ゴスペラーズ史上最多のカバー曲を披露したツアー「ハモ騒動」、総括レポート!
ゴスペラーズ | 2014.02.26
ゴスペラーズの全国ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2013?2014“ハモ騒動”」が、1月25日(土)の苗場プリンスホテル ブリザーディウムで千秋楽を迎えた。
2013年10月3日からスタートした本ツアーは、同年9月にリリースされたゴスペラーズ初のカバーアルバム『ハモ騒動 ~The Gospellers Covers』を携えたツアーとなった。結果、今年の年末でデビュー20周年を迎えるゴスペラーズ史上、最もカバー曲の多いセットリストとなった。
初のカバーアルバムの意味も考えながら、本ツアーを総括してみたい。
前述した『ハモ騒動 ~The Gospellers Covers』は、彼らのいろんな意味でのルーツの結晶だ。彼らがリスナーとして刺激を受けた曲はもちろん、歌い手として、もっと言ってしまえばハモリやアカペラというスタイルを含み、ヴォーカルグループとして刺激を受けた曲が並んでいる。マニアックな曲から、日本の音楽シーンの大ヒット曲まで、時代やジャンル超えた幅の広さが興味深い。またカバー曲を “ハモり”という彼ら特有のキャッチ・アイコンを使い、自分達のオリジナル曲のように聴かせたあたりには、その実力と同時に、ルーツへの敬意も感じられた。そんなアルバムの中でオープニングを飾り、リードトラックとなったのは「猫騒動」。現存するアカペラ音源において日本最古の曲と言われている「猫騒動」は、戦前1933年に発表された1曲だ。猫のケンカを当時の言葉でテンポ良く描写する歌詞、ニャゴニャーゴのバリエーションで聴かせるハーモニーと、驚きの連続だ。さらに、メンバー酒井の猫の鳴き真似は、声帯模写と言ってもいいクオリティーである。インパクトも絶大で、相当アグレッシヴな曲である。あまりに強烈すぎて、ライヴでどのタイミングでどのように扱われるのか、想像できなかった。
くだんの「猫騒動」は、「ゴスペラーズ坂ツアー2013~2014“ハモ騒動”」の中では、中盤で歌われた。
本ツアーは、オリジナル曲とカバー曲、時代、ジャンルと、ライヴの流れを作る上で、クリアしなければならない条件がいつもよりも多かった。ゴスペラーズは、そこを複数の“とある歴史”をリンクさせていくことで、見事にクリアしていた。彼らのエンターテインメント性の柔軟性があったからこそ達成できたものだと思う。
で、とある歴史とは何か。
まずは、ゴスペラーズの歴史。日本の音楽シーンの歴史。ブラックミュージックの歴史。そして、アカペラの歴史、などである。
この中のアカペラの歴史を聴かせるコーナーに、「猫騒動」は組みこまれた。
ゴスペラーズのヒット曲「ひとり」を披露した後、話は日本のアカペラの歴史に展開する。そのMCの中で「筑波山麓合唱団」を聴かせる。カエルの合唱をデフォルメして合唱団風に歌ったこの曲。その曲調に合わせ、メンバーの北山がコンダクターとなり、5人が直立不動で歌う姿は、じつにコミカルで笑いが起こった会場もあった。この歌を受け「動物の声は、ハモリになりやすいのかもしれません」と次の流れにつなぐ。MCも有効に使い、ストーリーで繋いでいく手法は、ゴスペラーズの得意技だ。デビュー直後から芝居仕立てのライヴにチャレンジしたりと、歌をちゃんと届けるために、ライヴでのストーリー性を重要視していきた彼らだが、ここ数年、その重要なファクターである“歌”と“お芝居”と“ライヴ中の自分達のキャラクター”が無理なく一致してきたように思う。本ツアーでのその完成度は、過去最高と言っていいくらいのものだった。
“動物の声”というキーワードで紡がれたライヴ。そして披露されたのが「猫騒動」だった。5人が歌い出す。仕草がどこか猫っぽい。酒井雄二に至っては、猫が憑依したような動きを見せる(特に威嚇している仕草)瞬間も。そんな5人の様子を観て、ある会場では、幼稚園くらいの男の子がのけぞって大笑いしていた。彼は「猫騒動」の最後、さっきまでまったく知らなかった歌を、ゴスペラーズと一緒に ♪ ニャゴニャゴー♪ と歌っていた。ゴスペラーズのツアーには、毎回、必ず初めて訪れる街がある。今回のツアーでもそんな街がいくつもあった。初めて訪れる場所では、家族で来場している方々も多い。彼らを初めて観るという人もたくさんいる。そんな“ゴスペラーズ初体験”のお客さん達が、素直に笑顔になったのが「猫騒動」という1曲だったのではなかろうか。
誰もが楽しめるというエンターテインメント性がポップスのマジョリティーに通じるならば、アルバム中で最もアグレッシヴな「猫騒動」という曲は、ツアーを経て、ゴスペラーズ屈指のポップスになったと思う。
ライヴが楽曲を育てることを、観客の存在がそのエネルギーになることをゴスペラーズは熟知している。それはデビュー前、ストリートライヴでカバー曲を歌っていた頃から脈々と続いてきた、彼らのスピリッツだ。そしてこのスピリッツは、今でも変わらない。
だから彼らは、毎年ツアーを重ねる中でも、いつももっとたくさんの人に聴いて欲しいと切に願うし、歌を聴いてもらうためならば、どこまでだって足を運ぶと、いつも口を揃えるのだろう。
そして彼らは、また次の旅の準備に入る。たくさんの楽曲とともに、その成長を観客とともに楽しむために。
2014年。デビュー20周年を迎えるゴスペラーズ。
本ツアーの最終日、村上てつやはMCの中で20周年についてこう触れた。
「20周年、いろんなこと、僕らの方からうっていこうと思っています。皆さんに参加してもらえるような企画も考えております。1年間、楽しみにしていてください」
次のゴスペラーズが、すぐそこまで来ている。
【取材・文:伊藤亜希】
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