back numberが初の横浜アリーナで堂々魅せたその勇姿
back number | 2014.09.29
君と僕、あるいは、あなたと私。すべてはその一対一からしか始まらない。おそらく恋愛は最小単位で織りなされるもっとも濃密な人間関係だ。俯瞰で見ればちっぽけかもしれない、けれど当事者にとっては何物にも代え難い切実な心模様。back numberはそうしたひとつ一つを丁寧に掬い上げ、ラブソングへと誠実に紡ぐ。清水依与吏(Vo.& G.)はこの日、自らの音楽を称して“小さい歌”と呼んだけれど、そこに綴られた瑞々しくも生々しい等身大の感情や独白にも似た物語にこそ惹きつけられずにいられない。これだけの大空間を満たしてなお普遍に“小さく”あり続けられる歌、1万数千人のひとり一人に変わらず手渡しされる音楽がうれしい。そうつくづくと噛み締めた夜。
最新アルバム『ラブストーリー』を携えて21公演を回ったツアー<love stories tour 2014>の追加公演だ。バンドの勢いそのままにホールからアリーナへとスケールアップしての横浜アリーナ2公演と大阪城ホール1公演の計3公演。9月14日はその初日であり、彼らの音楽人生においても初めてワンマンで横浜アリーナのステージに立つ記念すべき1日ともなるに違いない。チケットは当然のごとくソールドアウト、今日の逢瀬に心ときめかせて集ったファンの熱気でパンク寸前の場内をお笑いユニット・パンサーの影アナ(まもなくの開演を告げるアナウンス)がさらに盛り上げる。どうやらラジオ番組の企画でback numberに破れたための罰ゲームらしい。思わぬプレゼントにいっそう募る期待感、それが頂点に達しようとしたとき、やにわにBGMのボリュームが上がり、そして静かに客電が落ちた。
「いくぞ、横アリ!」
清水の第一声にアリーナ席、スタンド席が一斉に揺れる。オープニングナンバーは「高嶺の花子さん」、目をみはるほどの躍動感だ。歓声の残響が消えないまま突入した「MOTTO」では巨大なミラーボールが会場全体に無数の光を撒き散らして性急さを加速させる。栗原寿(Dr.)の力強い四つ打ちのキックにオーディエンスの手拍子が重なって盤石のビートを生み出した「半透明人間」、そうして歌が始まった瞬間の“これだ!”感が凄まじい。本当に初めてのアリーナなのかと訝しんでしまいたくなるくらいの堂々たる勇姿。大きいはずのステージは実にしっくりと彼らの身の丈に馴染んだ。
「ありがとう! うわ、すっげぇ! ちょっと前髪切ってくればよかった」
4曲を一息に歌い終えた清水が眼前の光景に思わず漏らした感想が場内を一気に和ませる。「でもリハのときは広く感じたけど、今はかなり近いよ。人の力ってすごいね。大丈夫、ちゃんと見えてるから」と言葉を続ける清水。客席後方に向かって“後ろのほう!”と呼びかけ怒濤の歓声を巻き起こしては、前方の観客に「ビビったでしょ? こんなにいるんだ、と思って。ナメてるとヤられるからね」と冗談めかしつつ今度は“前のほう!”とさらなる歓声を誘う。ステージと客席の間に早くも築き上げられる一体感。応えるオーディエンスひとり一人がもれなく笑顔なのがとてもいい。
「back numberにとって人生初めての横浜アリーナっていうのは今回しかないので、その日に居合わせてくれて本当にありがとう。今日1日、よろしくね」と告げて再び演奏へ。ゆったりと流れ出す「繋いだ手から」に乗って彼らの背後のスクリーンに様々な空が映し出される。歌に身を委ねてその映像を眺めやるうちに、ふと『ラブストーリー』のジャケット写真、航空写真みたいな街の図が浮かんだ。これはそこから見上げた空ではないだろうか。あの街で日々を生きる誰かの目に映った空が歌になって今、この空間に降り注いでいる。人により、また、その日その時によって空の色も雲の形も異なるだろう。けれど、もし一瞬でも同じ空を共有できたら。今こそがそんなかけがえのない一瞬なのだと思えてならなかった。
「僕らも待ちに待ちました横浜アリーナ、<横浜ラブストーリー2>と題してやっていますけど、きっと横浜の人だけじゃないよね。いろんなところから来てくれてると思うけど、どこで育って、どんな道を歩いてきたとしても、同じものを聴いて今、ここに集まってくれてるわけだから。だから自分の歌だと思って楽しんでいってね」
『ラブストーリー』からの楽曲を主軸としながらも、「わたがし」や「花束」を始めとする歴代のシングル曲や、「幸せ」(2ndアルバム『スーパースター』収録)や「bird’s sorrow」(3rdアルバム『blues』収録)、「stay with me」(1stアルバム『あとのまつり』収録)といった過去のアルバム曲などもふんだんに盛り込まれた緩急のメリハリあるセットリストとあってか、曲が始まるたび“待ってました!”と叫ばんばかりの歓声が場内いっぱいに噴き上がり、どの曲でも必ずと言っていいほど大合唱が起こるのだから驚かずにはいられない。まさしく清水が語りかけた言葉通り、彼らの楽曲が1万数千人にとっての“自分の歌”になっているのだ。
これまでの自分たちを振り返り、そして今、目の前の光景に清水が感極まる場面もあった。この大舞台で唐突に妹がライヴに来ていたという話をする小島和也(B.& Cho.)に、ノープランでMCを進める栗原と、実は大物? な天然っぷりでオーディエンスを沸かせる場面もあれば、サポートメンバーとの分厚いアンサンブルでロックバンドとしての溢れる矜持も存分に見せつける場面はありすぎるほどにあった。大仰なステージセットも、本編ラストの「スーパースターになったら」ではじけた銀テープ以外には派手な特効も仕掛けもなく、徹頭徹尾、ありのままの彼らで客席に対峙し続けた2時間半。明日にもここでライヴが控えているにも関わらず、余力を微塵も残さない全身全霊の潔さやよし。
「今日みたいな素敵な景色を見られてうれしいし、これからももっともっと大きなところを目指して頑張っていくんだけど、でも、今日やってみて改めて実感したのは大事な部分っていうのは変わらないな、変えちゃダメなんだなって。たぶんこれからも小さい歌ばかりだと思うけど、一音一音、ひと言ひと言、一生懸命作ってまた会いにくるから、そのときはまた一緒に遊ぼう。いつもありがとう、これからもよろしく!」
約束が歌になって横浜アリーナの隅々まで渡る。小さな歌は、小さいからこそ聴く者の心のひだの奥深くにまでしみ込むのだとこの日、改めて知れた気がする。そしてback numberという小さな歌を生み出す人たちの計り知れないポテンシャルも。次に届く彼らの歌を大きく心待ちにしたい。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:佐藤祐介】
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