリティというものに対して少し心を開いてみたんですね。これまで開いてないなという自覚はあったんですか。
塩入:開く気もなかったっていうとあれですけど、開くこと=消費されるものになってしまう、みたいな勝手な思い込みがあったんですよね。消費されるぐらいなら、そもそも世の中に音楽を発信したくないなって。私の考え方って、ゼロか1億か、ぐらいにすごく極端なんです(笑)。でも2019年以降、いろいろ考えていくなかで別にゼロか1億かだけじゃなく、その間もあるっていうことがわかってきて。それを経験しないまま、この先ずっと過ごしていくのはちょっともったいないんじゃないかな、と。ゼロと1億の間にある場所で出会える物や事柄、人もいるかもしれないし。とはいえ、いきなり1000は難しいから、100ぐらいのところで、自分たちから広げていこうっていう。
――一歩でも踏み出してみたら、もっと聴いてくれる人がいるんじゃないかと思えたということですよね。
塩入:普段まったく音楽を聴かない人が、コンビニに行ったりタクシーに乗ったりしたときに、たまたまFINLANDSの曲を耳にして、それがその人たちの頭のなかでちょっとでも長く鳴り続けたとしたら、すごく素敵なことだと思ったんです。そこに向けて、今まで閉ざしてたものを自分たちから少し開いてみるのも、それはそれでれっきとした勇ましさなんじゃないかな、だったら挑戦したいなって。
――勇ましさ、ですか。
塩入:そう。他人から勇ましく見える必要は別にないですけど、自分を勇ましいと思い続けられることは大事だなと思います。
――たしかに聴き手にしっかり対峙して、自分たちの音楽を差し出そうとしているアルバムだという印象は強く受けました。音作りもそうですし、曲調にしてもこれまで以上にバラエティに富んでいませんか。
塩入:そうかもしれないですね。まだ曲も作ってない、バンドを始めたての頃の自分が、当時聴いていたアルバムに対してどんなことを思ってたかなって今回すごく考えたんです。高校生の頃ってアルバムを買ったらすぐMDにダビングして、それを聴き倒すみたいな感じだったじゃないですか。
――まさに!
塩入:途中からiPodが出てきてシャッフルができるようになったり(笑)。私、通学に2時間くらいかかってたんですけど、その間、ずっと音楽を聴き続けていて。そのときの自分が聴きたいアルバムって、コンセプチュアルなものよりも、アルバム1枚を通して聴き始めから聴き終わるまでずっと「いいな」って思い続けられるものだったんですよね。今回はそういうものを作りたいなって。前作の『BI』はすごくコンセプチュアルなアルバムだったと思うんですよ。歌詞に関してもすごくパーソナルなことを全曲歌い続けているし。なので、そうしたものとはちょっと違う試みでいきたかったんです。その結果、いろんな種類の曲があるアルバムになったんじゃないかなって。
――ちなみに「まどか」「HEAT」が今作の制作の始まりだとして、では最近出来た曲というと?
塩入:いちばん最後に出来たのが1曲目の「HOW」でした。
――『程』でもいちばん最後にできた曲が1曲目を飾っていませんでしたか。
塩入:あはは、ホントだ! 最後の最後で出た答えをいちばん最初に持っていきたくなるんでしょうね。作っていたときから1曲目を想定していたんですけど、それにふさわしいいい幕開けになったんじゃないかなと思います。
――「HOW」に描かれているのは非常に前向きな逃亡と言いますか、自分を守るためなら別のところに逃げてもいいんだという強い意志が朗々とした曲調のなかにも読み取れます。
塩入:コロナ禍で新たな出会いとかがないぶん、自分の内なるものと向き合う時間がすごく長かったんですよ、去年。自分を生きにくくしている要因って何だろうなとか、『FLASH』を作っている間、ずっとそういうことを考えていて。その答えが「HOW」全体で語られていることなんですけど。さっき“勇ましさ”という話をしましたけど、逃げることも立派な勇ましさだと思うんですよね。人間って誰もが、自分自身とはぐれることはできないなって思っていて、だからこそ自分に対して作ってきたルールや決め事に知らないうちにがんじがらめになってしまうことも多いと思うんです。「逃げることは勇ましいけど、自分からは逃げられない。じゃあ、その勇ましさはどう使おう?」「自分と一緒にいて、大事にしてあげることが勇ましさなんじゃないか」っていう気持ちがすごく現われているんですよね、「HOW」って。
――続く「ラヴソング」は歌詞がなんともシニカルで。愛想を尽かしているのに「ラヴソング」ってタイトルに掲げているところからしてもう、なんともFINLANDSらしい。
塩入:実はこれ、相手に愛想を尽かしているように見えて、自分にも愛想を尽かしているんですよ。自己愛に対するラヴソングというか。相手は自分のことばっかりを知ってもらおうとするし、自分自身も相手に嫌われるのが面倒くさいし悲しいから適当に相槌を打って終わらせちゃうっていう。結局、どっちも自分がかわいいからの顛末っていう意味で「ラヴソング」なんですよね。
――でも歌詞だけ読むと救いのない気持ちになるけど、サウンドはカラッと明るくて聴いてて楽しくなってきます。
塩入:そうなんです、全然悲しくないというか。私からするとちょっと面白いぐらいなんですよね。だってこれ、今まで付き合ってた人が聴いたら絶対、複雑な気持ちになるじゃないですか(笑)。その時点で申し訳ないけどちょっと面白いなって。別に誰のことを歌ったわけでもないんですけどね。
――それを面白がれるところが塩入冬湖のすごさでしょう(笑)。
塩入:あはははは!

――個人的には「Stranger」がとても好きで。
塩入:ありがとうございます。私も好きです。
――最後のブロックの<馬鹿みたいだって愛おしいんだもん>というフレーズがもう、愛についての究極の答えだなと思えたんですよね。この身も蓋もなさ含めて、なんて無邪気でかわいい曲なんだろうと。
塩入:“かわいい”は初めて言われました(笑)。「Stranger」は『FLASH』の元になったというか……このアルバムには“閃きと繰り返し”という自分のなかでのテーマがあって。なかでも“繰り返していく”ということが自分のなかですごく引っかかっていたんです。それを如実に書いているのが「Stranger」なんですよ。
――“繰り返していく”というのは?
塩入:人間ってずっと同じことを繰り返し続ける生き物なんだなと思ったんですよ。行為そのものは流行り廃りによって変わっていくけど、根源はどれも一緒だよなって思ったときに「うわ、人間って変だな」って(笑)。でも、そういう繰り返しの過程に私たちがいるんだとしたら、「自分はホントに学ばないな」とか「失ってもまた同じように人のことを好きになって、また失って。私ってホント変わらないな」って自己嫌悪しそうになったとしても、全部「だって人間って変なんだから」って思える安心感を私は得たんですよね。最後にはなり振り構わず、人間という生き物に自分が安心していく様というか、そういうものを「Stranger」という1曲を通して描けたことは自分でもうれしいですね。
――人間という生き物への愛に溢れた曲ですよね。というか、これは愛のアルバムだなと思ったんですけど。
塩入:ああ……そうなんですかね?
――相手への愛情はもちろん、自分への愛や、大事な人を静かに想う慈愛だったり、のっぴきならない関係性の向こうに微かに揺れている綺麗な想い、そういうものがアルバム全体に溢れている気がして。
塩入:繰り返していくなかでの過程の愛情、経過のなかに感じる愛情みたいなものにスポットライトを当てているところはあるかもしれないですね。今までは自分のパーソナルなことをめちゃくちゃ書き続けてきたんですけど、それって結局、相手と自分の間にある愛情についてがすごく多かったなと思うんです。でも今回は自分を俯瞰で見たときに、自分はどう愛してあげられるかとか、自分が大切にしたいものを愛するためにはどうすればいいんだろう?とか、愛情の過程について歌ってるのかなとは思いますね。
――ご自身のおばあさまへの想いを歌った「ナイトハイ」はまさにその真骨頂でしょうね。1月に開催された無観客配信ライブ『記録博2020』で披露されていましたが、泣けて泣けて仕方がなかったです。
塩入:「ナイトハイ」も結構、制作の最初のほうからあったんですけど、これは絶対いちばんいい曲になるなと思って作り続けてましたね。曲が出来て1年以上経った今でもすごく好きな曲で。
――記憶をなくされたおばあさまのことを歌にするって、かなり勇気がいったのではないですか。
塩入:いえ、あんまりそういうことは感じてなかったですね。むしろ歌いたいって思いました。後悔とか申し訳なく思っている気持ちとか、そういうものって今さら言ったところで綺麗事にしかならないよなとはすごく思うんですよ。どんなに後悔しても、私が祖母と暮らしていた頃に戻ったとしたら、また悲しませたりもするだろうし、同じことを絶対にすると思うんですよね。
――人間は繰り返す生き物だから。
塩入:そう。だったら、これからの祖母のことを願うことで自分の懺悔に使おうっていう気持ちだったんです。そんな自分をすごくずるいと思いましたし、でも祖母に対しての想いも本当だし……もしも祖母が亡くなってしまったとしても、愛して育ててもらった私がきちんとこれからを生きていくことは、その命をいただいて生きているということで、そうやって命を繋いでいくってすごく愛情じみたことだなと思うんですよね。自分が唯一、今後できることとして。あと、今、私は30歳なんですけど、周りを見ていても30歳ってそういう年齢なんですよ。祖父母が老人ホームに入っていたり、記憶を失ってしまっていたり……これまでにはなかった悩みが生まれるんだな、私だけじゃないんだなってすごく思って。そういう人にも聴いてもらいたくて、書きたいなと思ったんです。
――<ごめんね 好きだよ>というとてもシンプルなワードにグッときてしまいました。
塩入:<ごめんね 好きだよ>なんて絶対に使わなかったですから、今まで。今後も使わないでしょうし、恋愛の曲で「ごめんね」と思うことなんてきっと一切ないですし(笑)。
――おばあさまへの歌だからこそ素直に出てきた言葉なのかも。
塩入:人は本当に「ごめんね」と思ったときは「ごめんね」って言葉を使うことを嫌がらないんだなって今回すごく思いました。「好きだよ」もそう。
――本当に名曲だと思います。一方で、今作中でもっとも異彩を放っているのが「Balk」。ハードかつヘヴィな音像からして、まず度肝を抜かれました。
塩入:はい、重いです(笑)。
――そして歌詞がまた、めちゃくちゃ怒っていて。しかも珍しく社会的なことをテーマにされていますね。
塩入:社会的なことというか、もっと大きい括りで言えば「自分の身は自分で守るしかない」っていうことなんですけど。本当は社会的なこととかあんまり私は歌にしたくないんですよ。それよりも近くにいる人や自分の身の周りにある事柄を大切するほうが絶対に手っ取り早いし、重要だろうと思っていて。ただ、最近、世の中で起きているインターネットやSNSの問題ってあまりにも対象が広すぎるじゃないですか。誰だって加害者にも被害者にもなり得るって、これはもう他人事じゃなく、自分の手が届く範囲の話だなと思ったんですよね。私は絶対に人を言葉で傷つけて殺してしまいたくないし、私もされたくないし、私の大切な人にもしてほしくない。そういうシンプルなことがわからなくなってきている世の中ってめちゃめちゃ怖いなと思って。あなたが深く考えずに面白半分でやってることで人は簡単に死んじゃうんだよっていうこと、そうなってしまったら自分のことは自分で守るしかないっていうことをより身近に感じたからこそ書いておきたいなと思った曲ですね。
――これまでにはあまりなかったメッセージ性みたいなものも感じますし、「Balk」が入ったことで一段とアルバム全体が開かれたような気がします。この『FLASH』というアルバムはFINLANDSにとって、今後どういった位置づけの作品になるんでしょうね。
塩入:新しい印になるんだと思います。今まで物凄く自由にやってきて、楽しいな、ここにいられる自分は本当に幸せだなって、それで満足していましたけど、やっぱり“それ以降”に進んでいくことが私の願いであり音楽家としての希望で、その歩みはどうしても止めたくない。そう考えたときに作ったアルバムなんですよね、『FLASH』って。そういう意味でも、新しい印だなって。
――ここからまた新たに始まるという気持ちもあるのでしょうか。
塩入:もしもバンドに前期・中期・後期があるんだったら前期の終了、中期の始まりっていう感じですね。中期がめちゃくちゃ短いかもしれないですし、ものすごく長いかもしれないですし、それは私にもわからないですけど。
――さて4月には『FLASH』を引っ提げての東名阪ツアーも開催されます。ワンマンとしては久々の有観客ライブになりますね。
塩入:東京以外でライブするのも1年以上ぶりですからね。今回はもう、とにかく無事に開催できることをいちばんに願っているツアーなので、みなさんにもそう願っていただきつつ、ぜひ楽しみに遊びにきていただければと思います。『FLASH』の曲たちを生でお聴かせできるのが私も楽しみですし、ツアーを経てあの子たちがどういうポジションに収まっていくんだろうなって今からすごくワクワクしてます。

【取材・文:本間夕子】

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リリース情報

FLASH

FLASH

2021年03月24日

サンバフリー

01.HOW
02.ラヴソング
03.HEAT
04.テレパス
05.Stranger
06.ナイトハイ
07.ランデヴー
08.ひかりのうしろ
09.Silver
10.Balk
11.UNDER SONIC
12.USE
13.まどか(FLASH ver. )

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クッパJr.
最近クッパJr.にハマっていて。顔が好きなんですよ、すごく。普段は私、全然ゲームをやらないんですけど、クッパJr.に会いたいがために最近スマブラを始めまして。でも全然出てこないんですよ!どうやら63体(キャラクターが)出てくるなかの61体目らしいんですよね。そろそろ挫折しかけているんですけど、クッパJr.のためだと思ってもう少し頑張ります。USJ(のスーパーニンテンドーワールド)に行って、直接会えれば手っ取り早いんですけど、でもあれってクッパJr.を倒さなきゃいけないんですよね? それは無理! かわいそう!



■ライブ情報

ワンマンライブツアー
"FLASH AFTER FLASH TOUR"

04/10(土)UMEDA CLUB QUATTRO
04/17(土)NAGOYA CLUB QUATTRO
04/28(水)Zepp DiverCity(TOKYO)

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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