ツアータイトルの意味やライブの大きな流れを感じた、back numberのワンマン
back number | 2011.05.24
ものごとは全て、キチンと声に出さないと伝わらないものなのか? いや、けっしてそんなことはない。声には出さずとも、その目や態度、仕草から察したり、感じたりできることも多い。しかし、それ以上に、気持ちや想いを直接口に出せなかったことで、結局は理解までには及ばず、その想いは良い想い出として自身の中だけに大切にしまわなくてはならないものも多い。実は世の中には、そんな成就されなかった願いや想いでいっぱいだ。
back numberは、そんな秘めた想いや気持ちを歌にし、それらは作品やライブを通し、多くの人に、<まるで自分のことを歌われているかのような>シンパシーをもたらせてきた。
しかし、この日の彼らのライブは、これまで通り、秘め、大切にしていた気持ちや想いから始めながらも、最終的には、「ちゃんと言うよ」というツアータイトル通り、想いをキチンと口を通し伝えることでより分かり合え、次のステップへと進み行く、そんな大きな流れやストーリーを展開した。
4月6日にメジャー1stシングル「はなびら」をリリースした彼ら。その作品と共に周る今回の東名阪福ワンマンツアー初日の5月8日の渋谷CLUB QUATTROは、文字通り超満員であった。
高い期待値が渦巻く中、場内が暗転。SEが鳴り渡る。青白いライトで浮かび上がったステージにサポートギターを含む4人が登場し、まずはギター&ボーカルの清水が力強いストロークをその期待値たっぷりの会場に放つ。1曲目は「あとのうた」だ。ドラムの栗原の作り出すスタックスビートと共に前進かつ解放的な雰囲気が場内に溢れ、「君がいなくたってだいじょうぶ」との強がりなフレーズが大勢の胸をキュンとさせる。サビでは4つ打ち16ビートが上昇感を交え、エンディングの「ちゃんと言えばよかった」のリフレインが胸を刺す。そう、この<ちゃんと言えばよかった>こそ、彼らの歌の多くの通底に流れていたりする。
「ツアー初日、CLUB QUATTRO、行くゾ?!!」との清水による改めての開会宣言。続いての「海岸通り」では、会場の色をパッと明るく変え、更なる開放感が場内に加わる。この曲ではフロア全体もクラップで呼応。シンパシーに加え、一体性も生まれ出す。
「今日はみんな3曲までは悲しんでもいいけど、メジャーデビューのお祝いとして楽しもう」と清水。続けて「今日は、この曲を演りに来ました」と、1stシングル「はなびら」を始める。さっき「悲しむのは3曲まで」と言いながら、早くも2曲目のセンチメンタルな曲ではないか(笑)。作品以上のダイナミズムが、切ないながらも<良い恋をした>の心象を場内に残す。続いても1stシングル収録の「こぼれ落ちて」に入ると、ガラッと場内がスリリングな世界へと惹き込まれていく。
「俺はこれまで自分の中の普通を歌ってきた。今日もどうかそれを最後まで貫き通させてくれ」と清水。続けて、「ある意味初心の曲です」と、春は出会いもあるが、別れも伴うこと改めて思い起こさせる「春を歌にして」、1stシングル収録でライブでは今回が初披露となった、女心も切なく響く「幸せ」が場内の心を締めつける。
中盤では、<ロックバンドback numberの面目躍如>と言わんばかりの「KNOCK」、スケール観のあるロッカバラードが広がった「いつか忘れてしまっても」、ベースの小島のコーラスも印象的な「march」等、それぞれに擁した物語やシチュエーションが会場に同調を生んでいく。そして、この日集まった同じ気持ちを持った人たちに向け感謝を述べ、<同じ気持ちでいたい><同じ感情を持ち合わせたい>と歌われる「stay with me」、この日集まった人々の元カレ、元カノに捧げる、明るく笑い飛ばすかのような、「そのドレスちょっと待った」が、その歌内容の負け惜しみと共に会場に連帯を生んでいく。
アンコールでは、「大切な曲だ」と清水によりアナウンスされ、プレイされた「西藤公園」、そして、「今まで作ってきた中で、最も素直に作った曲です」の言葉のあと、年上の女性に「好きです」と伝える、その言葉代わりの6月22日発売の新曲「花束」が歌われる。まさに彼らの、<その次感>がしっかりと伝わってきた同曲。あまりこれまでに無かったタイプの雰囲気や特徴を持ち、これまでの秘めることで歌を成立させていた彼らの定石から、伝えることでの至福感やほのかな幸せ、そして、歌内のこれからの2人を感じさせるものであった。
これには、"これまで先や未来が見えないものばかりが歌われていた彼らの歌に、物語の続きや先を想像させる類がいよいよ登場したか!!"と感激した。そして、この時に、ようやく先述の、このツアータイトルの持つ意味、このライブの大きな流れを汲み取ることができた。
最初の<ちゃんと言えばよかった>の後悔から、アンコール最後にて<キチンと伝えた君が好きだよの想い>への移行。"イヨリ(清水)、分かったよ。キチンと口に出して伝えるからこそ、得られるネクストや今後もあるんだよね..."。そんなことを思いながら、彼らがステージを去っていくのを見送っていた。
【取材・文 池田スカオ和宏】
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リリース情報
セットリスト
- あとのうた
- 海岸通り
- はなびら
- こぼれ落ちて
- 春を歌にして
- 幸せ
- 重なり
- KNOCK
- いつか忘れてしまっても
- march
- おまえさん
- stay with me
- そのドレスちょっと待った Encore
- 西藤公園
- 花束