奥田民生＝OTが、またまたチカラワザに打って出た。アルバムもシングルも出さずに、ツアーを行なう。どうしても自分のライブバンドでツアーに出たいときに、OTがときどき使うアラワザだ。ユニコーン、サンフジンズ、ABEDONバンド、海外ではThe Verbsなど多彩な活動を並行して続けているOTだが、リーダーバンドはMTR&Y。小原礼(b)、斎藤有太(key)、湊雅史(dr)という最強のメンバー、MTR&Yとのライブは、OTにとって格別なものだ。“秋コレ”というツアー・タイトルも力が抜けまくっていて、OTらしいチカラワザと言うしかない。

　そんなツアー・タイトルに合わせたのか、オーチャードホールのステージ中央には電飾付きの小さな“ランウェイ”がセットされている。メンバーはそのランウェイで、ファッションモデルのようなポーズを取って登場。“秋コレ”というより、「何、これ？」という感じ(笑)。それよりもステージ背後に掲げられた“RCMR”の看板に目が行く。RCMRは、OTが50歳になった今年に立ち上げたレーベル“ラーメンカレーミュージックレコード(RCMR)”だ。ミュージシャンにとっての究極の“ホーム”を設立した喜びが、ステージを輝かせている。

　ライブはミディアムテンポのロック「解体ショー」からスタート。セルフ・レコーディング・ツアー“ひとりカンタビレ”から生まれたアルバム『OTRL』からのナンバーで、MTR&Yの演奏の線の太さが際立つ。続く「フリー」も、一人レコーディング・アルバム『O.T. Come Home』からのナンバーで、OTが一人で作った曲をMTR&Yで演奏したいがためのセットリストとも言えるだろう。その他、フェスなどではあまり演奏されないマニアックな曲が並んでいて、「好きだけど、地味過ぎなんじゃないの？」という思いが湧いたのだった。

　しかし、そんな心配は無用だった。少年時代のOTがリスペクトしていたダウンタウンブギウギバンドの「スモーキング・ブギ」をカバーする。ハッピーなロックンロールを、スライドギターをフィーチャーしたアレンジで派手派手に聴かせる。OTはタバコの煙の輪っかを連発できるマシンを足で操作し、なおかつ歌いながらスライドを弾く。手も足も口もフルに使ったパフォーマンスは、ユーモアたっぷりに音楽の楽しみを伝えてくれる。歌も演奏も笑いも、どれもが手抜きなしの大活躍だ。

　ここで気付いたことがある。OTはユニコーンなど“バンドの一員”としてプレイする場合、いい意味での余裕を楽しみ、それを音楽に反映させる。しかしMTR&Yの場合は、歌を全部OT一人で歌わなければならない。もちろんギターもたった一人で弾かねばならない。久々に見る“本気モード”のOTは、凄まじい気合でステージに臨んでいた。

　最高で最低限のメンバーだからこその全力。それがOTを奮い立たせる。この日のステージには、限界を超えることを楽しむOTがいた。終盤に「手紙」で長いギターソロを取ったOTは、最終盤の「最強のこれから」でまたしても気迫のこもったソロを取る。特にこの曲のギターソロは緊張感とパワーに溢れ、OTが秘めている野性が爆発してオーディエンスを釘づけにしていた。

　かと思えば、「今日は客席の“黒髪率”が高くて、会場が暗い。東京は黒髪ブーム？」と笑わせる。斎藤が「今年の暮れには国際フォーラムで、いろんな人がゲストに来てくれたり、OTがオーケストラとやるライブがあるので、みなさん、来てください」と言うと、「50歳を祝ってくれるライブだっていうから、ソファーにデーンとしてればいいのかと思ってたら、俺、ずーっと出るんじゃないですか」とボヤく。

　味のある歌も、スリリングなギターも、楽しいおしゃべりも、OTは一身に引き受ける。それが、メンバーとのガチの演奏を引き立てる。メンバーもそれに応えて、「スモーキング・ブギ」では斎藤が華やかなブギウギピアノで盛り立てる。「息するように」では小原がワルツのリズムに乗って美しいベースラインを描く。「最強のこれから」では、OTのギターソロを湊がドラムでドッカンドッカン後押しする。久しぶりに聴くMTR＆Yは、元々上手いバンドではあったが、この日はテクニックを超越した何かがあった。40、50、60代で構成されるMTR＆Yの４人は、年齢の違いを取り払って純粋に一つになる。それぞれのグルーヴをねじり合わせて、一本の強力なワイアーになるダイナミズムとでも言おうか。その太さ、強さ、しなやかさは、現J-ROCKシーンの最高峰と言えるものだった。

　ダブル・アンコールでOTは「さすらい」を歌った。♪ころがり続けてうたうよ　旅路の歌を♪というフレーズを、僕はこれまで何度聴いただろう。そしてこの日は、今まででいちばんリアルに胸に響いたのだった。それは50歳を迎えたOTの深い実感から出た歌だったからだと思う。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：山本倫子】