画面の向こう側に捧げられた生配信ライブ「Party in ur Bedroom」の真意とは。
[Alexandros] | 2020.06.30
ステイホーム期間中にメンバーがリモート体制で制作したコンセプトアルバム『Bedroom Joule』のリリースに合わせて、[Alexandros]が6月20日と21日(この日はファンクラブ会員限定配信)の2日間にわたって繰り広げる無観客生配信ライブ「Party in ur Bedroom」。その初日の模様をレポートしたい。日付が変わって21日の午前0時を迎えると新作『Bedroom Joule』の配信がスタートするというタイミングだが、バンドとしても約半年ぶりのライブである。
開演予定時刻の20時、機材がセッティングされシックなデザインのカーペットが敷かれたスタジオ内に、川上洋平(Vo/Gt)、白井眞輝(Gt)、磯部寛之(Ba/Cho)、そしてサポートメンバーのROSE(Key)とリアド偉武(Dr)の5人が姿を見せる。照明の光量は控えめで、キャンドルの炎がゆらめく、いかにも落ち着いたベッドルームのような趣の空間だ。椅子に腰を下ろした川上によるアコギのアルペジオと、白井による静謐なエレクトリックギターのフレーズが絡み、優しいウィスパリングボーカルで歌い出されるのは、『Bedroom Joule』のオープニングにも配置された「Starrrrrrr (Bedroom ver.)」。美しく、大胆な変貌を遂げたアレンジに、息を呑む思いだ。
ライブ序盤は、新作の曲順どおりにセットリストが組まれ、『Bedroom Joule』の世界観に時間が染め上げられてゆく。スタジオと自宅の部屋が、温度差なしに繋がっているかのようだ。幽玄のエレクトロニックサウンドに包まれ、ビートミュージックのグルーヴ感をバンドで解釈してゆくのは、先行配信された「Run Away (Bedroom ver.)」。自らのクリスピーな節回しに導かれるように川上は立ち上がり、磯部の美麗なファルセットコーラスも映えるジェントルなサウンドとグルーヴを、心地よさそうに乗りこなしていった。
あらためての挨拶を交え、緊張感さえも楽しんでいるかのように語る川上は、「ヒロさんのコーラス最高!」といった視聴者によるチャット上のコメントを読み上げる。その磯部も、こうしてメンバー同士が直にセッションするようになったのはつい最近のことと語り、今度は豊かなコーラスのレイヤーを効かせた「Leaving Grapefruits (Bedroom ver.)」へと向かう。まるで、[Alexandros]による斬新なドゥーワップのようだ。ヘッドフォンでの視聴が推奨されるあたりも、配信ライブならではの楽しみ方である。『Bedroom Joule』に収録されたリワーク楽曲では、バンドメンバーやリアドがそれぞれにアレンジのディレクションを担当していることを告げ、今度は「ベッドルームで皆さん、踊っちゃってください」と呼びかけながら「Thunder (Bedroom ver.)」へ。浮遊感のあるサウンドスケープを保ちつつ、ライブは徐々に肉体的な躍動感を増していった。
「沖縄で書いてないよね?」と川上が冗談めかして披露されるのは、白井のディレクションによる「月色ホライズン (Bedroom ver.)」だ。音源作品として3つ目のバージョンになるアレンジだが、楽曲が持つロマンチシズムがさらに深く掘り下げられている。リアドがディレクションを担当した「Adventure (Bedroom ver.)」にはジャジーなピアノ演奏が伝い、サンプリングのコーラスに重なってオーディエンスの声までが聴こえてくる気がする。チャットを見つめる磯部も、「<ラララ…>ってみんな書いてるわ!」とうれしそうだ。今回、踊Foot WorksのPecoriが音源制作に参加した「city (feat. Pecori)」のライブ披露は見送られたけれども、「むしろ、フィーチャリング・川上洋平になってる。いつかライブに呼びたいですね」と、今後の楽しみをひとつ増やしてくれた。
とりわけ感動的な一幕となったのが、新曲「rooftop」である。「今のツールがあるから、友達や家族が身近に感じられる」とステイホーム期間中のコミュニケーション環境について語りながらも、こうしてスタッフとライブ空間を生み出すことのできる喜び、そしてライブアクトとしての意地とこだわりを滲ませながら、川上はこの曲を歌った。いつかの再会を約束する、愚直なほどにまっすぐなラブソング。甘く優しい響きではあるが、その奥底には強靭な信念が横たわっている。白井の雄弁なギターソロも、川上が歌詞に込めた思いをがっちりと後押しするようだ。今、[Alexandros]がファンに伝えたい思いはこれなんだという、明確なメッセージがそこにはあった。
そしてライブ後半は、メンバー全員が立ち上がってリッチ&ラウドな思い切りのいいロック空間へと持ち込む。「Oblivion」から「Burger Queen」へと繋ぐ間に川上は「お待たせしました! 暴れる時間です!」と熱量高く煽り立てる。前のめりで情熱的な「For Freedom」、さらに「オンラインだからってシンガロングさせないと思うなよ!」と、フルスロットルで捻れて転げ回る「Dracula La」へ。そう、川上はたとえ配信ライブであっても、今回のパフォーマンスで一貫して、すぐ目の前にオーディエンスがいるかのように振る舞っていた。その姿勢こそが「Party in ur Bedroom」の真意なのだ、とでも言うように。
スリリングな「Waitress, Waitress!」からヘビー級ロックサウンドの「Mosquito Bite」と、出し惜しみなしのキラーチューンつるべ撃ちを決める合間にも、録画ではなく生の配信ライブであることを強調しつつ、「最初は、あ、今日こんな感じなんだと思ったでしょ。それで終わらないのが[Alexandros]ですよ」と笑みを浮かべる。オリジナルバージョンの「city」では、鬱憤を晴らすかのようにギターを掻き毟る白井のプレイもすさまじい。「近所迷惑になってもいいですか!? Let’s go crazy, Party in ur Bedroom!!」と川上が捲し立てて傾れ込む「Kick&Spin」で、彼はカメラにマイクを向けていた。ファンのベッドルームに[Alexandros]のライブ空間を作り上げること。ライブ体験の意味と価値を刻み付けること。それこそが、今回のパフォーマンスの目的だったのだ。本編だけできっかり1時間30分。火照った体のままフィニッシュする、素晴らしい時間だった。
さて、楽屋に戻って談笑しつつ小休止するメンバーの姿を、カメラが待ち構えている。これも、配信ならではの粋な計らいだ。メンバーも、久々にファンの視線にさらされる時間をたっぷり味わっているのだろう。「アンコール(の書き込み)が足りないねえ(笑)」と告げながら、今回のライブのグッズを紹介したりしている。そして晴れてのアンコールは、<君がいないとはじまらないよ>というメッセージを渾身の力で叩き付ける「PARTY IS OVER」。間奏にも川上はチャットのコメントを次々に読み上げ、ハンドウェーブを誘う。そして「最後にブチあがろうぜ!!」と畳み掛けるオリジナルバージョン「Starrrrrrr」の昂ったままの疾走で、今回のパフォーマンスは幕を閉じた。変わるものはある。しかし、変わらないものもある。困難な時期だからこそ生み出すことのできた新作とともに、未来への約束を残してゆく、今の[Alexandros]の熱い思いを肌で感じるライブであった。
【取材・文:小池宏和】
【撮影:河本悠貴】
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リリース情報
Bedroom Joule[デジタルリリーズ]
2020年06月21日
ユニバーサルミュージック
02.Run Away (Bedroom ver.)
03.Leaving Grapefruits (Bedroom ver.)
04.Thunder (Bedroom ver.)
05.月色ホライズン (Bedroom ver.)
06.Adventure (Bedroom ver.)
07.city (feat. Pecori)
08.rooftop
セットリスト
Party in ur Bedroom
2020.06.20
- 01.Starrrrrrr (Bedroom ver.)
- 02.Run Away (Bedroom ver.)
- 03.Leaving Grapefruits (Bedroom ver.)
- 04.Thunder (Bedroom ver.)
- 05.月色ホライズン (Bedroom ver.)
- 06.Adventure (Bedroom ver.)
- 07.rooftop(新曲)
- 08.Oblivion
- 09.Burger Queen
- 10.For Freedom
- 11.Dracula La
- 12.Waitress, Waitress!
- 13.Mosquito Bite
- 14.City
- 15.Kick&Spin 【ENCORE】
- EN1.PARTY IS OVER
- EN2.Starrrrrrr