会場の東京キネマ倶楽部の入口では、４ケタの数字がプリントされたゼッケンがチケット代わりに入場者に配られている。“トライアツロン”ツアーだけに、お客さんを選手に見立てた趣向だ。かなり本格的な作りのゼッケンに、次々と入ってくるオーディエンスもアガる、アガる。

　ステージを見れば、１位２位３位の表彰台が置かれ、上からは虹色に光るテープが下がっている。フロアを取り囲む壁には、極彩色に塗装された自転車が飾られている。トライアスロンのバイクのイメージだろうか。胸にゼッケンを付けたオーディエンスがひしめき合う光景は、まるでトライアスロンのスタート地点みたいだ。ただのライブではない雰囲気がいっぱいで、それもまた“水曜日のカンパネラ”らしい。

　これまでも“鹿の解体ショー”や、客席に乗り込むなど“掟破り”のライブを行なってきた。意外性を期待するファンで、フロアは満員になった。さて、大きな注目を集める今夜のライブは、どうなるのだろう。

　オープニングのオリジナル・アニメが流された後、コムアイはステージ左上のバルコニーから現われた。歌モノの「デーメーテール」からスタート。踊りながら歌って、ピンクのホウキを持って階段を下る。続いてラップの「二階堂マリ」。少し緊張しているのか、歌っている言葉がよく聴きとれない。しかし水曜日のカンパネラの名を知らしめた「千利休」、「桃太郎」と続く“時代設定モノ”でペースを取り戻す。♪キヴィダーンッキヴィキヴィダーンッ♪という「桃太郎」のフレーズをオーディエンスも合唱して場を盛り上げる。

「ありがとうございます。改めて、水曜日のカンパネラです。ここ、キネマ倶楽部には、前にグロテスクなイベントを何回か観に来たことがあります(笑)。６カ所のツアーも今日でラストです」。

　「モスラ」でコムアイは、PVを模してライトで自分の顔を照らすシーンを再現する。そこから物販のCM、さらにはツアー各地でずっとやってきたという“当日撮影ご当地レポ”がスクリーンに映し出される。さすがに東京は前日撮影だったとのことだが、上野でケンタッキーを探したりの大活躍。

　「カーネル」ではそんな映像の続きのように、コムアイがフライドチキンを持ってステージに帰ってきて、チキンやコールスローを客席に投げ入れる。「ドラキュラ」ではコムアイが客席に降りてパフォーマンスする。

　一筋縄ではいかないコムアイのキャラクターのアピールがこれでもかと続くのだが、そこで思うことがあった。コムアイの個人パワーに頼る演出が多く、本当の“見せ場“が作れていないのでは・・・。

　以前、イベントで水曜日のカンパネラを見たとき、確かにコムアイが客席に降りてスリリングな場面を作り出していたことがあった。ワンマンは水曜日のカンパネラを好きな人が来ているわけだから、そういうオーディエンスがスリルを感じたりエキサイトするシーンがもっと欲しいと思った。

　その意味では新曲の「ツイッギー」(ヤフオクのCM曲)は、コムアイにとっても新鮮なモノなので、際立っていた。また最新EP『トライアスロン』からの「ユタ」は、音楽的な冒険に満ちていて、オーディエンスが棒立ちになって聴いていたのが痛快だった。

　クリエイターたちがアイデアを惜しみなくつぎ込み、それを受けてそれ以上のパフォーマンスをしてきたコムアイが、正念場を迎えている。堂々のエンターテイナーを目指すのか、トリッキーなキャラクターで裏切り続けるのか。どちらも可能性充分。ラブソングなしでここまで来たアーティストの本領を、もっともっと発揮するライブを観たいと思った。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：Viola Kam★V’z Twinkle】