「東京事変 Live Tour 2011 Discovery」ツアー終盤の東京公演をキャッチ!
東京事変 | 2011.12.16
本編23曲、アンコール3曲。合計26曲の壮大なセットリストが、アッという間に繰り広げられた圧巻のライブだった。
アッという間と言っても、息つく暇がないわけではない。そこは東京事変のことだから、抜かりはない。じっくり聴かせるパートでは、会場の雰囲気が自然と落ち着く。だからといって、変な気取りはない。ハードなパートでは、当代無比の過激さで迫る。まったく新しいエンターテイメントを“大発見”して、おおいに楽しんだ夜だった。
BGMは、エリック・サティ。やがてライブがスタートすると、ステージの前に降ろされたシースルーのカーテンが、スクリーンの役割をする。そこには次々に落下してくる隕石のようなイメージが映され、それを透かしてメンバーの姿が見える。演奏が始まる。映像は非常にスタイリッシュで、幾何学模様が現われたかと思ったたら、それが“HERE’S HEAVEN”=「天国へようこそ」という文字になった。
2曲目「空が鳴っている」では、夜空の映像に切り替わり、カーテンが上がっていく。キーボードの伊澤一葉がギターを持ってのタイトなロック・ナンバー だ。完全にカーテンが上がると、ステージが全貌を現わす。そこには何もなく、楽器とメンバーだけ。極めてシンプルなステージだ。センターよりやや右側に位置取るボーカル椎名林檎は、アシンメトリーの白いドレスで、角の付いたヘッドドレスを冠している。それはまるでジョージア・オキーフが描く、砂漠で風化した動物の頭蓋骨のようにも見え、後ろの部分を膨らませたドレスと相まって、まるで半獣神がそこに現われたようだった。それでいて、椎名はブレイクでは声をたっぷり伸ばして歌い、トリッキーなビジュアルと正統派の音楽性を両立させる。この 両立こそ東京事変の本質なのだが、冒頭のたった3曲でそれを見せつけられ驚かされた。
ほとんどMCはない。だが、コミュニケーションは充実している。たとえば「カーネーション」で、椎名と浮雲がアコースティック・ギターを持ち、伊澤がピアニカを吹くと、バンドの呼吸そのものが会場に伝わる。続く「海底に巣くう男」では亀田誠治 のベースと刄田綴色のドラムがグルーヴィーなファンクのリズムを刻み、そこに椎名の気だるいタンバリンが絡むと、このバンドならではの美意識がフォーラムを満たす。
歌謡曲やジャズまで含めたミクスチャー・サウンドと、タイミングの良いコスチューム・チェンジがスリリングで、オーディエンスを飽きさせない。東京事変には、一体、どれだけ多くの引き出しがあるのだろう。
途中、何もなかったステージに突如、前面に電飾の入った大きな階段が登場。浮雲のギター・ソロで、いきなり“UKIGMO”という文字が点灯されて、会場がポップなムードに切り替わる。そのまま一気になだれ込んだ「女の子は誰でも」が、この日、いちばんのナンバーだった。ピンクのミニドレスに早変わりした椎名が、脇に置いたベルリラ(鉄琴)を叩きながら歌う。ハリウッドのミュージカル映画からポストモダンまで、さまざまな時代のファクターを混在させながら、東京事変としてひとつに表現する力量はただごとではない。
5thアルバム『大発見』を中心とした前半に対して、後半はこれでもかと盛り上げるベストヒット的構成。衣装も、前半が“個性的”なら、後半は“機能的”な制服のイメージだ。三分間をデジタル時計がカウントダウンする「能動的三分間」、「OSCA」などで上昇した会場の熱を、どっしり受け止めた「21世紀宇宙の子」が、後半を見事に締めくくった。
アンコールの 衣装は、“有機的”。5人が地球外生物のようないでたちで現われると、オーディエンスは大喜び。特に椎名はインディアンの大きな羽根飾りを着けて登場したから、会場からはため息がもれる。
刄田が、「作りたての未発表曲です」と紹介して始まった「今夜はから騒ぎ」は、ラテンリズムを取り入れたへヴィーなロックで、椎名のリード・ボーカル を追いかける伊澤と浮雲のコーラスが楽しい。ぐっと“バンド感”を増した東京事変が、ここにもあった。
この日、改めて 二つのことを思った。一つは、東京事変は、広々とした国際フォーラムが最も似合うバンドのひとつであること。もう一つは、圧倒的な情報量の多さを強い意志で統一して送り出せるバンドだということだった。特に後者は、今後、ライブという表現手段の可能性を大きく広げることになるだろう。今年、最も濃密な2時間を心から楽しみ、その上で心が引き締まったライブだった。
【 取材・文:平山雄一 】
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