ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2015「Wonder Future」 ライブレポート
ASIAN KUNG-FU GENERATION | 2015.11.02
FOO FIGHTERSのスタジオでレコーディングしたアルバム『Wonder Future』を掲げたツアーも最終盤。国際フォーラムで待ち受けていたのは、真っ白なステージセットだった。高層ビルが描き出すスカイラインにも見えるシンプルなセットの各所に、サポートのシモリョー(ky)も 含めて5つの演奏スペースが設置されている。メンバーがそれぞれの位置に着いて、照明が入ると、いきなりプロジェクション・マッピングだ。そのための真っ白なステージセットだった。
1曲目は『Wonder Future』から先行シングルカットされた「Easter / 復活祭」。複雑なライティングに対して、シンプルにリズムを刻む演奏がスリリングだ。続く「Little Lennon / 小さなレノン」で、プロジェクション・マッピングはより複雑になっていく。ピンと張りつめた緊張感が、ライブの立ち上がりにソリッドな印象を加える。ステンドグラスを模したライティングと、タイトなバンドの演奏の「Winner and Loser / 勝者と敗者」で、ライブは最初のピークを迎えた。しかし、それはまだ序章に過ぎなかった。
メンバーは基本的に演奏場所から動かない。もちろんその場で両脚を踏ん張ったり、首を振ったりはするが、立体的なセットがスクリーンになっているから、移動はしない。またステージ上に、一個のアンプも見えない。オーディエンスの眼は、目まぐるしく変わる映像に釘づけになる。
単純に、演奏面だけでいえば、素晴らしいのひと言だ。メンバーそれぞれの正確かつエモーショナルなプレイは、精度の高いアンサンブルを織りなしていく。アルバム『Wonder Future』はFOO FIGHTERSのプライベートスタジオで録られていて、独特の空気感を持っていた。そのサウンドが、音響チームの努力によってライブで見事に再現されている。
そうしたヒューマンなサウンドと対峙するのが、細部までコントロールされた照明で、中盤にかけて想像を絶するコラボレーションに発展していく。オープニングよりさらに高度なプロジェクション・マッピングが次々に展開される。ビルに見えていたセットが、工場になったり、非常階段になったり、全面に文字が映写されたり。そこに演奏が加わると、オーディエンスは完全に日常から切り離されて、アジカンの世界に没入していく。音と光の膨大な情報量を瞬時に処理し、解釈していくのは、非常に高度な知的作業になる。途中で「リライト」などの馴染みの曲がはさみ込まれると、知的作業の快感はマックスに達する。
音響チームばかりでなく、照明チームの集中力もすごい。プロジェクション・マッピングを最大限に活かすよう、通常の照明が連動していたのがさすがだった。
「あと2本でツアーが終わっちゃう。淋しいよ」と後藤正文が実感を込めてMCをする。ツアーを通して磨いてきたチームワークは、そのセリフに余りある完成度を示していた。
今、ライブ演出に関して、アジカンとサカナクションが最先端を走っているのは誰もが認めるところだろう。期待をこめて僕はこのライブに足を運んだのだが、新作アルバム曲とこれまでのナンバーをストーリー性をもって構成されたセットリストと音響、それと拮抗するメッセージを持つ照明とプロジェクション・マッピングの演出に、驚かされっぱなしだった。
また、ドラム伊地知潔とベース山田貴洋のリズムセクションの崇高なまでにシンプルなビート、ギター喜多建介のコーラスワーク、後藤のイメージの喚起力に満ちたボーカルは、トップバンドにふさわしいパワーと優しさがあった。
終盤は「新世紀のラブソング」から。演奏も演出もクライマックスに向かって昇り詰めていく。「トラべログ」では、ステージに石の塔の砦が出現。オーディエンスをさらに非日常へ導く。かと思うと、後藤は「スタンダード」で♪月曜日の朝から風変りな少女が歌う♪とフォーキーに歌い出し、オーディエンスを現実に引き戻す。この緊張と緩和=“精神のマッサージ”がこの日はとてもうまくいっていた。
本編最後は「Wonder Future / ワンダーフューチャー」。このライブの世界観そのもののようなリリックが、オーディエンスに沁み込んでいく。ファイナル直前のライブならではの圧巻の完成度だった。
アンコールは、おのおのがリラックスした雰囲気で登場。後藤が話し始める。
「山ちゃんて、ステージに出てくる後ろ姿が貴族みたいだよね。堂々としてる。俺なんかショボショボですよ(笑)。そろそろ大人になりたい。来年は2回目の成人式です。20才のとき始めたバンドを、もう20年もやってる。この後、ヨーロッパと南米にツアーに行って、戻ってきたらレコーディングして、来年“太目”の作品が出ますんで、20周年をお楽しみに」。次の曲のタイトルを「君の街まで」と告げると、会場から大きな歓声が上がる。「遥か彼方」では珍しく演奏が前のめりになったのが、かえって嬉しかった。
最後の最後で素晴らしかったのは「Opera Glasses/オペラグラス」だった。アルバム『Wonder Future』のラストに置かれた組曲風のこの曲を初めて聴いたとき、その雄大な曲想に一発でノックアウトされてしまった。その感動が、このライブで蘇る。♪探せネクスト・ドア♪と告げるこの歌が温かく響く。ますますオープンマインドになったアジカンは、世界中とつながるためにその手を伸ばす。すべてを出し切った清々しさを漂わせながら、メンバーはステージを後にした。僕の心と身体と耳に残ったのは、爽快な疲労感だった。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:TEPPEI】
リリース情報
Wonder Future(初回生産限定盤)[CD+DVD]
2015年05月27日
Ki/oon Music
01.Easter / 復活祭
02.Little Lennon / 小さなレノン
03.Winner and Loser / 勝者と敗者
04.Caterpillar / 芋虫
05.Eternal Sunshine / 永遠の陽光
06.Planet of the Apes / 猿の惑星
07.Standard / スタンダード
08.Wonder Future / ワンダーフューチャー
09.Prisoner in a Frame / 額の中の囚人
10.Signal on the Street / 街頭のシグナル
11.Opera Glasses / オペラグラス
[DVD]
01. Easter / 復活祭 (Music Clip)
02. Standard / スタンダード(Music Clip)
03. Recording Documentary @ Studio 606 & Rock Falcon Studio
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セットリスト
Tour2015「Wonder Future」
2015.10.16@東京国際フォーラム ホールA
- Easter / 復活祭
- Little Lennon / 小さなレノン
- Winner and Loser / 勝者と敗者
- Caterpillar / 芋虫
- N2
- センスレス
- リライト
- Planet of the Apes / 猿の惑星
- ナイトダイビング
- Eternal Sunshine / 永遠の陽光
- 或る街の群青
- 青空と黒い猫
- Prisoner in a Frame / 額の中の囚人
- 深呼吸
- 今を生きて
- 嘘とワンダーランド
- シーサイドスリーピング
- Signal on the Street / 街頭のシグナル
- 新世紀のラブソング
- ネオテニー
- トラベログ
- Standard / スタンダード
- Wonder Future / ワンダーフューチャー
- 君の街まで
- Re:Re:
- 遥か彼方
- 転がる岩、君に朝が降る
- Opera Glasses / オペラグラス
お知らせ
NO NUKES 2015
2015/11/28(土)豊洲PIT
COUNTDOWN JAPAN 15/16
2015/12/28(月)~31(木)幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール
※出演日は後日発表
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。