陽気なBGMから一転、彼らの登場で場内は幻想的な雰囲気に包まれる。赤い公園の対バンツアー2015「http://KOIKI/NAMAIKI/EKOHI-KI.com/」ファイナルが、恵比寿LIQUIDROOMにて開催された。まずステージに上がったのはこの日の対バン相手、LEGO BIG MORL。軽快さと清々しさを併せもった、ライヴのスタートにふさわしい「バランス」からの幕開け。アレンジと構成の妙で聴かせるヘヴィ―なロックチューン「Wait？」、深淵をたゆたうような大作「Spark in the end」と、多彩なアンサンブルであっという間に会場を自分たちの色に染め上げた。最初から最後まで、大きく力強く正確なビートが、こちらの胸の鼓動と呼応し続けた新曲を経たMCでは、赤い公園とのエピソードを披露し、笑わせる一幕も。「いつからファンになってもいいから、どこからファンになってもいいから」という言葉がもたらす、彼らのミュージシャンとしての在り方が胸を熱くする。後半はオーディエンスとともに歌い、バンドとしての矜持を見せつけ、美しい熱唱を聴かせたLEGO BIG MORL。来たる2016年は、いよいよ10周年を迎える。

　「赤い公園、楽しみだね！」。そんな言葉を残してステージを後にしたLEGO BIG MORLのライヴの興奮も冷めやらぬ会場。一旦閉じた幕が再び開くと、スターウォーズの勇ましいテーマに乗って、赤い公園のメンバーが登場。今日の白装束は、秋らしく白のトレンチコートだ。最後に登場した佐藤（Vo.）が深々とお辞儀をする。津野の弾くピアノに歓声が起こる。『交信』。“ぼくらのよる”の始まりだ。佐藤の指が空間を這う。多彩な表現力で圧倒する佐藤はもとより、クールな津野（G）を筆頭に、藤本（B）、歌川（Ds）と個々のスタイルを貫くプレイヤー陣が、どんな楽曲も自分たちの手元に引き寄せ、ポップに昇華していく様には目を見張るものがあった。畳み掛けるように演奏が続く。摩訶不思議な世界観で彩ってみせたスピッツのカバー『ハチミツ』。間髪いれずに『サイダー』『NOW ON AIR』へ。バンドの核となる部分を徐々に膨らませていくような、バンドの振れ幅を徐々に広げていくような、めくるめく展開。津野のギターに日本の夏の情緒を感じながら、この解放感も、もはやバンドの妙味のひとつとなり得ていると思う。メンバー全員の顔が見える、それもいい。

　その後のMCでは佐藤と藤本がひとしきりオーディエンスの笑いを誘う。ライヴ中盤から続く、明るく無邪気な雰囲気を津野がギターで遮り、後半1曲目の「風が知ってる」へと導いた。壮大でトリッキーな世界観の中で、肢体を揺らす佐藤の神々しさに息を呑む。続くLEGO BIG MORLのカバー曲『雨のタクシー』は、対バンライヴらしい、なんとも粋な計らい。そのポップさを次曲『楽しい』で爆発させ、スリリングな『絶対的な関係』へとなだれ込む。ハイライトは新曲の『KOIKI』。キックも飛び出す軽やかなギターさばきの津野。エッジの立った渾身のプレイとポップネスに満ちた最新系の赤い公園が垣間見れた気がした。本編ラストは「ふやける」。甘い声にほだされて泥沼に引きずり込まれるような感覚、一瞬の静寂の後の嵐。ノイズの中、オーディエンスは皆、放心状態。拍手のタイミングすら忘れていた。

　メンバー全員が白いドレスに着替えてのアンコール。練りに練られたライヴ構成でオーディエンスを翻弄し、ポテンシャルの高さをこれでもかと見せつけてきた今日の赤い公園。ワンマン1本分の充実感を感じさせながらも、アンコールのカバー曲『LA・LA・LA LOVE SONG』（『KOIKI』カップリング曲）では佐藤が金髪アフロ姿の大サービス。煌びやかなミラーボールが回る中、ふと、なぜ彼女たちがこの曲をカバーしようとしたのかが気になった。それでも、探究心と好奇心に満ち溢れた今の彼女たちなら、恐らくなんでもアリだろう。“何をやっても赤い公園になる”ことは、現在レコーディング中だという3rdアルバムの98曲目の曲「黄色い花」を聴いても明らかだった。ダンスクラシックを消化した、80年代のコスメCMソングのような春らしさと華やかさと軽やかさに満ちたこの曲の音源が待ち遠しい。曲中、ステージにはLEGO BIG MORLも登場。佐藤が着けていたアフロはLEGO BIG MORL・アサカワの頭上に移動、“対バンツアー”は笑顔と歓声の中、幕を閉じた。

【取材・文：篠原美江】
【撮影：福本和洋(MAETTICO)】