恒例の新春ライヴの会場に、2016年は初めて東京国際フォーラムを選んだエレファントカシマシ。広いロビーには、アルバムジャケットと似た4人が並んで立つ大きなパネルが、来る人たちを迎えていた。
　華やいだ興奮に包まれた場内が暗くなると「ツィゴイネルワイゼン」が鳴り響いた。ステージライトが照らし出したのは、6人編成の金原千恵子ストリングス・チーム。その演奏が流れる中、エレファントカシマシの4人と、お馴染みのギタリストのヒラマミキオ、最新作『RAINBOW』のアレンジを手がけ、昨年からツアーにも参加している村山☆潤が登場。全員、黒のスーツに黒のシャツ、ネクタイも黒で揃えている。おもむろに宮本がギターを弾き、始まったのは「脱コミュニケーション」。どっしりとした歌と演奏が、高い天井まで響き渡った。歌い終わると宮本浩次は叫んだ。「エブリバディ、ようこそ！　待ちに待ったこの日がやってきました。盛り上がろうぜ！楽しもうぜ！　2016年のスタートだ！」。

　第1部は、『RAINBOW』収録曲を中心にした17曲中14曲に金原ストリングスが加わった。これまでも多くのステージで金原チームとは共演してきたが、この日はエレファントカシマシというバンドと金原チームが培ってきたものの素晴らしさを、改めて体感させてくれた。宮本がじっくりと歌い出した「彼女は買い物の帰り道」のように、バイオリンの金原とチェロの笠原あやのだけが加わった曲ではシンプルだがバンドと溶け合う演奏に引き込み、6人が揃った「あなたへ」は厚みのある弦の音が素晴らしい高揚感を生んだ。圧巻は「TEKUMAKUMAYAKON」で、録音では4ツ打ちのエレ・ポップ風の曲だが、ここではバンド・サウンドとストリングスが互いに引けをとらぬほど響き合い、躍動し、全く新たな印象に仕上げていた。また「なからん」や「昨日よ」は、弦の音が落ち着きを加えたドラマチックな演奏に宮本の歌がいっそう光った。
　ドラムの冨永義之に宮本は「ネクタイ苦しくない？」と話しかけ、「今日は全員ネクタイで来ました。フォーラムだからフォーマルに」と笑いを誘ってバンドだけで演奏した「悲しみの果て」「デーデ」は、これらの曲が初演された頃から変わらぬ骨っぽさを見せつけた。一方、宮本が「東京国際フォーラム、昔は都庁がありましたね」と即興で歌って始まった「曙光」は、久々の演奏にもかかわらずストリングスと歌が自然に呼応しあい、今の彼らの曲となっておおらかに響いた。バンドとストリングスの一体感は曲が進むほどに深まり、「3210」「RAINBOW」は一続きのセッションとなってダイナミックに展開、ひときわ緊張感を高めた歌とバンドとストリングスが、見事なまでに絶妙なバランスで広いホールに響き渡った。クラシック演奏会も頻繁に開かれるホールの音響の良さが、予想以上に彼らに味方していたようだ。

　宮本が白いシャツに替えて登場した第2部は、前半をバンドだけで、後半で再びストリングスが加わるという構成。テンポよく言葉を繋いでいく「I am happy」では「がんばりましょう！」と呼びかけ、「僕らは未来の生命体なんだぜ」と歌い出した「未来の生命体」は軽快に、「『RAINBOW』というアルバムは、この曲から始まったと言っても過言じゃないです」とつぶやいた「めんどくせい」は曲のテンポを変えながら情感たっぷりに歌い上げた。
　「お正月ぽくないかなと思ったけど、この曲やります」と弾き語りで歌い始めたのは「偶成」。朗々と歌った宮本は、歌い終えると「ありがとう、勇気を持ってやってよかったです」と静かに言った。そして「気を取り直して、代表曲と言ってもいい曲を」と始めた「リッスントゥザミュージック」が素晴らしかった。抑制の効いていながら伸びやかな歌が様々な感情を伝え、控えめながら存在感のあるストリングスがクールに輝く。バンドも控えめだが暖かく歌を支え、次第に歌も熱気を帯びていった。未来への期待と不安を抱えながら歩み出すこの曲に、また新たな感情を注ぎ込んでみせた宮本に感服するばかりである。

　歌うほどに声が出ると言わんばかりに、一気呵成に「桜の花、舞い上がる道を」「笑顔の未来へ」「新しい季節へキミと」と代表曲を続け、終盤は再びバンドだけで「ガストロンジャー」「ファイティングマン」と熱い歌と演奏に。アンコールは「俺たちの明日」のほか、その場で決めたらしい「おはようこんにちは」「花男」。ハンドマイクを握って宮本はステージ両袖をギリギリまで走り回り、オーディエンスの声に応えた。最後に宮本が叫んだ。「素晴らしい１年になることでしょう、エブリバディ！」。エレファントカシマシと共に、また1年を歩んでいこう。そう思わせてくれる力強いライヴだった。

【取材・文：今井智子】
【撮影：岡田貴之】