ライブが始まって間もなく、ホリエアツシ(vo&G)は言った。「みんなで作ったセット・リスト。みんなは受け取る側じゃないですよ、作り手側ですよ。俺たちは、感謝の気持ちと魂を込めて演奏します」

　この夜、ストレイテナーはメジャー・デビュー10周年を記念して、ファン投票で選ばれた30曲を演奏するというライブを武道館で実現させた。自分たちの曲とは言えステージ運びなどを考えて作るセットリストとは違う流れにならざるを得なかったようで、中には「これがなかったら１回もやらずに終えていたであろう曲」もあった。まさにファンとバンドが作ったセットリストなのだ。

　ステージに映し出された10年の軌跡を辿る映像に続き、現れた４人が始めたのは「TRAVELING GARGOYLE」。この10年の起点となるメジャー初シングル曲である。ホリエとナカヤマシンペイの二人でスタートした当時とは全く違う今の４人での演奏は、安定感のある逞しさと10年前と変わらぬパッションで一気にオーディエンスを巻き込んで行く。この夜に相応しい幕開けだった。そして３曲ほど演奏したところで冒頭のMC。この日が記念すべき初演となった「LEAP IN THE DARK」をはじめ、完成度の高いサウンドで熱気を高めて行く。続く「Discography」ではベースの日向秀和はオーディエンスを煽り、左手の汗をシャツで拭いながら超絶プレイで圧倒する。寡黙なギタリスト大山純も身体を揺らしながらキレのいいリフを弾き続ける。この日のために選ばれた新旧の曲を今の彼等に合わせアップデートしていく様子は、クリエイティヴという言葉が相応しい。そして今夜の主役はオーディエンスなのだといわんばかりにアリーナを何度もライトが照らし、数えきれない笑顔を輝かせていた。

　「王道な曲が選ばれると思ったらマニアックで重たい」「30曲出揃った時点で頭抱えたもんね」と、セットリストの苦労を語ったホリエとナカヤマだが、それをものともせずドラマチックなステージにしていたのは言うまでもない。中盤は「WHITE ROOM BLACK STAR」や「シンクロ」など美しいメロディが際立つ曲が並びホリエの歌が染み込む一方、日向の歪んだベースが一筋縄では行かない味を添える。そしてフランクなＭＣを挟んだ後は「The Novemberist」など軽やかなナンバーで盛り上げ、ホリエが鍵盤を弾く「Dive」は複雑な構成を緊張感のある演奏で、「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」はアグレッシヴに聴かせ熱気を一気に高めた。

　熱気を更に高めたのが、レゲエのビートに乗って登場したSOIL&”PIMP”SESSIONSのタブゾンビ（トランペット）と元晴（サックス）、田中邦和（テナー・サックス）。録音にも参加した面々とのセッションは最高のサプライズになり、終わった途端「やべ！かっこいい！」とナカヤマが叫んだほど。そのまま「BERSERKER TUNE」から大山がハープを吹く「YES, SIR」へと加速していった。その火照りを残して終盤はスケール感のある曲で進み、フィナーレは「March」。

　アンコールは、まずはホリエとナカヤマだけが現われ、インディーズ時代の「SILVER STAR」を。シンプルで尖った演奏が当時を思い出させた。次いで日向が加わり「MAGIC WORDS」を、そして大山が３人と握手を交わして位置に着き「ネクサス」。「これからの10年もこのバンド、音楽を応援してください」とホリエが言って始めたのは現在の代表曲の一つ「Melodic Storm」。ここでもまた10年を凝縮してみせたのだが、セカンド・アンコールがインディーズ時代の「ROCKSTEADY」だったのは、この10周年はバンドの歴史の一部でありバンドはその前から続いて来たのだと言っているようだった。後半のMCで自らを「サービス精神のないバンド」と言ったけれども、ファンが選んだ30曲（＋１曲）をきっちり演奏してバンドの歴史を示したことは、サービスの「人のために力を尽くす」という本来の意味を越えた誠意と言っていいだろう。エンドロールで選ばれた50曲が下から順に映像で流れると１曲毎に歓声が上がり、30位からはセットリストを確認するように静まり返った。最後は５月から始まるツアーの告知。そこでまた大きな歓声が上がった。バンドとオーディエンスがひとつになって作った記念すべき夜だった。

【取材・文：今井智子】