向井太一の中心にある「無色」の自分自身を見つめ直した『COLORLESS』

向井太一 | 2021.04.21

 向井太一が4作目となるアルバム『COLORLESS』を完成させた。前作『SAVAGE』は自身の内面に深く潜り、そこにある苦悩や孤独と向き合った果てに生まれたディープなアルバムだったが、そのアルバムツアー、そして配信EP『Supplement』を経てたどり着いたこのアルバムはそれとは明らかにモードが違う。EPでもタッグを組んだ百田留衣(agehasprings)やT.Kura、さらに海外からもAzad NaficyとWilliam Leonといった多彩なプロデューサーを迎え、それぞれの個性を生かしながらバラエティ豊かな音楽を作り上げた1枚は、そこに込められたテーマやメッセージという意味でも、これからの向井太一の指針となるべき作品だと思う。多くの色を纏いながら、その真ん中にある「COLORLESS」、つまり「無色」の自分自身をちゃんと見つめて歌う彼の姿は、凛として眩しい。

――素晴らしいアルバムができました。
向井太一:今回はいつも以上にすごく時間をかけて作りました。結構どしっと構えた状態で作り上げたなって感じです。前回の『Supplement』と同時に作った曲もあって、その曲たちはまた別なんですけど、アルバムを作るって決まったときにはもうコンセプトも固まっていたんです。
――『COLORLESS』っていうアルバムが本当にすべてを象徴していますよね。どの曲にもちゃんとそこにつながる思いが歌い込まれている。ここに込めた思いを教えてもらえますか?
向井:『COLORLESS』というのは無色な状態から自分を描いていくっていうのもあるんですけど、もともとは……自分自身がちょっとずつキャリアを重ねていって、音楽はもちろんですし音楽以外のお仕事もさせていただいたり、あとは音楽だけじゃなくてアートワークも作ったりとか、自分自身をセルフプロデュースするみたいなことをずっとやってきたので、今はいろんな色を纏ってる状態だと思っているんです。でも、その中でも音楽っていうコアな部分は自分の中では無色な自分だと思っていて。そういう自分を振り返るっていうか、原点回帰っていう意味もあります。
――そういうコンセプトにたどり着いたのには何か背景があります?
向井:今回のアルバムは去年のコロナ禍に入ってから作り始めたので、すごく自分自身と向き合う時間が長くて。世界的にもすごく揺れ動いた年だと思うんですけど、自分自身に対しても、世の中に対しても不安があったりして。どうしてもダウナーになりやすい時期が長かったと思うんですけど、そういう人たちの背中を押すような自己愛について歌いたいなっていう思いがあったんです。『Supplement』とか前作のアルバムの『SAVAGE』と歌ってる内容はあんまり変わらないんですけど、その方向性をより未来へ、明日へ、明るい場所へ向かわせているっていう、そんなアルバムになってますね。
――コロナで自分に向き合った結果、音楽がコアな部分としてあって、そこには変わらず無色な自分がいるんだっていう自己像に行き着いたということですよね。でも、それこそ『SAVAGE』までの向井太一は、むしろ「自分は何色なんだろう」って自問し続けるアーティストだったと思うんですよ。そこはかなり違いますよね。
向井:そうですね。振り切れたとかそういうことではないんですけど、それすらも自分なんだなっていうように思えるようになった。そこはやっぱり、『SAVAGE』のツアーが自分の中ですごく満足度の高いツアーになったのが大きいですね。あれだけ自分が落ち込んだ状態で吐き出すように作ったアルバムを、たくさんの人が受け入れてくれて。曲に昇華できたことで、そういう感情すらもあってもいいんだと思えたし、何かそういう不安とかもきっと一生続けるものなんだなって飲み込めたというか、受け入れることができたんです。そういうものも抱えつつ、どう進んでいくか、どう力に変えていくかという方向にシフトチェンジできた。あとは去年、活動が全然できなかった時期に、いい意味ですごくリセットできたんですよ。ただ自分が落ち込むだけじゃなくて、周りにもそういう人たちがたくさんいるってことを知ったときに、やっぱり自分にできるのは音楽を作ることだなって思って。そこでまた自分のアイデンティティというか、本当に無色な自分が浮き出てきたというか。そんな感覚でしたね。
――去年、『Supplement』のリリースライブをZepp Hanedaから配信したじゃないですか。あれを観ていてすごくいいライブやってるなあって思ったんですよ。
向井:本当ですか? ありがとうございます。
――当然(目の前に)お客さんはいないから、コミュニケーションとかそこで生まれる熱やグルーヴっていう意味では当然難しい部分もあったとは思うんですけども、それを突き抜けてなお、すごく簡単な言葉を使うと音楽をとても楽しんでいるというか、自然体で音楽に向き合って、しかもそれを外の人に届けているっていう感じがあって。
向井:でも、あの日は去年1年間で最強に喉の調子が悪くて(笑)。めちゃめちゃ怖かったですね、あの時のライブは。でもその時はもう『Supplement』っていう作品があったし、とにかく思いを伝えることにフォーカスを当てようと思って。もうどうなってもいいやっていう気持ちでした。
――そこで「We Are」を初披露して。今回アレンジを変えてボーナストラックとして収録されていますけど、あの曲こそまさにあの時期に何を伝えるべきかとか、ライブで何を届けるべきかが凝縮されているような曲ですよね。
向井:「We Are」は本当にコロナでファンの人たちとかと直接お会いする機会がなくて……今話しながら思い出したんですけど、配信ライブのイベントに自宅から出たことがあったんですよ、1回。そのときに「空」のリミックスを歌ったんです。「空」ってだいたいライブの最後の曲としてやっているんですけど、その時に自宅で配信で歌いながら、ライブのときのファンの人たちの顔が思い浮かんで、すごく気持ちが入っちゃって。離れて会えないからこそ、繋がりをすごく感じることができたなっていう気持ちがあったんですよ。「We Are」はそういう、本当に会えないときこそ繋がりを感じてほしいっていう、ファンの人たちのことを思って書いた曲ですね。
――そういう意味ではあの曲で歌っていることって、アルバムで伝えようとしていることとはちょっと違うじゃないですか。でも、どこかしらで繋がってるなっていうふうに思うんですけど、ご自身ではどうですか?
向井:完全にファンの事を歌ってる曲っていう意味では、他の曲とはちょっと違うかなとは思います。他の曲は応援歌にはなりつつも、あくまでも自分を主体としたもので。どこかリンクしてくれればいいなっていうのはあるし、結構混じり合っている部分もあるんですけど、「We Are」に関してはファンの人たちに向かって歌っているっていう。そういう意味で今回ボーナストラックに入れたっていうのもありますね。僕はどっちかっていうと、先へ進んで引っ張っていくよりは隣に寄り添って一緒に進んでいきたいっていうタイプなので……痛みを知らない人には痛みを抱えている人の気持ちはわからないと思うし、自分が感じているからこそ、同じことを感じている人たちを助けたいなっていう気持ちがやっぱり強いんです。
――その、自分の中にある痛みや苦しみがあるじゃないですか。『SAVAGE』は特にそうですけど、どちらかというと「これはわかってもらえない、誰にも共有されない」っていう思いのほうが強かったような気がするんです。
向井:ああ、ありました、ありました。だけど『SAVAGE』を出して受け入れられたことが大きかった。層がちょっと広がった感じがしたんです、手応えとして。でも、だからといってやっぱり、自分は完全にハッピーな曲は書けないなと思うんです。あくまでも自分の気持ちが先行して曲作りをしてるからっていうのもあるんですけど、こういうときだからこそ、ただ「未来は明るいよ」って曲は書けない。そういうことに関しては嘘偽りなくやっていきたい。『SAVAGE』を出して気持ちが変わったからといって状況が変わったわけではなかったんで、そういうのはやっぱり引き続き持ってますし。だけど、ただ自分は音楽をするべきだというか、自分ができることは音楽を作ることだなっていうことだけはわかったというか、再確認しました。
――このアルバム、「僕のままで」から始まるじゃないですか。その「僕のままで」は本当に自分自身に向き合って書いた曲だと思うんです。でもそこから始まる曲が、今までもそうだったと思うんですけど、すごく僕と君みたいな関係性にフォーカスしている感じがあって。「君」という存在がよりはっきり見えているという感じがするんです。
向井:ああ、漠然とした曲みたいなのはあんまりないかもしれないですね。自分自身の曲を歌ってても、誰かに向かって届けばいいなっていう気持ちはありますね。
――今回、プロデューサーもかなり多彩な方が参加されていてサウンド的にもかなり幅が広くなっていますよね。そういうイメージも当初からあったんですか?
向井:幅広く聴かせたいなっていう気持ちはありましたね。百田(留依)さんとかは『Supplement』から引き続きなんですけど、すごく王道で、曲の世界観を広げてくれるようなものでしたし、自分の中でルーツミュージックにもつながるT.Kuraさんとかmichicoさんだったりとか、あとは今までやってきたCELSIOR COUPEとかもいつつ、今回は海外のアーティストさんも参加していただいたりとか、そういうところでは自分の音楽的なアンテナをずっと持っていたいっていう気持ちもあるし。今までやり続けたことと新しくやってることと、本当に色鮮やかな作品になったんじゃないかなって思ってます。でもサウンド面では全体としてこういうものにしたいというのは正直なくて。本当にその時やりたいことをやりたい人たちとやっていたものが集結したみたいな感じになってます。
――そこはすごく自由だったんですね。
向井:めちゃくちゃ自由でした。作ってて楽しかったですね。
――mabanuaとやっている「Ups&Downs feat.mabanua」なんて、もうモロにmabanuaが出てるなあと思って(笑)。
向井:確かにめちゃくちゃレイドバックして歌いたくなるような(笑)。そういうのもやってみたいっていう気持ちがすごい大きかったですね。あとはT.Kuraさんとmichicoさんに関しては、T.Kuraさんとご一緒したときは絶対michicoさんに歌詞をお願いしたいと思ってたんですよ、いちファンとして。そういうのもあったし、前みたいに完璧に自分が全部やるっていうのも大切だけど、誰かと一緒にやったときのほうが自分の気持ちにすごい寄り添う曲になったりもする。そういう発見とか、化学反応みたいな面白さは感じていましたね。でも百田さんのメロディラインとか、全然自分が作っているものと違う感じだったんで、レコーディングはめちゃくちゃ難しかったですけど(笑)。
――そうやってどんどん新しいことに挑戦して、自分から開いていって新しいものを取り入れることで、かえって自分自身が見えてくる、みたいな。それがまさにこのアルバムのテーマだし、だから、アルバムの最初と最後が「僕のままで」と「Colorless」という百田留衣プロデュースの曲になっているというのもすごくシンボリックだなあと。
向井:「Colorless」は『Supplement』をリリースした後に作り始めたんですけど、本編最後は「Colorless」、最初は「僕のままで」っていうのはその時から決まっていましたね。アルバムのタイトル曲にしたいというのも思っていました。
――そういえば、「Colorless」のミュージックビデオでは演技にも初挑戦していますね。


向井:はい。めちゃくちゃ緊張して、1週間前ぐらいからずっと胃が痛くて(笑)。脚本の水橋文美江さん、そもそも初演技で水橋さんにお願いできるっていうのがすごいことなんですけど、結構しっかりしたセリフとかを用意してくださっていて。まずその量にびびっちゃったんですけど、共演してくれた戸塚純貴君や周りのスタッフさんに支えてもらったのもあって、楽しみとか面白さも同時に感じました。
――歌うのとは全然違う表現ですもんね。
向井:全然違いました。あくまでも歌うことは自分自身でしかなかったんで。歌でも演じているとはいえ、まったく自分が体験したことのないストーリーを演じるっていうのは、すごく新鮮でした。泣くシーンがあったんですけど、そこ、目薬とか使わずにちゃんと泣いたんで、そこはひとつ安心しました(笑)。よかったーって。
――はははは。その「Colorless」は<僕なりのストーリー/知らないうちに/見覚えのない 色が混じってた>っていうところから始まって、<混ざった色になっても/心だけは 真っさらだ>という気持ちに辿り着くまでの物語になっていて。すごく外向きのメッセージになっていると思うんですけど、実は「僕のままで」で歌っていることとそんなに変わっていないんですよね。
向井:そうなんですよ。
――同じことを思いながらも、その向いている矢印が180度変わっているっていうのは、この1年、このアルバムに至るまでの向井さんの気持ちの変化を表しているようにも感じました。あとは「Get Loud」のアッパーさも新鮮でした。
向井:「Get Loud」ができたのは……世の中で命について考えさせられるニュースがすごく多くて、暗いニュースとかが次々と目に飛び込んできて、何が起きてるんだろうっていう不安があったんですよね。そこからすごく命についての歌詞を書くようになったんです。自分の関わってる人とかファンの人たちが今、そういうことに疲れてたり悩んでいたとしたらすごく怖いなって気持ちになって、大げさですけど、それを自分の音楽で助けられるんであれば助けたいなっていうので書いた曲なんです。
――うん。だからかなりシリアスなテーマの曲だなと思うんです。だけどこの音だし、ライブで盛り上がれといわんばかりのコーラスが入っていたりして。そのバランス感が面白いなと。
向井:でも、歌詞がない状態で最初作ったものはもっと明るかったんです。EDMまではいかないけど、もっとクラブミュージックっぽいサウンドで。そこから歌詞を書く中で、それに合わせてサウンド感をすり合わせていくみたいなことはありましたね。
――そのバランスが絶妙ですよね。常に全体像を客観的に見ているような視点があるというか。その結果、重心がどちらにも偏らない、ど真ん中でどっしり構えた曲になったし、アルバムになったということだと思うんです。
向井:確かに。あんまり天の邪鬼の部分が出てないというか、百田さんの曲は特にだと思うんですけど、どストレートに歌詞とリンクするようなサウンドだったりとか。結構ど真ん中を行った気がします。
――そういうのって、ちょっと恥ずかしいみたいなのもあるじゃないですか。
向井:ああ、でもなくなりましたね。昔はもっとあったんですけど。僕が子供のときに聴いてた音楽ってやっぱりマイノリティだったし、ヒットソングはなんかダサいみたいなちょっとイキってた部分もあったんで。でも今は、自分は自分でしかないし、自分自身が今これをやりたいって思えるんだったら何やってもいいやと思ってます。やりたくないのはもちろんあるんですけど、それに外れなければ何でもやってもいいやっていう……自由だけど、コアな部分はちゃんと持ってるみたいな感じです。すでに次の制作が始まってるんですけど、結構自由になってますね。柔軟になったと思います、昔以上に。
――なるほど。音楽そのものに対する向き合い方も変わってきたわけですね。
向井:より価値感が広がったみたいなのはあります。売れる人にはやっぱり売れるだけの理由はあるし。同時にコンプレックスも感じるけど、でも尊敬します、やっぱり。曲に関して言えば、「1回やってみる」というのはすごくやるようになりました。誰かから意見を言われたときに、それを否定せずに、1回やってみる。それでやってみたら意外に良かったりとか、もっといい曲になったねっていうのもあったから。「Love Is Life」なんかは結構その部分に時間をかけたんです。メロディラインとかも修正してましたからね。
――ああ、スタッフとかから「こうしたほうがいいんじゃない?」って言われて?
向井:「もっともっと、引っかかるようなものが欲しい」みたいな。最初は「なんだよ」とか思いながらやってたんですけど(笑)、やってみたら「これいいね」って思えた。やってよかったなあっていう。それはやっぱり、チームのみんなも曲に真剣に向き合ってくれたからだなと今になって思う。前はもっと頑固だったと思うんです。でも、自分の無色のままの自分があれば、上にどんどん重ねても大丈夫なのかなって。染まることを恐れない、ということはつまり染まってないということなんだ、みたいな。言い方難しいんですけど(笑)。ひとつだけ言えるのは、自分の中心に無色の自分がいるっていうことが、まず大切だなっていうことですね。それが見えなくなったときはちゃんと見つめ直すことがすごく大事だと思います。そこで見つけたものは変わらないものだと思うから。

【取材・文:小川智宏】

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リリース情報

COLORLESS

COLORLESS

2021年04月21日

Toy’s Factory

01. 僕のままで
02. Love Is Life
03. Ups & Downs feat.mabanua
04. BABY CAKES
05. Comin’ up
06. 悲しまない
07. Get Loud
08. Don’t Lie
09. What You Want
10. Sorry Not Sorry
11. Bed
12. Colorless
Bonus Track. We Are ※CD ONLY

お知らせ

■ライブ情報

COLORLESS TOUR 2021
06/03(木)大阪 なんばHatch
06/05(土)東京 Zepp DiverCity

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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