Zepp Tokyoに向かう道すがら、[Alexandros]という新たなバンド名を眺めながら、神話の世界の登場人物のような、そのなんとも神々しい風体とまるで超巨大モンスターのような迫力に、まさしく、あの4人にこそふさわしい名前を付けたものだなあと妙な納得をしてしまった。

　昨年から続いている「We Don’t Learn Anything Tour 2013-2014」。5月9日、10日のZepp Tokyo公演はツアーファイナルになるはずだったが、大阪公演と福岡公演が庄村聡泰のインフルエンザ発症により延期になったことで予定変更。しかしながら、会場はまさにファイナルのような緊張感が開演前からみなぎっていた。突然の改名宣言となった日本武道館公演から、さほど日にちが経っていないのにも関わらず、もちろん2日間ともにソールドアウト。モンスター級の人気を誇る[Alexandros]への注目度の高さがうかがえるというもの。

　ある意味で記念碑的な雰囲気もあった武道館公演とはまた趣きが異なり、序盤から「Run Away」や「Stimulator」でフロアをバウンスさせ、ライブハウスならではの濃厚な熱狂が巻き起こっていたことが印象深い。ステージから浴びせかけられる狂乱麗舞なパフォーマンスとサウンドに呼応して、オーディエンスが全身全霊で受け止めようとするさまは、まさにひとつの巨大な生き物のようでもあり、このライブという場所にこそ[Alexandros]というバンドの真価を見出すことができるというのが頷ける。そして、バックドロップに掲げられた[Alexandros]というバンド名がその様子を空間に刻み込んでいるかのようだった。

　川上洋平がハンドマイクで観客を煽る「Kick&Spin」では彼のアジテーターとしての存在感が滲み出し、「ライブってこんなに楽しかったんだっていうくらい今日は楽しいです。明日がなくてもいいと思えるくらい楽しんで」と本人もその場を心底楽しんでいる様子がうかがえる。

　 　また、この日の特色のひとつはいくつかの曲を演奏する前に、川上がオアシスの「ワンダーウォール」やレディオヘッドの「クリープ」を弾き語ったり、バンド全体でレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「ギブ・イット・アウェイ」を繰り広げたり、アレンジの中にアンダーワールドの「ボーン・スリッピー」のフレーズを引用したりしたこと。どしどし洋楽曲を聴かせてくれる様子に彼らのミュージックラバーとしての一面が垣間見られてうれしくなるとともに、きっと、[Alexandros]を通して、そういった洋楽バンドを知る若いリスナーも多いと想像してしまう。そういう循環こそが音楽を楽しむ上での重要なファクターなので、彼らの存在にさらなる頼もしさを感じたのだった。

　さらに、特筆すべきは6月18日にリリースされるニューシングル「Adventure / Droshky!」からタイトルトラックの2曲が披露されたこと。ヒステリックに交錯するバンドアンサンブルにつづき、サビで一気に開ける「Droshky!」は武道館公演でも繰り広げていたが、今公演のアンコールで飛び出した「Adventure」は、[Alexandros]の新機軸を予感させる無邪気で眩しいメロディが印象的なナンバーで、リリースされるのがますます楽しみになった。

　川上自身、新曲「Adventure」については「自分にとっても大事な曲」と語っていたが、まさに[Alexandros]としての冒険譚は幕が開けたばかり。これまで観た中でも最高潮にアツかったこの日のZepp Tokyoのライブはある意味そのスタート地点でもあり、さらにニューシングルによって、新たな海へ漕ぎだしていくはずだ。彼らの屈強なライブを目の当たりにすれば、どんな荒波も物ともせず突き進んでいくことを確信させられる。今後も彼らの物語を一部始終、目撃していきたい。

【取材・文：小林“こばーん”朋寛】
【撮影：AZUSA TAKADA】