氷室京介ソロデビュー25周年ツアー。最終日の横浜スタジアム公演をレポート
氷室京介 | 2014.07.29
7月13日の山口・周南市文化会館公演で、ライブ活動の休止を発表した氷室京介。19日の横浜スタジアム公演に於いて、その理由は聴覚の不調によるものだと明かされた。そして迎えたツアーファイナル公演、横浜スタジアム2日目。曇り空の狭間から時折初夏の日差しが降り注ぐ会場内は、様々な想いを抱えた観客で埋め尽くされていた。
開演予定時刻の17時となり、会場全体から起こった激しい手拍子。待ちわびた人々の熱気が早くも渦巻く中、まず始まったのは氷室京介の25年間の軌跡を辿るスライドショー。ライブ写真などの間に時折、あどけない表情の幼年時代、やんちゃそうな少年時代の姿も織り交ぜられていて、観客は大いに盛り上がる。そして、18時過ぎにいよいよライブ本編がスタートした。バンドメンバーたちと共に氷室がステージに登場し、1曲目に放たれたのは「WARRIORS」。手拍子をしながらシンガロングする観客のエネルギーがものすごい。そんな人々に向って鋭いビート感覚に裏打ちされた歌声を届けていく氷室。圧倒的な表現力とパワーをまざまざと体感させられるオープニングであった。
「PARACHUTE」「WILD AT NIGHT」「眠りこむ前に」などを一気に披露した後、最初のインターバル。「上手く周りと融合できない自分をテーマにした曲。あの時期にしか書けなかった凄く気に入ってる曲をやります」と氷室が言い、1stアルバム『FLOWERS for ALGERNON』に収録されていた「DEAR ALGERNON」がスタートした。冒頭でこの曲であることをいち早く悟った観客は歓声を上げ、メロディに一心に耳を傾ける。続いて「たどりついたらいつも雨ふり」(吉田拓郎のカバー。「DEAR ALGERNON」を1stアルバムからシングルカットした際、カップリングに収録)。スタンドマイクに向き合い、片足でリズムを刻みながら歌声を響かせる氷室。聴き入る人々の心を激しく震わせているのが、周囲の空気から伝わってくる。演奏が終わった瞬間、ステージに向って割れんばかりの拍手が届けられた。
最新シングル「ONE LIFE」を皮切りに、「BANG THE BEAT」「Doppelganger」「NATIVE STRANGER」など、パワフルなナンバーを連発した後、再びインターバル。所属事務所から独立し、アメリカに移り住んだ頃に制作した「魂を抱いてくれ」についてのエピソードが紹介された。3人目の子供を宿した妻がレコーディング現場に立ち会う中、歌入れを行ったのだというこの曲。3日間をかけて録音したどのテイクも気に入らず、「全部消してくれ」とエンジニアに言って大喧嘩になったことなどを氷室は語った。「そんなことを25年間ずっとやってきて、結果を出せているのか分からないけど、でも、25年間やってきて良かったと思うことは、たくさんの連中がこうして熱い声援を送ってくれるということ。みんなの気持ちに支えられたから、命懸けでやってこられた。男は自分を信じてくれたもののためだった命を張れる。落ち込んだ時期もあったけど、みんなの前に戻ってこられると、俺の人生はパーフェクトだと思える。本当に感謝しています」という言葉を添えて披露された「魂を抱いてくれ」は、情感豊かな歌声が真っ直ぐに迫ってきた。続いて、「IF YOU WANT」。すっかり日も暮れた中、温かい音像が会場全体に広がっていく。丁度この頃、横浜港で行われていた花火大会。曲がエンディングを迎えた時、偶然打ち上げられた特大級の花火がステージ上手側、一塁スタンド席後方の夜空を美しく彩ったのが印象的であった。
「ROCK’N’ROLL SUICIDE」「IN THE NUDE~Even not in the mood~」「LOVE & GAME」など、アッパーなナンバーが炸裂し続けた終盤戦。イントロが奏でられるや否や、観客は声を上げて興奮を露わにする。それぞれの曲がいかに観客に愛され、心と身体に深く刻み込まれているかがよく分かる。そんな中、本編ラストを飾った「WILD ROMANCE」の盛り上がりは、特に圧倒的なものであった。氷室がマイクを客席の方へ向けると、一際熱を増したシンガロング。清々しい一体感で会場全体が震えるのを感じた。
観客の間から湧き起ったアンコールを求める手拍子と「氷室!」という声。しかし、いつしか雨が降り始めていた。先程から遠くの空で瞬いていた稲光も徐々に近づいて来る気配……。不穏な天候となりつつあったが、ステージに氷室とバンドメンバーたちが戻ってきた。まず披露されたのは「NORTH OF EDEN」。歌声とバンドの演奏がドラマチックに迫ってくる。だが、その熱量と呼応するかのように大粒の雨が降り注ぎだした。続いて「THE SUN ALSO RISES」。演奏中にさらに激しさを増した雨。稲光が夜空を鋭く切り裂き、雷鳴が周囲一体に轟いた……この曲が終了した後、会場近辺に落雷があったことがアナウンスされ、ライブは一時中断。観客は席を離れてコンコースへと避難した。
約1時間後。雨はまだ降り続けているものの雷が収まったため、ライブの再開が発表された。観客が席に戻った後、ステージに現れた氷室。「25周年のツアー。最後にここでコンプリートしたいと思ってたけど、昨日のリハの時に雨で濡れたステージで滑って。医者に行ったら“肋骨が折れてます”と言われて」と語った。そんなことは思いもよらない全力のステージングを目の当たりにしてきただけに、観客の間にどよめきが広がる。そして、「何百回も歌ってきたけど最高の、命懸けの「ANGEL」を歌いたいと思います」と言い、曲がスタートした。ソロとしてのキャリアの第一歩となった「ANGEL」を、身も砕けんばかりの勢いで歌う氷室の気迫がすごい。腕を振り上げて観客を煽ると、熱い歓声が雨模様の夜空に融けていった。やがてエンディングを迎え、横浜スタジアム全体に漂った爽やかな余韻。「今日は本当に申し訳ない。プロとしてこのリベンジを必ずどこかでやれたらと思います。この情けない人間を支えてくれる連中が集まってくれたら嬉しい」と氷室が呼びかけると、賞賛の念に満ちた最大級の拍手と歓声がステージへと届けられた。
【取材・文:田中 大】
セットリスト
KYOSUKE HIMURO 25th Anniversary TOUR GREATEST ANTHOLOGY -NAKED- FINAL DESTINATION
2014.7.20@横浜スタジアム
- WARRIORS
- PARACHUTE
- WILD AT NIGHT
- GIRLS BE GLAMOROUS
- CALLING
- 眠りこむ前に
- DEAR ALGERNON
- たどりついたらいつも雨ふり
- ONE LIFE
- BANG THE BEAT
- Doppelganger
- NATIVE STRANGER
- 魂を抱いてくれ
- IF YOU WANT
- ROCK’N’ROLL SUICIDE
- WEEKEND SHUFFLE
- IN THE NUDE
- LOVE&GAME
- DRIVE
- WILD ROMANCE
- NORTH OF EDEN
- THE SUN ALSO RISES
- ANGEL