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サカナクション、休止期間を経てさらに“新鮮”なパフォーマンスを披露した武道館

サカナクション | 2015.11.17

 久々のツアーは、サカナクションが新たに立ち上げたレーベル“NF Records” のキックオフ・イベントでもある。同時に、しばらく休んでいたベースの草刈愛美のライブ復帰となるツアーでもある。
 そんな多様な意味合いを持つライブらしく、サカナクションは代表曲を惜しみなく演奏。その一方でアーティストとしての表現欲全開のディープなパートも設けられていて、充実したセットリストになっていた。ロックバンドとしてのパフォーマンスも、クラブ的なアプローチも、モダンアートのインスタレーションの要素も取り入れた、これまでのサカナクションのライブの集大成でもある内容だ。
 さらには、「1年半ぶりのライブなので、わがままを聞いてもらいました」と山口一郎がMCで語っていたように、これまでなかった演出も随所に仕掛けられていて、大いに楽しませてくれたのだった。

 ツアーの再開を待ちわびていたオーディエンスたちは、開演前からすでに熱を帯びている。5年ぶりとなる武道館のアリーナ部分はオールスタンディング仕様になっていて、熱気は主にそこから立ち上っている。もちろんスタンド席も、いつでも立ち上る準備ができている。
 グルーヴを最も大切にしてきたサカナクションらしく、オープニングでは気鋭のパーカッション集団“GOCOO&GORO” のパフォーマンスが披露される。早速のサプライズだ。人間の力による圧倒的なリズムの洪水が祝祭感を盛り立てる。

 しかし、なにより僕が嬉しかったのは、草刈のベースプレイだった。久々に聴く彼女のライブでのプレイには、以前と変わらぬグルーヴと、より豊かさを増した音色があった。ベースの弦を最大限に揺らす右手のタッチ。ネックを上下に滑る左手は、弦楽器の魅力を効果的に引き出す。 優雅でパワフルなベースは健在だった。
 僕がサカナクションのライブを初めて観たのは、2009年の夏フェス“セットストック”だった。そこで僕は草刈のプレイに釘づけになった。武道館ライブの序盤、僕はそのライブのことばかり思い出 していた。それは、休止期間をはさんで触れるサカナクションのライブが、メンバーにとってもオーディエンスにとっても新鮮なものだったからだろう。

 セットリストは数曲ずつ、いくつかのブロックに分かれている。「セントレイ」などの代表曲で観客にセイハローした後の、「years」などマニアックな曲が連なるディープなブロックが興味深かった。山口は「暗い曲ばかり」と言っていたが、それは若干の照れを含んでいる。ただ“暗い”だけでなく、人間が誰しも持っている“影”を山口は表現したいのだ。そこに共感してくれるオーディエンスに感謝している言葉にも聞こえた。ある意味、このブロックが武道館の核心だったと言ってもいいのかもしれない。

 後半のブロックではサカナクションの本領が発揮される。クラブテイスト満載のナンバーで、超満員のフロアを踊らせる。「アイデンティティ」の少し複雑なコール&レスポンスを、メンバーとオーディエンスは充分に楽しんで交歓する。着物姿の踊り子さんが登場したり、レーザーが縦横無尽に武道館の空間を走ったり。懐かしい演出も織り込まれていた。
 ニューシングル「新宝島」は、これまでの盛り上がりの定番「ルーキー」を上回る爆発力を、このアリーナ・ツアーのファイナルで示した。

 アンコールでは巨大スクリーンをフルに使ったVJプレイや、5人がデスクトップの前に立って演奏するシーンもあった。特にNHKの特集番組『NEXT WORLD 私たちの未来』のためにリミックスされたバージョンでの 「グッドバイ」のスケールは壮大で、コンセプトも演出もライブシーンのトップを走るサカナクションの実力を再認識させてくれた。
「やっぱりライブは楽しいね。ヤバい!」とアンコールのMCで語る山口の口調は、ステージ側にいる“特別な人間”というより、コンサートを楽しむ一人の人間としてのものだった。
 また草刈のMCも感動的だった。
「今回のツアー初日の札幌でこの景色を見て、私は子供がいて、母になれた。それと同じで、リスナーがいて私はミュージシャンになれると思いました」。

 この後、サカナクションはホールに舞台を移して来年までツアーを続ける。他のアートとの複合に積極的なこのバンドは、聴覚はもちろん、視覚もダンスの身体感覚も総動員するライブは得意の表現スタイルだ。ホールの至近距離でどんなパファーマンスを展開するのか、ホールツアーにも足を運んでみようと思う。

【取材・文:平山雄一】
【撮影:山本マオ】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル サカナクション

リリース情報

新宝島(初回限定盤)[CD+DVD]

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2015年09月30日

ビクターエンタテインメント

[CD]
1. 新宝島   
2. 「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」
3, インナーワールド (AOKI takamasa Remix)
4. 新宝島 (instrumental)

[DVD]
スペシャルムービー&メイキング映像 収録予定

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お知らせ

■ライブ情報

SAKANAQUARIUM2015-2016
“NF Records launch tour”

2015/11/21 (土)北海道 小樽市民会館
2015/11/23 (月・祝)北海道 函館市民会館 大ホール
2015/11/28 (土)岡山 倉敷市民会館
2015/11/29 (日)広島 広島文化学園HBGホール(広島市文化交流会館)
2015/12/04 (金)愛媛 松山市民会館 大ホール
2015/12/06 (日)香川 サンポートホール高松 大ホール
2015/12/13 (日)滋賀 びわ湖ホール 大ホール
2015/12/19 (土)石川 本多の森のホール
2015/12/20 (日)新潟 新潟県民会館
2016/01/10 (日)宮城 仙台サンプラザホール
2016/01/11 (月・祝)宮城 仙台サンプラザホール
2016/01/16 (土)福島 郡山市民文化センター 大ホール
2016/01/17 (日)岩手 盛岡市民文化ホール 大ホール
2016/01/29 (金)長崎 ブリックホール 大ホール
2016/01/31 (日)鹿児島 鹿児島市民文化ホール第一
2016/02/02 (火)愛知 名古屋国際会議場センチュリーホール
2016/02/11 (木)沖縄 コンベンション劇場
2016/02/24 (水)東京 東京国際フォーラム ホールA
2016/02/27 (土)大阪 オリックス劇場
2016/02/28 (日)大阪 オリックス劇場
2016/03/01 (火)神奈川 神奈川県民ホール
2016/03/04 (金)北海道 札幌ニトリ文化ホール
2016/03/05 (土)北海道 札幌ニトリ文化ホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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