「今日はもう何も思い残すことはないです。本当に良い日だと実感してます。ありがとう！」。いよいよ千葉LOOKからスタートしたgo!go!vanillasの全国ツアー。その終盤で牧達弥（Vo・G）は、溢れる歓びをストレートな言葉で口にした。今年2月にリリースされ、メンバー全員が自信作だと口を揃える渾身のアルバム『Kameleon Lights』を引っさげた今回のツアー。集まったお客さんの声援に後押しされて、バニラズは全24本におよぶバンド史上最大長のロングツアーへと好発進を切った。

　オープンと同時にキャパシティ200人ほどのフロアはみるみるお客さんで埋め尽くされた。チケットは当然ソールドアウト。開演時間になり、SEが流れ出すと、ステージ前へとお客さんがギュッと押し寄せた。湧き起こる熱狂的な歓声。高く腕を挙げてそれに応える4人は満面の笑顔だ。この日を待ち望んでいたのはお客さんだけじゃない。きっとメンバーも同じ気持ちなのだろう。

　人一倍表情豊かなプレイでバンドを底から支える長谷川プリティ敬祐（B）、千葉LOOKの低い天井に届きそうなほどスティックを高く振り上げて強靭なビートを叩き出すジェットセイヤ（Dr）。そして、すっかりバニラズの一員として欠かすことのできない存在へと成長した柳沢進太郎（G）と、ハスキーな歌声で聴き手をバニラズワールドへと誘う牧。4人が繰り出すテンションの高いロックンロールによって、瞬く間に会場は湿り気のある熱気がむんむんと立ち込めた。「初日千葉LOOK。想像してきたよりも、こんなにパンパンで、こんなにも熱い。汗がすごいね！」（プリティ）。「ひとっ風呂どころか、ふたっ風呂浴びてきたみたい（笑）」（牧）。そう言って弾む息遣いも、髪の毛からしたたる汗も、上気した表情も、この小さな会場では信じられないぐらい近くで感じられた。

　バニラズにとって千葉でのワンマンは初めてということもあり、MCでは千葉に5年間住んでいたセイヤの地元トークが炸裂した。かつて都賀という場所に住んでいたと明かし、「都賀の人いる？」と問いかけたり、八街（やちまた）のWonderGOOに入り浸っていたという話でも、八街から来たお客さんを見つけて話に花を咲かせた。後に、楽屋で牧が「こんなにフロアが近いのは久しぶり」と言っていたが、バンドの成長を感じられる大会場のバニラズもかっこいいが、地方のライブハウスにしかない親近感もまた魅力的だ。

　今回のツアーはバニラズが、自分たちが大好きな音楽のエッセンスをこれでもかと注ぎ込んだ『Kameleon Lights』というアルバムの、それゆえに変幻自在に表情を変える楽曲たちを、いかにライブで表現するかが鍵を握るツアーだ。個人的には、メジャー2枚目のアルバムの完成で、ようやくバニラズの本領を発揮する要素が出揃ったという感覚もあった。その全てをリスナーにきちんと届けるために趣向を凝らしたセットリストには、新しいチャレンジと工夫が詰め込まれていて、それはとても刺激的な内容だった。

　「ツアーの1本目を老舗のライブハウスで迎えられて幸せです！」。柳沢が口火を切ったMCでは、多くのバンドマンがツアー初日に訪れる千葉LOOKについて話し出した。「千葉LOOKは今年27周年なんですよ。ちょうど、俺とプリティと牧と同い年で」と、セイヤ。「27年間の汗が染み込んでる、こんなライブハウスないよね」と、牧も続けた。

　そんな千葉LOOKはツアーの初日を飾るバンドに特製の巨大ポスターを作ってくれるという、粋な計らいがある。「それを新木場まで持って行くから！」と言った牧の声には、ここから始まるツアーへの意気込みが滲み出ていた。次は茨城県・水戸 LIGHT HOUSEへ。そこもまた設立20年を超える老舗だ。今回のツアーでは全国の歴史あるライブハウスを丁寧にめぐり、ファイナルで初の新木場コーストでのワンマンに挑むことになる。

　終演後、早くも楽屋で初日の反省会をしているメンバーに、「新木場で逞しくなって帰って来るのを待ってる」と伝える機会があった。それに「きっちり仕上げてきますよ！」と、牧。自信を覗かせる精悍な表情で、親指をぐっと立てて答えてくれた。

【取材・文：秦理絵】
【撮影：浜野カズシ】