原点回帰から未来へ。サカナクション、全国ツアー東京ファイナル公演
サカナクション | 2014.03.19
当初はツアー・ファイナルの予定だったが、山口一郎のインフルエンザのため仙台公演が延期になり、事実上のファイナルとはならなかったTOKYO DOME CITY HALL公演だが、メンバーのテンションやスタッフワークを含め“文字通りのファイナル”と言っていい完成度の高いライブだった。
SAKANAQUARIUM 2014 “SAKANATRIBE”は、ニューアルバムを持たないツアーである。だから過去の楽曲から何の縛りもなく選んで、現時点でのベストと言えるセットリストが組める。しかもサカナクションのライブは、照明や音響をはじめとする演出と密接に結びついて成り立っているので、それらをうまく構成することでベスト・オブ・ベストのライブ作りが可能になる。サカナクションは充実のツアーを積み重ねて、昨年、ついに幕張メッセ・ライブを成功させた。紅白歌合戦出演など大活躍したサカナクションのライブを渇望している全国各地のサカナクションファン=SAKANATRIBEに届けるのがこのツアーだから、まさにナイス・タイミング。SAKANAQUARIUM 2014 “SAKANATRIBE”は、それに相応しい内容が整った。しかし、それだけにとどまらないのがサカナクションの凄いところ。ただの“振り返りベストライブ”ではなく、バンドの未来の要素もしっかり加えていたのだった。
スクリーンには、植物のカラー写真と、モノクロの街の風景が写し出されている。開演時間が来ると、ステージの照明はサス(注:上からのスポットライト)だけになり、メンバーがぞろりと登場。山口が小さな音でギターを刻み始める。ドラムの江島啓一もやはり小さな音で叩き始める。やがて全員が加わるのだが、照明はどんどん暗くなっていく。暗くなるに従って、オーディエンスの耳は異様に鋭くなり、バンドの出す小さな音に全身で反応する。暗闇に目が慣れるように、静寂に耳も慣れていくのだ。そして音は次第に大きくなっていき、いつものバンドサウンドが聴こえてきたとき、オーディエンスは“日の出”を待ちかねていた群衆のような歓喜の声を上げる。「0から100が今回のテーマ」と山口はアンコールのMCで語ったが、このオープニングは実はアンプの生音で始まり、最後はPAシステムを通した爆音になるという“0?100” だった。同時に照明も“0?100”だった。そして100になったサカナクションが 「アルクアラウンド」を演奏し始めたからたまらない。会場は爆発的な歓びに包まれたのだった。
ここから「Klee」までが、バンドが“第1部”と呼ぶ前半の盛り上がりパートだ。ファースト・シングル「セントレイ」では、岡崎英美が派手なシンセのリフをタイトに演奏してみせる。ギターの岩寺基晴が、「7年ぶりにやって、いい感じになったところでツアーが終わる(笑)」とアンコールで語った「哀愁トレイン」など、懐かしい曲も織り込まれている。中で、草刈愛美が弾く美しいベースラインが際立つ名曲「Klee」が見事だった。
7曲目「エンドレス」から「ユリイカ」までが、第2部。このパートは重量感のあるナンバーが並び、サカナクションのライブではお馴染みの“オイルアート”がステージを彩る。ガラス板にカラフルなオイルを流して、刻々と変化する模様をステージに照射する。その場でオイル・アーティストが行なうから、毎回、違った模様が写し出される。「流線」でバンドの音とオイルが織りなしたサイケデリックなパフォーマンスは、圧巻のひと言。70年代にロックとアートを融合させ、ジ・オーブなどに影響を与えているバンド“ピンクフロイド”を彷彿とさせるものがあった。
第3部でライブは、一気に弾ける。『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』が始まると、山口が「一緒に踊ろう!」と会場をリードする。クラブ・ミュージックの色彩の濃いパートだ。「SAKANATRIBE」では、またまたオイルアートが大活躍。これまでのツアーでもオイルアートは重要な役割を果たしてきたが、スタッフがさらにバージョンアップした手法を開発し、今回、それをすぐさま取り入れている。そうした研究熱心さが、ツアー全体のクオリティを押し上げているのだ。「モノクロトーキョー」では80年代前半を牽引したニューヨークのニューウエイヴ・バンド“トーキングヘッズ”をイメージさせる、非常にラディカルなリズムを打ち出して、 迷いなくフロアを踊らせる。この力強さは、サカナクションがこのツアーで獲得した成果だろう。
「アイデンティティ」から「ルーキー」への流れでは、楽しくシンガロングしたりして、オーディエンスとのコミュニケーションがピークを迎える。大歓声に包まれて、本編は幕を閉じた。
アンコールも、ベスト・オブ・ベスト。ステージ中央にガンダムのようなDJテーブルをセットして、5人がノートパソコンで強烈なダンス・ミュージックを繰り出す。照明も能力全開で、ステージを盛り上げる。加えて、低音の利いたサウンドがとてもいい。サウンドの低域をクリアに強化する“ウーハー”スピーカーを帯同しているメリットが十分に発揮される。幕張以降、ビジュアル面以外の充実を図ってきたスタッフワークが開花したシーンだった。
さらに「ミュージック」では、途中までDJスタイルでプレイし、サビに入る直前の暗転を利用して5人が生楽器を持っていきなり生演奏に切り替わるシーンが、スリリングだった。これまで積み上げてきたライブ経験が、この瞬間に結実する。まさにサカナクションでなければ与えることのできないエクスタシーが、会場のすべてを魅了したのだった。
「Aoi」 が終わって、山口がツアーを支えてくれたスタッフとオーディエンスに丁寧に感謝を述べる。「僕らはチームサカナクションです」と言う山口は、とても誇らしげだ。そう、この“アルバムを持たないツアー”は、最初にも書いたとおり、サカナクションのライブの未来形と、それを共にしてほしい“未来のSAKANATRIBE”への素晴らしいプレゼンテーションになっていた。それは、新しい時代を開くオーディエンスへの、真摯な“啓蒙エンターテイメント”だった。“0?100”は、0=原点を大切にしながら、100以上=未来へ進むという意味なのだ。
最後は「グッドバイ」。♪だけど僕は敢えて歌うんだ わかるだろう?♪というリリックが胸に迫る。ダンサブルなナンバーの連打のラストに、フォーキーなミディアム・バラードを置く。「ロックの感動の種類を増やしたい」という山口の言葉が、リアルに伝わったエンディングだった。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:石阪大輔(hatos)】
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リリース情報
セットリスト
SAKANAQUARIUM 2014
"SAKANATRIBE"
2014.3.16@TOKYO DOME CITY HALL
- サンプル
- アルクアラウンド
- セントレイ
- 表参道26時
- 哀愁トレイン
- Klee
- エンドレス
- シーラカンスと僕
- 流線
- ユリイカ
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
- インナーワールド
- 三日月サンセット
- SAKANATRIBE
- モノクロトーキョー
- 夜の踊り子
- アイデンティティ
- ルーキー
- Ame(B) -SAKANATRIBE MIX-
- ミュージック
- Aoi
- グッドバイ
お知らせ
SAKANAQUARIUM2014
“SAKANATRIBE”
2014/03/28(金)東京エレクトロンホール宮城(振替公演)
2014/03/29(土)東京エレクトロンホール宮城(振替公演)
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。