初の大規模全国ワンマンツアー【SPYAIR TOUR 2012「My World」】も最終盤。ファイナルの赤坂BLITZを観た。正確には翌日、同じBLITZで追加公演があり、両日ともソールドアウトしている。

　SPYAIRは地元・名古屋のストリート・ライブからスタート。2010年にデビューして、昨年、大ジャンプを果たす。中でも昨秋10月に日比谷野音を満員にさせ、一躍ライブバンドとして注目を浴びた。ライブとともにSPYAIRの魅力として上げられるのは、歌詞に込められた“孤立した魂が音楽を通して仲間を見つけ出していくストーリー”だ。そうした物語にリアリティを与えているのは、ギターを核にしたコンピュータ・サウンドのトラックだ。生々しい言葉とダンサブルなトラックをライブでどうマッチさせるのか。それがこのバンドの生命線になる。

　爆音で鳴っていたBGMが止んで、SEが流れる中、メンバー５人が位置に付く。センターに立ったボーカルIKEの背後から、レーザービームが放たれている。真っ赤な照明に包まれて、ライブ開始。オープニング「Crazy」はやや慎重に入ったものの、２曲目「Last Moment」でIKE、UZ(g)、MOMIKEN(b)のフロント３人がステージ前に設置されたステップに上がってアオる。その後ろではDJ ENZEL☆がハンドクラップしてオーディエンスをリードする。続く「感情ディスコード」ではKENTA(dr)がスケールの大きいドラミングでビートを膨らませ、バンドの代表曲と言える貫禄を与える。勢いに乗るSPYAIRのファイナルらしいスタートダッシュを決めたのだった。

「ようこそ、SPYAIRのライブへ。気持ちいいねえ。今夜は最高のライブを作っていきましょう！　聴いてください。僕らのメジャーデビュー・シングルです」とIKEが叫んで、「LIAR」へ。

　途中、ツアーの車移動がキツかったことなどのエピソードを交えながら前半は進む。目立ったのは最新シングル「My World」のカップリング「Come on」だった。MOMIKENの弾くベースラインに添って♪くだらない事を　朝まで話そう♪とやさしく歌うIKEのリアリティに富んだニュアンスが光る。ガツンと飛ばす曲もいいが、これがSPYAIRの魅力のアナザーサイドだ。

　さて、ここからが正念場だ。中盤のストリート時代の雰囲気を伝えるアコースティック・コーナーはよかったが、「STRONG」から始まる終盤は、ややパワー不足な印象。演奏の丁寧さにも欠けて、ギリギリのパフォーマンスが続く。課題である“生々しい言葉とダンサブルなトラック”のバランスが安定しないのだ。そこでパワーを発揮したのが、フロアを埋めたオーディエンスだった。元気のいいこと！　「Dead Coaster」でDJ ENZEL☆もステージ前に出て、４人がフロントに立つ。受けてオーディエンスは最大級の歓声とアクションでSPYAIRを盛り立てる。インディ時代からの名曲「ジャパニケーション」で会場の興奮はピークに達した。そのとき、IKEが重大発表をしたのだった。

「今年12月18日に、日本武道館でライブをします」。

　客席から悲鳴のような歓声が起こる。「自分たちよりもちょっと上の目標、夢を追って進んでいこうと思う。ついてきてくれますか？　一緒に見た夢は、叶う。みんなも一緒に夢見てよ」。今度は共感と賛同の拍手が上がる。「最後に、俺たちとみんなが真っ直ぐ進めるように心を込めて歌います。今日はどうもありがとう」。ラストはツアーのテーマ曲「My World」だ。

　♪光は進む先にある♪というフレーズが、オーディエンスとメンバーの未来を照らすように響いたのだった。

　武道館を発表した余韻の熱が、やがてアンコールの声援に変わっていく。ステージに戻ってきた５人は、武道館へ向かうために用意したという新曲「Rock’n Roll」を歌い出す。正統派ハードロックをベイスにしたブギーで、こういうシンプルな曲こそバンドの基礎体力が問われる。まだ骨格しかない新曲は、これからどんどん血肉を付けていくことだろう。

　SPYAIRの力は正直、まだ武道館には届かない。しかし、それを承知で５人はチャレンジ宣言した。またオーディエンスたちは、その挑戦の後押しする約束を今日ここでした。その証のように、ヒットシングル「サムライハート(Some Like It Hot!!)」でフロア中のタオルが回り出す。「まだいけますか？　歌ってくれますか？　今、持ってるもん、全部吐き出せよ！」とIKEが叫んで歌った「SINGING」で、ファイナルは熱く明るく幕を閉じた。

　ここからSPYAIRのビッグチャレンジが始まる。

【取材・文：平山雄一】