毎年11月の恒例 THE NOVEMBERSのワンマンツアー「November Spawned A Monster」のファイナルをレポート
THE NOVEMBERS | 2012.11.27
「昇華」という言葉がライブ中、何度も去来した。そして、その言葉はライヴが終わる頃には、「浄化」という言葉に変わっていた。
THE NOVEMBERSの新作EP『GIFT』は、希望や明日、未来や期待を歌中に用いることなく、ポジティヴさを擁した作品であった。と同時に、その一曲一曲に宿されていた光が各々、神々しさや荘厳さ、気高さや失楽を放っていた。
“その光はライヴを通し、どんなプリズムを見せてくれるのだろう?” そして、”あの作品での完璧なまでの構築感を、各楽器をリアルタイムでどのように鳴らし、我々にあの作品でのポジティヴさを感じさせるのだろう?” そんなことを楽しみに会場である、恵比寿のリキッドルームに足を運んだ。
この日は、かなりの激雨だった。この激しいシャワーも、ずっと雨中にいると、一瞬静寂や安堵感に変わる時がある。”なんだかこれって、THE NOVEMBERSのライヴに似ているな…”そんなことを思いながら、“何が飛び出してくるのだろう?”と身構えるような、ちょっとした緊張感漂う場内にて、大勢のオーディエンスと彼らの登場を待った。
すーっと消える客電。と同時にSEが流れ、真っ暗なステージに4人のメンバーのシルエットが現れる。起こる拍手に、手を挙げ応えるボーカル&ギターの小林。珍しい光景だ。
シーンとしたインターバルに、会場中が次に飛び出してくる一音を更に身構えて待つ。フロアタムを活かした生命力と躍動感のあるドラミングが吉木から放たれ、小林とケンゴマツモトによる2本のギターがそこに絡んでいく。1曲目は、ニューEPの一曲目を飾っていた「Harem」だ。歌を通し、1曲目から「♪踊りましょう♪」と誘いかける小林。とは言え、この「踊りましょう」は、決して、”よかったら一緒に踊りましょう”といったトゥゲザー性とはちょっと違う。どちらかといったら、”さぁ、好きなように僕たちの音楽の上で戯れて”とでも誘っているようだ。
続いて現れた「Reunion with Marr」も、ニューEPからのナンバー。先ほどの神々しさとダイナミズムに、高松のダウンピッキングによるベースも手伝い、今度はタイトさも加わっていく。このイベントのタイトル「November Spawned A Monster」が、元The Smithsのモリッシーのナンバーから取られた(Marr=Johnny Marr→元The Smithsのギタリスト)ことを考えると、ちょっとニヤッとさせられる場面だ。
作品での構築感をゲストの楽器類でけっして埋めようとせず、自分たちだけでステージを成立させていく彼ら。そこには、作品とは多少違った空間性を有しながらも、しっかりと作品に根付いていたポジティブさや光を感じる。それをことさら感じたのは、ここから続く過去曲のプレイ。これまで比較的メリハリや押し引きで、ドラマ性を与えていた同曲たちも、今の彼らの手にかかると同じモノトーンでも違った濃淡を感じる。単なる優しさや激しさでも、そこには包み込む優しさがあり、深みのある激しさがあった。特にシューゲイズさ溢れる「sea’s sweep」や、4AD系を彷彿させるディメンションが多様された「BROOKLYN」は、甘美やドリーミーささえ有しており、「はじまりの教会」での裏打ちは、今の彼らの音楽性の奥深さを味あわせてくれた。
中盤のハイライトは、やはり「Slogan」の後半部に尽きる。どこか彼岸にたどり着いたかのような穏やかさや安堵感をそこかしこに漂わせながらも、後半に向かうに連れ、その発光する恍惚が辺りを侵食。しまいには私の心も完全に侵されていた。
中盤では他にも随所で今のNOVEMBERSを堪能させてくれた。特にここではマツモトケンゴのアクセントが目立つ。シンセを楽曲に絡ませ、独特の世界観を演出した「夢のあと」、ライトハンドが楽曲に更なる色彩を加えていった「日々の剥製」等は、今の彼の面目躍如と言えるだろう。
後半に向かうと、小林の歌にも時々エモーショナルさや、ピーク時にはスクリームも現れてくる。中でも「永遠の複製」や「ニールの灰に」では、ここまでの揺り戻しのように、かつての彼らの勇姿とオーバーラップする場面が何度も見受けられた。そんな中、後半のハイライトは、やはり「Gilmore guilt more」と「白痴」になるだろうか。「Gilmore guilt more」では、高松がガリンガリンにベースを引き倒し、吉木は時折り楽曲にとてつもないストームを巻き起こす。それに巻き込まれる小林も我慢出来ないと言わんばかりに、マイクを掴み、床にしゃがみシャウト。高揚と共に、何かが解き放たれていくのを感じた。そして、「白痴」。個人的には久々にライヴで体感したのだが、もうここまでくるともうサバトだ。小林の「何を知った?」の絶叫をスイッチに、バンドは一気に会場を奈落の底へと突き落とす。 そして、それらを経たがこそ、本編ラストの「GIFT」は、嵐の後に訪れる凪を感じさせ、アンコールの2曲「ウトムヌカラ」や「Misstopia」も、そこからまた彼岸を目指し、たどり着いたが故の神々しい景色や安堵感なんてものを味あわせてくれた。
小林はライヴの後半のMCで「今回の『GIFT』は制作中に昔の自分に何度も目が合うことがあった」と語った。そして、それはそのまま、この日の彼らのライヴを観終わった私の感想そのものだった。
この日の彼らは最新のNOVEMBERSを見せてくれた。しかしその根底には、しっかりと自分たちがバンドを始めた時に目指していたもの、憧れていたものが未だ根付き続けていることも感じさせてくれた。
彼らは作品毎に光ある方に向かい、ポップなベクトルへと進んでいく。しかもしっかりとした孤高さを保持したまま。良い意味で聴きやすくなっていきながらも、それを進化と捉えさえするも、けっして、「変わった」とか「裏切った」とか揶揄されない理由に改めて気づかされた晩であった。
THE NOVEMBERSは今後もますますポップになっていくことだろう。そう、その気高さと孤高さを有したまま。我々はこれからも彼らを追い続けていきたい。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:OZK】
リリース情報
セットリスト
「November Spawned A Monster」
2012.11.17 @ 恵比寿リキッドルーム
- Harem
- Reunion with Marr
- sea’s sweep
- BROOKLYN
- はじまりの教会
- Slogan
- 夢のあと
- 日々の剥製
- STAY AWAY
- 永遠の複製
- ニールの灰に
- dnim
- Gilmore guilt more
- dysphoria
- 白痴
- GIFT
- ウトムヌカラ
- Misstopia
お知らせ
“LIVE LIVEFUL SPECIAL EVENT”
〜THE NOVEMBERS SPECIAL LIVE! 〜
2012/11/28(水)TOWER RECORDS 渋谷店 B1F「CUTUP STUDIO」
「実施中!!!第一回胞子拡散祭」
2012/11/29(木)大阪 梅田CLUB QUATTRO
2012/12/01(土)岡山 IMAGE
December’s Calling
2012/12/17(月)CLUB CITTA’ 川崎
THE NOVEMBERS x
LILLIES AND REMAINS Presents「Sigh」
2013/01/11(金)池下 CLUB UPSET
2013/01/12(土)心斎橋CONPASS
2013/01/13(日)恵比寿LIQUIDROOM
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。