前へ

次へ

『NANO-MUGEN CIRCUIT 2013』。全国を回ったそのファイナルをレポ!

NANO MUGEN FES | 2013.07.16

 6月14日の京都2DAYSを皮切りに、松山、熊本、新潟、仙台を駆け抜けてきた『NANO-MUGEN CIRCUIT 2013』のファイナルが6月28日にTOKYO DOME CITY HALLで開催された。
 ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)がホストを務め、メジャー、インディーズを問わずエッジ感あふれる洋邦のロック系アーティストが登場する『NANO-MUGEN FES.』を補完すべく2010年から始まった『NANO-MUGEN CIRCUIT』も今年で4回目。横浜アリーナなどの大会場で開かれる『NANO-MUGEN FES.』に比べ、ライブハウスや中小規模のホールで行われる『NANO-MUGEN CIRCUIT』は生音が届く距離感でパフォーマンスを味わえるのが最大の魅力。全国のロックファンに最先端のシーンの息吹を届けながら、文字通りのツアーサーキットが展開されている。
 今年、アジカンに見初められサーキットを共にしたアーティストはRADICAL DADS、the chef cooks me、Sara Radle、SPECIAL OTHERS、スカート、PHONO TONES、Turntable Films、ストレイテナー、Dr.DOWNER、岩崎愛、NOWEARMAN、cero、うみのて、シャムキャッツ。ファイナルを飾る今宵は、RADICAL DADS、the chef cooks me、シャムキャッツの3組が名を連ねた。

 トップバッターとして登場したのは新鋭・シャムキャッツ。青春群像的な物語感のある歌を好むリスナーの注目も集めているバンドだ。
 パワーポップのマナーを継ぐ1曲目の「なんだかやれそう」から、USインディー・ロックと和風情緒のある歌心がミックスしたフレッシュな歌が続く。「手紙の続き」は彼らの特権である“若さ”をキラキラと主張。ニール・ヤング&クレイジー・ホースのように骨太なアンサンブルを鳴らそうとする「SUNNY」では“その心意気やよし”と気持ちが高ぶる。観ているうちに、夏目知幸(Vo・G)の不敵な面構えにワクワクし、一生懸命に思いを届けようとするチャーミングさに親近感が沸いてくる。応援したくなるこの気持ちは何だろう。ふと先輩衆の喝采を受けたSUPERCARの登場時をちょっと思い出してみたり……。MCを挟んだ後、飛び出したダンサブルな「渚」は、刹那に輝く若者群像を描き出し、フロアを大いに盛り上げた。しけた毎日に悶々としながらも、愛する仲間と右往左往する様をリアルにぶつける彼ら。東京バンドシーンでざわめく“ボーイズ・ライフ”の今を体現するバンドとして今後の成長を見ていきたい。

 10人編成で登場したthe chef cooks meに会場がざわつく。パンキッシュなサウンドをベースに、キッチュなフレイバーを振りかけたボーダーレスな楽曲で好感度なロックファンを楽しませてきた彼ら。下村亮介 (Vo・Key)(以下:シモリョー)、佐藤ニーチェ(G)、イイジマタクヤ(D)のメンバーに、ベース、キーボード、コーラス(2名)、ブラスセクション(3人)らサポートメンバーがずらりと並ぶステージの眺めは壮観。
 演奏はダンサブルなハッピーチューン「まちに」でスタート。間奏で早くもフロアにハンドクラップが響く。そこから21世紀型シティポップス「四季に歌えば」、高らかにホーンが鳴り渡る「ケセラセラ」、力感あふれるファンキーチューンの「パスカル&エレクトス」が幸福感たっぷり繰り出される。
 10年近いキャリアを持つ彼らが今、辿り付いたのは吸いも甘いも噛み締めたうえで、歩みを進めようとする祝祭のシティポップスだった。演奏陣がみな楽しそうなのがなによりもオッケー。そこからはドロっとした思いを越えて、“今の暮らし”を愛してやろうという覚悟が座った“躁”が感じられた。

 3番手で登場したのはUSインディーシーンの人気バンドCLAP YOUR HANDS SAY YEAHの元ドラマー、ロビー・ガーティン(D・Vo)が率いるRADICAL DADS。後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATIONボーカル&ギター 以下 : ゴッチ)が主催するレーベル「only in dreams」から2枚の日本盤をリリースしているツインギター&ドラムスの3ピースバンドだ。紅一点、リンジー(Vo・G)のレッド&ホワイトのボーダー柄タンクトップ+スリムなブラックジーンズという出立ちもクール&キュートでよし。
 80年代後半に一斉を風靡したカレッジ・ロック、90年代以降のオルタナティブ・ロック、ローファイ&アンダーグラウンド・ロックを現在進行形のUSインディー・ロックに再構築したサウンドを鳴らす彼らは、フロアをどんどん引き込んでいく。ヴァセリンズのポップ感を彷彿とさせるロビーのボーカル曲「Dust USA」、幽玄シューゲイザーの「Hurricane」、ピクシーズのような疾走感をみせる「Little Tomb」などを筆頭に、往年のとんがった名バンドの影が見えるナンバーが次々と繰り出され、「わかる、わかる」と溜飲を下げることしきり。しかも、ただの焼き直しではなく、現代の息吹とアイデアを吹き込んで聴かせるあたり、さすが“本場のバンド”と納得させられた。

 さていよいよメジャーデビュー10周年を迎えた真打ち・アジカンの出番だ。会場が暗転し大歓声。ダンサブルなビートが響く中、スポットライトがストロボ光線のように点滅。一瞬の暗がりのうちに位置に付いたのか、突如、青白い光にゴッチ(Vo・G)、喜多建介(G・Vo)、山田貴洋(B・Vo)、伊地知潔(D)の4人と、サポートキーボディストを務めるシモリョーの姿が浮かびあがる。まず、語り+ビートで世界観に引き込む「新世紀のラブソング」、間髪入れずに繰り出された「マジックディスク」でフロアは既にヒートアップ。このイベントにかけてきたメンバーの意気込みとファンの期待が一体となった素晴らしいコンディションでステージは幕を開けた。続けて「暗号のワルツ」「サイレン」まで一気貫通。はち切れんばかりの笑顔がフロアを埋めている。
 イギリス、ドイツ、フランスツアー帰りよろしく「エイジアン・カンフー・ジェネレーションです」と英語風に切り出したMCでは、ロンドンのステージで声が出なくなったこと、フランスででっかい注射を打たれたことといったエピソードを明かして、フロアを沸かせる。「競走馬に打つ注射をポニーに打っちゃったみたいな笑」などなど……。
 続けてガラージュや初期ハウス的なサウンドアプローチがユニークな「1980」、無骨ながらポップなメロディがクセになるアジカン節がきいた「ナイトダイビング」、幻想的なシューゲイザーサウンドからスケールの大きな歌へと移行する「月光」を立て続けに。この下りを聴いていて、数多のギターポップバンドがうごめく2000年代のロックシーンで、彼らが頭ひとつ抜け出せた理由を再確認した。まず、彼らは高揚感のある独自の型を作り出し、磨き上げた。また、たゆまぬ努力によりアイデアを豊かにし、アンサンブルを練り上げてきた。ゆえに、何度聴いても飽きがこず、気持ちがいいのだ。ずっとアンサンブルの波動に身を任せて身体を揺らしていることができる。しかもそこには、ただでは引き下がらないメッセージが込められている。一糸乱れぬ、と言いたくなるようなフロアの揺れを眺めていて、あらためて彼らが生き残った理由を実感した。つまりアジカンは“確固たる意思”に貫かれたバンドなのだ。「十二進法の夕景」「転がる岩、君に朝が降る」とステージは躍動を続けていく。

 ここからステージはクライマックスに向けて加速。「ループ&ループ」、「リライト」、「君という花」という鉄板のナンバーが連打され、フロアは大揺れ。フロアを照らすライト。見渡す限りの蒸気した顔、顔、顔。みんなが飛び跳ね、手を突き上げ、歌っている。大歓声に包まれ、本編は終了した。
 そしてアンコール。ゴッチが、観客がまったくいなかったインディーズ時代のこと、いじけながら家でギターを弾いていたことなど、ぽつり、ぽつりと自分の原風景を吐露していく…… 「毎日音楽のことばかり考えてる」「こんちくしょうと思ってやってきた」という生々しい言葉を添えながら。そして、素をさらけ出した数々の言葉が、「見つけてくれてありがとう。まだ、これからもたくさんいい音楽を作っていくんで、楽しみにしててください」という感謝で締められた時、フロアを埋めた彼らを見つけた者達は惜しみない拍手を送っていた。さあ、締めのナンバーが始まる。「今を生きて」のイントロがガツーンと鳴り響く。心が折れそうになりながらも踏ん張ったゴッチの原風景を垣間見たMCから、この曲への流れは完璧!そう誰もが思って歓声をあげた。が、プツンと演奏の音が途絶える。このツアーの楽器回りの電気を供給していたソーラーパワーによる蓄電器の充電がきれてしまったのだ。「こうやっていろいろ使って、失敗して、そういうのがアイデアとして蓄積されたらいいなとか……まあ、今のはほんとに残念な感じだけど」と苦笑するゴッチ。励ましの声が沸く中、「今を生きて」が再開。続けて「アネモネの咲く春に」。機材トラブルを払拭するかのようにステージとフロアがエネルギーを爆発させ、ステージは幕を閉じた。
 この夜のステージは、そしてアジカンの現況は、蓄電器の充電切れというトラブルと、「こんちくしょう」「見つけてくれてありがとう」というゴッチの言葉に集約されていた。つまり「これだけしかできねえ⇔これだけはやってやる」という気持ちの狭間で、これまでも、今も、これからも彼らはもがいていくのだろう。世の中への苛立ち、世の中を変える力を持つ音楽への信奉、自分達を支えてくれるファンへの感謝にこんがらがりながら。そう考えるとこのサーキットのコンピで、「俺は負け犬だ。何で俺をヤッちまわねえんだ」と歌う、ベックの「Loser」を彼らがカバーしたことも腑に落ちる。「まだまだぜんぜんダメだ」と不甲斐なさと抱えながら、精一杯の闘争を続けている彼らの姿を確認できた夜だった。9月に横浜スタジアム2デイズで開催されるデビュー10周年ライブでは、さらなる“確固たる意思”とファイティングポーズを見せてくれることだろう。楽しみに待ちたい。

【取材・文 : 山本貴政】
【撮影 : TEPPEI】

tag一覧 ライブ ASIAN KUNG-FU GENERATION NANO MUGEN FES フェス

リリース情報

ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2013

ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2013

2013年06月05日

KRE

1. Loser / ASIAN KUNG-FU GENERATION
2. マイ・ロスト・シティー / cero
3. 適当な闇 / the chef cooks me
4. レインボー / Dr.DOWNER
5. 花束 / 岩崎愛
6. STARS / NOWEARMAN
7. 石川町ファイヤー / PHONO TONES
8. Rapid Reality / RADICAL DADS 09. There’s A Change / Sara Radle (ex - The Rentals)
10. SUNNY / シャムキャッツ
11. ストーリー / スカート
12. beautiful world / SPECIAL OTHERS
13. BRAND NEW EVERYTHING / ストレイテナー
14. Misleading Interpretations / Turntable Films
15. WORDS KILL PEOPLE ( COTODAMA THE KILLER ) / うみのて

このアルバムを購入

セットリスト

ASIAN KUNG-FU GENERATION presents
NANO-MUGEN CIRCUIT 2013
2013.6.28@TOKYO DOME CITY HALL


シャムキャッツ
  1. なんだかやれそう
  2. シンパシー
  3. 手紙の続き
  4. SUNNY
  5. 金太郎飴
  6. 不安でも移動

the chef cooks me
  1. まちに
  2. 四季に歌えば
  3. ケセラセラ
  4. パスカル&エレクトス
  5. 適当な闇
  6. song of sick

Radical Dads
  1. Mountain Town
  2. Dust USA
  3. Recklessness
  4. Harvest Artist
  5. Hurricane
  6. Little Tomb
  7. Alondra Rainbow Under Attack
  8. Know-It-All
  9. Shackleton
  10. Walking Wires
  11. Skateboard Bulldog
  12. Rapid Reality

ASIAN KUNG-FU GENERATION
  1. 新世紀のラブソング
  2. マジックディスク
  3. 暗号のワルツ
  4. サイレン
  5. 1980
  6. ナイトダイビング
  7. 月光
  8. 十二進法の夕景
  9. 転がる岩、君に朝が降る
  10. ループ&ループ
  11. リライト
  12. 君という花
Encore
  1. 今を生きて
  2. アネモネの咲く春に

トップに戻る