大弦楽団と共に繰り広げられたエレカシ新春武道館公演をレポート
エレファントカシマシ | 2011.01.19
2011.01.09@日本武道館
暗くなった日本武道館に、ドビュッシー「月の光」が流れ生のストリングス演奏が入り、ベートーベンの「月光」そのピアノの調べとストリングスのが重なる。荘厳な空気に包まれたステージに現われたエレファントカシマシは、その空気を引き裂いて後方に並んだ14人のストリングスと一体になり、「奴隷天国」をぶちかました。初期の彼等を象徴するこの曲のアグレッシヴさを少しも薄めず、しなやかな弦楽団の音と共存するエレカシのパワーに、のっけから圧倒された。
宮本浩次らがバンドを結成した81年、デビューした88年、「奴隷天国」がリリースされた93年、4人の気合いに溢れた10年前の新春武道館公演、桜の花舞い上がる武道館と銘打たれた08年4月の武道館、そしてこの日、最新作『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』の全13曲を軸に、計30曲3時間に及んだステージ。その場で曲を決めたアンコールの最後は、88年の2作目収録曲「待つ男」。言わずもがなに点が繋がり、バンドの歴史という物語を描き出していた。
この日の宮本たちが回顧を目指したわけでは、勿論ない。むしろ宮本は常に、よりよき明日を見据えて歌ってきたのだし、がむしゃらに4人で進んで来ただけ。その答えが今の彼等なのだ。危なっかしさや乱暴さで覆いながら、歌を聴いて欲しいと純粋に思い続ける宮本の、切々とした声が武道館の高い天井まで満たしていた。
広いステージの後方には金原千恵子ストリングスの14人、上手にギターの昼海幹音、下手に鍵盤の蔦谷好位置という配置。この面々で武道館に立つのは2度目とはいえ、ストリングスがバンド・サウンドと自然に寄り添っているのは驚きに値する。蔦谷のスコアと金原のセンスが、エレカシというバンドの上で、見事に花開いていた。そしてバンドは楽器それぞれの音がクリアでスケール感があり、起伏に富んだ演奏で歌を引き立てる。宮本がけれん味たっぷりに歌うのは、安心感があるからだろう。弦は曲によって出入りするが、それで揺らぐものは何もない。最新作からの「moonlight magic」や「九月の雨」などは、エレカシがこれほど安定感のあるバンドだったかと思い知らされたし、ドロップ・ビートにアレンジを変えた「珍奇男」の後半で見せたジャムセッションの高揚感は、これぞエレカシというべきものだった。
かつてのエレカシは、オーセンティックなグルーヴを醸し出すロック・バンドだったが、今は更にヘヴィでパワフルな懐の深い音のオルタナティヴなバンドになっている。『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』で宮本が目指したサウンドでもあるのだが、蔦谷と昼海のサポートを得てバンドが進化したことで可能になった演奏といえるだろう。
黒のカーテンと照明だけのシンプルなセットの、ステージ両翼に設置されたスクリーンに映る映像は、宮本のいい表情を憎いほど捉えていた。また終盤「悪魔メフィスト」の導入となる「朝」では日蝕の映像や雷雨の効果音を使い、新鮮かつドラマチックに演出。その先は曲順を決めずバンド+昼海&蔦谷で2度のアンコールに応え計7曲と、この上なくスリリングな展開になったのは、どんなに成熟してもアグレッシヴなヤンチャ心を失わず、進み続けるという彼等の宣言だったように思う。
終盤には「お互い体力勝負だ!」と自らを鼓舞するように宮本が叫ぶシーンもあったほどの真剣勝負で、気がつけば30曲3時間。一度置いたマイクを持ち「いい年がやってくるぜ」と言い放ってステージを去った宮本は、新しい希望をみつけたかのように、明るい表情をしていた。この日発表になった4月からのツアーで、更に一歩進んだエレカシに会えることだろう。
【 取材・文:今井智子 】
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リリース情報
セットリスト
- 奴隷天国
- 今はここが真ん中さ!
- 脱コミュニケーション
- moonlight magic
- 旅
- 九月の雨
- 翳りゆく部屋
- 歩く男
- 珍奇男
- 赤き空よ!
- 夜の道
- 赤い薔薇
- 幸せよ、この指にとまれ
- ハナウタ~遠い昔からの物語~
- 彼女は買い物の帰り道
- ネヴァーエンディングストーリー
- シャララ
- 明日への記憶
- 笑顔の未来へ
- いつか見た夢を
- 桜の花、舞い上がる道を
- 朝
- 悪魔メフィスト Encore
- 平成理想主義
- シグナル
- 四月の風
- 俺たちの明日
- ガストロンジャー
- ファイティングマン Encore 2
- 待つ男