雄々しいロックを目指して、the pillowsは誇り高き角を突き上げる
the pillows | 2011.04.01
最新アルバム『HORN AGAIN』のタイトルを直訳すれば、「ツノよ、再び」。the pillowsは、20年を超えるキャリアをもって、その存在のありのままをシーンにアピールすることに成功した感がある。独自のポップ・テイストが支持の幅を広げたことは確かだが、一方でアグレッシブなバンドの姿勢が不変なことは忘れてはならない。ロックバンドとしての美意識を貫くために、オーディエンスとのコミュニケーション、メディアでの扱われ方にメンバーは細心の注意を払ってきた。だから「ツノよ、再び」というタイトルどおり、今回のアルバムに関するインタビューでは、ポップバンドとしての側面ばかりを見ようとするマスメディアに対して、攻撃的な発言が多かったように思う。the pillowsはまさに、角を突き立てていた。バンドを取り巻く状況に安住しないという危機感が、ひしひしと伝わってきた。
だからツアーに注目が集まった。2月18日、水戸から始まった「the pillows“HORN AGAIN TOUR”」の序盤、5本目の新木場スタジオ・コーストに行ってみた。
山中さわお(vo&g)、真鍋吉明(g)、佐藤シンイチロウ(dr)、サポートの鈴木淳(b)というメンバーは、不動。ビートを刻むステディなギターとベースを、大きく包み込むドラム。PAスピーカーから出る音は抜群に良い。特に真鍋のギターの音色がいい。そして歌い出した山中の最初のひと声は、意外にも「ロックに必要な柔らかさを持っている」という印象だった。正直、もっと怒りに満ちた硬質な声を予想していたのだが、出来立てのアルバムの曲を正面から伝えようという山中の気迫は、かえって柔軟なタッチだった。それが“意外”だった。同時にそれは、とてもthe pillowsらしい裏切りだなとも思った。
「久しぶりじゃないか。元気かい?今週土曜日から始まる映画『わさお』は、滅多に吠えない犬らしい。だけど“さわお”は吠えてばっかり。今日もキャンキャン吠えていくんで、よろしくね」。そんな山中らしいジョークに、会場も僕も緊張が一気にゆるんだのだった。
イタズラに曲の構成を複雑にしないのも、このバンドの特長だ。新旧の曲の核心をすっきりと表現する。1曲が短いので、ライブは非常にテンポよく進む。オーディエンスに寄り添ってくる曲もあれば、バンドのエゴを剥き出しにする曲もある。
途中で「あっ」と思う瞬間があった。3年前にシングルとしてリリースされた「New Animal」が、♪リスクは少ない方が良いって 近所の犬に言われたけど♪と歌う。続く『HORN AGAIN』収録の「Brilliant Crown」は♪家来がいない王様 お城から月を見る 遠くの森からは 動物の笑う声♪と歌う。孤独に囲まれた人間と、自ら孤独を作り出してしまった人間の歌を並べるセンスに、思わずニヤリとしてしまった。
「今回、アルバムを出すにあたって、言いたい放題、ネガティブな発言をしてきたけど、こうして集まってくれたみんなが、いちばんの理解者!」と山中は言って、後半の盛り上がりに突入。4人が共有するグルーブが、会場の隅々にまで届く。バンドと一緒に歌いながら、無意識に体を動かすオーディエンスこそ、いちばんの理解者だ。
アンコールではサプライズも。 「今回、レコーディングしたけど、アルバムに入らなかった曲を、ライブ会場限定CDで売ってます。今から演奏します」と言って歌った新曲「TABASCO DISCO」は、リスナーの心にさっと滑り込むポップ・チューン。確かにゴツゴツした『HORN AGAIN』の中には入りにくそうだ。だが、それをライブに来てくれた人にだけ手渡そうとするthe pillowsの気持ちが、よく分かる。バンドの総体を表現できるライブだからこそ、位置付けることができるポップ・チューンがあるのだ。チャート至上主義ではなく、ライブとアルバムに全力を傾けてきた4人の心意気がここにあった。
角を持っているのは、草食獣だけだ。それは自らを“守る”ために使われる。獲物を倒し、肉を切り裂く牙は、肉食獣のもの。猛々(たけだけ)しい肉食獣ではなく、the pillowsが目指すのは、雄々(おお)しいロック。そんなことを痛感したツアー序盤のライブだった。
【 取材・文:平山雄一 】
リリース情報
INFORMATION
【the pillows HORN AGAIN】
◆4月2日(土)
金沢EIGHT HALL
[問]FOB金沢 076-232-2424
◆4月4日(月)
岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
[問]夢番地岡山 086-231-3531
◆4月6日(水)
米子 laughs
[問]夢番地岡山 086-231-3531
◆4月8日(金)
松山 SALON KITTY
[問]デューク松山 089-947-3535
◆4月10日(日)
名古屋 Zepp Nagoya
[問]ジェイルハウス 052-936-6041
◆4月12日(火)
長野 CLUB JUNK BOX
[問]FOB 新潟 025-229-5000
◆4月16日(土)
大阪 Zepp Osaka
[問]夢番地大阪 06-6341-3525
◆4月17日(日)
大阪 Zepp Osaka
[問]夢番地大阪 06-6341-3525
◆4月24日(日)
東京 Zepp Tokyo
[問]ディスクガレージ 03-5436-9600
◆4月27日(水)
東京 JCB HALL
[問]ディスクガレージ 03-5436-9600