受け手の中で、さまざまな物語が展開された、People In The Boxの初のホール単独公演
People In The Box | 2011.05.02
People In The Boxのライブや音楽は、形こそ大勢に向けて放たれてはいるが、基本その楽曲の一つひとつは、受け手一人ひとりが、その放たれた歌や演奏を基に、各々違った情景やシーン、物語を広げていくことに委ねられている。彼らの音楽は、"繋がり"や"共有"を感じることはあっても、それはいわゆる"一丸性"や"一緒感"とは異質のもの。とは言え、ステージや作品と、客席とリスナーが結び付いていないかといえば、まったくそんなことはなく。逆にその間には、揺るぎない信頼とシンパシーが強く存在している。なので、彼らが初めての単独ホール公演とも言える、この中野サンプラザでのライブを行うというニュースを聞いた時も、個人的には、"えーっ!?"よりは、"いよいよか!!"の方が強かった。通例のオールスタンディングでのライブに比べ、より一対一での受け止め度も高く、立って観ても良し、座って観ても良し、自分のスペースで各々おもいおもいに楽しめる、このようなホールのスタイルの方が、実は彼らの音楽には似合うんじゃないかと常々思っていたからだ。
この日のライブは、昨秋発売されたニューアルバム『Family Record』の発売記念ツアーのファイナル。当然当日のセットリストも、同アルバムからの全曲を中心に、過去作品からも、数曲披露された。
まだ幕が下りたままのステージの向こうから、ボーカル&ギター波多野による詩の朗読が流れ出す。幕がまだ下がったままの中、ニューアルバム1曲目の「東京」が始まる。1番を終え、2番へと入るガツンとしたところで徐々に上がっていく幕。メンバーの背後から当てられる眩しい白色ライトの中、力強くプレイを続ける3人が神々しい。そのまま「アメリカ」にノンストップでインすると、後ろから当てられるライトも白色から黄色にチェンジ。間のテンポアップするところでは、そのストレートさも手伝い、まるで駆け抜けるような解放感を会場にもたらす。
「お待たせ、東京」とドラムの山口が軽くMC。そのままドラムプレイでつなぎ、次の「ベルリン」に入ると、変則な三拍子が場内を支配する。ここで楽曲を引っ張るのは、福井のプッ太いベースのループだ。
しばしのチューニングの後、「今日は来てくれてありがとう。目いっぱい楽しんで下さい。僕も目いっぱい楽しんで帰ります」と波多野。福井のベースイントロから「レテビーチ」に入ると、ベースラインにギターが執拗に絡みつく。比較的ゆったりとしたテンポの中、山口もダイナミズムと繊細さを叩き分けるドラミングを魅せる。
前半4曲は、ニューアルバムから曲順もそのままにプレイ。そこからは、突然カットインするようにノイジ―でカオティックな面が楽曲の世界観を表裏のように豹変させた「泥の中の生活」、ところどころ現れるカタストロフィでカオスな面が会場を振り回す「火曜日 / 空室」と過去曲たちもその世界観に加わっていく。それに負けじとニューアルバムからも「ストックホルム」が鳴らされ、会場を彼らの深部へと誘う。
中盤から後半では、やや歌を聴かせる世界観の曲が続く。波多野の柔らかくナチュラルなアルペジオに、タムを効果的に使った山口のドラムが印象的な「マルタ」、ラストに向けての長く緩やかな上昇感がたまらない「どこでもないところ」、ちょっとしたデイドリーム感が場内を包んだ「リマ」等が会場の心をつかむ。
そして、山口の「本日も本気でブッ殺しにいくんでよろしく!!」との常套句を呼び声に突入した後半が凄かった。まずは、ドラムもダイナミックに激しく、ギターソロ部では波多野も弾きまくりながらステージ最前方へと迫り出、場内をグッと前のめりにさせた「天使の胃袋」を皮切りに、三位一体性が会場をグイグイ引き込んだ「はじまりの国」、楽曲後半のシフトアップが会場に更なる前傾姿勢をもたらせた「旧市街」、そして、ラストは凄まじいノイズの壁を作り出した「JFK空港」等、圧巻ナンバーが立て続けに飛び出す。
アンコールでは、まず震災後の自己の価値観への不信や転化について語られ、新曲、ダイナミックに生まれ変わった初期からの代表曲「She Hates December」、そのピープル的世界観を広い会場中に放った「スルツェイ」を。そして、ダブルアンコールでは、後半の波多野によるポエトリーリーディングが会場にそれぞれの物語を広がらせた「ヨーロッパ」で、記念すべき初のホール単独公演の幕を閉じた。
この日の彼らのステージセットは非常にシンプルであった。広いステージながら、その上には、あえて通常のライブハウス同様の、プレイされるスペースと機材のみ。そこにはホールならではの特別感もサムシングエルスも用意はされてはいなかった。しかし、それがことさら、”今までと変わらないスタイルとスタンスで今日も自分たちの音楽を放つけど、あなたの気持ち次第で、それらはここを特別な空間に変えることも可能だよ”と委ねられている気がした。
彼らならではのホールでの伝え方を多分に受け止めたのと同時に、やはり彼らのホールでのライブの高いポテンシャルを改めて確認できた一夜であった。
【取材・文 池田スカオ和宏】
リリース情報
セットリスト
- 東京
- アメリカ
- ベルリン
- レテビーチ
- 新市街
- 泥の中の生活
- 火曜日/空室
- ストックホルム
- マルタ
- どこでもないところ
- リマ
- 犬猫芝居
- 月曜日/無菌室
- 天使の胃袋
- はじまりの国
- 旧市街
- JFK空港 Encore-1
- 新曲
- She Hates December
- スルツェイ Double Encore
- ヨーロッパ