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10周年のスキマスイッチ、初の武道館でオーケストラと一夜限りのコラボ

スキマスイッチ | 2014.01.09

 すでにアリーナ級の会場で全国ツアーをまわるユニットだけに、初武道館というのは意外な気がした。デビュー10周年を迎えた2013年、ベストアルバムのリリースや2本の全国ツアーを行うなど、アニバーサリーイヤーを駆け抜けてきたスキマスイッチが、その特別な1年の締めくくる舞台に選んだ日本武道館公演は、オーケストラとのコラボレーションによるスペシャルな内容のものだった。

 会場に一歩足を踏み入れると、ステージにはクラシックのコンサートのような格調高いセットが組まれ、整然と並べられたイスや楽器の数は通常のポップスのライヴとは比べものにならないくらい多い。客席はステージのほぼ真横あたりのギリギリの席まで解放され、2階席には立ち見のお客さんもいる。この日のライヴは一夜限りの超プレミアムライヴなのだ。

 ライヴの幕開けは、まず総勢40名を超えるオーケストラの入場から始まった。指揮者が上手へさっと合図を送ると、常田真太郎(Key)が登場、グランドピアノに着席して、ヴォーカル抜きで演奏がスタートした。時にファンタジックに、時に悠々と、次第に壮大に。表情を変えながら届けられた「overture」を聴くにつれ、この日の特別感が増していく。続いて、バンドメンバーと大橋卓弥(Vo・G)が登場。いつもよりフォーマルな雰囲気に、会場の反応はやや大人しめだ。
 だがこれもライヴが終わる頃には劇的な変化を遂げることになる……。

 鮮やかな赤い緞帳がライトアップされ、聴きなじみのあるピアノのフレーズが鳴る。「ボクノート」だ。CDで何度も聴いたスキマスイッチの音楽が、よりふくよかに生まれ変わって繰り広げられる。
 2曲目からはいきなりアッパーな楽曲「ガラナ」。だが、さすがにいつもスキマスイッチのライヴに来ているお客さんも、このスペシャルな雰囲気に立ち上がりが遠慮がちだった。おずおずとハンズクラップが起こるなか、大橋が「武道館ー!」といつものように煽る。続いても「ゴールデンタイムラバー」という、クラシックとは距離のありそうなロックな楽曲。これにはお客さんも自然と体を動かさずにはいられない。徐々に会場の緊張は解きほぐされていった。

 「昔からずっとオーケストラでライヴをやりたかった」とMCで語った大橋。緊張気味の会場に向けて、「スキマスイッチのライヴの基本的なテーマはアットホームですから」と、たわいもないトークで笑いを誘う。

 前半のハイライトは「冬の口笛」だった。ぐっとテンポを落として、ストリングスをメインに据えた冬らしいアレンジではじまると、途中でヴィヴァルディの「四季」のフレーズをフィーチャリング、次第に加わるバンドサウンドとブラス隊が楽曲をテンポよく締めくくる。曲が終わると、会場には割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
 ステージには上段にクラシック部隊、下段にスキマスイッチとバンドメンバーという立ち位置。ふだんはなかなか見る機会のない編成で、楽曲が進むにつれていろいろな気づきがあった。
 たとえば、なじみのバンド編成のサウンドが1楽器1人でグルーヴを生み出す家族的な編成だとしたら、オーケストラは大きな組織の中で一人ひとりの役割の積み重ねで深みを出していく、会社のような編成だ。そんなまったく違う音楽のあり方が、聴き手にそれぞれ違う感情を植え付けていく。
 楽曲の1番はオーケストラを主役に、2番からはバンドがメインをとった「スカーレット」は、その対比の面白みが特に顕著だった。オーケストラの雄大さや奥行きに比べて、軽妙で親しみ深いバンドの音。どちらもそれぞれに良くて、音楽を浴びる喜びを心から感じた1曲だった。

 ライヴ終盤の盛り上がりのなかで、特に素晴らしかったのは「SL9」だ。「Jupiter」をフィーチャリングして武道館に壮大な宇宙を描く演奏、そこでひときわ強く響き渡る大橋の歌声。この日のライヴについて語る時、構成やオーケストラアレンジといった面で常田が担った役割が大きかったのは間違いないし、大橋も「今日はシンタくんフィーチャーです」とMCでも漏らした。だが、厚みのあるオーケストラのサウンドの中でこれほど歌で強くリードできる大橋のヴォーカリストとしての存在感なくしては、この日のライヴは成立していない。
 スキマスイッチのふたりは、いつでもそうやって自分にはないお互いの長所を讃え合って音楽を積み上げている。

 ラストの「全力少年」では、お約束のコール&レスポンスで会場が一体となっていく。大橋はステージから伸びる花道の端から端までダッシュしながら歌う。この頃には、すっかり客席からはオーケストラを前にした緊張が消えていた。それはつまりこの日のライヴが、“クラシックを迎え入れた”という特別な感覚以上に、あくまでスキマスイッチのポップスが、その特有の愛嬌と人懐こさを失わないままにオーケストラと結びついていた証拠だと思う。

 そしてアンコールは、弦一徹カルテットによる小編成でしっとりと聴かせた「小さな手」、そして湧き立つストリングスから軽妙なトランペットが踊る「トラベラーズ・ハイ」を経て、「ラストシーン」へ。ステージ上の総勢40名以上の演奏者たちが一丸となって、スキマスイッチの音楽を奏でる、この感動的な景色も見納めだ。
 「またやりたいね」(大橋)、「次にやるとしたら、20周年かな」(常田)。MCでふたりはそんな会話を交わしていたが、本当に一夜限りではもったいない。いつかまた見たいと心から思うライヴだった。

【取材・文:秦理絵】
【撮影:岩佐篤樹】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル スキマスイッチ

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スキマスイッチ 10th Anniversary Arena Tour 2013 “POPMAN’S WORLD”(初回生産限定盤)(DVD付)

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2014年02月26日

アリオラジャパン

[DISC 1]
1. 10th −type P.W.−
2. ゴールデンタイムラバー
3. view
4. 螺旋
5. LとR
6. 夕凪
7. 藍
8. ボクノート
9. ふれて未来を
10. アカツキの詩
11. 晴ときどき曇
12. マリンスノウ
13. さいごのひ

[DISC 2]
1. Hello Especially
2. SL9
3. ユリーカ
4. ガラナ
5. トラベラーズ・ハイ
6. 全力少年
7. スカーレット

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リリース情報

[スキマスイッチ]POPMAN’S WORLD~All Time Best 2003-2013~(初回生産限定盤A)

[スキマスイッチ]POPMAN’S WORLD~All Time Best 2003-2013~(初回生産限定盤A)

2013年08月21日

アリオラジャパン

■DISC-1
01.view
02.君の話
03.奏(かなで)
04.ふれて未来を
05.冬の口笛
06.全力少年
07.雨待ち風
08.キレイだ
09.飲みに来ないか
10.ボクノート
11.ガラナ
12.スフィアの羽根
13.アカツキの詩
14.藍
15.惑星タイマー
16.マリンスノウ
■DISC-2
01.虹のレシピ
02.雫
03.ゴールデンタイムラバー
04.8ミリメートル
05.アイスクリーム シンドローム
06.さいごのひ
07.晴ときどき曇
08.石コロDays
09.センチメンタル ホームタウン
10.ラストシーン
11.ユリーカ
12.スカーレット
13.トラベラーズ・ハイ
14.Hello Especially

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セットリスト

Sukimaswitch 10th Anniversary
“Symphonic Sound of Sukima Switch”
2013.12.28@日本武道館

  1. ボクノート
  2. ガラナ
  3. ゴールデンタイムラバー
  4. 晴ときどき曇
  5. 双星プロローグ
  6. Hello Especially
  7. 冬の口笛
  8. 願い言
  9. スカーレット
  10. 奏(かなで)
  11. view
  12. ユリーカ
  13. SL9
  14. 全力少年
Encore
  1. 小さな手
  2. トラベラーズ・ハイ
  3. ラストシーン

お知らせ

■ライブ情報

EX THEATER OPENING SERIES 2014 NEW YEAR PREMIUM“GO LIVE VOL.1”
2014/01/19(日)EX THEATER ROPPONGI

MUSIC FAIR「2500回記念コンサート」
2014/01/30(木)フェスティバルホール
2014/01/31(金)フェスティバルホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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