geek sleep sheep、3人の化学反応が生み出したファンタジックな一夜
geek sleep sheep | 2014.01.23
クリスマス・イヴの夜。ロマンも狂騒も交錯する街に比べると、geek sleep sheepのライヴが行われたこの空間はとてもファンタジックだった。12月11日にリリースされた1stアルバム『nightporter』が共有されているせいもあるのだろうが、すでにファンはメンバーおのおののメインバンドからの流入に留まらず、geek sleep sheepの世界観や3人のバランスを愛し始めていることを実感できたことも幸せなことだった。
へそ曲がりのため(?)のクリスマス映画、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」のテーマソングが流れると同時にフロアにしつらえられた電飾が点灯。歓喜の声が上がり、同時にメンバーも登場。心憎い演出が意外なほど似合う。オープナーはアルバム同様「Weekend Parade」。すっかりおなじみになった345の愛らしくも繊細なヴォーカルが、少しアンニュイな歌詞の世界を伸びやかに描き、yukihiroが叩く60’sテイストなドラムが新鮮に響く。言葉を音節としてポツポツと置いていくような「GOHAN」、シューゲイザー的なサウンドと緩急を押さえたリズムの展開の「IMAGINATION」と、違う色の3曲を一気に演奏し終えたところで、momoが「いらっしゃいませ?。メリー……」とタメるとフロアから「クリスマス!」と素直に返ってくるムードも、彼らの醸すフィロソフィゆえなのだろう。「こんな日にたくさんお越しいただいて。他に用事なかったんですかね?今日は3人で皆さんのお相手をするということで」と、momoが笑いを誘う。敬語でやりとりする、momoと345のほほえましさ。そんな3人のたたずまいからも、それぞれがマイペースで音楽そのものを楽しんでいることがわかる。まったくチャーミングな人たちだ。
すっかりオリジナルのように消化されたStrawberry Switchbladeの「SINCE YESTERDAY」のカバーでは345のヴォーカルはもちろん、momoのヴォーカルもハマっていて、彼らのイノセントな声質がgeek sleep sheepの透明なファンタジーを心から楽しませてくれていることに気づく。ノーウェーヴ的な音数の少ない構成がセンスの良さを感じさせる「Teardrop」、よく聴くとかなり難しい地メロをライヴでもまっすぐ届けた「Last Scene」まで、サウンドはそれこそグランジ、シューゲイザー、オルタナの感触を持ちながら、そのグッドメロディと無駄のないアンサンブルに出てくるのは「楽しい」とか「かわいい!」といった感情だ。自分でも意外だが、それは3人のヒューマニティの部分なのだと思う。
「アルバムとシングルを合わせても14曲しかないけれど、それじゃ時間が短いんじゃないかとせっつかれまして」というmomoの一言に上がる歓声。「知らない曲でも盛り上がってください」と演奏されたのは、場を一気にR&Rパーティに変えたデイジー・チェインソーのカバーである「LOVE YOUR MONEY」、そしてフィードバックノイズから始まるシューゲイズ版「Last Chirstmas」(Wham!)。途中の歌詞を345が<みなさんようこそリキッドルームへ?>とアレンジして歌ってくれた頃には、なんだか出窓に肘をついてサンタを待つ子どものような気分になっていた。いや、大げさじゃなく、彼らはファンタジーを資質として持っているのだ。
後半は345のメロディアスなベースと、それ以上に印象的に残るメランコリックなヴォーカルの「frame」が、彼女の新たなポテンシャルを窺わせる。オリジナリティを感じると同時に、彼らの音楽を聴くと思わずマイブラやスマパンなど90年代屈指のオルタナバンドを自然に連想するが、彼らはそこを目指してはいないことも分かる。だが、そうしたレジェンドたちを想起させる実力は計り知れないし、今の時代にアップデートした上でポップに昇華できるバンドはそうはいない。
さて、フロアをうっとりさせた後は、345の物販に関するMC。その遠慮がちなのか押しが強いのかわからないトークも、彼女のキャラクターが垣間見られる人気のコーナーとして成立しているのが面白い。ちなみに今回は小さな羊のぬいぐるみと木のスプーン付きのスープボウルというガーリーなアイテムもあり、そんなところにもバンドの、特に345の「geek sleep sheepにまつわるすべてを楽しんでほしい」という気持ちが見て取れる。
ライヴは一転、レパートリーの中でもMO’SOME TONEBENDERのカオティックな部分に近いジャンクにぶっ壊れていく「Jesus wa gokigen naname」で暴発したかと思えば、<いぬわんわんわん、ねこにゃんにゃんにゃん>という脱力フレーズも今やシングアロングが起こる「SANPO」、ディレイのかかったギターが心地よい半覚醒状態にへ誘う「hitsuji」、アルバムでもラストを飾る、日常感あふれる「Daydream」が、淡々とした地メロから上昇していくサビへと突き抜けていき、momoと345のコーラスが夜の果てまで届きそうに輝きながら溶けていく。シンプルでいて、この3人が少し手心を加えたらなんという圧が出るんだ!という当然のことに改めて驚きながら、ホワイトアウトするようなエンディングはCDでは味わえない恍惚感をもたらしてくれた。平熱の日常感、遠くにいて思う誰か。眠りの中の真実といった物語のエッセンスや3人の飾らない人柄、グランジやシューゲイザー、時にはパンクの要素など、3人のミッシングリングもありつつ、既存のジャンル感にないgeek sleep sheepという新しい音楽がここで鳴っているダイナミズム。今のバンドシーンにあって彼らの音楽がとても自由に映るのは、メンバー自身がまず演奏や楽曲作り、このトライアングルで起こる化学反応を楽しんでいる証なのだと思う。それでいて、決しておのおのセカンド・バンドだなんて言わせない作品力。キャリアも表現力もあるミュージシャンが、出会うべくして出会った結果生まれる音楽は、日本のロックをきっと風通しのいいものにしてくれるだろう。2014年1月には初のツアーも決定。形になりかけている新曲があることも匂わせていただけに、パーマネントなバンド活動に期待したい。
【取材・文:石角友香】
【撮影:岡田貴之】
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リリース情報
nightporter
2013年12月11日
EMI Records Japan
2.hitsuji
3.GOHAN
4.Jesus wa gokigen naname
5.SANPO
6.Teardrop
7.frame
8.Last Scene
9.Strange Circus
10.IMAGINATION
11.magica
12.Daydream
セットリスト
confusion bedroom vol.2
2013.12.24@恵比寿LIQUID ROOM
- Weekend Parade
- GOHAN
- IMAGINATION
- SINCE YESTERDAY
- Teardrop
- Last Scene
- LOVE YOUR MONEY / Daizy chainsaw
- Last Christmas / Wham!
- magica
- frame
- Good Dream
- Jesus wa gokigen naname
- Strange Circus
- SANPO
- hitsuji
- Daydream
お知らせ
tour confusion bedroom
2014/01/23(木)大阪 なんばHatch
2014/01/24(金)名古屋 クラブダイアモンドホール
2014/01/29(水)東京 EX THEATER ROPPONGI
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。