ソロツアー終了!自由な音楽を追い求めるGotchのインディーズ・スピリット
Gotch | 2014.06.20
ライブはまずオープニングアクトのボールズ(ex.ミラーマン)からスタート。3ギター+ベース&ドラムという5人編成から繰り出されるのは、カラッと乾いた8ビート・サウンドだ。Gotchも大好きだという「ばんねん」から始まったライブは、明るいエネルギーに満ちていて、会場から大喝采が贈られる。このバンドを初めて観る人も多いはずなのに、率直な反応が返ってきて、きっとボールズは大きな勇気をもらったに違いない。今夜、渋谷CLUB QUATTROには、音楽好きでとてもフェアな人たちが集まっているようだ。
セット・チェンジの後、いよいよGotchが登場。バンドはギター2、ベース、ドラム、キーボード、女性コーラスの合計7人の編成だ。
ソロアルバム『Can’t Be Forever Young』は、ほとんどの楽器をGotch自らが演奏し、サンプリングも取り入れた音作りで、アジカンとはまったく異なるテイストのサウンドで構成されていた。それらの曲をどんな風にライブで演奏するのか大いに興味をそそられていたから、目の前にこの編成が並んだとき、「アルバムとは別モノだな」とすぐに直感した。
ハットをかぶったGotchからは、ボブ・ディランやニール・ヤングみたいな“洋楽シンガー・ソングライター”の香りが漂い出す。アジカンというバンドの一員である後藤正文とは、香りからして一線を画している。その個人的=インディペンデントな匂いこそ、今回のGotchのソロの重要なテーマの一つなのだ。
スタートはリズミックな「Humanoid Girl」から。大編成なので、精度を要求されるアンサンブルではあるが、メンバーそれぞれが個性的なグルーヴを持っているので、活き活きとした楽器同士の絡み合いがオーディエンスの心を躍らせる。続く「The Long Goodbye」は、2ビートのグル―ヴが心をウキウキさせる。
そして3曲目は「Can’t Be Forever Young」。アルバム・タイトル曲を序盤にサクッとやってしまうのが面白い。大規模なツアーではないので、自由な発想のセットリストが許されるのが醍醐味だ。ギタリストの井上陽介(fromターンテーブルフィルムズ)がブルースハープを吹いたり、コーラスのYeYeがタンバリンを叩いたり。ヒューマンなグルーヴが繰り出され、「アルバムとは別モノだな」という予感が的中した。
「こんばんは。ツアー・ファイナルにお越しくださいまして、ありがとうございます。今日でツアーは終わりなので、メンバーとはしばらく会えない。次に会うのはFUJI ROCKかな。ようやくメンバー同士でカードゲームをやるようになったところなのに。今日は、身体をゆらゆらさせながら楽しんで下さい」
そんな“仲良しメンバー”の個性が、さらに発揮されたのは、「Aspirin」から「Route6」 への流れだった。「Aspirin」でアコギのアンサンブルを軸に、柔らかなロックのニュアンスを醸し出すと、天井のミラーボールがゆっくり回り出す。アルバム未収録の「Route6」 は、“歌うエッセイ”といった感じのアーシーな味わいの曲で、ここでもシンプルなライティングが効果を発揮する。
演奏も演出も照明も、すべてがライブハウスのテイストで統一されている。大会場のスペクタクルなライブもいいいが、ここにはリラックスして音楽を楽しむライブハウスならではの心地よさがあった。それはミュージシャン側も同じで、アイコンタクトだけで自在に曲を変化させることができるライブハウスでの演奏は、何物にも代えがたい歓びがある。こうした“ライブハウスのメリット”を求めて、Gotchはソロ活動をスタートさせたと言ってもいいだろう。
その極致は、ニール・ヤングの名曲「Only Love Can Break Your Heart」のカバーだった。ニールの傑作アルバム『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』に収められたこの曲は、美しいメロディと歌詞を持つ“アコースティック・ロック”のプロトタイプだ。
この曲が始まったとき、僕の脳裏に奇妙なフラッシュバックが起こった。1988年にここ渋谷CLUB QUATTROがオープンした頃の記憶が、蘇ったのだ。レンガをふんだんに使った、当時としては珍しい内装は、海外の伝説的なライブハウスを連想させた。たとえばビートルズを生んだリバプールの“キャバーンクラブ”もまた、もともと古いレンガ張りの建築物を改装して作られていた。それまで、そんなライブハウスは日本にほとんどなかったから、ここで観た海外アーティストのライブや、“ミュートビート”などのJ-ROCKのオリジネーターたちのパフォーマンスはどこか特別なものに思われた。Gotchのライブは、そうした渋谷CLUB QUATTROの本来の姿を、僕に思い出させてくれた。
そういえばアルバム『Can’t Be Forever Young』のインタビューの際、Gotchは今年リリースされたニール・ヤングのアーカイブ音源『Live at the Cellar Door』の話をしていた。このアルバムは『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』発売直前にワシントンDCのライブハウスで行なわれた、ニールのごく個人的なライブの音源で構成されていて、「Only Love Can Break Your Heart」も収録されている。
そのことに気付いて、「ああ、このソロツアーは、いい意味で“Gotchのやりたい放題”なんだな」と思った。彼の個人的な楽しみを、フェアなオーディエンスたちと分かち合うライブなのだと実感して、嬉しくなった。そう、Gotchのインディーズ・スピリットは、すこぶる健在だ。
「むちゃくちゃ楽しいです。でも、そろそろ終わってしまいます。正直、名残り惜しい。このメンバーで、(椅子のある)ホールでもライブをやってみたい。みんなのことを考えて、年相応の会場を選んでいきます(笑)。なぜなら、“Can’t Be Forever Young”!」。
Gotchは 「Can’t Be Forever Young」の邦題を、“いのちを燃やせ”と付けた。その想いが伝わって、オーディエンスたちも終盤に向けて盛り上がっていく。ミディアムテンポのロック「Sequel to the Story」で、みんなが笑顔になっていく。ラストの「A Girl in Love」を歌い終えたGotchは、両手を上げて自分たちとオーディエンスに拍手を贈りながら、いったんステージを去った。
アンコールの1曲目は、リードシングル「Wonderland」。ブラスセクションの3人が加わった賑やかなパーティ・サウンドに、フロアが踊り出す。
「ブラスには、身体を動かさせる力がある。ツアーではブラスのパートをシモリョー(from the chef cooks me)がシンセでやってたけど、人が吹くとエネルギーが違う。“人間のタイミング”で、音楽をやりたいんだよね。コンピュータのリズムも正確でいいけど、人間は興奮するとテンポが速くなったりするじゃん。日頃のシガラミから逃れて踊る盆踊りとか、そういう人間的な音楽が好き。どこまでも音楽は自由であって欲しいと思います」。
さらには新曲「Baby Don’t Cry」を披露する。この国の若者のささいな日常を描くバラッド=叙事詩が、オーディエンスたちを和ませる。終演後、楽屋でこの歌の成り立ちを訊くと、Gotchは「ツアーで旅した街で感じたことを書いてみた」と答えてくれた。
とにかく愉快なライブだった。単純に“楽しい”だけではない。一曲一曲に、一つ一つの音に、Gotchとメンバーたちの体温が感じられ、音楽の深層にあるヒューマンな歓びが噴出する。ライブハウスの特質を知り抜いているバック・ミュージシャンたちのベストプレイが、Gotchの音楽観と合致して、素晴らしいファイナルになった。何よりGotchの気高いミュージシャンシップに、改めて敬意を払いたい。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:MITCH IKEDA】
リリース情報
Can’t Be Forever Young
2014年04月19日
only in dreams
2.Humanoid Girl / 機械仕掛けのあの娘
3.The Long Goodbye / 長いお別れ
4.Stray Cats in the Rain / 野良猫たちは雨の中
5.Can’t Be Forever Young / いのちを燃やせ
6.Nervous Breakdown / 軽いノイローゼ
7.Aspirin / アスピリン
8.Great Escape from Reality / 偉大なる逃避行
9.Blackbird Sings at Night / 黒歌鳥は夜に鳴く
10.Sequel to the Story / 話の続き
11.A Girl in Love / 恋する乙女
12.Lost / 喪失
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セットリスト
Gotch Tour 2014
Can’t Be Forever Young
2014.6.12@渋谷CLUB QUATTRO
ボールズ
- ばんねん
- 退屈な遊び
- 渚
- 通り雨
- Akutagawa trip
- メルトサマー
Gotch
- Humanoid Girl
- The Long Goodbye
- Can’t Be Forever Young
- Stray Cats in the Rain
- Aspirin
- Route6
- Blackbird Sings at Night
- Only Love Can Break Your Heart
- Great Escape from Reality
- Lost
- Nervous Breakdown
- A Shot in The Arm
- Sequel to the Story
- A Girl in Love
- Wonderland
- Baby Don’t Cry
- A Girl in Love(1コーラス)