syrup16g、完全復活を証明! 静かな熱狂と歓びに包まれた一夜
syrup16g | 2014.10.01
黒一色のストイックなステージのフロアに、立ち位置を示す白いテープが貼ってある。その点線が、妙に目を引く。6年前の武道館で解散したsyrup16gは昨年からライブを再開したが、ついに待望の8thオリジナル・アルバム『Hurt』 をリリース。名実ともにシーンに帰ってきた。そしてこれからライブが始まる。
ニューアルバムのリリース直後だけに、オーディエンスも少し緊張気味だ。時間が来てメンバーがぞろりと現われると、そんな雰囲気を表わすように、拍手の波が2度起こった。おそらく1度目は、syrup16gのメンバー3人が揃ったことを確認する拍手。2度目は、新しいオリジナルを引っ下げてのsyrup16gのライブが観れる歓びの拍手。その揺れる気持ちが僕にも伝わってきて、6年の不在を超えて彼らを支持するオーディエンスの誠実さに、背筋を伸ばした。
オープニングは『Hurt』の1曲目「Share the light」だ。重くて少し歪んだこの曲を初めて音源で聴いたとき、不器用なまでに真っ直ぐ世界の理不尽を突く姿勢が変わっていないことを直感して嬉しくなった。この曲が『Hurt』の中でいちばん好きだったので、今日はこれを聴きに来たと言っても過言ではない。だから、いきなり話が本題から入ってきたときのように、音に吸い込まれた。
照明は赤いバックライトだけ。正面からメンバーを照らすスポットライトはない。シルエットのみが動いている。五十嵐隆のボーカルとギターが、ユニゾンでメロディを描く。タムタムを中心に叩く中畑大樹のドラムの低音が、国際フォーラム2階席最前列のフェンスをズシンと揺らす。『Hurt』を最初に聴いたとき、今のロックに足りないのは、自分たちの音楽と対峙する緊張感なのだと気付かされた。その緊張感が、今、ライブで再現されている。
続く「神のカルマ」は、メジャー・デビューアルバム『coup d’Etat』からのナンバー。「Share the light」とは対照的にコーラスが入り、メロディの美しさが際立つ。そのメロディに反応して、キタダマキのベースラインが柔らかくうねる。堂々の3ピース・ロックだ。ステージの背後のスクリーンに、五十嵐とキタダの影が映り込んでいるのが、このバンドらしい最高の演出になっている。
「君待ち」「生活」とインディーズ時代の曲をはさんで、『Hurt』の曲が次々に演奏される。8曲目の「生きているよりマシさ」では、♪死んでいる方がマシさ♪と五十嵐の苦悩の時期の描写とも取れる歌詞がリアルに響く。こうして歌にすることで、人は自分を救うことができるのだと思う。ちなみにこの日の帰り道、僕の後ろを歩いていたカップルが、「もう10年以上もsyrup16gを聴いてるのか。僕らもメンバーも年を取ったのは、当たり前だね。今日、ライブを観れてよかった」と語り合っていた。その口調は、とても嬉しそうだった。きっと彼らはsyrup16gのファンとして、五十嵐が「生きているよりマシさ」に込めた“逆説”をしっかり受け止めていたのだと思う。
中盤は、解散前のラストアルバムに入っていた「ニセモノ」がよかった。3人はほとんど立ち位置から動かず、黙々と演奏し、歌う。だから「ニセモノ」で五十嵐が感情をむき出しにしてシャウトしたのが、暗闇で見る一点の光のように耳に残像を残したのだった。
♪俺は壊れた いつかは終わる そんな恐怖に♪と歌う「リアル」が、本編のラストだった。それまで派手な演出がなかった会場に向けて、レーザーが放たれると、オーディエンスが色めき立つ。♪リア?ル!♪と最後のフレーズを叫ぶと、五十嵐は「ありがとうございました」と短く言ってステージを去った。
1回目のアンコールで五十嵐は「あまり好きじゃない曲、やります」と言って、『Hurt』 の最後に収められている「旅立ちの歌」を歌う。その発言の真意はわからないが、♪最低の中で 最高は輝く♪という赤裸々なフレーズが恥ずかしかったのかもしれない。しかし歌声には歓びが入り混じっていたようにも聴こえた。
2回目のアンコールの最後は再び『coup d’Etat』から「空をなくす」。少し悲しい自戒の歌で締める。安定感のある圧倒的な演奏が、最後まで続いた。片手を振りながらステージを去る五十嵐の唇の動きが、「ありがとう」と言っているように見えた。そのとき、不思議なことに、syrup16gが戻ってきた実感が初めて僕に訪れたのだった。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:Yuki Kawamoto】
リリース情報
セットリスト
syrup16g Hurt リリース記念ツアー
『再発』
2014.9.22@東京 国際フォーラム・ホールA
- Share the light
- 神のカルマ
- Stop brain
- ゆびきりをしたのは
- 君待ち
- 生活
- 哀しき Shoegaze
- 生きているよりマシさ
- ex.人間
- ニセモノ
- ハピネス
- 理想的なスピードで
- 宇宙遊泳
- 落堕
- リアル
- イカれた HOLIDAYS
- 希望
- 旅立ちの歌
- パープルムカデ
- 空をなくす