3回目となるイベント“version21.1”は、開演前から昨年以上の熱気が渦巻いている。それもそのはず、イベントを立ち上げたサカナクション、the telephones、OGRE YOU ASSHOLEの3バンドは音楽シーンを牽引する存在として注目され、さらに今年の全国5ヵ所に拡大した“version21.1　third”ツアーの東京ファイナルには、若手最注目バンドのandymoriが参戦するのだ。このところ動きを加速しているバンド・シーンのレボリューションに、いち早く気付いたリスナーがZEPP TOKYOに詰め掛けた。

　このイベントでおなじみの前田博章のDJプレイから、場内の客電が消灯すると、大きな大きな歓声が上がる。楽器セッティングで一番手がサカナクションだということは分かっているのだが、実際、イベントのしょっぱなにサカナクションのメンバーが現われると、フロアの興奮はあっさりピークに達する。

ブルーの光が織り成すライト・ショーの中、ステージ前方にセットされた2台のフロアタムを、岩寺基晴(g.)と草刈愛美（b.） が爆音で鳴るトラックに合わせて思い切り叩く。岡崎英美（key.）と江島啓一（dr）が定位置に着く。最後に山口一郎(vo,g.) が出てきて「トップバッターのサカナクションです。みんな、盛り上がりましょう」と言って始まったのは「Ame(B)」だった。

去年のこのイベントでのオープニングも、この「Ame(B)」。山口がトラックとともに歌うと、オーディエンスも♪アメフルヨル♪と合唱しながら、全員のアクションを通して“盛り上がり”をサカナクションに返す。と、山口が「Hey!」とジャンプいちばん、バンドがズドンとトラックに加わった。素晴らしい滑り出しだ。曲中にはレーザーが飛び交い、山口はパントマイムのようなポーズで音楽を身体でも表現する。非常にドラマティックなオープニングとなった。

昨年の2曲目は、「ライトダンス」だったが、今年は「アルクアラウンド」だ。去年はこのイベントで新曲として演奏されたこの曲で、サカナクションはブレイクを果たした。それだけに、去年、バンドが獲得した自信が、この「アルクアラウンド」にもろに表われる。江島の力強いビートの中、岡崎のシンセのイントロが曲の輪郭をくっきり描く。サビでの岩寺のハーモニーがいい。また草刈がつけるBメロのコーラスもいい。メンバー全員がそれぞれの特長を出しながら1 曲を構成していく力は、去年より明らかに上がっている。

続く「セントレイ」は、完全にフロアライク。山口が標榜するライブならではの“クラブ・テイスト”が爆発する。オーディエンスは誰もが笑顔で、サカナクションの音楽に身を預けている。4曲目「Klee」まで一気の、ド迫力のセットリストだ。

山口がTシャツ姿で話し始める。「ファイナルにお越しくださって、ありがとうございます。東京でこのイベントをまたやれて、嬉しいです。しかもファイナル！充分に楽しんで帰ってください」。

「ホーリーダンス」、「マレーシア32」でそれまでとちょっと違うアンサンブルを聴かせた後、山口が「じゃ、新曲を」と言って3月16日リリースのニューシングル「ルーキー」を披露したから、オーディエンスは大喜び。ビートとメロディにしっかり絡みながら、まるでポエム・リーディングのようなリアリティで耳に飛び込んでくる言葉の群れに、サカナクションの最新の表現テーマを見た思いがした。

「ありがとう。最後の曲です」と、ラストは「アイデンティティ」。これまでのキャリアと、昨年の収穫、さらには新曲も盛り込んだ“最強の セットリスト”に、2011年のこのバンドの活躍が約束されていた。

　 この後、DJブースにthe telephonesの石毛 輝が乱入してフロアを煽る。新ドラマーを迎えたandymoriは、キラリと光るリリックを、OGRE YOU ASSHOLEはウイットに富んだアンサンブルを、そしてトリのthe telephonesは、ZEPP TOKYOに似合うダンサブルなロックを力いっぱいオーディエンスに放り投げた。

　“version21.1　third”は早くも今年のバンド・シーンの重要なマテリアルを提示して終了したのだった。

【 取材・文：平山雄一 】
【 Photo by 古溪一道 】