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syrup16g、まっすぐに音楽を届けた『Kranke』リリースツアーファイナル

syrup16g | 2015.07.14

 今、syrup16gは7年前の解散時より、ただまっすぐに音楽を届けるプロフェッショナリズムとアーティスティックな部分のバランスが良いのではないだろうか。
 全国5ヶ所6公演の発表に続いてリリースしたニューEP『Kranke』が、復活作『Hurt』からわずか9ヶ月という早いスパンでリリースされたことが、バンドの、そして何より五十嵐隆(G/vo)の現状を物語っている。従来からのファンに加え、彼らが不在のあいだに“伝説”として後追いしてきた若いファンもかなり多い。

 静かな緊張に包まれたホールに新作収録の初めてのアプローチであるインタールード(インスト)「songline」が流れるとともに暗転し、緞帳が開くと強烈なブルーのバックライトに浮かぶメンバーの姿が。可視化されたトライアングルが強力な存在感を既に放っている。1曲目はアルバム同様、ドラマ性のある展開に一気に引き込まれる「冷たい掌」。五十嵐の声も良く出ているし、中畑大樹(Dr)とキタダマキ(B)が丹念に編んでいくアンサンブルは、この世界にsyrup16gとわれわれ、いや、極端に言えば自分だけと対峙しているような気分にさせる。力強く「ありがとう!」と言った五十嵐は、そのまま復活後の新たな代表曲「生きているよりマシさ」、そして新作の中でもどこかビートルズのミディアムチューンを思わせる「To be honor」と、言葉と音のすべてを明瞭に刻み込むような演奏で届けていく。

 最初のMCで「ついに最後の日が終わってよかったです」と五十嵐が言うと、笑いが起こり、中畑が「まだ終わってないよ」と言う当然すぎる返しをして、若干緊張が緩む。五十嵐がアコギを持ち、意外と披露されてこなかった「My Song」を歌うと、リリース当初は少し普遍的なその楽曲と内面の葛藤が伺えた記憶が塗り替えられるような、腹に落ちる感覚を得た。そして初期からの名曲「明日を落としても」に続くと、<明日を落としても 誰も拾ってくれないよ それでいいよ>というフレーズが、つまりすべては自分次第なのだという、非常にフラットなニュアンスで聴こえた。生きてる意味があるとかないとか闇に落ちることはあっても、確かに最後は自分次第だ。そんなことを以前より強く感じさせる演奏、いや五十嵐の歌のせいだろうか。

 『Kranke』のリリースに伴ってはいるものの、中盤にはかのマキシシングル名義ながらアルバムボリュームのある種、究極に創作欲求が振りきれていた時代の作品でファンも多い『HELL SEE』から、マスロック的な抜き差しにまで磨き上げられた「正常」、拒食症の女性を描いた「吐く血」の<わたしにはなんにもないから>が、もはや神経症的なテーマから離れて、ごく現実的なものに聴こえてくる。別にsyrup16gが早すぎて、時代が追いついたとかそういうことではない。そもそも人間が抱える当たり前の感情をシーンやレッテルが時間によって形骸化したのかもしれないし、そのことによって曲そのものの強度が明らかになったのは確かだ。

 後半は中畑がスタンディング・ドラムでトライバルなビートを叩き、五十嵐の歌メロとギター、キタダのベースラインがユニゾンする、アラビックな「Share the light」の聴いたことのないユニークなアレンジ、3人に同じように照らされる赤と青のライティングが動脈と静脈を想起させる演出にも圧倒される。背景のオイルアートや様々な映像も大げさにならず良い効果を生んでいたが、このライティングは白眉だった。立て続けに「天才」「真空」と不穏なテンションが上昇するのだが、3人からは楽しささえ伝わってくる。これが今のsyrup16gのリアルな姿だと思う。1曲1曲が完成された作品として輪郭を崩すことなく演奏され、本編ラストは<諦めない僕にThank Youを>というフレーズで十分察することのできる思いを文字通り力強い演奏に込めた「Thank you」。透徹し冷たいぐらいのアンサンブルもいいが、”ザ・オルタナティヴ・ギターロック”な力強い8ビートと切なさを含んだコードの瑞々しさに今、いちばん新しいsyrup16gを見た。

 因みにニューEPのタイトルであるワードが出てくる新曲「vampire’s store」はアンコールの1曲目に演奏されたのだが、何も”患者”は彼らや彼らのファンを指してるわけじゃない。珍しく具体的に今の社会を見渡して、よほど鈍感でなければ感じるであろうことを歌ったものだ。オペ室のライトを模したようなデザインの照明は洒落が効いてるとさえ思えるものだった。最後に「ツアー楽しくないって言ったけど、いざ終わるとなると楽しいな」と素直なのか捻くれているのか五十嵐らしい発言。そして「昨日、眠れなくて。ライブやったから身体が寝ないというか(因みに前日も同会場)。それで明晰夢っていうんだっけ?かわいい小動物とかお花畑とか優しい女の人とか出てきて最高だと思ってたんだけど、たぶんそのまま見てたら死んでた(笑)。頑張って起きて、ライブしたら何十倍も楽しかったから、生きてて良かったわ。また来てね!」といつになく饒舌な様子に客席からも笑いと歓声が起こり、最後の最後に歌われた「Reborn」の説得力たるや…過去最強の光彩を放つ「Reboren」。会場を出ると雨が上がり澄んだ空気も相まって、何か静かな決意が満ちてくる、そんな力のあるライブだった。

【取材・文:石角友香】
【撮影:河本悠貴】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル syrup16g

リリース情報

Kranke

Kranke

2015年05月20日

DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

01. 冷たい掌
02. vampire’s store
03. songline(Interlude)
04. Thank you
05. To be honor

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セットリスト

syrup16g tour 2015『Kranke』
2015.7.9@NHKホール

  1. 冷たい掌
  2. 生きているよりマシさ
  3. To be honor
  4. HELPLESS
  5. Stop brain
  6. My Song
  7. 明日を落としても
  8. 正常
  9. 負け犬
  10. 吐く血
  11. Share the light
  12. 天才
  13. 真空
  14. パープルムカデ
  15. 神のカルマ
  16. Thank you
encore 1
  1. vampire’s store
  2. 落堕
encore 2
  1. coup d’Etat~空をなくす
  2. Reborn

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