歌に向かう新境地を示すかのようなエレファントカシマシのステージ
エレファントカシマシ | 2011.07.01
ファイナル前日だというのにツアー初日のような力強さだった。そして、ツアーファイナル目前らしい充実したライヴだった。
アコギ弾き語りで歌い始めた「moonlight magic」の後半から「脱コミュニケーション」になだれこみ、3階まで突き抜けるシャウトを聴かせた幕開けから、「ガストロンジャー」「花男」で閉めたダブル・アンコールまでの2時間半、宮本浩次はバンドとの変わらぬ絆とサポート・メンバーへの信頼感、そして何より新たなヴォーカリスト魂を見せつけた。
前半は、伸びやかな声が何より印象的。ツアー終盤だが、この前の名古屋公演から約1週間空いており、休養と調整を経てファイナル2デイズに望んだからだろう。バンドの仕上がりも申し分なく、のっけから緊張感のある爆音で圧倒して来たのだが、それを掻き分けるように前へ出てくる宮本のヴォーカルが素晴らしかった。
今は歌いたいんだ、と言わんばかりにMCも控えめに宮本は次々と曲を進めて行く。落ち着いた調子で歌った「悲しみの果て」「彼女は買い物の帰り道」、歩こうぜと足踏みをしながら歌った「歩く男」は、曲そのものの味わいをじっくり噛み締めさせるような歌だった。そして「これは東京の歌。「ガストロンジャーに応えた曲」と説明した「どこへ?」は激しく、「九月の雨」はシャンソニエのようにシットリと歌ってみせた。これらの曲を歌う前に、「いろんな曲を用意して来た」と宮本は言ったのだが、それは単に最近のライヴでは珍しい曲をやるというだけでなく、歌い方や演奏や動きや感情まで含め、いろいろな試みをして歌に向かう新境地を示そうとしているように受け取れた。
そんな思いを強くしたのは、「最近、生きてるみんなへのラヴソングだと気付いた」と言って歌い出した「珍奇男」を聴いてだ。自分の曲への解釈を新たにした彼の言葉も新鮮だったが、弾き語りで歌い出し、中盤からはバンドとのタイトな演奏になると、初期の彼等を代表するパンキッシュなエネルギーが爆発する曲が、スケール感のある曲に変貌していたのだ。サポートメンバーの蔦谷好位置(鍵盤)とヒラマミキオ(ギター)の存在も大きいが、二人と一体となったエレカシは見るたびに一回りずつ大きくなっている。振り返れば、この年頭に行なった武道館公演でのストリングスとの共演は、バンドの一体感を大きく進めていたと思う。その後に始まったこのツアーで、以前とは違ったアンサンブルの強さを磨いて来たのではないだろうか。それがまた、歌を掘り下げ解釈を深めることに繋がったのではないか。即興で歌詞を言い換えたりするのもそうしたことの現れで、歌い続けるとは単なる繰り返しでは全くないのだ。
1曲1曲しっかりと聴かせながら、具合の悪くなった観客への配慮もさりげなく、またコミカルな動きで眼を引いたり、脱いだ上着をまた着て失笑を買ったりと程よく空気をほぐしていく。このバランス感覚も宮本ならではだ。そして「幸せよ、この指にとまれ」からドラマチックに「悪魔メフィスト」へと転換してみせたラストを経て、「パワー・イン・ザ・ワールド」などレアなナンバーや、身振り手振りで歌った「笑顔の未来へ」など待ちかねた曲が並んだダブル・アンコールは、たっぷり9曲。本編よりもストレートな歌と演奏で一気に見せた。少しも長く感じられない、充実した2時間半。2度目のアンコールで登場した時に「音楽は素晴らしい、音楽は最高」と宮本が言った通りだ。それを実感させてくれるエレファントカシマシが素晴らしい。
ツアーファイナルとなった翌日に発表されたのは、秋の東京と大阪での野外音楽堂でのライヴ。彼等と再会するのが待ち遠しい。
【取材・文 今井智子】
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セットリスト
- moonlight magic
- 脱コミュニケーション
- 悲しみの果て
- 彼女は買い物の帰り道
- 歩く男
- どこへ?
- 九月の雨
- 旅
- いつか見た夢を
- so many people
- 珍奇男
- ロック屋(五月雨東京)
- 明日への記憶
- 普通の日々
- 赤き空よ!
- 夜の道
- 幸せよ、この指にとまれ
- 朝
- 悪魔メフィスト Encore
- パワー・イン・ザ・ワールド
- クレッシェンド・デミネンド -陽気なる逃亡者たる君へ-
- starting over
- 笑顔の未来へ
- ハナウタ~遠い昔からの物語~
- ファイティングマン Encore2
- 俺たちの明日
- ガストロンジャー
- 花男
INFORMATION
野音2011ライブ決定!!
今年のエレカシの野音は”秋”開催!!
通算22年連続となる恒例、日比谷野外大音楽堂公演 そして、今年は大阪城野外音楽堂公演も開催します。
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