なぜ彼は歌うようにラップし、ラップをするように歌うのか――クボタカイの根っこに迫る

クボタカイ | 2021.03.31

 1999年生まれ、宮崎県出身の現在22歳。2017年からフリースタイルラップを始め、同時期に楽曲制作も開始。YouTubeにアップした楽曲がじわじわと注目を集め、2019年10月にEP「明星」でデビュー。ギターも弾けばトラックも作り、歌も歌えばラップもする(しかもそのスキルはフリースタイルの大会で上位に食い込むほど)、単にクロスオーバーとかジャンルレスとかいう話ではなく、その自由でボーダレスな感性が本当の意味で今のスタンダードを体現するアーティスト、それがクボタカイだ。ついに完成したファーストフルアルバム『来光』はポップなメロディが弾ける「MIDNIGHT DANCING」から同世代の盟友・空音へのアンサーとしてフリースタイルをかましている「拝啓(Freestyle)」まで、クボタカイのさまざまな側面が発揮された快作である。なぜ彼は歌うようにラップし、ラップをするように歌うのか。その表現の根っこに迫ってみた。クレバーな語り口にも注目だ。

――クボタさんってもともとフリースタイル出身じゃないですか。そこから最初に曲を作りたいと思ったとき、クボタさんの中にあったいちばん大きな欲求って何だったんですか?
クボタ:いちばん最初は、好きな音楽を自分で探すより作った方が早いなって思ったんです。自炊みたいな。ロックも好きだし、ヒップホップも好きだし、ポップもブラックも好きだし、その中でちょうどいいやつを聴きたいな、じゃあ作ろうって。
――実際作ってみて、どういう手応えを感じました?
クボタ:思ったよりできたなと思った気がします。YouTubeに上げたら思ったより全然反応があって、ラジオチャートにも入って……打てば響くじゃないけど、意外と結構聴いてくれたな、じゃあ次また何か作ろうって。
――自分の音楽のどんなところがいちばんの強みだと思います?
クボタ:なんか、ジャンルの問題っていうか……たとえばヒップホップのコアの人たちからすると「これはヒップホップじゃない」とか――ロックでもあるじゃないですか、「これロックじゃないよ」とか。それももちろんあるけど、ヒップホップ村とロック村のその橋渡しというか、ちょうどいい具合にいるやつの役割もあると思うし。そこからヒップホップに流れ込んだ人がそこで芯食ったものにたどり着いたら、それは僕の役割として成り立ってるじゃないですか。そういうことなのかなって。ある意味でジャンルにこだわりがないっていう、真の意味はそういうことなのかもしれないけど、いろんなジャンルの橋渡しになればいいなあともサブで思ってる、みたいな。でも本心は作りたいだけなんですけど。

【MV】クボタカイ / ベッドタイムキャンディー 2号

――その感覚って、世代的なものもあると思う?
クボタ:そうですね……僕、1999年生まれなんですけど、ちょうど生まれたぐらいに宇多田ヒカルさんとかがいて。物心つくころにはわりとアイドル全盛っていう世代で。けど、途中でロックもあり、米津玄師さんとか星野源さんとかが出てきて。そのふたりの影響って大きいと思うんです。それ以降の音楽って、なんというか、ブラックミュージックが許されるっていう感じがするというか。そこがわりとキーポイントだった気はしますね。だから、いろんなことができるっていうのを感覚的に知ってる世代だったりするのかなと思います。
――確かに、それは大きいかも。
クボタ:あとは世間的に『フリースタイルダンジョン』とか『高校生RAP選手権』が流行って、それもひとつの入り口になったっていう人はすごい多いんじゃないかなと思います、僕含め。今、CMでもラップいっぱい流れてますもんね。だからもっと身近になってやりやすくなったのかなと思います。
――なるほどね。曲とか歌詞を書くうえでいちばん重要視していることは?
クボタ:情景描写を事細かにするっていうのはわりと大事だと思ってて。なんか悲しいとか、嫌だっていう、そんなこと言っても別に共感しないじゃないですか。「そうなんすね」で終わるけど、例えば、今日雨が降ってて、待ち合わせ場所に先に来てるんだけど、彼女から遅れるって連絡が来て、だけど結局彼女は来なくって、すごい寂しい気持ちになって……って、いちいち言ったら伝わるじゃないですか。伝わるっていうか、なんか入り込める。だからなるべくそこの表現をヴァース部分でやるようにしてます。あとは、ただ自分の体験談を語りたいわけではないんですけど、何か自分がリンクできるっていうか。曲の種火は自分から出したいなと思ってますね。

クボタカイ "Wakakusa Night." (Official Music Video)

――うん。クボタカイの歌詞って、解像度がめちゃくちゃ高いなって思うんだよね。普通に生きていたら見過ごしがちのところにパッてフォーカスを合わせる感じというか。「ああ、見えてなかったけどあるよね」みたいなものがすごく多い。
クボタ:普段わりとぼーっとしてたりするんですけどね。すごいお喋りなオンタイムのときもありますけど、割とずっと、考えごととかしてることが多くて。考えごとって悩みごとじゃなくて、雨降ってるな、水溜りがあるな、みたいな……わかんないですけど、そういうすっごいどうでもいいこととかを考えながら歩いてるんで。だから歌詞書けてよかったなというか、それで歌詞書けなかったらただののろまなやつっていう(笑)。
――まさにそれ。雨が降ってるな、で止まらないでそこを掘っていくみたいな感じというか。
クボタ:平安時代みたいに(笑)。ちっちゃいことをほじくって文学にするみたいな。
――そう。それは文学的というか、実はすごく音楽的なものの見方なんだと思うんですよね。で、それを伝えるにはたぶん言葉だけじゃダメで、だからクボタカイはメロディを作り始めたんだと思うんですよ。
クボタ:ああ。そこはフリースタイルしてて良かったと思いますよね。だって、そういう思いついたことをすぐにメロディになじませることができるから、速いスピードで。
――どういうメロディが好きなんですか?
クボタ:シンプルなメロディが好きなんですよ。「せいかつ」とかもサビは音程が4つしかないんですけど、そういうシンプルだけど、残るメロディが個人的にツボですね。だから、ちょっと難しいのを入れるとしても、サビの終わりですごい変な感じのコードに落ち着けるとか。だからなんていうかな、めちゃめちゃまず難しい人用に作ってるっていうわけではなく、普通の曲として聴けるけど、よく聴けば「これ、やってんな」っていう。そういう具合にしたいなと思って作ってますね。

クボタカイ "せいかつ" (Official Music Video)

――うん。それってラップにおいても同じじゃないですか? 今回「拝啓」でフリースタイルをやってますけど、昔やってたものと、今回やってるものって違いますよね。。
クボタ:違いますね。昔やってたフリースタイルは曲メインではなかったから。根が超スポ根なので(笑)、絶対負けたくないから、勝つフリースタイルをしてたっていうか。お客さん判定なんで、わかりやすく長い韻踏んでワーッてなったり、すごく悪口を言うタイプではないけど、ちょっと毒づいてみたり。そういう感じでしたけど、それって結構ぐって力入れた「見せ筋」的なフリースタイルじゃないですか。けど、たとえば鎮座DOPENESSさんとか、インナーマッスルでラップしてる感じじゃないですか。それがしたいなと思って。この「拝啓」は空音ってラッパーが俺宛に書いた曲へのアンサーソングなんですけど、それはフリースタイルでしたいなと思ってやりました。あと俺、4月10日に久々にバトル出るんです。「戦極MCBATTLE」っていう日本統一マッチがあって。
――おお!
クボタ:それもインナーマッスルで、勝ちたいというよりかっこいいラップしたいなって思ってます。
――なるほどね。ケンカじゃないというか、ケンカはケンカだけど……。
クボタ:何かカポエイラとか、そういう感じで勝ちたいです(笑)。
――蝶のように舞い蜂のように刺すフリースタイル(笑)。そのインナーマッスル、ついてきたなっていう感じはありますか?
クボタ:そうですね、ある程度ついてきたけど、まだ完成ではないです、全然。けど、未完成なところも含めてトライしたいなと思ってやってます。
――うん。いや、でも今回のアルバム聴いてると、ラップだけどラップじゃないというか、もうこれ「歌じゃん」って思う瞬間がいくつもあって。
クボタ:なるほど。
――ラップだけど、同時に歌でもあるっていうイメージはクボタさんの中にもあるのかなと思ったんですけど。
クボタ:わりとそれは意識してるっていうか。お風呂場でフリースタイルしたりするんですけど、なんか曲作るときのテンションで1ヴァース蹴ろうみたいな感じは意識してますね。バトルのときは相手が言ってきた1ワードから広げてここで着地してみたいなのを考えてたんですけど、曲作るときは、ビートを聴いて……フローっていうか間? みたいなものはすごく考えます。

クボタカイ "TWICE" (Official Music Video)

――そういう価値観の転換? 見せ筋じゃなくてインナーマッスル鍛えなきゃっていうのはいつ頃から思うようになったんですか?
クボタ:バトルに出たいなとはずっと思ってたんです。友達のRin音とかも出てたし。でも出るとして、昔のままのバトルもすごい楽しいけど、今それをしたところで……YouTubeでバトルを観てて、昔僕がやってたようなスタイルでラップしてる人たちを見ても、そんな食らわなくなっちゃったんですよ。逆に昔は「何がしたいんだろう」とか思ってた人を改めて聴いてみたら、「すげえ音楽的なことしてるんだ」とか思うようになって。受け手としてそういうふうに思い始めたから。今自分がかっこいいと思うことをした方が、正義っていうか、自然だし。
――そう感じるようになったのは、こうやって音楽を作って歌ったりすることを始めたこととも関係ある?
クボタ:あります。やっぱり、作っていく側になってるからこそわかる凄さとかもあるじゃないですか。だから聴き手としても変われたっていうことなんじゃないかなと思います。
――うん。まあ、逆にいうと今韻踏んでるのってラッパーだけじゃないですからね。ロックバンドだってアイドルだって当たり前にやってるし。
クボタ:間違いない。RADWIMPSとかすごい上手いし。もう当たり前ですよね。海外だとそれがもっと当たり前だし。
――そういう意味ではこの時代のスタンダードなんだと思うんですよね、クボタカイの音楽は。ちゃんと韻を踏んでて、ちゃんとメロディがあって、しかもちゃんとポップであるっていう。それが「新しいね」ってことなのかもしれないけど、本人の意識としては「今の普通をやってるんだけどなあ」って感じなのかなと。
クボタ:そうですね。だから、毎回困ります、わりと。「新しいことしてますよね、昔の人たちと比べて」って言われても……もう、「じゃあ、ここではそうしとくか」みたいな(笑)。ヒップポップっていろんなものをミックスして1曲作ったりするじゃないですか。なんかそれを体でやってる感じですね。いろんなものを聴いてミックスさせて。

Youth love - クボタカイ (Official Lyric Video)

――その「新しいですね」が「こんなのヒップホップじゃねえだろ」になることもあると 思うんですけど。
クボタ:「ヒップホップじゃねえだろ」はノーダメージっていうか、そうですよねっていう感じ。こだわりはすごくあるんですけど、そこにはこだわってないから。でもだからこそ、何も作ってないんでまだ言えないですけど、1曲どこかでゴリゴリのヒップホップとかもやりたいんですよ。T-STONEくんとかと一緒に作りたい。本人と約束してるんですけど。なんかすげえポップソングとか出た後とかにゴリゴリのやつやって。そこで嘘はつけないからフレックスとかはできないけど、ただただうまいやつを作ったり、逆にめちゃめちゃクラシックなやつもやってみたいし。田我流さんみたいな。
――なるほどね。それ、面白いかもしれないですね。でもそれもきっとクボタさんにとっては自然なことなんですよね。あえて逆行ってやろうみたいなことでもなくて。
クボタ:そうですね。ちょっとギターで曲作りすぎたからそろそろラップの曲作らないとなとか思ったりすることもあるけど、マインド的な分け隔てはあんまりないですね。でもギターだと感情的にっていうか、パッて作れるから、「やべ、作らなきゃ」と思ったら作りやすいというのはあるかもしれないです。
――そういう意味では今回の『来光』のバランスはどうですか?
クボタ:もうちょっと落ち着いた曲を作りたかったというのも正直あるかもしれない。けど、明るい「MIDNIGHT DANCING」とか「TWICE」みたいな曲があるぶんの皺寄せが1曲目の「僕が死んでしまっても」に来てるなっていう感じもするし。でも、当たり前だけど同じ人間が作っていて、しかもクボタカイっていう“色”が出やすい人が作ったから、やっぱ聴いてて統一感はあるなと思います。客観的に見て、1本の芯があるかなと。今できるものは、これに一応詰め込めたと思います。

MIDNIGHT DANCING - クボタカイ(Official Music Video)

――このアルバムを経て、ここからどういうふうに進んでいきたいと思ってますか?
クボタ:そうだな……もちろん武道館とかでライブしたいです。やるからには半端に売れるんじゃなくて、それこそビリー・アイリッシュみたいなレベルで売れたい。あとは、ポップソングをちゃんと作りたいですね。結局、承認欲求なんで(笑)、どこまでいっても。でもその承認欲求がいいほうに作用しているのかなと思います。「いい曲作れてるぜ」っていう自分もいつつ、何割かは「これで本当にいいのかな」ってずっと思ってて。それってすごくいい方向じゃないですか。そうやって何かに追われてるっていうか、自分で自分を殴ってる感じ。その感覚を飼いならしていきたいし、今はすごくいい塩梅だなと思ってます。

【取材・文:小川智宏】


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リリース情報

来光

来光

2021年04月07日

SPACE SHOWER MUSIC

01.僕が死んでしまっても
02.MENOU
03.ベッドタイムキャンディー2 号
04.MIDNIGHT DANCING
05.TWICE
06.春に微熱
07.博多駅は雨
08.インサイダー
09.パジャマ記念日 feat.kojikoji
10.Youth love
11.拝啓(Freestyle)
12.せいかつ
13.アフターパーティー

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