場内に入り席に着くと、ステージには浮き輪やデッキなどの船上セット。中央のスクリーンには、揺れる波の先に、ランドマークや観覧車など横浜の風景画。そう、私たちは船に乗り込んだのだ。そこへ“EVERYBODY！ TOGETHER!!”という声と共に、船長に扮したタレントのルー大柴が登場！　笑いの混じった歓声の中、“今日は『Cruising?HOW CRAZY YOUR LOVE?』にご乗船いただきまして誠にありがとうございます”とあいさつ。このクルージングの目玉ゲスト、YUIとバンドメンバーが紹介され、船内は大興奮。アルバム『HOW CRAZY YOUR LOVE』のオープニング同様、「HELLO」からいざ出航！　“Hello?♪”が船内に木霊し気分は上昇、ハネるようなポップなリズムに合わせて乗客は手拍子。アコギを掻き鳴らしながら歌う彼女の澄んだ心地よい歌声が、船内の隅々まで冴え渡った。「no Reason」が演奏されると、スクリーンは富士山、金のシャチホコ、大仏などを抜けて晴天の大海原へ。ソリッドな荒々しい「Nobody Knows」が始まると、青空は曇りはじめ、やがて荒波の映像に。“Nobody Knows 強くありたい♪”と力強い感情が乗った歌を聴かせた。

　““今日はみんなと一緒に船の上で楽しい時間を過ごせたらなと思います”とYUI。ハジけるようなポップな「It’s My Life」、「I’ll be」を続けて演奏した後、学校の懐かしい映像をバックに、憧れの先輩への恋心を綴った「U-niform」を披露。女の子らしいピュアな歌声で歌ったかと思えば、グルーヴィーなサウンドが印象的な「Separation」では焦燥感あふれる歌声で聴かせた。さらに愛に満ちた「Good-bye days」では、張り裂けそうな想いを込めて歌い上げた。そんな彼女の歌が持つ表情の豊かさとパワーは、観る者の感情を激しく揺らした。

　アコースティックコーナーでは、雪が舞落ちる中で「Winter Hot Music」、サクラ色に染まったステージの中で「CHE.R.RY」が披露。オリジナルの「CHE.R.RY」とは違った、ボサノバ調の大人っぽいアレンジでしっとりと聴かせた。そして「Good night」では、ステージの頭上一面に無数の星が瞬き、乗員たちのため息混じりの歓声が上がった。そんな楽曲とリンクした演出によって、さらにクルージング気分を盛り上げていった。

　突如、船内にお笑いコンビ、はんにゃの無線が入った。今ツアー中に起こったYUIの面白エピソードを引き出し、彼女の素が垣間見えるファンにはうれしい話がたくさん飛び出した。そして、海の沖に“ハーティーロック”という幻の岩があり、“そこを通る時にお願い事をすると叶うとか、叶わないとか……”と告げ無線は途切れた。

　クルージングも中盤へ。まずは手旗信号のように両手に赤と白の旗を持ち、全員でダンスしながら歌ったスリリングな「Lock On」。アコギからエレキギターに持ち替え、“ロックミュージシャン、YUI”を強く打ち出した楽曲が続けざまに演奏。真っ直ぐな瞳で、時に勇ましくもある表情で、説得力を持った力強い歌を聴かせていった。そして「es.car」が演奏されると、目の前にハート型をした岩が出現！ そう、はんにゃが言っていた“ハーティーロック”だ。歌い終え、“願い事はできましたか？ 私は、平和な日本、そして日本が元気になるようにと願いを込めました”とYUIが言いうと、乗客たちは温かい拍手を贈った。本編ラスト「Your Heaven」で船は出発地点の港に戻った。

　アンコール。好きな人との理想の生活を描いた「Cooking」などを披露した後、“もう１曲歌っていいですか？”と言い、予定外のアンコールも。涙を堪えながら「TOKYO」を歌う彼女に、“がんばって！”とたくさんの声が飛び交う。そして“今日一緒に時間を過ごせてすごく楽しかったです”と言って涙を浮かべた彼女。とても感動的なクルージングのエンディングを飾った。

　喜怒哀楽、多彩な感情が表現された『HOW CRAY YOUR LOVE』を中心に、YUIのこれまでの軌跡に欠かすことができない過去の楽曲も含め全27曲披露。その１曲１曲の彼女の歌は、“たくさんの観客”に対してではなく、会場にいるすべての“あなた”に対して歌っていた。だからこそ、武道館を埋め尽くした大勢のファン１人１人の心を揺り動かすのだろう。そして、約２時間のクルージングの中で、晴天から嵐、朝から夜、さらに春から冬まで、共に航海したことでYUIとファンとの絆はさらに深まったのだった。

【取材・文：牧野りえ】