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この10年が総括されたセットリストと共に贈られた、元ちとせデビュー10周年ライヴ

元ちとせ | 2013.02.19

 元ちとせのデビュー10周年を記念したライヴが大阪・東京の2公演で行われた。2月9日、渋谷AXでは1階フロアも着席スタイルの中、ゆったりとしたムードで幕を開けたが、1曲目の「この街」から、まさに〈言霊(ことだま)〉を感じさせるような気迫のある元ちとせのヴォーカルが会場の隅々にまで届けられていった。ふんわりとした鮮やかな色の衣装を身にまとい、裸足でステージに登場した彼女が、ゆっくりと両手を広げておじぎをし、胸に手をあてたまま宙を見上げて、このライヴを始めたのは、とても美しいシーンだった。

 「みなさんこんばんは、元ちとせです。ゆっくりじっくり、最後までお付き合いください」と最初の挨拶。続けて「君ヲ想フ」や「恐竜の描き方」など、まさにこの10年の歩みを振り返るベスト的な選曲でライヴは進む。バックをつとめる石井マサユキ(G)、ASA-CHANG(Dr、Percussion)、ハタヤテツヤ(Key)、鈴木正人(B)による巧みな演奏はミニマムに元ちとせの声を生かしながらも、実に味わい深い景色と感情を音の中に染め上げていく。特に「青のレクイエム」、「ひかる・かいがら」、「蛍星」と続けば、うっとり贅沢な時間が流れる。あらためて、元ちとせの歌声に触れるということは、歌の中にある、しみじみとした懐かしさや、人が人を想う温もりに触れることなんだと感じる。

「デビュー前に〈元ちとせ〉という名前はみなさんになかなか読んでもらえないだろうと、資料にスタッフが〈はじめ〉と読みがなを振っていたんですけど。それも面倒臭いから名前を変えよう、ってなって、事務所の社長が言い出した芸名が〈ちとせダイヤモンド〉で(笑)。危うく私は〈ちとせダイヤモンド〉になりそうだったんですよ!」なんてエピソードも披露して客席を和やかに笑わせる。その芸名は同じ事務所の先輩である山崎まさよしが「その名前は、ダイヤモンド☆ユカイとかぶるから、あかん!」と止めたのだとか。

 そして生まれ育った奄美大島から、歌を通じて北の大地に想いを届けようと上京してきた時のことを思い出しながら歌われた「コトノハ」は今だからこそまた格別な響きだったし、ダビーなベースラインの中で軽やかな身のこなしとパワフルな歌を聴かせてくれた「カッシーニ」も、どこかファンタジックでロマンチックでありながらも凄まじい熱量を放つパフォーマンスだった。

「2月6日がデビュー日ですから、正式には今はもう11年目を歩いていますけど。もっともっと歌いたいなと思っていますし、こんなに受け止めてくれるみなさんがいたから10年、歌を歌ってこれたんだなと思いました。だからこれからももっと、聴いてくださる方にとってお守りのように背中を押してくれるような、そんな歌を歌えたらいいなと思っております。今後とも宜しくお願いします」

 そして中盤の「ハミングバード」では客席から軽快な手拍子が沸き、彼女が客席にコーラスを煽る場面も。「ありがとう!」と嬉しそうな笑顔がキュートだった。ずっとこの音と声に包まれて揺れていたいほど温かかった「幻の月」、そして本編ラストの「ワダツミの木」への流れはまるでドキュメント映画を観ているように本当に美しかった。歌い終えた時の感慨深い表情から、既に新たなる、デビュー11年目の道のりを彼女が歩み始めているのだと感じられた。

アンコールの「甘露(アムリタ)」では「今日、出会えたみなさんに甘い露が降りますように」とビートに乗ってポップにカラフルに歌い、そして最後の最後に披露された「語り継ぐこと」では彼女が10年もの間、歌に注ぎ続けてきた大きな愛情が壮大なスケール感となって聴こえてきた。盛大な拍手に包まれながら「心から感謝しています」という言葉と共に、大きく手を振って元ちとせは笑顔でステージを去った。この夜、確信したことは、元ちとせのようなシンガーは、元ちとせしかいないのだということ。これまでの10年も、そしてきっとこれからも。

【取材・文:上野三樹】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 元ちとせ

リリース情報

語り継ぐこと(初回盤)

語り継ぐこと(初回盤)

2012年10月24日

アリオラジャパン

1. ワダツミの木
2. いつか風になる日
3. 君ヲ想フ
4. この街
5. 千の夜と千の昼
6. ひかる・かいがら
7. 蛍星
8. 青のレクイエム
9. 六花譚
10. なごり雪
11. 春のかたみ
12. 雫
13. 恵みの雨
14. 語り継ぐこと
15. あなたがここにいてほしい

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セットリスト

「10th Anniversary Live」
2013.2.9@SHIBUYA-AX

  • 1.この街
  • 2.精霊
  • 3.Birthday
  • 4.君ヲ想フ
  • 5.恐竜の描き方
  • 6.青のレクイエム
  • 7.ひかる・かいがら
  • 8.蛍星
  • 9.コトノハ
  • 10.カッシーニ
  • 11.あなたがここにいてほしい
  • 12.音色七色
  • 13.ハミングバード
  • 14.月齢17.4
  • 15.ウルガの丘
  • 16.六花譚
  • 17.幻の月
  • 18.ワダツミの木
ENCORE
  • En-1.甘露(アムリタ)
  • En-2.語り継ぐこと

お知らせ

■ライブ情報

NO NUKES 2013
2013/03/10(日)Zepp DiverCity

中孝介×元ちとせコンサート2013“春の行人(ゆこうど)”
2013/03/23(土)福岡県大川市文化センター

元ちとせコンサートwith中孝介
2013/03/24(日)三重県・東員町総合文化センターひばりホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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