人と人とが互いに愛をもって向き合える世の中になってほしい――。そんな願いを込めた、go!go!vanillasの最新作『PANDORA』

go!go!vanillas | 2021.03.26

 人と人とが互いに愛をもって向き合える世の中になってほしい――。go!go!vanillasが、3月24日にリリースしたアルバム『PANDORA』は、そんな願いが込められた作品だ。コロナ禍、急激にネット社会が進み、血の通わないコミュニケーションが表面化するなか、人として本当に大切なものは何なのか?を見つめなおす全14曲が収録されている。サウンド面では、これまで『FOOLs』(2017年)や『THE WORLD』(2019年)といったアルバムをとおして、ロックンロールという自身のルーツに囚われない幅広いアプローチを貪欲に取り入れてきた多彩さがさらに加速。R&B、ヒップホップ、アイリッシュ、サイケデリック、スカパンクからロックンロールへとジャンルの壁を軽々と飛び越え、音にも、言葉にも、自由な遊び心があふれている。メインソングライターの牧がコロナ禍に得た思想を投影するべく、言葉先行で完成したという今作について、メンバー全員に話を聞いた。

――先行シングル「アメイジングレース」「ロールプレイ」「お子さまプレート」から予感はしてましたけど、自由度の高いアルバムになりましたね。音にも言葉にも遊び心があふれてて。
牧達弥(Vo/Gt):昔から遊ぶっていうのはやってたと思うんですけどね。今回はどっちかと言うと、歌詞に寄り添って曲を作ったことが大きかったと思います。こういうことを言いたいから、この温度感、テンション感を伝えるには、どういう音にすればいいのかを考えながら作っていったんです。
――いつもはそういう作り方ではないですよね?音先行というか。
牧:わりと今回は特殊だと思いますね。いままでは映画みたいな感じで、情景を浮かべながら曲の大枠となるインストを作ってたんですけど、今回はそうじゃなかったんです。
柳沢進太郎(Gt):前作の『THE WORLD』から、牧さんの作り方が変わってきた部分はあったけど、完全に変わり切ったのかもしれないですね。より雑念がない状態で曲に向かってるのを感じます。
――どうして言葉から書きたいと思うようになったんですか?
牧:もっと裸の自分を表現したかったんですよね。作り手として自立したいというか。これだけ音楽がたくさんあって、自分も影響を受けるなかで、いまだに歌詞には可能性があると思ったんです。
――なんの影響も受けずに裸の自分を出せる領域が歌詞だった?
牧:うん、歌詞は本人の想いでしかないですからね。いままで……特に初期の頃は、歌詞に対してすごく葛藤してたんですよ。あとで見たときに「あ、このときは誰かの言葉を拝借してるな」っていうのもわかるから恥ずかしかったんです。もっと遡ると、バンドをはじめたときは英詞で歌ってたんですけど、それも自分の心を隠してたからなんですよね。プリティとかに歌詞を聞かれるのが恥ずかしすぎて、何語かわからない言葉で歌ったりしてて。
長谷川プリティ敬祐(Ba):牧語だったよね(笑)。
牧:そう、俺語で歌ってた(笑)。歌詞を書くのがいちばん苦手だったし、嫌いだったんです。いま考えると、自分の素を見せるのが怖かったんですよね。そういう変遷があったうえで、今回のアルバムで初めて裸の心を出すことできたんじゃないかなっていうのがあるので。結果として、それに追随する音楽もいままでとは違ったものになったんだと思いますね。
――なるほど。
牧:今回、タイトルにした「PANDORA」っていうのは神話に出てくるものですけど、現代に移し替えたら、人の心はパンドラだと思うんです。どんな優しい人でも、「ムカつく」とか「死ね」とか思う瞬間はあると思うんですよ。僕もそうだし。ただ、いまはそういう隠していた部分の垣根がない世の中だと思うんです。ネットのなかで悪口を言い合ったり、誰かが傷ついて亡くなってしまったりする。それはすごく悲しいことじゃないですか。でも、本来お互いが喧嘩をし合ったり、本音をぶつけ合えたら、むしろ仲が良くなったりすることがあるのが人間だと思うんですよね。そういう意味で、いちばんの答えは曝け出すことなんじゃないかと思ったんです。「俺はこういう人間です」「私はこういう人間です」って、ちゃんと曝け出すことで人は理解し合える。だから、このアルバムは、僕らが聴いてくれる人と向き合うための提示というか。僕が曝け出した裸の心を、聴く人が自分に移し替えてもらえたら、自分っていうものがちょっとでも見えてくるんじゃないかなっていうことを考えてましたね。
――メインソングライターの作り方が変わったことで楽器隊に影響はあったんですか?
プリティ:曲を聴いたときに、ちゃんと言葉が入っていくようにっていうのは意識しましたね。
ジェットセイヤ(Dr):俺はあんまり変わらないかな。ずっと牧がメインで作ってきましたけど、進太郎も、シングル、アルバムとコンスタントに曲を作ってきて、go!go!vanillasにはふたりの素晴らしい作曲家がいるっていう体制になったというか。まあ、僕とプリティも作りますけど。そこが確立された作品だなっていうのも感じるので。俺はそこに対して楽しくドラムを叩かせてもらってる感じですね。
――ここ数年でバニラズの楽曲の幅はどんどん広がっていて。今回のアルバムも本当にジャンルレスですけど、アレンジャーであり、エンジニアでもあるイリシット・ツボイさんを迎えた「アダムとイヴ」「倫敦」あたりは、R&B、ヒップホップ路線に思い切り振り切りましたね。
牧:新しい刺激がほしかったんですよ。いままでは全部一緒のエンジニアさんにやってもらってたけど、もう少しビビットにガンッてくる何かがほしいってなったときに、スチャダラパーとライムスターが連名で出した「Forever Young」を聴いて。むちゃくちゃかっこよかったんです。トラックもかっこいいし、リリックも胸アツで。それをツボイさんがやってるって聞いて、一緒にディスカッションをしながら作ったら面白いものができるかなと思ったんですよね。
――ツボイさんと一緒にやりたいと思ったポイントは何だったんですか?
牧:(ツボイさんは)ブラックミュージックがメインなので、僕らのやりたいこととも一致するなと思ったんです。EDMとかテクノとか打ち込み系の人はちょっと違うというか。もとが人力とかアナログ主義な人で、レコードマニアっていうのも知ってるから、信頼できるなと思ったんですよね。
――「倫敦」のほうは、まさにツボイさんが得意とするヒップホップですね。
牧:これは最初にお願いしたときから、ツボイさんワールドでしたね。サンプリングとかスクラッチも入れてもらいつつ、テンポ感に関しては僕たちのこだわりを伝えたりして、お互いディスカッションしながら作れたのはよかったですね。
プリティ:「倫敦」は当日になってから、「ここにこれを入れよう」っていうのを決めたよね。今回のアルバムは、その場で「これやってみたい」っていうのが多かったかもしれないです。
牧:たしかに。今回、瞬発力が大事だなと思いました。「アダムとイヴ」のピアノを井上くんっていう人がやってくれたんですけど、すべて瞬発力って感じの人で。何を要望されてもすぐにアプローチできる。だから音源にライブ感が出るんですよ。あれ、最後だったよね?
セイヤ:うん。
牧:最後にそれを見たときに、久々に鳥肌が立った。
セイヤ:スタジオで汗ダクだったよね。「ライブやりてぇー!」って言いながら、やる感じ(笑)。
柳沢:僕もああいうことをできないといけないなと思いましたね。
牧:うん、次の俺らのフェーズはこれだなって感じました。いまはDTMで作るから、どうしても一定のテンポで作らなきゃいけないけど、セッションで作ったら、もっとフリーな感じにできるなって。
――ちなみにアルバム制作時期は、バンド人生のなかで初めてと言っていいほど、ライブがなくて、曲作りに専念したと思いますけど。そういう環境のなかでの制作はどうでしたか?
牧:曲を作るっていう意味では、俺はよかったなと思ってますね。
――というのは?
牧:何にも縛られずに楽曲に向き合えたんですよ。ライブをすると、ワンマンは別ですけど、対バンとかフェスでは嫌でも影響されるんですよね。盛り上がってるところを見たら、こういうのがいま流行ってるのか、とか考えちゃうし。もちろんそれもいいけど、本来の自分からはどんどん離れていく。それが怖いなと思ってたんです。レコーディングをして、夏フェスに出て、ツアーをやって、また冬フェス出て、みたいなルーティンのなかで曲を出していくと、本来の自分が出すものとは違う外的影響を受けすぎちゃってたんですよ。だから、それがなくなったことで、「はい、ここに真っ白な画用紙を置くので、好きに書いてください」って言われた感じがして。ただ自分の好きなものを書くっていう、デビュー当時の感覚に戻った気がしましたね。
柳沢:前々からマネージャーには言ってたんですよ。ルーティンでコンスタントに曲を書いていかなきゃいけない呪縛みたいなのって、どうやったら断ち切れるんですかね?って。牧さんとも、「急かされていいものができるわけないじゃん」みたいなことを喋ってたんです。もちろん、それは誰が悪いわけじゃないんですよ。
――ええ、メジャーシーンで音楽をやるっていうのは、それだけ背負うものがあるわけですからね。
柳沢:そうです。それを選んでいまここでやってるから、ちゃんと立ち向かわなきゃいけないのはわかるんですけど。ある種、予期しなかった外的要因でそのルーティンがズレるっていうアクシデントがあったおかげで、アルバム全体に割けるマージンが増えた。作るっていうことにおいて、それはラッキーだったと思います。もちろんライブができないのは悔しかったし、辛かったし、そのあと少しずつライブができるようになると、「やっぱりライブがないとな」っていうのもあるんですけど。制作の面では、いい時間をもらったなと思いましたね。
セイヤ:たとえて言うと、グラウンドが整備された感じですよね。
――元野球部らしいたとえですね(笑)。
セイヤ:ずっとルーティンがあると、バッターボックスがぐちゃぐちゃになるわけですよ。
柳沢:トンボがけしないと(笑)。
セイヤ:そう、トンボがけしてもらって。そこで元気よく新曲をレコーディングできた。で、やっぱり当たり前にやってたことがありがたいなって思ったんですよね。この状況で自分の仕事ができない人もいるけど、僕らは音楽っていうフィールドで活動できるので。そこは感謝でしたね。
――プリティはどうですか? 今回の制作を振り返って。
プリティ:最初はライブができないことに思うところがあったんですけど。でも制作のモードになってからは、ベースだったり、曲だったりに向き合える時間が増えたのもあって、音楽に向き合う姿勢も変わったなと思います。強くなったというか。真剣に、いや、いつも真剣なんですけど……。
一同:(笑)。
プリティ:なんかちょっといつもと違ったんですよ。
――プリティの場合は、事故を経て、またアルバム作りの現場まで帰ってくることができたっていう特別な想いもあったんじゃないかと。
プリティ:そうですね。ライブができないってなったときは、本当にすっげえ凹みましたからね。だからこそ制作があって良かったし、そこに真剣に向き合うことで救われたんです。
――なるほど。さっきセイヤくんからも話が出ましたけど、今回は進太郎くんが作曲を手がけた曲が2曲収録されますね。「クライベイビー」と「伺いとキス」。特に「伺いとキス」はサイケデリックな音像にこだわりを感じました。
柳沢:多彩な音像感で曲がそろってきたので、「伺いとキス」は、あえて音像を狭めて、コンパクトなものにしたかったんです。モノミックスっぽい雰囲気にしてもらってて。まだミックス技術が確立してない時代と現代の中間のようなイメージで作りたいと思った曲ですね。
――進太郎くんは音先行で作ったんですか?
柳沢:ああ、どっちだろう。同時ですかね。これを書くときに、日本って平和だったんだなと思ったんですよね。でもコロナになって、人間の脆さが一気に現れてきて。いつもよりムカつくこともいっぱいあったし、逆に最高って思うこともあって、その感情の起伏がジェットコースターみたいな感じだったんです。だから、いつもより歌詞はすんなり書けました。
――歌詞ではそこまで明確に書かれてないですけど、進太郎くん自身、何に対してそこまで感情を揺さぶられたんですか?
柳沢:これは牧さんの言葉を借りるんですけど、最近、世の中がすごくロボットみたいになってるような印象を受けるんですよね。SNSのなかでのやりとりを見ると、人対人じゃない戦いが勃発してて。最初はそれにムカついてたんですけど、だんだん不思議だなと思えてきたんです。目の前にその人がいたら、絶対にそういう言い方をしないじゃないですか。だから、どっちが人間の本心なんだろう?って。そういう不思議を歌詞にできたらと思ったんです。
――メインソングライターである牧くんと進太郎くんが、測らずも同じような方向性で歌詞を書いているのは、どこか人の心というものがないがしろにされているような場面に出くわすことが多いからかもしれないですね。
牧:うん。いまって人の感情がバーッて世の中に蔓延してるわけじゃないですか。ってなったときに、相手を愛する気持ちを持っていれば、もう少しうまくいくんじゃないかなって思うんですよね。ちゃんと「ありがとう」を言うとか、相手を気遣うこと。そういうところが、進太郎もそうだし、俺が言いたいことのいちばんの要約なんです。人間同士だから想いがぶつかることもあるけど、そういうときに少なからず人を人だと思うことは、すごく大事だなって。
――それを端的に歌ってるのが、アルバムを締めくくる「パンドラ」ですね。
牧:はい。もともとこの曲のタイトルは「人」だったんですよ。一行目で<無償の愛>って歌ってますけど、無償の愛っていうことを、すごく考える時期だったんです。キリストの言う隣人愛みたいなもの、「隣にいる人を愛しなさい」っていうのは、俺、無茶だと思ってて。知らない人とか憎んでる相手を愛せるかは、俺はわからない。でも、母親だったり、愛する人でもいいんですけど、自分のために何かをしてくれる人がいるわけじゃないですか。その人のために何かをやるっていうだけで、それは無償の愛なんじゃないかって行き着いたんです。それを、「パンドラ」っていう曲には詰めこみたかったし、僕のなかで『PANDORA』っていうアルバムの答えなんです。
――アルバムを通して聴くと、「手紙」とか「馬の骨」とかで書かれているような一つひとつの男女のエピソードが、すべて「パンドラ」につながっていくような気がします。
牧:そうですね。「手紙」とか「馬の骨」はそれぞれ男女の目線で書いてるけど、全部が無償の愛にもつながる。特に、「馬の骨」には、セイヤの好きな歌詞があって……。
――どこですか?
牧:<あなたが言った 好きな映画の女優の髪型を真似して ネイルもして>のところ。
セイヤ:かわいいじゃないですか(笑)。そこで相手のために自分を譲るっていうのが健気で。
牧:健気さって、ぐっとくるよね。
柳沢:僕、この歌詞で思ったのは、いままでつき合ってきた女の子のことを思い返して、「その髪型かっこいいね」って言われたり、「その髪型は似合ってないよ」って言われたときに、ムカつくときと、ムカつかないときがあったわけですよ。
一同:あはははは!
柳沢:それって、たぶん無償の愛があるかどうか。ちゃんと俺のことを思って、「こっちのほうが似合ってたと思うよ」って言ってくれるのか、単純に外見だけで「それ似合わない」っていう二択で全然違ったんだと思うんですよね。それを、俺も言っちゃったことがあったと思うし。
牧:あとで気づくよね。
柳沢:そこに愛があるかは本当に大事なんですよね。
セイヤ:ま、いまのプリティの髪型は似合ってると思いますけど。
プリティ:ありがとう(笑)
一同:あははは!
――(笑)。まあ、アルバムにはいろいろな愛のかたちがあるけど、人と人が愛をもって向き合える世界であってほしいっていう願いを込めた「パンドラ」っていう曲を最後に入れたことが、コロナ禍の2021年に、バニラズが『PANDORA』という作品を出す意味なんでしょうね。
牧:そうですね。「パンドラ」で歌ってることは、決して終わったことじゃなくて、現在進行形で続いてることですからね。一見すると、コロナとは関係ないように見えるかもしれないけど、実は歌詞のなかにコロナのことも散りばめていて。いま、僕たちは試されてるから。人を傷つける前に、ちゃんと人を見ようぜっていうことを最後に言えたのはよかったと思います。

【取材・文:秦理絵】

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リリース情報

PANDORA

PANDORA

2021年03月24日

ビクターエンタテインメント

01.アダムとイヴ
02.鏡
03.ロールプレイ
04.お子さまプレート
05.クライベイビー
06.アメイジングレース
07.one shot kill
08.ca$h from chao$
09.ひどく雨の続く午後の寝室より
10.手紙
11.馬の骨
12.伺いとキス
13.倫敦
14.パンドラ

お知らせ

■ライブ情報

PANDORA TOUR 2021
~CHAOS & HEARTS~(1日2公演)
1st:目は口ほどに物を言う編 / 2nd:口は災いの元編

04/10(土)大分 DRUM Be-0
04/11(日)長崎 DRUM Be-7
04/17(土)松山 WstudioRED
04/18(日)高知 CARAVAN SARY
04/24(土)周南 RISING HALL
04/25(日)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
04/29(祝木)浜松 窓枠
05/05(祝水)秋田 CLUB SWINDLE
05/06(木)郡山 Hip Shot Japan
05/14(金)富山 MAIRO
05/15(土)新潟 LOTS
05/22(土)高松 festhalle
05/23(日)BLUE LIVE 広島

PANDORA TOUR 2021 ~Mr.&Mrs. HOPE~
06/04(金)Zepp Fukuoka
06/05(土)Zepp Fukuoka
06/11(金)Zepp Osaka Bayside
06/12(土)Zepp Osaka Bayside
06/18(金)Zepp Nagoya
06/19(土)Zepp Nagoya
06/25(金)仙台 GIGS
06/27(日)Zepp Sapporo
07/02(金)Zepp Haneda
07/03(土)Zepp Haneda


※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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